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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
448/800

第448話

ギルバートはジェニファーから、昔の話を聞いていた

そこには過去の国王が、痛い恰好をして暴れる話が語られる

当時は国王も若くて、そういう事に憧れていたのだ

そうして聖なる十字軍と名乗り、やがて王国を作る事になるのだった

ギルバートが話を聞いている間、セリアはすっかり退屈していた

それでギルバートの膝の上で、涎を垂らして眠っていた

ギルバートは無意識に、そんなセリアの頭を撫でていた

そうして話が終わる頃には、セリアはぐっすりと眠っていた


「うみゅ…

 お兄ちゃん…」

「ふっ

 可愛いな」


「お兄様

 可愛いなら何で何もしないの?」

「え?」

「そうよね

 私は早く、もう一人の孫を見たいわ」

「えっと…

 それはそのう…」

「じー…」


二人に見詰められて、ギルバートは困った顔をする。

確かにセリアは可愛いが、それ以上の感情を表現しようが無かった。

ギルバートは鈍感で、まだまだ精神的に子供だった。


「夜はどうしてるの?」

「え?

 それは…

 その…」

「セリアからはキスしてもらったって聞いたけど…」

「え?

 そんな事を話したのか?」

「まあ

 それは少しは進んだのかしら?」

「う…」


ギルバートはフィオーナから、まさかの言葉を投げ掛けられる。

セリアがそんな事を話しているとは、思ってもいなかったのだ。


「こんな可愛い子に何もしないなんて…

 お兄様はまさか…」

「まさか?」

「男の人が好きなの?」

「ええ?!」

「ぷっ」


フィオーナの言葉に、ギルバートは困惑する。


「それってどういう…」

「どういうも何も…

 そういう趣味な人も居るでしょ?

 男の人を好きになるって」

「フィオーナ」

「そんな事は!」

「でもねえ…

 年中アーネストを引っ張り回して…」

「うぐ…」


フィオーナは少し、拗ねた様に不満を漏らす。

夫になる筈のアーネストは、今日もギルバートとの仕事を優先していた。

今もバルトフェルドと、移民の家屋の相談をしている。

出来る事なら、二人っきりで甘えていたいのだ。


「ねえ

 どうなの?」

「そんな趣味は無いぞ

 大体何なんだ?

 その…男の事が好きって」

「あら?

 知らないの?」

「そうね

 ダーナでも変な噂が立っていたし」

「え?」

「そうなのよね

 私もそれで、アーネストの事を疑っていたんだから」


フィオーナは不満そうに、当時の事を愚痴り始めた。


「メイド達はお兄様が、アーネストと恋仲だなんて」

「私も困りましたわよ

 特にアルベルトが亡くなってから、二人は頻繁に密会してましたし」

「密会だなんて…」


確かに二人は、夜もよく相談をしていた。

しかしそれは、魔物の侵攻に対しての相談だったりしていた。


「そういえばアーネストが、変な事を言っていたな

 あれはそういう…」

「そうね

 アーネストなら気付いていたでしょうね」

「そうよ

 あの子はそういう所は聡いからね」

「気付いて無かったのはお兄様だけね」

「うぐ…」


アーネストが周囲の目を気にしていたのは、そういう事だったのだ。

ギルバートは今さらながら、その事に気が付いた。


「そのう…

 もしかしてセリアの事も?」

「そうね」

「あの頃からあなたは、セリアに夢中だったからね」

「そうそう

 だから二人が出来ているって噂も、嘘だとは思ってたけどね」

「ううむ…」


まさか周囲には、そう見られていたとは思っていなかった。

今さらながら、ギルバートは周りが見えていないと気が付いた。


「それで?

 どうなの?」

「そうよ」

「それは…」


「まさかキスしただけなの?」

「いや、胸も…

 その…柔らかくて」

「え?

 何?」

「聞こえないわよ」


ギルバートは思わず、セリアを抱き締めた後の事も言いそうになる。

しかし気が付いて、慌てて首を振っていた。


「いや、そんな事はどうでも良いだろ」

「良くないわよ」

「そうですよ

 大事な娘が大切に扱われていないなんて…

 私は悲しいわ」


フィオーナは憤慨して、ギルバートを睨み付ける。

ジェニファーも悲しそうに俯き、泣いているふりをしていた。


「大事だから…」

「え?」

「大事だからなんだよ

 そういうのって痛いんだろ?」

「ん?」

「痛い?」


二人は首を捻り、顔を見合わす。


「え?

 だって男と女のする事って、とっても痛くて恥ずかしいって…」

「うーん…」

「何か勘違いしてる?」


フィオーナとジェニファーは、訳が分からないと首を捻る。


「だって…

 王宮でもメイド達は苦しそうに声を上げていたし…」

「あれは…」

「それは…

 っていうか何を見ていたの?」

「騎士や兵士達が、メイドや若い女性を上に乗せて…」

「はあ…」

「変な物を見て、勘違いしちゃったのね」


二人は溜息を吐いて、事の真相に胸を撫で下ろす。


「あのね、お兄様

 男女がする事は神聖な事でね、それで子供が産まれるの」

「うん

 それは何となく分かっているよ

 アーネストが本をくれたから」

「本って…」

「それはどういう本かしら?」

「えっと…」


ギルバートは本に書かれていた内容を、掻い摘んで説明する。

最初は顔を赤らめて聞いていた二人も、途中から顔を顰めていた。


「それはまた…」

「勘違いはそこからか」

「え?」


「あのね

 声を上げるのは幸せな気持ちからよ」

「そうよ

 女は満たされた気持ちになって、思わず声を上げるの」

「え?

 でも…

 騎士とメイド達は…」


二人は困った様に、顔を見合わせた。


「それは…ねえ」

「確かに気持ち良いからねえ」

「へ?」

「だから!

 気持ち良くて声を上げてるの」

「そうよ

 でもね、それは良くない事でもあるのよ」

「はあ?」


二人はどう説明すれば良いのか、思わず頭を抱える。


「相手が居ないとね、満たされたって想いだけ強くなるの

 それで男の人に乱暴にされても、気持ち良くて声を上げるのよ」

「そうね

 それでそういう商売も成り立っているもの」

「そういう商売って?」

「お兄様…

 まさか娼館も知らないの?

 お父様は何も教えていないの?」

「そうねえ

 アルベルトはギルを…

 殿下を子供扱いしてましたからねえ」


二人は頭を悩ませながら、ギルバートに娼館の説明をする。

男が欲望の捌け口として、女性を求めて向かう場所だと。

そしてそれが、商売として成り立っている事を。


「え?

 好きでも無いのに?」

「ええ、まあ…」

「あれも立派な商売だからね」


王国でも正式では無いが、娼館は認められていた。

ただし奴隷は扱わない事と、無理矢理は厳禁とされていた。

そしてダーナでも、領主のアルベルトは黙認していた。

正式な許可は出せないのは、教会との対立を避ける為だった。


「女神様は…

 一応認めていないのよ

 あまり良くない仕事だって」

「それで教会からは、そういう商売は禁止にされているわ

 だから娼館で働く者は、教会には出入り禁止になっているわ」

「はあ…

 そんな商売もあるんだ」


ギルバートは二人の説明を聞いて、大体の事は理解出来た。

しかしそれでも、セリアに手を出す事は躊躇っていた。

それはセリアが、まだ幼く見える事が原因だった。

実際の年齢は、ギルバートよりも年上なのだが。


「それで?

 セリアの事はどうするの?」

「それは…」

「はっきりしないわね」

「フィオーナ

 すぐには難しいわよ

 変な誤解もあったみたいだし」

「ううん…」


フィオーナは不満そうだったが、ジェニファーは理解を示した。

その上でギルバートに、優しく声を掛けていた。


「ギル…

 殿下

 セリアを愛する事は大事だと思います」

「はい」

「でもね、セリアの気持ちも考えてあげなさい

 ずっとあなたを待っているのよ」

「それは…」


「急がなくて良いわ

 二人でゆっくりと考えなさい」

「はい」

「お母様」

「フィオーナも

 妹が心配なのは分かるけど、無理はいけません

 今は見守りましょう」

「でも…」

「原因も分かりましたしね」


ジェニファーはそう言うと、少しだけ怖い顔をした。


「殿下

 その本はまだ、手元にございますか?」

「いえ

 王都がこうなった際に、何処かに行ったみたいで…」

「そう

 処分する手間が省けましたわね」

「え?」


「その本は参考にはなりません

 少し問題がありますからね」

「はあ…」

「そうね

 恥ずかしい事や痛い思いをさせるって…

 ちょっと特殊な趣味ね」

「アーネストは大丈夫?」

「ええ

 アーネストは優しく…

 少し激しく求めて来ますけど」

「そう…」


ジェニファーは頷くと、少し表情が和らいだ。


「急ぎませんが…

 私も孫を楽しみにしています」

「はい」

「それとアーネスト」

「え?」

「後でここに来る様に言っておいてください

 少し説教が必要な様ですから」

「は、はい」


ギルバートは慌てて立ち上がり、セリアを預けると離宮を後にした。

これ以上ここに居ると、何を言われるか分からない。

ここはアーネストを差し出して、何とか逃げようと考えていた。

それで急ぎ回廊を進むと、執務室に向かった。


「アーネスト!」

「おお、ギル

 思ったよりも早かったな

 セリアはどうだった?」

「どうだったかじゃない」


ギルバートは若干キレ気味で、アーネストに食って掛かった。


「どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも無い

 あの書物の事だ」

「あの書物?」

「ああ

 お前が勉強しろとくれた、男女の営みについての本だ」

「男女の営みって…」

「え?」


本の事を聞いて、バルトフェルドは驚いた顔をする。


「アーネスト殿

 そんな本を殿下に?」

「ああ

 ギルが子供を、キャベツ畑で収穫すると思っていたからな」

「それはまた…」


バルトフェルドは理由を聞いて、思わず顔を顰める。

まさか王太子殿下ともあろう者が、そんな事も知らないとは思わなかったのだ。


「殿下

 それならワシに相談いただければ…」

「そんなんじゃあ無い

 しかしそうだな、バルトフェルド様達の様に、子供が居る者に聞けば良かった」


ギルバートは今さらながら、自分の無知を恥じていた。


「それで?

 あの本がどうしたんだ?」

「あれなんだが…

 そのう…」

「ん?」

「何ですか?」

「特殊な趣味の持ち主らしいじゃ無いか」


ギルバートは恥ずかしがりながら、ボソリと呟いた。


「だからそう言っただろ?

 あれは参考にする物で、現実は違うって」

「そうは言っていたが、私はてっきり…」

「てっきり何だ?」

「そういう事って、相手に苦痛や辱めを与える物だと思って」

「ああ

 そういう事か」

「ああじゃない!」

「苦痛?

 辱め?」


バルトフェルドは内容が分からないので、興味津々で尋ねる。


「殿下

 それはどういった…」

「アーネストが持っている筈だ」

「ああ

 原本はここにあるからな」


アーネストは翻訳に使った本を取り出す。


「どれどれ?」


バルトフェルドは興味深々といった感じで、その本を受け取って開く。


「おかげで恥を掻いたよ」

「え?

 まさかお前…」

「ああ

 そんな事はセリアに出来ないって、母上やフィオーナに…」

「ちょ!

 おま!

 フィオーナに話したのか?」

「ああ

 包み隠さずにな」


ギルバートの言葉に、今度はアーネストが顔を赤くする。


「馬鹿!

 何て事をしてくれたんだ」

「そうですなあ…

 これはさすがに」


バルトフェルドは読みながら、些か顔を顰めている。


「最初の方はよろしいんですが…」

「え?

 良いんですか?」

「ええ、まあ…

 最初は痛いみたいですし…

 少しぐらいの恥ずかしさは、興奮するので良いですよ」

「バルトフェルド様?」

「あ、いやあ

 さすがにいつまでもそうではありませんが…

 ですが後半は…」

「ええ

 私もそこで考えてしまって」

「はあ…」


アーネストは顔を覆ってから、深く溜息を吐いた。


「これは元々、翻訳に借りた本なんだ」

「翻訳に?

 誰に?」

「エルリックだ

 魔導王国には分からない文字も多くてな」

「確かにそうですな

 本は帝国語と旧王国文字が使われております」


「エルリックか…

 あいつがこんな趣味を?」

「いや

 あいつも手頃な本が無いって、あんな本を渡してくれたんだ」

「まあ…

 これは問題ありですな

 大人が読むいかがわしい本です」


バルトフェルドも、本は参考にすべきでないと判断する。

しかしアーネストは、あくまで子供の作り方の参考に提供していた。

そういった意味では、本の前半は参考になっただろう。


「それで?

 フィオーナは?」

「呆れていたな」

「だろうな…

 はあ…」


アーネストが溜息を吐くのを見て、ギルバートは不満を漏らす。


「溜息を吐きたいのは私の方だよ

 その事で母上が、話があるって」

「え?

 ジェニファー様が?」

「ああ

 他にもありそうだがな」


これは叱られると、アーネストは顔色を変えていた。


「はははは

 これは仕方がありませんね」

「バルトフェルド様も…」

「え?

 何でワシが?」


ギルバートは悲しそうに首を振ると、小さな声で告げた。


「死の十字架の事です」

「うい?」

「ちょっと待て

 何でその話が?」

「母上に聞いてみた」

「何て事を…」

「殺される…」


アーネストとバルトフェルドは、死刑宣告をされた犯罪者の様な顔をする。


「え?」

「何で話したんだ!」

「そうですぞ!

 聞かない様に言ったでしょう」

「いやあ…

 フィオーナと話していたら聞かれたみたいで」

「そんな…」

「マズい

 絶対マズい」


二人の反応を見て、ギルバートは首を捻った。

確かに怖かったが、そこまでだろうかと疑問に思っていたのだ。


「バルトフェルド様」

「ああ

 呼ばれる前に素直に向かおう」

「そんな

 殺されに行くみたいに…」

「ギルは知らないから」

「そうですよ

 とほほほ…」


二人は肩を落として、よろよろと部屋を出て行った。

ギルバートはそんな二人を見送ると、二人が纏めた資料に手を伸ばす。

そこには移民達の、これからの生活について書かれているからだ。

問題が無いかどうか、ギルバートも目を通すのだった。

まだまだ続きます。

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