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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第445話

王宮の謁見の間の前に、歓談用の待合室がある

そこは謁見に訪れた貴族達が、謁見の前に歓談をするスペースである

そこでハルムート子爵は、ギルバート達と歓談をしていた

謁見の間が使用出来ないので、ここを使っていたのだ

メイド達がお茶を用意して、一同は腰を掛ける

ギルバートが上座に座り、その両隣はアーネストとバルトフェルドが座る

ハルムート子爵は下座の扉の近くに座り、両脇には私兵が座っていた

兵士達は人数合わせで座っているので、特に何も発言はしない


「ハルムート子爵

 無事に入られて良かった」

「ええ

 それで問題は?」

「一応片付いた

 筈なんだがな…」

「筈?」


ギルバートは王宮で起こった事を、分かる範囲で説明する。

一部はバルトフェルドも発言するが、肝心の部分は未だ不明だ。


「魔物が王宮に?

 なんでまた?」

「それが分からない」

「ワシが知っておる限りでは、つい1週間前までは何も無かった」

「1週間…

 カザンの街に居た頃か…」


その頃には、既にギルバートが帰還する事は伝えられていた。

アーネストが放った使い魔で、少し遅れる事も伝わっていた。

しかしその頃に、急にエリザベートが豹変した。


「事の始まりは…およそ6日前の夜の事じゃ

 急にフランツがエリザベートを伴ない、王位に着く事を宣言した」

「宣言したって…

 王国ではそんなに簡単に王位に着けるのか?」

「いや、そんな事は無い

 少なくとも主要な貴族が集まり、宣誓の儀を行う必要がある」

「そうじゃな

 貴族に認められなければ、王位を宣言するなどと…」


アーネストの発言に、バルトフェルドも顔を顰めて同意する。

王位を宣言するには、先ずは主要な貴族の招集を行う。

彼等が集まったところで、王位に相応しいか話し合うのだ。

その上で認められれば、謁見の間で国王から王冠の授与が行われる。

今回の様に王位が不在の場合は、執政がそれを執り行う。


「それなら何故?」

「ああ

 口で言ったぐらいでは、誰も納得しないだろう」

「しかしワシ等は、その場で自然と傅いていた」

「どうして?」

「それが魔物の力だったんだろうな」

「ああ

 あれは不完全ながら、ラミアの力を発揮していた」

「ラミア?

 傾国の魔物の?」

「ああ」


ラミアと聞いて、子爵は顔を顰めて嫌悪感を示す。

過去に魔導王国時代に、ラミアによって滅んだ国があった。

それは吟遊詩人の物語として、帝国にも伝わっていた。

一部の詩人達は、それをカイザートが倒した事にしている。

英雄の物語には、魔物退治が付き物だからだ。


「警告?」

「傾国な

 国のトップを誑かして、政治を腐敗させる

 それで国を滅ぼしたそうだ」

「7日7晩酒盛りをして、王宮の警備を油断させたんじゃ

 そこに他国の兵士が踏み込んで、2晩の内に滅んだそうじゃ」

「国王を殺されてはな

 その王国は機能を失ってしまう」

「7日7晩って…

 まるでそのままじゃあ?」

「ああ

 攻め入る国が無くて良かった」


現在はどこの国も、魔物の対応で忙しい。

領土を拡大させる為に、他国に攻め入る余裕など無かったのだ。


「それでその魔物を?」

「ああ

 妹に化けていたがな」

「そうか

 それは…」

「止してくれ

 あれは妹なんかじゃあ無い

 既に魔物になっていたんだ

 妹はその間に…」

「すまん」


子爵は謝ろうとしたが、ギルバートは首を振って答える。

ギルバートとしても、妹は既に魔物に食われていたと思っている。

そうでなければ、倒す事に抵抗があったからだ。


「それで?

 王都が混乱していたのは、その魔物の仕業なんだろう?」

「ああ

 しかし操られていたとは言え、道を踏み外した者も多く居る」

「そうか…」

「それで人手が足りなくてな

 王宮の中での仕事も必要だ」


ギルバートは困ったよと、両手を挙げて肩を竦める。


「しかしそれは…」

「ワシからもお願いしたい」

「うーん…」


「子爵は先程、一兵卒になるとか言っておられたな?」

「ああ

 兵士からやり直して、爵位を得ようと思っていた」

「しかしそれにしてもだ、人手が足りないんだ」

「それは…」


子爵としては、下手に王宮に入りたくは無かった。

今王宮に入れば、それに反発する者も現れるだろう。

それなりの手柄を立てて、改めて入りたかったのだ。


「貴殿の気持ちも分かるが、こっちは人手が足りなくてね」

「しかし王国には、王国の貴族が…」

「彼等は自領の守護で手一杯だ

 それで王都も玉座を空けたまま、暫くは復興に専念する事にする」

「本気か?」


子爵の本気かというのは、領主に自治を任せるという事だ。

それは王にとっても、危険な行為に成り兼ねない。

王位を狙って、力を着ける機会でもあるからだ。


「なあに

 貴族達が王位を狙うのなら、その気概を見せて欲しいぐらいだ」

「そうじゃな

 今は王都の復興の為の人材も、渋って出さないぐらいじゃ」


王都に人が少ないのは、他領から入る者も少ないからだ。

本気で王位を狙うのなら、今は正に好機なのだから。

それでも各領主達は、自領の安定に手一杯であった。

ギルバートとしても、それぐらい野心のある貴族が欲しかった。


「王位を狙う者が…

 居ないと?」

「居ないんじゃ無いな

 そんな余裕も無いんだろう

 今まで本気で訓練していなかったんだろうな」

「なるほど!

 魔物に苦しめられて…」


子爵は理解すると同時に、魔物が改めて厄介だと感じていた。

それほど手を焼くのなら、自分達でどうにかなるのだろうか?


「今、魔物が手強いと考えていたね?」

「う、うむ…

 そうじゃな」

「確かにそうなんだが…

 王都の兵士の方が、魔物の扱いに慣れている」

「それは本当なのか?」

「ああ

 今回の事に関しては、完全に予想外だったとしか言えないな

 私でも用心していなかったら、どうなっていたか…」


ギルバートはそう言って、王都の混乱は予想外だったと示す。

それは魔物に対してと云うよりも、王都の防備の問題だったからだ。

まさか王宮に侵入されるとは、誰も予想していなかったからだ。


「真っ当に戦うのなら、王都の兵士は敗けない」

「殿下

 それは過大評価かと…」

「いや、実際に戦い慣れているからね

 尤もその主力も、今回の件で半数に減ってしまったが…」

「犯罪でも犯しましたか?」

「ええ

 魔物の誘惑の力に屈しましてね」

「そうですか…」


腕に自信がある者でも、魔物の誘惑には勝てない。

いや、むしろ自信があるからこそ、却って誘惑に負けたのだろう。

それを考えると、今の王宮は手薄な事になる。


「それでは腕利きの数は減っていると?」

「そうなりますね」

「ではワシが叛意を示しても?」

「ですが私が居ますからね」

「なるほど!」


子爵は納得すると、ニヤリと笑う。

ギルバートも笑顔で応え、互いに見詰め合う。


「殿下?

 子爵殿も!」

「はははは

 子爵はそんな人物では無いさ」

「それは買い被りでは?」

「そうでも無いだろう?

 そもそも武器を持たないで来てるからね」

「はははは

 これは一本取られましたな」

「ふう…」


二人がわざとしてるとはいえ、バルトフェルドは緊張していた。

ようやく二人が矛を収めたので、バルトフェルドは思わず溜息を吐いた。


「勘弁してください

 二人共一国の代表なんですよ?」

「え?」

「これはすまなかった」


二人は笑っていたが、バルトフェルドは顔を顰めていた。


「そう怒らないでください」

「これはおふざけが過ぎました」

「むう…」


二人が頭を下げた事で、ようやくバルトフェルドは顔を顰めるのを止めた。


「それで?

 子爵はどうするんですか?」

「ううむ

 しかしワシは、他国の者ですぞ?

 仕来りや風習には詳しくは…」

「それはワシが居ります

 子爵殿には、移民の方々を纏めてもらいたい」

「それぐらいなら…」


バルトフェルドが頼んだのでは、移民も素直に従わないかも知れない。

それを防ぐ為にも、子爵を間に入れるのだ。

子爵の命令ならば、移民も言う事を聞くだろう。


「当面は王宮で、文官という立場で居て欲しい

 細かい打ち合わせはバルトフェルドとするとして…」

「殿下は?」

「私は兵士達の指導に回る

 使える兵士が少ないんじゃあな」

「それは…」

「殿下が指導するんですか?」

「ああ

 何か問題でも?」


子爵は思わず、アーネストの方を振り返る。


「いや、いくらギルでも、いきなり全力の訓練はしないさ」

「そうなら良いのだが…」

「子爵

 私をなんだと…」

「鉄の棒で腹をぶん殴るとか?」

「そういえば…

 吐くまで走らせていたよな」

「おい!」


そんな雑談を交えながら、会談は暫く続く。

その他にも移民の住む場所や、働く仕事の問題もあるからだ。

中には畑仕事では無く、仕立てや牧畜に興味を示す者も居る。

そういった者達に、仕事の斡旋の話なども必要なのだ。


「それでは、こちらの宿屋に2人入れて…」

「そうですな…」


「王太子殿下

 そろそろお昼になりますが?」

「うん?

 もうそんな時間か?」

「ええ

 既にソルスは頂点に居ます」


家人に声を掛けられて、ギルバートはバルトフェルド達の方を向く。


「どうしますか?」

「そうですな

 一息いれますか」

「食事ですか?」


ハルムート子爵は驚いていたが、議論に集中していて時間は過ぎていた。

ギルバート達は、そのまま食堂に向かって行った。


「そう言えば…

 ここの顔ぶれも大分変わったんだな」

「え?」


ギルバートは食堂に向かいながら、ふとバルトフェルドに質問する。


「いやあ…

 見知った顔も少なくなってな」

「そうですか…

 魔物の影響も大きいですからな」


巨人の襲撃の際は、そこまで被害は出ていなかった。

しかし魔物を恐れて、何人かは他の町に移住している。

それでも何人かは、ここでの暮らしを望んで残っていた。

それもラミアの仕業で、数人が亡くなったりしていた。


「例えば執事のドニスとか…

 ジョナサンの姿も見えないな」

「殿下…」

「え?」


バルトフェルドは、何故か悲しそうな顔をする。


「まさかみんな…」

「そうですな

 殿下は事情をお知りでは無いんですな」


バルトフェルドは言い難そうに、ギルバートの顔を見る。


「何があったんだ?」

「それが…」


バルトフェルドは食堂に入ると、ポツリポツリと語り始める。


「先ずはジョナサンですが…

 遺体は西の城門を出た所で、無残な姿で…」

「遺体って…」

「ええ

 殿下を城外に逃がす際に、公爵らが放った刺客に…」

「あの時にか…」


ギルバートは気を失っていて、兵士達に運ばれていた。

しかしジョナサンの姿は、そこには既に無かった。

王都を出た所で、貴族達が放った刺客に殺されていたのだ。

兵士達が助かったのは、ジョナサンが命懸けで庇ったからだ。

傷を負っていなければ、彼も生還出来ていたかも知れない。

しかしあの時には既に、ジョナサンは深手を負っていたのだ。


「ワシも詳しくは無いのですが…

 ジョナサンは襲撃の際に、重傷を負っていたそうです」

「そうだな

 ほとんどの兵士達が、あの場で死んでいた筈だ

 しかしジョナサンは…」


ギルバートがアモン達と戦っている時、ジョナサンはまだ戦っていた。

その後に何があったのかは、ギルバートも人伝でしか知らなかった。

ジョナサンはアモンの攻撃に巻き込まれて、重傷を負って運ばれていたのだ。

その後にギルバートを追って、追放の現場に居合わす事になる。

それが結果として、ギルバートを救う事になったのだ。


「残念ですが、ドニスが城外で確認しております」


ドニスが王都を出た後、王都の近郊で数名の死体を確認していた。

それは恐らく、ギルバートを逃がす為に戦った者達であった。

直接の死因は失血死で、傷を癒す手段が無かった事からと判断出来た。

その死体の中に、ジョナサンも含まれてた。


「そうか…」


ギルバートはジョナサンの冥福を祈り、静かに黙祷をする。


「それで?

 そのドニスはどうなった?」

「ドニスは…

 そのう…」

「そう言えば、王都を解放してから見ていないな」


ドニスの居場所は、アーネストも知らなかった。


「今はリュバンニに居る筈です

 しかし会う事は…」

「何だ?

 ドニスに何があったんだ?」


「ドニスは今、殿下に会わせる顔が無いと」

「はあ?」

「ああ

 陛下に頼まれていたのに、肝心の時に何も出来なかったって悔やんでいたもんな」

「いや、ドニスはただの執事だろ?

 それが何で?」

「いや、それは…」

「ワシ等の口からは…」

「ん?」


アーネストもバルトフェルドから、ドニス達の過去の逸話を聞いていた。

その話に関しては、ある触れては危険な内容が含まれていた。

その為に二人は、その事を話せないでいた。


「ジェニファー様にキツク言われているからな」

「アーネスト様

 それは…」

「何で母…

 いや、ジェニファー様が?」

「それは…

 はははは…」

「ん?」


二人は顔を見合わせて、引き攣った笑みを浮かべる。


「ギル

 世の中には知らない事が幸せな事もある」

「そうです

 この事でこれ以上、ワシ等には聞かんでください」

「え?

 ええ?」


二人は懸命に固辞して、それ以上は話さなかった。

しかしドニスの居所だけは、主にリュバンニだと教えてくれた。

ギルバートは、これが終わったら会いに行こうと思っていた。

まだまだ続きます。

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