表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
440/800

第440話

ギルバートは、大広間の先の謁見の間の前に来ていた

王都に着いた際に、いきなり投獄されてしまった

しかし城内は、異常な事態になっていた

上手く牢から出た三人は、兵士達に見付からない様に移動していた

そうして行き付いた先が、謁見の間の前だったのだ

謁見の間の中にも、異様な光景が広がっていた

玉座にはフランツが座り、その上にエリザベートが乗っている

そして二人は、その神聖な玉座の上で行為を行っていた

それだけでも異常なのだが、もっと悍ましい事が起こっていた

エリザベートの下半身は、蛇の尻尾に変わっていたのだ


「ラミア?」

「ああ

 半身が蛇の人間だ」

「蛇…」


確かにエリザベートは、足が蛇になっている。


「どうなっているんだ?」

「さあ?

 オレも見るのは初めてだからな」


蛇の身体が激しく蠢き、フランツが苦悶の表情を浮かべる。


「う…

 あはっ…」

「ふふふふ…」


「おい

 あれは大丈夫なのか?」

「ん?」

「フランツは随分苦しそうだが…」

「ああ

 お前もいずれ分かる」

「へ?」

「取り敢えずは大丈夫だろう

 問題は何時までもつかだが…」


エリザベートの中で果てて、フランツは恍惚とした表情を浮かべる。

しかし少しすると、再びエリザベートはフランツの上で動き始める。

甘い声で囁き、首筋を噛んだりする。


「ラミアは恐ろしい魔物だ

 男の精気を搾り取るからな」

「精気?」

「ああ

 元気を失うと思え」

「そうなのか?

 私は大丈夫みたいだが?」

「気にするな」

「ん?」


「それにランクDに相応しく、魔法の力が強力だ

 オレでは敵わないだろう」

「え?

 アーネストが?」

「ああ

 ここに居るだけで、その力を感じられる」


アーネストを見ると、額には玉の様な汗が浮かんでいる。

その表情は険しく、明らかに魔物を恐れていた。


「お前が頼りだ」

「しかしあれは…

「もう妹じゃあ無い

 それに一度魔物となった人間は助からん」

「そんな…」


「オレの魔法じゃあ…

 精々攻撃を妨害出来るかどうかだ」

「しかし…」

「分かるか?

 お前がどうにかするしか無いんだ」


アーネストはギルバートの肩を、ガッシリと掴む。

それから目を見て、真剣に話す。


「この状況は、恐らくあのラミアが引き起こしている

 勿論殺しを行った者は、後程処罰すべきだろう

 しかしこの凶行を止めれるのは…お前だけだ」

「妹を…」

「ああ

 しかしああなった以上は…」


ギルバートはアーネストを見る。


「あいつは初めて会った時に、私を貶していた」

「そうなのか?」

「ああ

 それでも打ち解けて来て、兄と呼んでくれたんだ」

「そうか

 しかし、もう死んだと思うしか無いんだ」

「妹なんだぞ」

「ああ

 そうだな」

「ぐうっ…」


ギルバートは歯を食いしばって、背中からセリアを下ろす。


「セリア

 暫くここで、大人しくしててくれ」

「うにゅう…」

「大丈夫だ

 禍根を絶って来る」


セリアはギルバートの袖を握って、じっとその顔を見詰める。


「大丈夫だ」

「…」


セリアは頷くと、そっと袖から手を放した。


「アーネスト

 頼んだぞ」

「ああ

 全力でぶちかます」


アーネストはポーチから、戦闘用の杖を取り出す。

普段使っている杖よりも、魔力の消費が激しい杖だ。

その分魔力の収束力も高く、高威力な魔法を使える逸品だ。


ギルバートはそのまま、柱の陰から出て来る。


「誰じゃ!」

ズワアアア!


エリザベートはすぐに気付き、ギルバートの方へ視線を向ける。

その視線から放たれる魔力に、アーネストが掛けていた魔法が掻き消される。


「ぐ…ぬう」

「アーネスト?」

「凄い魔力だ

 魔法が一瞬で掻き消された

 気を付けろ」

「ああ」


「貴様!

 何者だ?」

「本当にエリザベートなのか?」

「ふん

 妾は王妃、エリザベートじゃぞ」


蛇女は、そう言って艶めかしい裸体をくねらせる。

その胸は大きく、とても少女の身体には見えなかった。

艶やかな顔を歪めて、長く先の割れた舌でフランツの顔を嘗め回す。

その度にフランツは、気持ち良さそうな顔をする。


「マズいぞ

 さらに魔力が上がっている」


エリザベートがフランツに何かする度に、エリザベートの魔力が高まって行く。

ラミアは性行為を行う事で、周りの者から精力を吸収する。

そうして集めた精力を、魔力に還元する事が出来る。

つまりフランツに抱き着いているだけで、彼女は魔力を集めれるのだ。


「どうするんだ?」

「先ずはそいつを、フランツから引き離すんだ」

「させるか!」


ラミアはそう叫ぶと、片手を掲げて魔力を放つ。

それは凍気を帯びていて、ギルバートの身体を凍えさせる。


「くうっ」

「そうはさせないぞ」


アーネストが呪文を唱えて、掲げた杖から温かい波動が放たれる。

それは謁見の間に広がり、凍てつく魔力の波動を打ち消す。


「小癪な!」

「今だ

 せりゃあああ」

「くっ」


ギルバートは大剣を掲げると、一気に玉座に向けて走り抜ける。

身体強化を使って、素早く玉座に近付く。

そのまま剣を突き出すが、魔物は素早く躱して後方に下がる。


「ひいっ!」

「おっと

 大人しくしてろよ」


ギルバートはフランツを見て、そう囁きかける。

彼はギルバートが誰か気付かず、コクコクと頷く。


「さあ

 フランツからは引き離したぞ」

「油断するな

 そいつはまだまだ、潤沢な魔力を持っている」

「はん!

 そういう事だ

 はあっ」

バチバチバチ!


エリザベートが両手を掲げると、そこから電撃が迸る。


「くうっ」

バシュッ!


ギルバートは剣を掲げて、その電撃を遮る。

まともに受ければ身体が痺れて、身動きが取れなくなるだろう。

ギルバートは魔法の雷を、大剣で凌ごうとする。


「そんな物で!」

「ぐうっ…」

「させるか!」


再びアーネストが呪文を唱えて、魔物の近くに岩を突き出させる。


「こんな物…

 くそっ!」

「はっ

 そいつは電撃を吸収する」

「小癪な…」


魔物の放つ電撃は、岩の柱に吸収されて行く。

ギルバートはそれを見て、一気に魔物の前に踏み込む。


「すえりゃっ」

「くうっ」

バシュッ!


魔物は咄嗟に、魔力を集めて盾を作り出す。

その魔法の盾は強力で、ギルバートの渾身の一撃を受け止める。


「な!」

「くそっ!」

「逃がすか!」


ブン!

バシュッ!


立て続けにギルバートは、魔物に向けて剣を振るう。

しかしその攻撃も、魔法の盾に防がれていた。

そして攻撃を防がれる度に、ギルバートの顔には苦悩が刻まれる。

一気に止めを刺そうとしたが、防がれる度に妹との思い出が脳裏に過る。

このままでは、魔物に剣を振るえなくなるだろう。


「アーネスト!」

「分かっている

 ファイヤー・アロー」

「はん!

 そんな物」


魔物は片手で容易く、炎の矢を掻き消す。


「これならどうだ

 ストーン・バレット」

「効かんと言っている」

バシュッ!


「アーネスト?」

「分かっている

 しかしそいつの方が魔力は強力なんだ」


ギルバートもタイミングを合わせて、隙を突く様に大剣を振るう。

しかし魔物は、アーネストの魔法を物ともしていない。

それどころか、ギルバートの攻撃が防げると踏んで、表情にも余裕が出て来た。


「ふん!

 ただ剣を振るうだけの脳筋が」

「うるせえ!

 脳筋じゃねえ!」

ガッシャン!

ザシュッ!


遂に渾身の一撃が、魔物の魔法の盾を打ち砕く。

その反動でギルバートは、魔物の片腕も切り付ける。


「ああっ」

「ふうっ…

 脳筋じゃあ無いぞ」

「馬鹿な

 私の魔法が脳筋に敗けただと?」

「そうだよな…

 どう見ても脳筋だよ」


さすがにアーネストも、魔力の盾を砕くのは予想外だった。

ギルバートは気付いていなかったが、最後の一撃には、剣に魔力が乗っていた。

それが魔法の盾に干渉して、盾の限界を超えたのだ。


「まだ敗けた訳じゃあ無いよ」

「もう諦めろ

 エリザベート」

「ふん

 どこの馬の骨か知らないけど…」

「兄が分からないのか?」

「兄?

 私に兄なんて居ないわ

 食らいなさい

 テンプテーション」

「むうっ」

シュオオオ!


エリザベートが両手を前に当てて、何かを吹きかける様にする。

ピンク色の風がそこから広がり、部屋中に広がって行く。


「テンプテーションだと?

 ま、マズいぞ」

「何だ?

 これは?」

「ぐひゃひゃ…」

「あふっ」


周囲で事の成り行きを見守っていた騎士達は、急に身悶えして倒れ伏す。

そのままビクンビクンと痙攣して、恍惚とした表情を浮かべる。

玉座のフランツも、だらしない表情を浮かべる。


「な、何?

 効かないだと?」

「何だ…これ?

 甘い香りはするが?」

「貴様…

 童貞か?」

「ぷっ」


「なあ?

 アーネスト…」

「気にするな

 敵に集中しろ」

「童貞って…」

「良いから正面を向け」


ギルバートはエリザベートを、妹として見ている。

それに女性に対しても、そこまでの意識はしていない。

要するに精神的にも未熟なのだ。

だから魅惑による精神支配も、ギルバートには効果を示していない。

アーネストも室外に居たので、何とかテンプテーションの効果を防いでいた。


「くそっ

 傀儡にも出来ない

 何なのもう!」


魔物はそう叫ぶと、再び両手を顔の前に持って来る。


「気を付けろ

 まだ何かして来るぞ」

「分かっている

 スラッシュ!」

「食らえ

 ポイズンミスト」

ブフワッ!


ギルバートはスキルの力を借りて、一気に魔物の前へ進む。

そのまま毒の紫の霧を避けつつ、懐に飛び込んで切り付ける。


ザギン!

「ぐふっ」

「ぬうっ」


しかし頑丈な鱗が、腹への致命傷を防ぐ。


「耐えたか

 しかし!」

「ああっ」

ザシュッ!


腹への一撃から、今度は袈裟懸けに振り被る。

魔物は咄嗟に、魔法の盾を広げる。

しかし間に合わずに、今度こそ片腕を切り落とす。


「ぎゃああ…」

「ふうっ」


魔物は左腕の肘の先を切り落とされていた。

その傷から流れる血は、人間のそれよりは若干紫色をしている。


「さあ

 ここに居る人達を…」

「馬鹿!

 まだ油断はするな」

「ふ、ふざけるな!」


ラミアは尻尾を振るって、ギルバートの足元を狙う。


「くっ

 まだ抵抗するか」

「当たり前よ

 私の役目は、この王宮を落とす事

 それまでは誰にも邪魔はさせない」

「ギル

 そいつを倒すんだ」

「しかし…

 こいつはエリザベートなんだぞ?」

「はん!

 この身体の持ち主の事?

 それなら安心しなさい、美味しく食べてあげたわ」

「な…」


エリザベートの姿をした魔物は、舌なめずりをしてギルバートを見る。


「お前も食ってやるわよ

 兄妹仲良く死ね!」

「ギル!」

「くうっ

 エリザベートを食ったのか?」

ガキン!


魔物は右手を振り上げると、鋭い爪で引っ掻いて来た。

剣に掛かる衝撃が、その攻撃の威力を示している。


「ぐうっ

 強い」

「当たり前よ

 私がそこらの人間に…」

「でも、倒せる!」


ギルバートは爪の攻撃を、剣の腹で受け止める。

そしてそのまま押し切ると、素早く剣を振り抜く。


「せりゃあ」

「ぎゃあ!」

ズシャッ!


剣は胸元を切り裂き、激しく出血させる。

右腕で胸元を押さえて、魔物は苦しそうにギルバートを睨む。


「さあ!

 止めだ!」

「止めて、お兄ちゃん」

「ぐうっ!」


ギルバートが剣を振り翳したところで、魔物は急に態度を変える。

目を潤ませて、ギルバートに哀願する。


「駄目だギル!

 すぐに殺すんだ」

「お兄ちゃん…」

「ぐうっ

 しかし…」

「そいつはエリザベートを食ったと言ったんだぞ」

「お兄ちゃん」


魔物は泣きながら、ギルバートに迫り抱き着こうとする。

その口元には牙が生え、鋭く噛み付こうとしながら。


「ギル!」

「ぐ…はあ…

 なん…で?」

「騙されそうになったさ

 本当にな…」


魔物の背中からは、剣が鋭く突き出ていた。

抱き着こうとした瞬間に、ギルバートは切っ先を魔物に向けたのだ。

本物の妹なら、そんな事は決してしないからだ。

それが結果として、魔物の命を絶つ事になる。


「ぐ…う…

 ちく…しょう…」

「毒の牙か

 最後の最後まで…」


魔物は悔しそうに、ギルバートを見上げていた。

その顔はやがて、力を失って下がる。

そして目の光を失ったところで、魔物の姿は急激に色褪せた。


「え?」

「どういう事だ?」


それに驚き、アーネストは慌てて柱の陰から出て来る。

そして魔物に近付くと、その死体に触れてみる。


パキン!

「砕ける?

 そんな…」

「どうなったんだ?」

「急激に素材が劣化している

 どうしてこうなるのか…」

「え?」


「普通は死んでも、ここまで劣化はしない筈だ

 何か理由があるんだろうが…」

「そうか…」


死体はみるみる色褪せて、萎びて崩れて行く。

まるで生気を失った事で、その身体を維持出来ない様に。


「そうだ!

 魔石…」

「アーネスト!」

「ギル?」

「そいつは妹だったんだ

 そのまま朽ちさせてやってくれないか?」

「しかし…」

「頼む」


アーネストは死体とギルバートを交互に見る。

そして諦めたのか、溜息を吐きながら立ち上がった。


「まあ…

 この様子だと魔石も無さそうだし」

「そうなのか?」

「ああ

 魔石が無いから、こうして維持出来ないんだろう」

「なるほど…」

「魔物としては安定して無かったんじゃ無いか?

 そもそもランクDにしては弱かったし」

「よわ…

 あれで?」


ギルバートの剣も、最初は歯が立たなかった。

それを考えれば、あの魔物は十分に強かったと思う。


「私の攻撃を…

 防いでいたんだぞ?」

「それはそうだけど、途中から受け切れなくなっていただろ?」

「そういえば…」


「あれは魔力が切れたんだろ

 魔石があるのなら、あんなに急に魔力切れにはならない筈だ

 使える魔力と保有する魔力のバランスが取れて無かったんだろう」

「どういう事だ?」

「真っ当な方法で生まれた魔物じゃ無いのかもな

 詳しくは分からないから推測だけど」


アーネストはそう言うと、肩を竦める。

足元の魔物の死体は、既に崩れて灰の様になっていた。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ