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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
439/800

第439話

ギルバート達は、王城の牢屋に入れられていた

特に罪状は無いが、有無を言わさず連行されたのだ

奥の牢では、セリアが泣いている声が聞こえる

ギルバートは怒りを堪えて、縄を引き千切らない様にしていた

こんな縄程度では、ギルバートを拘束する事は出来ないのだ

アーネストも牢屋の中で、冷静に周囲の気配を探る

いくらなんでも、王太子を拘束するのはやり過ぎだろう

普通ならここで、事の真偽を確認する為に、誰か見に来るだろう

しかし誰も、牢屋には来る事は無かった

牢屋にまで、外で騒ぐ歓声が聞こえて来る

どうやら城内は、祝いの席で盛り上がっている様子だった


「アーネスト」

「ああ

 誰も来ないな」

「どうするか?」

「ううん…」


逃げ出すのは簡単そうだった。

しかし今は、城内の様子が分からない。

城内にはフィオーナやジェニファーも居る筈なのだ。

迂闊な行動は、彼女達の身を危険に晒す事になる。


「先ずは状況を知らないと」

「しかし…」

「ああ

 誰か様子を見に来ないかな?」


アーネストは周囲を見回すが、誰一人こちらに来る気配すら無い。

アーネストは魔力による索敵は出来るが、それは魔力を帯びた物に限る。

人間では魔力を発動しなければ、その魔力を検知は出来ない。

兵士の索敵でも無ければ、人間が接近しても判別出来ないだろう。


「くそっ

 オレに索敵の能力があれば…」

「え?

 あるだろ?」

「あれは魔力を判定する魔法だ

 下手したらゴブリンやコボルトも見逃す可能性がある」

「え?」

「奴等が魔石を持っていなかったら、反応を見逃す恐れもある

 あくまで魔力の反応を見る魔法だからな」


事実アーネストが魔法を発動させても、周囲に魔力の反応は感じられ無かった。

しかし不審なのは、遠くにだがハッキリと魔力の波動を感じられる。

それが何なのかは、ここからでは確認は出来なかったが。


「魔力?」

「ああ

 身体強化や魔石の使用…

 そういった反応なら拾えるが…」

「身体強化…

 そうか、それで魔物の居所が分かるのか?」

「だからさっきからそう言っているだろ」

「いや、大事な所を言ってないぞ」

「え?」


以前にダーナや王都でも、魔術師が魔力反応を使っていた事はある。

しかしそれでも、魔物を正確に見抜けない事があった。

それが身体強化を使っていない事が原因なら、可能性は十分に高かった。


「お前なあ…

 魔術師達に教える時にも、その辺は伝えたのか?」

「えっ…と?」

「どうせ魔力で感知出来るとか言ってたんだろ?」

「それは…」


アーネストは鉄格子越に、ギルバートから視線を逸らす。


「だから魔術師達が、ゴブリンとか見逃してたんだな」

「いや、それはしっかりと確認しないからで…」

「ゴブリンなら身体強化を使わないだろう

 魔石だって持ってない可能性も高い」

「ぐぬ…」

「はあ…」


そんな事を今さら責めてみても、この現状は変わらない。

ギルバートは身体強化を使いながら、周囲の音や廊下の炎の揺らめきに集中させる。

しかし近付く音も、揺らめく影に人影が映る事も無い。


「どうやらここは、誰も居ない様だな」

「本当か?」

「ああ

 物音一つしないし、周りに動く影も無い」

「うーん…」


近くに人が居ない以上、自分達は忘れられて放置されているのだろう。

どういう状況か分からないが、城内は宴会騒ぎで盛り上がっている様だ。


「なあ

 このままこっそり抜け出さないか?」

「そうだな

 フィオーナ達も心配だ」

「となれば…

 ふん!」

ブチブチ!


ギルバートが気合を込めると、縛っていた縄が引き千切れる。


「はあ?」

「ふんぬうぬぬ…」

ミキ…ギギギギ…


ギルバートは、続いて鉄格子を掴むと力任せに曲げて行く。

そしてアーネストとの間に、人一人通れる隙間を作る。


「おいおい…

 どんどん人間離れして行くな…」

「お前が言うな

 お前の魔法も大概だろう」


以前に魔王ベヘモットが、アーネストに魔王並みの魔法の才があると言っていた。

それを示すかの様に、アーネストの魔力や魔法の威力は、日増しに強くなっていた。

今では唱えられなかった魔法も、日に何回も使える様になっている。

今日の炎の柱の魔法も、通常の魔術師では扱えない代物だ。


「ふんぬぬぬ…」


ギルバートはアーネストの縄を解くと、正面の鉄格子も曲げる。

それからセリアの元へ向かうと、そこの鉄格子もひん曲げていた。


「おい

 そこに鍵があっただろう?」

「へ?」

「何でも力任せにしやがって

 この脳筋」

「うるせえ

 頭でっかち」


二人は言い合いながらも、脱走の準備を進める。

二人が身に着けていた装備は、近くの見張り部屋に放置されていた。

アーネストは短剣だけだったし、ギルバートの大剣は重過ぎたのだろう。

そのまま使えないと判断されて、部屋に放置されていた。


「奴等が価値が分からなくて良かったな」

「ああ

 これは今では、王国で一、二を争う装備なのにな」


二人は武器を回収すると、ぐずるセリアを背負って進む。

ここは王宮の西側にある、普段は使われない牢獄だ。

余程の重犯罪者で無い限り、ここに収容される事は無いのだ。

だからこそ、普段はここの責任者は居ないのだ。


「本当に誰も居ないんだな?」

「ああ

 しかし居たのは居たみたいだぞ」

「ん?」

「セリアは見るなよ」

「うにゅ?」


ギルバートはアーネストに、鉄格子の一つを指差す。


「う…ぐっ」

「ふにゃあ…」

「あ!

 おい、セリア」


アーネストは吐き気を押さえて、セリアは多量の血痕を見て気を失う。

そこはちょうど灯りの近くで、夥しい血痕の跡が残されていた。

その肉塊の主は男か女かも分からない。

およそ拷問とは言えない酷い処置で、そのまま切り刻まれて放置されていた。


「う…こんな」

「血の臭いに気が付かなかったか?」

「腐敗臭の方が強いだろ?」


改めて見まわすと、他にも何体か肉塊が見られた。

そのまま放置されているのは、見せて恐怖心を煽る為だろうか?

それとも片付ける気も無いのか?

それが腐り始めた腐敗臭が、辺りに漂っていた。


「ここに入ってからの臭いは、これが原因だな」

「ああ」

「はにゅう…」

「あ…

 セリアが限界だ」


血の痕を見てから、セリアの顔は血の気を失っている。

気分が悪くなってぐったりしていた。

ギルバートは慌てて、牢獄から出ようとする。


「待て」

「おい、セリアが…」

「しっ!

 声を潜めろ

 見付かるぞ」


アーネストはギルバートを押し留めると、呪文を唱える。

それを唱え終わると、周囲の空気が変わった気がする。


「これは?」

「消音の魔法だ」

「消音?

 そんな便利な…」

「しかし消音と言っても、音を聴こえ難くするだけだ」

「聴こえ難く…」


無いよりはマシだからと、アーネストは魔法を使った。


「それと…」


アーネストはもう一つ魔法を使う。


「こっちは?」

「認識阻害だ」

「認識阻害?」

「ほら

 集中してたら視界の隅のネズミでも気付くだろ?」

「ああ」

「それの逆だ

 騒いでたり酒を飲んでると、隣に来ても気付かないだろ」

「酒がってのがお前らしいな」

「うるさい」


二人は魔法の効果を確認する為に、こっそりと廊下に出てみる。

しかしそこにも、誰も警備に立っていなかった。


「あれ?」

「拍子抜けだな…」


廊下を見回してみても、周囲には誰一人立っていない。

警備の兵士達もサボっているのだ。


「遠くが騒がしいな」

「ああ

 宴会騒ぎで誰も居ないのか?」

「それは好機だな」


ギルバートは周囲を探り、大広間まで誰も居ない事を確認する。


「杜撰だな…」

「ああ

 一体どうなっているんだ?」


ここから一番近いのは、アーネストとヘイゼルが使っている西の塔だ。

しかしそこも、巨人の襲撃で崩れている。

東側は騎士の宿舎があるので、迂闊には近付けない。

だからと言って、裏の離宮には大広間に出る必要がある。

さすがにそこまで行くと、騒ぎ声が聞こえた。


「どうする?」

「一旦大広間を覗くか?」

「そうだな」


ギルバートは背中の、セリアの様子を見る。

先程の血溜まりを見てから、すっかり弱っていた。

この様子なら、騒ぐ事も無いだろう。

そのまま奥に進み、大広間を覗いて見る。


そこは騎士や兵士達が、床に座り込んで騒いでいた。

手元には酒や肉が置かれて、周囲では半裸のメイド達も座っている。


「これは…」

「なんという事だ…」


ギルバートは気付いていないが、メイド達は事を終えた後なのだろう。

だらしなく男達にしな垂れ掛かり、上気した顔で抱き付いている。

そして奥の方では、今まさに行為に励む兵士も居た。

みな職務を忘れて、この乱痴気騒ぎに勤しんでいるのだ。


「どういう事だ?」

「気にするな

 問題はどうしてこうなったかだ」

「しかし…

 あのメイド達の様子は…」

「お前は…

 良いから見詰めるな

 目の毒だ」

「あ、うん…」


ギルバートはよく分からず、しかし思わず目が向いてしまう。

考えてみれば、セリア以外には母やフィオーナぐらいしか、女性の裸は見た事が無かった。

あのメイド達が何をしているのか、ギルバートは今一理解出来ていない。

しかし何故か、気になって視線が向いてしまう。


「ギル

 気付かれるぞ」

「あ、ああ…

 しかし…」

「視線を集中すると、相手に気付かれるぞ」

「しかしあんな声を上げて…」

「良いから」


アーネストに引き摺られる様に、ギルバートは大広間を抜ける。

兵士達は乱痴気騒ぎに集中していて、ギルバート達には気付かなかった。

メイドの果てる声が、広間に大きく響く。

それに合わせて、兵士達は歓声を上げていた。


「何なんだ?

 あれは?」

「あれは男女の…

 そのう…」

「ん?」

「兎に角良くない事だ

 うん」

「それなら止めに…」

「馬鹿

 見付かりたいのか?」

「それは…」


二人は広間の奥に向かい、謁見の間の近くに来ていた。

東側には騎士が居て、同じ様に廊下で事に励んでいる。

どうやら男達は、欲望の箍が外れている様子だった。


「理由は分からないが…」

「うん」

「ここの奴等は欲望のままに動いている様だ」

「欲望のままに?」

「ああ

 食欲や性欲に突き動かされている」

「性欲?」

「ああ

 異性と性交渉をしたいって欲求だ」

「性交渉って…まさ」

「しっ

 声を潜めろよ」

「すまない」


ギルバートはここで、ようやくメイド達がしていた事に気付く。

あれが男女がする事で、セリアが求めていた事だと気付いたのだ。

気付いたところで、ギルバートは顔を赤くして俯く。

そんな様子を見て、アーネストは溜息を吐く。


「あれは良くない事だと言っただろう

 本当は愛し合う男女が、お互いを求めて行う事だ」

「しかしさっきのは…」

「ああ

 動物がするのと変わらない、欲望に突き動かされた結果だ」

「え?

 それじゃあ…」

「ああ

 恐らく誰でも良くて、行きずりの行為だ」

「そんな事…」

「あのなあ

 前にも言っただろう

 男も女も、本能で求めたくなる事があるんだ

 それだから娼館って物が…」

「しっ、しーっ」

「あ…」


「誰だ!」

バタン!


アーネストが興奮して、思わず声が大きくなる。

それで気付かれたのか、謁見の間の扉が開かれる。

三人は近くに居たが、ちょうど柱の陰になっていた。

半裸の騎士が二人、血に濡れた剣を構えて周囲を見回す。


「何処だ!

 出て来い!」

「おい!

 本当に居たのか?」

「確かに声が聞こえたんだ」

「お前が臆病だから…」

「うるせえ!」

ズガッ!


「ぐはっ」


片方の騎士が、急にもう一人に切り掛かる。

鎧を上半身着けていないので、その騎士は一撃で絶命する。


「な…」

「しっ」


「ぐははは

 オレを馬鹿にするからだ」

「おい

 ほどほどにしとけ

 掃除が面倒臭いだろう」

「ああ」


騎士はそう言うと、扉も閉めずに引き返して行く。

柱の陰から覗くと、謁見の間の様子が見える。

そこには数人の騎士が居て、手足の切られたメイドを凌辱していた。

傍らには少年や少女の死体もあり、彼等がここで何を行っていたのかが予想出来る。


「あいつ…」

「止せ」


アーネストはギルバートの腕を掴むと、静かに首を振る。

いくら鎧を着て無いとはいえ、相手は王国の騎士だ。

それRに無力化するにしても、そのまま気絶させれるかも分からない。

明らかに騎士達の様子は、常軌を逸しているからだ。


「しかしあいつ等…」

「人数が多いし、無力化出来るのか?」

「当て身や腹を打てば…」

「出来るのか?」


アーネストの様子を見て、ギルバートは騎士達を見る。

確かに様子がおかしい。


「それに…」


アーネストは玉座を見て顔を顰める。

そこには裸になった女が、玉座に座る男に抱き着いている。

女は何かを囁き、男は恍惚とした表情を浮かべる。


「フランツ?」

「いや

 その前を見ろ」

「裸の女が…」

「いや

 よく見ろ」

「エリザベート?」

「そうじゃ無い

 その下半身だ」


玉座に腰掛けるのは、バルトフェルドの息子のフランシスカだ。

そして彼に抱き着いて激しく蠢いているのは、ギルバートの妹であるエリザベートだ。

しかし顔はエリザベートだが、その身体つきはおかしかった。

胸もしっかりと大きく、とても少女のそれには見えなかった。


「あいつ…

 あんなに大きかったか?」

「馬鹿

 足だよ足」

「ん?

 !!」


ギルバートが思わず声を上げそうになるが、アーネストが懸命にその口を塞ぐ。


「むごむぐ…」

「声を出すなよ」

「むうう…」


ギルバートが頷くのを見て、アーネストは手を放す。


「何だ?

 あれは?」

「恐らくラミア…

 ランクDの魔物だ」

「魔物?」

「ああ

 魔物になっているんだ

 フランドールと同じ様に…」


ラミアと化したエリザベートは、フランツの上で激しく上下に動く。

フランツは恍惚とした顔をして、エリザベートを激しく抱きしめていた。

しかしその下半身は、蛇の様になっていた。

その悍ましい光景に、ギルバートは顔を顰めるのだった。

まだまだ続きます。

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