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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第437話

ハルムート子爵の私兵は、野営している間に何度もオーガの死体を見に行った

それはオーガを始めて見た事よりも、その大きさに驚いていたからだ

身長だけでもおおよそ人間の倍近くあるだろう

そんな大きな魔物が、人を襲って食らうのだ

それは恐ろしい化け物に見えていた

朝日が差し込み、野営地も賑やかになる

私兵と護衛の兵士は打ち解けて、昨日のオーガの話をしていた

中には昨晩の内に、基礎の訓練方法を教わる者も居た

そうした者は慣れない訓練で、筋肉痛や頭痛に悩まされていた

どうやらさじ加減が分からず、ぶっ倒れるまで行ったのだろう。


「あ痛てて…」

「大丈夫か?」

「ああ

 筋肉痛だからな」

「あんな剣の振り方をするからだ」


「こっちは頭痛だ…」

「食欲は?」

「悪いがほとんど食べる気がしない」

「おい

 無理してでも食えよ

 後半日は馬車に揺られるんだ」

「うう…

 そうするよ」


私兵は150名ほどだが、その半数近くが呻いていた。

昨日のオーガとの戦闘を見て、危機感を持ったのだろう。

魔物と戦う覚悟を決めた者は、積極的に護衛の兵士に訓練を教わっていた。


「後半日ほどだ

 夕暮れまでには王都に入れるだろう」

「やったー」

「やっとだ…」


移住者の半数以上が、戦闘に参加出来ない者達だ。

彼等は王都に入れば、もう魔物に襲われないと安心していた。


「これで頑丈な城壁の中に入れる」

「ああ

 そうしたら安心だな」


「オレ達はそうでも無いがな」

「ああ

 その内戦闘に参加しないとな」


一方で私兵以外にも、戦闘に参加しようという者も少なからず居た。

彼等はまだ若く、戦いの経験が少なかった。

だからオーガを見ても、ただ恐ろしいとしか感じなかった。

自分が戦う姿を、想像する事が出来ないからだ。


「なあ

 あれと戦えると思うか?」

「だって、あっちの兵士は戦っているんだろ?」

「そうだが…

 ホーカーさんやアジダルトも無理だって言ってたぜ?」

「そりゃあ訓練次第なんじゃ無いか?」

「でも、相当厳しいみたいだぞ?」


私兵達の様子を見て、中には尻込みをする者も居た。

そうした者達は、王都に入ったら兵士以外の職に就こうと、真剣に考えていた。


「さあ

 準備が出来たら出発するぞ」

「はい」


再び移民達は馬車に乗り、その周りを兵士達の馬車が囲む。

そうして馬車の列は、公道をゆっくり進み始める。

行く手にはなだらかな平原が見え、王都はその先にある。

公道の周りには、小さいながらも森も見えていた。


「気を付けろよ

 こうした場所にも、魔物が待ち伏せて居る」

「はい」


進みながら、アーネストは御者に注意を促す。


「アーネスト様

 向こうから兵士の一団が…」

「兵士?」

「あれは…

 王都の旗だ

 王都の軍です」


どうやら進む先から、王都の兵士達が向かって来る様だ。


「魔物の討伐か?」

「だろうな」


暫く進んで、その兵士達と合流する。


「停まれ

 お前達はどこの…

 王太子殿下」

「おい

 殿下だって?」

「失踪して行方不明の?」

「静まれ!

 殿下の御前だぞ」


先頭の馬車には、王家を現わす紋章が飾ってある。

それに気付いて、兵士達は慌てて隊列を直すと、代表の兵士が馬から降りる。

そして馬車の前に跪くと、口上を述べた。


「王太子殿下

 ご無事のお帰りを喜ばしく思います」

「そんなに固くなるな

 ここは王城ではない」

「はっ

 しかし…

 この一団は?」


兵士は顔を上げながら、移民の馬車を見る。


「こちらは王都への移民だ

 バルトフェルド殿には伝えてある」

「おお

 では王都に?」

「帰還している所だ」


「良かった

 殿下が戻って来られたのか」

「これで安心だ」


兵士達は喜び、ホッとした顔をする。

しかしすぐに、表情を険しくする。


「殿下

 ここはもうすぐ戦場になります」

「戦場?

 どういう事だ?」

「そこの森に…

 まだ姿を見せていませんが、ゴブリンが大量に発生しています

 危険ですから避難を」

「ゴブリン?

 それなら我々も…」

「いけません

 先ずは王都にお戻りください」


兵士は厳しい顔をして、王都に戻る様に促す。

その表情から、決して安易な戦闘にならないと伺える。


「たかだかゴブリンに…」

「数が問題なんです」

「そんなにか?」

「ええ

 おおよそ1000体です」

「1000体だと?

 この兵力で戦うのか?」

「ええ

 これだけしか出せませんでした」


兵士達の総数は、歩兵が200名と騎兵が50名しか居ない。

確かにこの兵力では、1000体のゴブリンでも厳しいだろう。


「一体どうして?」

「それは…」

「王都で何があったんだ?」

「詳しくはバルトフェルド様にお聞きください」

「ううむ」


「ギル

 これはマズいんじゃあ?」

「そうだなあ

 加勢しないとマズいぞ

 みすみす見捨てては…」


ギルバートの言葉に、兵士達は困った様な顔をする。


「子爵」

「ああ

 ワシ等はここで待つ

 何か起こっても、まあ…」


子爵は私兵達を見回す。

私兵達も事情が聞こえたので、馬車から顔を覗かせていた。

そして子爵の言葉に力強く頷くと、馬車から降りて周囲を固める。


「そういう事だ

 私の護衛の兵も参加する」

「殿下

 しかし…」

「良いから!

 今は生き残る事を考えろ」

「はい…」


恐らくゴブリンは、狂暴化している。

このまま王都に向かっても、後ろから追撃される可能性も十分にある。

それを考えれば、ここで倒しておいた方が良さそうだ。


「王都に入るのが少し遅くなるが…」

「構いません

 存分に戦ってください」

「そうですよ」

「ここに来る奴がいたら、我々が倒します」

「行ってください」

「うん

 頼んだよ」


ギルバートはそう言って、兵士の方へ向き直る。


「さあ

 そのゴブリン共を討伐しよう」

「殿下…」


代表の兵士は、思わず目尻を拭っていた。

彼等は死んでも王都を守るつもりだったのだろう。

しかし、現在の王都でも、兵士は500名は出せる筈だ。

王都に一体何が起こっているのか?

ギルバートは表情を固くして、王都の方角を見る。


「先ずは小鬼討伐だ」

「はい」


兵士達に声を掛けて、ギルバートは直ちに指揮を執る。

王都からの兵士は後方に下げ、先ずは戦い慣れた護衛の兵士を前面に出す。


「良いんですか?」

「ああ

 恐らくあの様子では…」


兵士達は新兵で、戦闘にも慣れていない様子だった。

それが証拠に、ギルバートに近付く時も警戒心が少なかった。

それに隊列もどことなく、不自然な感じがした。


「ええ

 彼等は今年採用された新兵です」

「そうか…」

「まあ、あの様子ではな」


兵士達の士気を見ても、とても熟練した兵士には見えない。


「戦闘経験は?」

「それは…」

「コボルトやゴブリンは?」

「少数のゴブリンなら!」

「オレはコボルトを…

 でも…

 仲間を犠牲にしてで…」

「そうか」


ギルバートは新兵達を見て、改めて声を上げる。


「みんな!

 今日はベテランの兵士の戦いってやつを見てくれ

 こいつ等は歴戦の兵士達だ」

「え?」

「殿下」

「ベテランとか歴戦とか…」

「何だ?

 違うのか?」


護衛の兵士達は、困った顔をする。

しかしギルバートは、そんな護衛の兵士達にも発破を掛ける。


「お前達はオーガにも、戦って生き残っただろう

 それともゴブリンが怖いのか?」

「そんな事はありません」

「ゴブリンなんて相手になりませんよ」


兵士達はそう言うと、気合を入れた様子を見せる。


「その調子なら大丈夫か

 それなら森に入るぞ」

「はい」

「騎兵達はその後から入って、状況に合わせて参加してくれ」

「はい」

「良いんですか?

 その…

 オレ達が任された仕事なのに」

「ああ

 まともに戦えるのはお前達だけだろ?」


騎兵達は、バルトフェルドが連れていた私兵達である。

以前にも王都で、戦いに参加しているのを見た事もある。


「そういえば…

 何で騎兵なんだ?

 昇格したのか?」

「え?

 いやあ…」

「王妃様が馬無しでは格好付かないって」

「集めれるだけ集めたみたいで…」

「はあ?」


ギルバートは改めて、騎兵達の姿をよく見てみる。

言われてみれば、騎兵には扱いづらい弓兵も混じっている。


「えっと…

 本職の騎兵は?」

「私だけです」

「はあ?

 他の騎兵は?」

「王都の護りに就いています」

「騎士は?」

「騎士もです」

「はあ?」


ギルバートは頭を抱える。


「そんなに騎士も騎兵も足りないのか?」

「いえ

 騎士は昇格した騎兵が加わり、現在は200名です」

「そんなに必要か?」

「そうですね…」


「騎兵は?」

「今は500名にまで増えました

 しかし実戦経験が乏しくて…」

「そんなの役に立つのか?」

「正直…

 あれでは微妙ですね」


兵士の言葉に、ギルバートは苛立ちを感じる。

そもそも住民が少ない今、そこまでの兵士が必要だとは思えなかった。

いざとなれば、王都は棄てるべきだからだ。

住民が居ない街など、あっても意味はないからだ。


「バルトフェルド様は何を考えて…」

「違うんです

 全ては王妃様が…」

「マリアンヌか?

 あいつにそんな権限は…」

「殿下

 王都に戻られても、王妃様には気を付けてください」

「どういう事だ?」

「オレからは…」


兵士は事情があるのか、口籠ってしまう。


「おい

 何だか厄介な状況じゃないか?」

「ああ

 それよりも今は…」


アーネストは答えながら、森の方を指差す。


「こっちが先だな」

「そうだな…」


ギルバートは森に目を向けて、ゴブリンが集まり始めるのを感じていた。


「一気に殲滅するぞ」

「はい」

「あまり前に出るなよ

 いくらゴブリンでも、数が多過ぎるからな」


アーネストはそう言いながら、呪文を唱え始める。

いざという時の為に、後方から支援する為だ。


「行くぞ」

「おう」


護衛の兵士達は声を上げ、一気に駆け出した。

旅の始まりには、ただの歩兵の兵士達だった。

しかし共に旅をする内に、すっかり騎馬の扱いも上達していた。


鎌は持っていなので、剣での戦いになる。

その分魔物に接近されるが、一撃で屠れるだけの腕も持ち合わせている。

馬を巧みに操り、魔物に近付いては切り付ける。

そして囲まれる前に、次の標的に向かって進んで行く。

その場に長く留まると、それだけ魔物に囲まれるからだ。


「上手く立ち回っている」

「せりゃああ

 こんな小鬼如きに」

「負けられない

 うりゃああ」


兵士は次々と魔物を屠り、足元にはゴブリンの死体が覆い尽くす。

しかしまだ、300体を超えたぐらいだった。


「オレ達も続くぞ」

「おう」


護衛の兵士達が下がり、一旦騎兵達に交代する。

騎兵達も粘り、次々とゴブリンを倒して行く。

しかし練度が低いのか、馬の移動は若干の無駄が見える。

中には弓を構えて、後方から狙撃に集中する兵士も居る。

そうした攻撃も併せて、魔物の死体が積もって行く。


「ふう…」

「休息が終わったなら、そろそろ交代するぞ」

「はい」

「負傷者はポーションを飲んでおけ

 その他の者は水や干し肉を食っておけ」

「はい」


既に騎兵達の分も合わせて、魔物は半数近くが倒されていた。


「そろそろ下がれ」

「はい」

「ひいっ」


騎兵達が下がり、代わりに再び護衛の兵士達が前に出る。

休息を十分に取ったので、士気は上がっている。

数は依然として魔物の方が多かったが、兵士達は気勢を上げて突き進む。


「うおおおお」

「そこをどけえええ」


兵士達は前に進み出て、ゴブリンの集団の中に入る。

敢えて前にすすんだのは、足元にある死体に足を取られない為だ。

馬が足を痛めると、ゴブリンに囲まれて逃げられなくなる。

その前に前に出て、ゴブリンの死体が少ない場所に移動したのだ。


「何であんな危険な?」

「いや

 正常な判断だぞ

 足元を見てみろ」

「え?」

「あんなに死体があったんじゃあ、馬が満足に動けんだろう?」

「なるほど…」


こういう判断が出来る事も、彼等が戦いに慣れて来た証拠だ。

ただ戦っているだけでは、そこまでの注意力は働かないだろう。

以前に足元が悪い場所で、戦った経験が生かされているのだ。


「うおおおお」

「早くこっちに来い」

「先にこいつ等を仕留める」

「そこは任せるぞ」


兵士達は声を掛け合って、互いの居場所を確かめる。

乱戦になると、視界が塞がれて同士討ちの可能性も増える。

それを防ぐ為にも、隙を見て周囲を確認する必要がある。

そして声を掛ける事で、仲間が周囲に居るのか確認するのだ。


「大分減らしたな」

「凄い…」


魔物は既に、7割は倒されている。

このまま行けば、一人の死者も出さずに勝てそうだった。


「全滅も止む無いと思っていました…」

「そうだな

 あんな人数じゃあ…」


騎兵がどんなに頑張っても、歩兵は全滅していただろう。

いや、騎兵すらも全滅して、王都に向かわれていた可能性すらあっただろう。

ギルバートの加勢は、兵士達の命を救っていた。


「どうやら終わらせそうだな?」

「ああ

 結局アーネストの手は借りなかったな」

「うーん

 こうなったら癪だから」


アーネストはそう言うと、魔物が集まる後方に杖を向ける。


「おいおい

 そっちは兵士も…」

「大丈夫だ

 考えてあるって

 ファイヤー・アロー」


アーネストは結句を唱えて、杖から炎の矢を撃ち出す。

それは兵士達を越えて、後方の魔物達を射抜く。


グギャア

ギャワワ


射抜かれた魔物はのた打ち回り、その炎は周りの魔物にも移る。

そうして後方で、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

それに動揺して、前線の魔物の勢いも落ちる。


「行けるか?」

「は?」

「一気に攻め込んで、ここで片を着ける」

「はい

 みんな行けるか?」

「だ、大丈夫です」


騎兵達も、兵士達を見習ってポーションや水を飲んでいた。

休息は十分では無かったが、まだまだ戦えそうだった。


「一気に突き崩せ」

「おう」


騎兵が突撃して、一気に最後の一撃を決める。

魔物は突き崩されて、散り散りに分断される。

そして兵士達によって、それも狩られていった。

こうして森での戦闘は、終わりを迎えるのであった。

まだまだ続きます。

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