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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
435/800

第435話

ギルバート達は、王都に向かう道を進む

カザンを発ってから2日目、今日はザクソン砦の近くを通る事になる

遠くにはザクソン砦が、その威容な外観を見せている

高く頑丈な城壁は、少し離れていても見える大きさだ

しかし大きな城壁も、今は城門が破壊されて無意味となっていた

アーネストは出発の前に、ハルムート子爵にこっそり耳打ちをした

ギルバートには、まだ女神に会う事は話さない様に頼んだのだ

女神に関しては未確認な事が多く、具体的な方針も決まっていない

だから先ずは、王都に帰還する事が優先だったからだ


「大きな城壁ですな」


子爵は遠くに見える、ザクソン砦を見てそう呟く。


「ええ

 帝国との戦争で、城壁は一度壊されました

 今はその経験を経て、高い城壁を備えています」


ザクソン砦は、一度帝国に落とされそうになっている。

その時は死霊が呼び出され、敵味方併せて多数の死傷者が出た。

その経験を持って、城壁も倍近い高さにされたのだ。

当時は2mを越える城壁でも、十分だと考えられていた。

しかし今は、4m近い分厚い城壁に改修されている。


「あれでですか?」

「いえ、以前は2mぐらいだったそうです

 今のは建て直された高さです」

「2m?

 確かにそれは低いですな」


野生の動物ぐらいなら、2mもあれば十分だろう。

しかし騎馬に乗った兵士では、2mぐらいなら何とか出来そうである。

その辺りも、当時の地方の領地が如何に放置されていたか分かる。

帝都以外は、攻められる事を想定していなかったのだ。


「ここの領主は、攻められる事を考えていなかったんですか?」

「いえ

 そもそもが帝国領だったんです

 攻められる道理が無いでしょう?」

「それはそうでしょうが…

 帝国から寝返ったんでしょう?」

「ええ

 動乱で帝国の、力が大きく落ちましたからね」

「その時に、何で城壁を…」


寝返るのなら、攻められる事も考えるべきだろう。

しかし、伯爵が寝返ったのは皇帝が攻め込んでからだ。

そこまで考えていなかったのだろう。


「恐らくは、ここの領主は攻め込まれる事は考えていなかったんでしょう」

「地方の砦なのに?」

「地方の砦だからじゃないですか?

 ここなら大丈夫と、高を括っていたとか

 ほら

 ここはカラガン伯爵の伯父が治めていたんでしょう?」

「ああ

 そういう事か」


子爵も納得して、頷きながら砦を見る。


「皮肉ですな

 それで城壁を立派にして、安心していたんでしょう?」

「そうですね

 領主もまさか、簡単に城門が破られるとは考えなかったんでしょう」

「いや、実際にあれは簡単には破られんぞ」


当時は近くに居たギルバートは、その様子を目撃している。

今でも頑丈な城門が、あっという間に崩れる様は信じられ無い。

あんな事をされれば、城壁の意味は無いだろう。

いや、むしろ逃げ出せなくなる分、却って邪魔でしか無い。


「ギルは城門を?」

「ああ

 あの時は、ムルムルと行動していたからな」


ギルバートは、当時の事を回想する。


「護衛の兵士の中にも、同行した者は居る

 あれは信じられん光景だった」


城門が腐敗して、崩れ去る光景も衝撃的だった。

しかし何よりも、その前の出来事が衝撃的だった。

ギルバート達は、そこで砦内の光景を見せられた。

その上で砦を守るか、このまま見過ごすか迫られたのだ。


「砦の中の光景を?」

「ああ

 あれは魔法の力なのだろう

 少し離れた場所の光景を、鏡に映す様にして見せるんだ」

「そんな魔法があるのか…」

「ああ

 アーネストも知らないのか?」

「ああ

 オレの知らない魔法は、まだまだ沢山ある様だな」

「しかし…

 それが真実だとどうして言えるんですか?」


当然の様に、子爵はその疑問を呈した。


「それはですね、ムルムルがあそこで嘘を吐く意味が無いからです」

「そうだな

 ギルが戦いたいのなら、戦って止めてみろって事だろ?

 むしろ理由を明確にして、反省を促している様に見えるな」

「私もそう考えていた」

「それは…

 確かにそうですな」


相手は一人と言っても、ギルバートでも敵わない様な魔王だ。

そんな彼が目の前で、わざわざ嘘を吐く必要も無いだろう。

むしろ攻める理由を見せて、反省を促すという事の方が納得が行く。

その為にわざわざ、中の光景を見せたのだ。


「恐らくムルムルとしても、自身の正当性を示したかったんだろう

 彼等が滅ぼされるに値する、不当な行いをしていると」

「そうだな

 そう考えるのが妥当だろう」

「しかし…

 代替わりしていたんでしょう?

 それなのに、性懲りも無くそんな事を?」

「ええ

 それだからこそ、彼は許せなかったんだと思います」


ギルバートとしては、自国の領民である。

本来なら庇いたいところであった。

しかし騎士団の行いは、到底許される事では無かった。

逃げ込んだ避難民達を、笑いながら殺していたのだから。


「私も…

 ムルムルの行いが正しいとは思えない

 しかしあの騎士達は…」

「笑って避難民達を殺す

 その様な非道なら、ワシも到底許せません」


子爵もギルバートと、同じ気持ちだった。

しかしアーネストは、あくまでも冷静に判断していた。


「だからと言って、彼の行いは評価出来ないだろう?

 だって如何な理由を掲げようと、それは結局復讐でしか無い

 間違っていると言うのなら、その行いを止めれば良かったんだ」

「それはそうだが…」

「アーネスト殿

 止めに入った所で、その騎士が素直に止めると思いますか?

 ワシはむしろ、嬉々として襲い掛かったと思いますよ?」

「そう…だろうか?」

「ええ

 人間という物は弱い生き物です

 自信の正当性を示す為なら、平気で弱者を踏み潰します」


それは帝国で貴族をしていた、子爵ならではの主張だった。

彼も力の無い貴族として、長く何も無い辺境で苦しんでいた。

彼に力があったなら、他の貴族を制して領地を広げていただろう。

弱者は強者に食い物にされる物なのだ。

子爵に力があれば、彼は領民の為に戦っていただろう。


「子爵でも?」

「そうですなあ…

 ワシはその立場では無いので…

 しかしそうなったら、その騎士の様な行いをしないとは…」

「子爵でもですか?」

「ええ

 力に酔って、自分達が正しいと思っているんでしょう?

 そうなれば、弱者の悲鳴など聞こえんでしょうな」

「力に酔うか…」

「ギル?」


アーネストには、その感覚は理解出来なかった。

それは偏に、アーネストが力を振るう事が少ないからだろう。

アーネストが使える力は、魔法による援護や足止めが主になる。

これが攻撃魔法なら、アーネストも力の恐ろしさを認識していただろう。


「私だって、魔物を討伐している時に、魔物を倒せる力に酔いしれる事がある」

「うむ

 力を振るう者は、その力に溺れない心を持たないとな」


子爵もギルバートも、力の恐ろしさは認識していた。

それは力を身に着ける際に、指導した者が良かったのだろう。

だからこそ、何事も力尽くで片付ける事は無かった。

ギルバートは若い分、まだまだ力で片付け様とする傾向はあったが…。


「いや

 ギルは十分力に酔っている様な…」

「失礼な

 私がいつ…」

「すぐに魔物を倒しに行こうとする」

「う!

 ぐぬう…」

「力に頼っているだろ?」

「しかしあれは、兵士達では…」

「わざわざ戦わなくても、回避すれば良いだろ?」

「しかし放って置けば…」

「はははは

 アーネスト殿もそれぐらいで」


子爵は両方の言い分が分るので、二人の仲裁に入る。


「確かに、すぐに突っ込むのは良くないですぞ」

「うぬぬぬ…」

「だからと言って、確かに放置もよろしくない」

「まあ、そうですね」


アーネストもそこは分かっているので、最終的には条件を付けて認めている。


「上手くバランスを取れば良いんですよ

 その騎士達は、バランスが崩れていたんでしょうな」

「…」


子爵の指摘に、ギルバートは頷くしか無かった。


「しかし…」


子爵は遠くに見える、ザクソン砦を見詰める。

あんな頑強な砦を以てしても、魔物は防げないのだ。

このまま魔王が本気で攻め続ければ、人間は簡単に滅びそうだ。

女神は本気で、人間を滅ぼす気なのだろうか?


「殿下?

 それは女神の意思なんですか?」

「え?」

「さっきの話では、この砦を攻めたのは、魔王の個人的な復讐に聞こえましたが?」

「それは…」

「女神が滅ぼせと…

 言ったのでしょうか?」


「いや…

 ムルムルはそんな事は言っていなかった」

「ギル?」

「それなら、これは魔王の個人的な復讐ですなあ」


そうなってくれば、話は変わって来る。

魔王が攻めて来る時、個人的な復讐の場合もある。

そうなれば、女神が本気でやっているとは思えなくなる


「魔王の…

 個人的な復讐か」

「そうだな

 帝国を襲ったのも、個人的な復讐かも?」

「そうじゃなあ

 それなら皇女も…」

「しかしムルムルは、どこまで恨んでいるかは…」

「それもそうか」


「女神は…

 女神様はどこまで本気なんだ?」


アーネストも考えが纏まらず、思わず呟く。


「それはそれこそ、本人に聞かないと」

「そうじゃな

 神のお考えになる事じゃ

 ワシ等では推し量れんじゃろう」


子爵は再び砦を見て、ふと疑問をぶつける。


「しかし静かじゃなあ」

「え?」

「あれだけの街なのに、誰一人出て来ない

 今は昼過ぎじゃろう?」

「ああ

 あそこは今は、無人です」

「無人?」


「魔王は住む住人を、一人残さず殺したそうです」

「何じゃと!」

「本当です

 王都の支援を求めに、兵士が向かった事で判明しました」

「生き残った者も居らず、残されたのは虐殺の痕跡だけです」

「一人も…

 それで今もそのまま?」


子爵は驚き、残念そうに砦を見る。


「はい

 残念ですが、城門も破壊されています

 住むには危険でしょう」

「勿体ない」

「そうなんですが…

 王都にも人手が足りないんです

 あそこをどうこうするには…」


王都だけでは無く、他の町にも魔物は現れている。

少なからず被害が出ている以上、どこも人手は足りないのだ。

アーネストはそれを説明した上で、改めて子爵に話す。


「ここも廃棄される予定です」

「勿体ないなのう」

「ええ

 ですがこの辺りに、新たな町は作られるでしょう

 アルマート公爵が移住する予定ですから」

「何じゃと?

 公爵もか?」

「ええ」


アーネストはまだ予定ではあるが、アルマート公爵の移住の話をする。

子爵は王都に入るし、同じ帝国人なら問題は無かろうという判断だ。


「しかしあれをそのまま使えば…」

「魔王を刺激しますよ?」

「うぐ

 それもそうか…」


ムルムルが攻め落とした街に、再び帝国人が入る。

そんな事を見れば、彼も黙ってはいないだろう。


「そのまま新しい街を作るまでは、仮の拠点にはするでしょう

 しかしあそこに住むのは…」

「そうじゃなあ

 因縁があるか」


「資材はどうするんだ?」

「幸い街は、ほとんどそのままだ

 残された建物も建材に使えるだろう?」

「そうじゃな」

「そうなるか…」

「ああ

 建物を取り壊して、それで城壁から作り直す

 何年掛かるか分からないが…」


数年後には、新しい街が出来上がっているだろう。


「そうなると砦は」

「ああ

 公爵を迎えたところで見納めだな」


残念ではあるが、魔王との因縁のある場所だ。

早目に取り壊した方が良いだろう。


「ムルムルが黙っているかな?」

「さあ?

 しかしそこは、公爵が交渉するだろう

 オレ達はあくまで部外者だからな」


ムルムルが不満に思って、邪魔をするかも知れない。

しかしそれは、帝国とムルムルの問題である。

薄情ではあるが、ギルバート達が口出しするべき事では無い。


「そうじゃな

 下手に殿下達が口を出せば、却ってややこしくなりそうじゃ」

「そんなもんですか?」

「ああ」


一行は王都と、ザクソン砦との分かれ道に差し掛かる。

ここから左に曲がれば、ザクソン砦には入れる。

しかし今は、王都に帰還する事が急がれている。


「気にはなるが…」

「駄目だぞ

 魔物が入り込んでいても、今は王都に帰還するべきだ」

「はははは

 そうですなあ」


ギルバートは後ろ髪を引かれる様に、砦を見詰めていた。


馬車はそのまま進み、王都まで後1日という場所まで来る。

そこで一旦野営をして、明日に王都に入る事になる。


「野営の準備を始めてくれ」

「はい」


「殿下

 あそこに」

「ん?」


周囲を見回していた兵士が、遠くで森の木が動くのを発見する。


「あの大きさからして…」

「ああ

 あれはオーガだろう」

「ギル…」


ギルバートが嬉しそうに、背中の大剣の具合を確かめる。

アーネストは呆れて、溜息を吐く。


「ちょっと行って来るだけだ」

「さっき言ったばっかりだよな」

「いや

 このまま放置してたら、こっちに来るだろ?」


ギルバートは必死に説得して、オーガを討伐に向かおうとする。

子爵はその様子を、苦笑いを浮かべて見ていた。


「そうだ

 子爵もどうです?」

「へ?」

「いや

 オーガがどの様な魔物か、興味はあるでしょう?」

「それは…」

「ギル!

 子爵を利用するな!」


結局子爵は、ギルバートの後ろに着いて行く事にする。

数名の兵士も連れて、どの様な魔物か見てみる為だ。

ギルバートも、数名の兵士を連れるという事でアーネストに許可を得る。

アーネストとしては反対だったが、ここで止めても聞かないと、経験で分っていた。

それなら安全の為に、兵士を同行させた方が良いだろう。


「気は進まんのですが…」

「はははは

 オーガ程度なら楽勝です」

「そうですよ

 殿下は単身で3体を倒しますから」

「え?

 3体?」

「ええ

 私達でも数人で1体なんですがね」


兵士達は苦笑いしながら、子爵にそう説明する。

そして森の木が蠢く、その場所に近付いて行った。

まだまだ続きます。

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