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聖王伝  作者: 竜人
第十四章 女神との邂逅
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第431話

カザンの街の城門は、朝から人通りが絶えなかった

魔物が討伐されたと聞いて、隊商が旅立っているのだ

今から急げば、冬に入る前にオウルアイにも辿り着けるだろう

魔物のせいで滞っていた、公道が回復したからだ

城門の前には、隊商以外の人だかりも出来ている

近くの森や川に、収穫を求めて出る為だ

魔物が居る間は、森にも安心して出れなかった

しかしこれで、森や川での収穫も増えるだろう

ノーランド侯爵は、満足気にその光景を眺めていた


「鉱山はどうされるんですか?」

「今日にも炭鉱夫と、護衛の兵を送ります」


しかし侯爵の顔は優れない。


「ただ…

 殿下のお話では大分汚されていたとか…」

「ああ

 はははは…」


それは汚されていたという物では無い。

魔物にはトイレで用を足すという習慣が無い。

そりゃあ炭鉱夫も、我慢出来ないで小用をするぐらいはあるだろう。

しかし魔物は、気にせずあちこちでしていた。

それに食った死体の残骸も残されている。

炭鉱夫達は、当面はその片付けで忙しいだろう。


「今年は収穫が遅れております

 王都では税を軽くすると達しが来ましたが…」


王都では、人口が減った為に物資の消費が落ちている。

修繕費は国庫で賄うとして、租税で収穫物を集めても困るのだ。

現状としては、収穫物よりも人手が重要だった。

その為に、王都では税率を下げる代わりに、人手を集めていた。


「今回の移民で、少しはマシになるでしょう

 しかし…」

「そうだな

 先ずは小麦や作物を蓄えるよりも、王都の機能の回復だな」


人が集まれば、王都にも広大な畑はある。

今は荒れ放題だが、手を入れれば収穫も望めるだろう。

しかし問題は、今の時期だろう。


「収穫は…

 間に合いそうですか?」

「どうでしょう?

 先ずは農業を教えるところからですから」


移民に来るのは、農業を知らない砂漠の民だ。

砂漠に畑が作れなかった事もあるが、それ以前もほとんどが遊牧民なのだ。

魔導王国の生き残りも、ほとんどが農業などしていなかっただろう。

そういう事は、みな奴隷にさせていたからだ。

そういった理由もあって、砂漠の民は農業をほとんど知らない。

帝都に至っても、ほとんどが奴隷上がりの他国民であった。


「大丈夫でしょうか?」

「さあ

 こればっかりはやってみないと…」


ギルバート自身も、農業と言える様な事はしていない。

元が領主の跡取りだし、やっても後宮の庭の手入れ程度だった。

それもセリアに怒られながら、失敗続きである。

そんなギルバートが、農業の事を分る訳が無い。


「殿下…

 言い難い事ですが、王となられるには…」

「ああ

 分かっている

 しかし今は…」


ギルバートとしては、それどころでは無かった。

この問題の元凶である、女神と話さなければならない。

どうにかして、魔物を攻めさせる事を止めさせなくては。

そうしなければ、王都どころか人間の生存が危ういのだ。


「今は?」

「ああ

 魔物を止めなければ」

「しかしそれは…」

「女神様に会ってみる」

「女神様に?

 可能なんですか?」

「分からない

 しかしやってみなければ…

 人間の暮らし自体が危ういだろう」

「それはそうですが…」


侯爵ではもう、ギルバートが何を言っているのか理解出来なかった。

女神とは神で、この世界を創った創造主である。

そんな女神に、一介の人間が会う事など出来るのだろうか?

それこそ、死んで天界にあるという、女神の神殿にでも赴くしか無いのでは?

侯爵はそう思っていた。


「殿下はまさか?」

「魔王や使徒が、女神様に会ったと言うのだ

 どうにか出来る筈だ」

「しかしそれは、魔王や女神様の使徒だからでは?」

「どうだろう?

 どこかに…

 この地上でも、女神様とお話し出来る場所があるんじゃ無いのか?」

「そんな場所が本当に?」


今のギルバートは、それに縋るしか無かった。

どうにかして女神に、魔物の侵攻を止めてくれと頼むしかない。

そう思っていた。


「いずれにせよ、先ずは王都だ

 移民を連れて行かないとな」

「そうですな

 それで?

 いつお発ちに?」

「そうだなあ

 各ギルドにも通達しないといけない事がある

 明日は無理だから明後日かな?」

「そうですか

 それでは手配は、ワシがしておきます」

「ああ

 私はこの足で、ギルドを回って来る」

「あのお…

 何かワシには?」


ギルバートは、魔物の対策を伝える目的がある。

魔物の骨や魔石で、今よりも装備を上げれるだろう。

それにアーネストも、魔術師ギルドに向かっている。

魔法を上手く使う事で、今より安全に魔物と戦えるからだ。


「こればっかりは…

 魔物と戦った経験が有る者で無いと」

「そうですか」

「ええ

 冒険者にも協力を仰ぎたいですし」

「では、お気を付けて」


侯爵に頭を下げると、ギルバートは先ず、職工ギルドに向かった。

そこには既に、アーネストが書類を渡している。

昨日の戦闘で、魔石も多く手に入っていた。

ギルドでは職人が、目まぐるしく駆けまわっていた。


「その素材じゃあ無い

 オークの骨を砕くんじゃ」

「オーガの骨はどうします?」

「先ずはオークが先じゃ

 今の金床じゃあ、オーガの骨は加工出来ん」


カザンの職工ギルドでは、今まさに基本から、魔鉱石を作り始めている。

一度は王都から、関連の資料は届いていた。

しかし肝心の、素材を使った実践が行われていなかった。

ここの兵士では、精々コボルトまでしか倒せなかったのだ。


「1番から3番の炉を使え

 4番は準備が出来てから、オーガの素材をぶち込め」


昨日の討伐で、多くのオークの骨が手に入った。

それでギルドでは、本格的な作業が開始されていた。

オーガの素材は、王都から商人が運んでいた。

しかし普通の金槌では、それを砕く事も出来ていなかった。


「盛況だなあ」

「ああん?

 こら!そこ!

 先ずはオークの魔鉱石を作れ

 そんな鈍らじゃあ、オーガの骨は砕けんぞ」

「先ずはオークからか」

「そうじゃ

 やっと魔鉱石っちゅうもんを試せる

 …殿下?」


やっとギルバートの存在に気付き、ギルドマスターは飛び上がる。


「はははは

 そのままで良いよ」

「そんな

 ワシは何と失礼を…」

「大変な時期なんだ、仕方が無いさ」


ギルバートは笑いながら、慌てるギルドマスターを宥める。


「殿下ほどのお方が…

 何故にここに?」

「ああ

 参考になるかと、こいつを持ってね」


ギルバートは魔鉱石で出来た、予備のダガーを差し出す。

それはオーガを使った物で、今は実戦に使われていない。

今使っているのは、白い熊の魔獣から作られた装備だ。

それに比べると、このダガーも下級の存在に感じられた。


「これは…」

「オーガで作った魔鉱石だ」

「ふうむ

 輝きも硬度も段違いじゃ」

「ああ

 しかし私は、もっと強力な魔物を倒している」


言いながらギルバートは、腰に差したダガーも取り出す。


「ううむ…

 確かに…これは凄い」


ギルドマスターは、唸りながら白い熊の魔鉱石のダガーを見詰める。

そしてオーガの物と比べて、うんうんと唸る。


「これ程で無くても、オークでも十分強力だ」

「しかし…

 こっちでも巨人には…」

「巨人には効いたさ

 ただ相手が大き過ぎてね」

「はあ…」


実際にギルバートは、巨人にダメージは与えていたのだ。

しかし相手が大き過ぎて、思ったよりダメージが少なかったのだ。

ギルバートが担ぐ大剣ですら、巨人にはおもちゃのナイフになるのだ。


「こっちは渡すから、参考にしてくれ」

「え?

 良いんですか?」

「ああ

 その方が職人も報われるだろう」

「あ…

 その職人も…」

「ああ

 ほとんどが亡くなった」


あの日巨人は、王都の中心部近くまで来ていた。

もう少しで、王城も破壊されていただろう。

ギルドに集まっていた職人達も、そのほとんどが亡くなっていた。

ギルドが集まっていた場所自体が、巨人によって破壊されたからだ。


「王都の職人は…」

「ああ

 冒険者ギルドも魔術師ギルドも、巨人に滅茶苦茶にされたからね

 生き残れた者もその後に…」

「そうですか」

「だからこいつも、その意思を継いでもらえるなら…」

「しかし王都も…」

「いや、今は大丈夫だ

 リュバンニや周辺の町から集めてる

 今頃はオーガどころか、それより強力な魔物を倒しているかも」

「ほへえ…」


ギルドマスターは、感心して思わず変な声を上げる。

それほど王都の技術に感心しているのだ。


「それでは、ありがたく研究させていただきます」

「うむ

 良い品を作ってくれ」

「はい」


ギルドマスターは、頷くとすぐさま職人達の元へ走る。

さっそく物を見せて、どうやって作るか研究する為だ。


「さて…」


ギルバートはギルドを出ると、周囲を見回す。

目指す冒険者ギルドは、少し離れた通りに立っていた。

王都の物と比べると、一回り小さな建物が見える。

しかしその見た目は、ダーナの冒険者ギルドによく似ていた。

形を似せるのは、冒険者が一目で分る様にする為だ。

そうする事で、初めて来た町のギルドでも、迷わず飛び込めるからだ。


冒険者ギルドに入ると、そこは閑散としていた。


「あれ?」

「初めての方ですか?

 冒険者の登録ですか?

 それとも…ご依頼ですか?」


受付の女性は、ギルバートの身なりをジロジロと見る。

格好だけだと、今にも魔物でも狩に出るような、大きな剣を背負っている。

しかし見た雰囲気では、貴族の様な上品な雰囲気いをしている。

冒険者の様な粗野な姿には見えないのだ。


「ご依頼でしたら、今すぐは…

 何せ魔物が討伐されたそうで、今は人手が足りません」

「みんな出払っているのか?」

「はい

 隊商の護衛や収穫の護衛

 後は森の獣狩りにも出ています

 ですので最低でも明日以降に…」


受付が依頼書を用意していると、奥から声が掛かる。


「おい

 依頼は受けても良いが、人手が…

 殿下?」


奥から大柄な男が、ひょいと顔を出す。

そしてギルバートを見て、絶句していた。


「へ?

 殿下?」

「馬鹿野郎

 王太子殿下様だ

 すいません」

「こ、これは失礼を…」


ギルドマスターも受け付けも、相手がギルバートと知って慌てる。


「はははは

 大丈夫だよ

 今日はギルドマスターに用があってね」

「は、はあ…」


ギルドマスターもギルバートの顔を知っていた。

魔物を倒して帰還した時に、素材回収をお願いしたからだ。

ギルドマスターも、魔物を討伐してくれたと喜んで承諾した。

その為に、一度顔を合わせていたのだ。


ギルドマスターに案内されて、ギルバートは奥の執務室に案内される。


「それで…

 今度はどういったご用件で?」


ギルドマスターは、受付にお茶を用意させながら質問する。


「実は魔物に関してですが…」

「魔物ですか?

 しかしワシ等じゃあ…」


ギルドマスターも、魔物は何とかしたいと考えている。

しかし冒険者では、兵士と変わらない技量でしか無い。

魔物と戦うには、些か力不足だった。


「ええ

 先ずは魔物と戦う為に…」


ギルバートは、ギルドマスターに身体強化やスキルの説明をする。

その際に、アーネストの用意した書類の写しも差し出す。


「ふうむ

 なるほど…」

「これが使える様になれば、今までよりも確実に強くなります」

「しかし

 これは…」


王都のギルドからも、同様の書類は届いていた。

何も冒険者は、鍛錬をしなかった訳では無い。

実際に魔物と戦い、少々鍛えたからと言って適うとは思えなかったのだ。

その原因には、装備の貧弱さも関係していた。

未だにカザンでは、鉄製の武器しか無かったからだ。


「ええ

 身体を鍛えても、武器が鉄製では心許ない」

「ですなあ

 せめて魔鉱石とやらが…

 ワシ等にもあれば」

「その事なんですが」


ギルバートは、先ほど職工ギルドで話した事を繰り返す。


「それでは!

 魔鉱石が遂に造れると」

「ええ

 先ずは兵士からになりますが…」

「十分です

 今までは隊商が持って来ても、値段が高くてなかなか手が出せませんでした

 それが街で作られるとなれば」

「ええ

 値段も抑えられるでしょう」


ギルバートの言葉に、ギルドマスターも満足気に頷く。

しかしすぐに、顔色を変える。


「ですが…

 先に兵士からですよなあ」

「そうですね

 先ずは兵士が強くならなければ」

「そうすると…

 ワシ等に回って来るのは何時になるやら」

「それほどでも無いかと」

「え?」


ギルバートは、機能の魔物の討伐数を見ていた。

あれだけあれば、兵士全体にも配れるだろう。

足りないとしても、またオークを狩れば良い。

この辺りには、最近オークが増えている。

兵士が頑張れば、そんなに掛からずに出回る様になるだろう。


「昨日回収された物でも、結構な数が打てる筈です

 後は繰り返し魔物を討伐して行けば…」

「こちらにも?」

「ええ

 しかし先ずは、基礎訓練も重要です

 武器が良くなっても、身体が追い着かなければ」

「はははは

 それなら任せてください

 ワシが気合入れて鍛えますから」


ギルドマスターは、そう言って力瘤を見せる。


「お願いします

 この街の未来が掛かっていますから」

「はい

 お任せください」


「それに…

 武器が良くなると聞けば、腐っていた奴等にも気合が入ります」

「そうですね」


武器が不十分な為に、諦めていた冒険者も多いのだろう。

今後魔鉱石が増えれば、それだけ冒険者も戦える様になる。

嘗てのダーナや王都ほどで無くても、街を護れるぐらいには強くなって欲しい。

ギルバートはそう思うのであった。

まだまだ続きます。

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