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聖王伝  作者: 竜人
第十三章 帝国の罠
430/800

第430話

ギルバート達は魔物を討伐に、カザンの街の北に赴いていた

カザンの領主、ノーランド侯爵からの依頼である

魔物が公道に出て来ては、隊商を襲っているのだ

しかも最近は、狂暴化した上に武器も身に着けていた

ギルバート達は、その武器を供給する元を絶ちに向かっていた

カザンの北には、竜の顎山脈が伸びている

その下顎の辺りに、カザンの領民が作った鉱山がある

どうやら魔物は、そこに侵入して武器を作っている様子だった

今はまだ、粗雑な鉄を固めた様な武器である

しkし慣れて行けば、いずれは脅威になるだろう


「居ました

 オークです」


兵士が囁く先には、坑道が広がった広間になっている。

そこに鉱石を集めたりするのだが、今はオークが寝そべっている。

どうやら交代で採掘している様子で、ここに居るのは眠りに来ている様だ

近くには焚火もあり、何の肉か分からない物が、火で焼かれていた。


「あの肉って…」

「考えたくないな」


魔物にせよ人間にせよ、殺して焼いているのだろう。

よく見れば、指の形も見える。


「うげえ…」

「今夜肉が食えないよ」

「しっ

 静かに」


声を殺して、オーク達の様子を窺う。

どうやら8体が眠っていて、奥に見張りが2体立っている。

その見張りをどうにかしなければ、増援が奥から現れるだろう。


「声を出させるのはマズい

 ここは任せろ」


アーネストは小声で呪文を唱えながら、ゆっくりと岩陰に進む。


「おい

 どうする…」

「スリープ・クラウド」


アーネストが結句を唱え、指先から白い靄を出す。

それは広間に漂い、驚く見張りのオークも包む。

魔物は油断していたのか、声も無くその場に倒れる。


「おい

 上手く行ったから良いが…

 次は先に…」

「良いから

 そっと近づいて首を掻っ切れ」

「はい」


兵士は小声で返事をして、足音を忍ばせて進んで行く。

数名が見張りの先に立ち、奥から来ないか見張る。

そうする間に、他の兵士達がオークの首を切り裂く。

普通の鉄の剣では、この様な切れ味は期待出来ないだろう。

魔鉱石製の剣だから、オークの皮膚も容易く切り裂いていた。


「終わりました」

「奥はどうだ?」

「まだ槌の音が止みません

 夢中で掘っているんでしょう」


奥に居る以上は、進んで倒すしか無い。

しかしオークは、領民が残した工具で掘っている筈だ。

不意を突けたとしても、つるはしや工具で身を固めるだろう。


「ここから…」

「難しいですね

 中には光があります」


オーク達は魔石を光源にして、坑内で採掘を行っていた。

どうやら他の魔物から、魔石を回収している様だ。

魔石を松明架けに載せて、それを光源にしている。


「魔石か…」

「コボルトの死体がありましたが…」

「あれはこの為か」


「ううむ…

 どうする?」

「魔石では消せないな

 近付いて魔法を解かないと」

「ああ

 それにそうすると、こっちも見えなくなる」


暗闇での乱戦は、同士討ちの危険性もある。

こうなれば、一気に踏み込んで倒すしかないだろう。


「しかし魔石か…」

「オレ、魔物が美味そうに食ってるの見たぞ」

「え?

 美味いのか?

「美味いかどうか分からないが、食ったら体内の魔石を強めれるんだろう

 その為に魔石を食うらしいから」

「え?

 魔石をですか?」

「ああ

 魔石が魔物の強さを上げるからな」


それを聞いて、兵士はオークを見る。


「あいつの魔石を食えば…」

「止めておけ

 ギルがどうなったか見ただろう?」

「あ…」

「普通の人間なら、魔石を持っただけでコントロールが難しくなる

 ましては狂暴化なんてしたら…」

「そう…ですよね」

「私は狂暴化したお前達を、止める為に殺すなんて嫌だぞ」

「はい」


「魔石を身に着けたいのなら、地道に魔力量を上げる訓練をすれば良い

 魔力が一定以上上がれば、体内に魔石が出来る筈だ」

「うええ…

 あれをするんですか?」


兵士は魔力量を上げる訓練と聞いて、嫌そうな顔をする。

それを聞いて、子爵は怪訝な顔をする。


「あのお…

 さっきから魔石って…」

「ああ

 人間にも魔石は出来るんだ

 恐らくオレも…」

「はあ?」

「しいっ!

 ヤバい、気付かれた」


子爵の上げた声に、オークは周囲を警戒する。


「仕方が無い

 一気に踏み込むぞ」

「そうだな

 幸いここは、坑道の最奥の筈だ

 これ以上は増援は来ない」

「一気に畳みかけろ」

「はい」


兵士は剣を引き抜くと、魔力を高める。

身体強化で一気に近付き、魔物に止めを刺すつもりなのだ。


「すみません

 ワシのせいで」

「良いから、子爵は後方に下がって」


「うりゃあああ」

「とりゃあああ」


兵士は掛け声と共に、一気に坑道から坑内に躍り込んだ。

その声に驚き、魔物は一瞬だが判断が遅れる。

手前の魔物から、一気に8体が切り倒される。


「続け!」

「一気に畳みかけろ」

「おう!」


兵士は次々と踏み込み、魔物を奥へと追いやる。

100mほどの広間の、奥の方へ魔物は集まった。

その数は既に、半数ほどの13体にまで減らされている。

必死に歯を剥き出して、威嚇的な声を上げている。

しかし兵士は、その倍以上が広間に踏み込んでいた。


グガアアア

「甘い」


魔物はつるはしを振り回すが、その腕を兵士は切り飛ばす。

その横から、別の兵士が切り込んで倒す。


「もっらい」

「あ!

 ずりいぞ」


そうこうする間にも、次々と兵士が前に出る。

オークは必死に抵抗するが、人数も武器も、圧倒的に負けていた。

一気に兵士に踏み込まれて、魔物達は殲滅された。


「一方的ですな…」

「ええ

 相手はオークです

 油断してるか奇襲でも受けない限り、負ける事はありません」

「しかし…こう…

 なんですな、蹂躙している様な…」

「何言っているんです?

 でなければ私達がああなっていましたよ」


子爵はまだ、魔物と人間との関係を理解出来ていない様だった。

一方的に殺される魔物を見て、可哀想にも思えていたのだ。


「子爵…

 勘違いされている様ですが…

 あの魔物は会話も出来ないんですよ?」

「そう…なのか?」

「ええ

 同情するのは良いですが、気を付けないと助けたつもりが…」

「しかし、感情や会話の様な様子は…」


確かに、魔物には感情もあるのだろう。

兵士が踏み込んだ際には、かなり動揺していたし。

それに鳴き声で、独自の会話はあるかも知れない。


「そうかも知れませんが…

 それで人間と仲良くなろうとは思いませんよ?

 そういうのはもっと高等な知能がある魔物で無いと」

「おい、ギル

 知能があっても、ほとんどの魔物が無理だ

 人間に生活する場所を奪われて、相当憎んでいるからな」

「そうだな

 それで無くとも月の影響もあるし」


魔王やアモンが連れていた、ハイランドオークは言葉を話せる。

そして相手によっては、敬意を払うだけの感情も持ち合わせていた。

しかし他の魔物は、ほとんどが会話すら出来ない。

あるのは獣と変わらない、単純な感情ぐらいだけだ。


「子爵

 ゆっくりと慣れてください

 あれは人間に近く見えますが…

 砂漠の魔獣と大差ないんです」

「あれが…

 魔獣と変わらない?」

「ええ

 空腹や怒りはあっても、他者をおもんばかったり、思いやる様な感情はありません」

「そう…なのだろうか?」

「ええ

 私も最初は、そう思っていた頃もありました」

「ありました?」


ギルバートも、最初の頃は魔物と和解出来ないかと思っていた。

しかし戦っている内に、それは無理だと考え直していた。

ほとんどの魔物は、人間と憎しみ合っている。

それはこれまでの経緯と、見た目があまりに異なるからだろう。

決して魔物に対して、一方的に悪い感情が浮かぶからでは無い。

互いに獲物として見て、殺し殺されるからだ。


「人間と魔物は、長くいがみ合い続けています。

 女神様は…

 どういうおつもりで魔物を生み出されたのか…」

「しかし、中には人間に似た…」

「そうですね

 魔王などは知能は高いので、会話での交渉の余地はあります」

「なら…」

「ですが、他の魔物は無理です

 同じ魔物同士でも、殺し合っているんですから」


子爵はなおも、何か言いたそうにする。


「オークからすれば、ゴブリンやコボルトは獲物です

 いたぶり嬲ってから殺します

 なんなら…昨日の現場を見ますか?」

「い、いや

 良い…」


ギルバートは、オークが殺したと思われるコボルトの遺骸を、子爵には見せなかった。

それはあまりに惨たらしく、正視に耐えぬ光景だったからだ。

魔石を必要としていたのだろうが、遺骸は無残にバラバラにされていた。

恐らく、遊び半分でバラシていたのだろう。

これが他の魔物にも、言える様な事なのだ。


「今、こいつ等は我々に怯えていました

 しかし、他の魔物や人間が怯えていたら…

 嬉々として嬲り殺しにしていたでしょう

 魔物とはそういう物なんです」

「分かった

 気を付けるよ」


ギルバートは話しを終わりにして、魔物の遺骸を運ばせる。

このまま坑道の中で、腐らせる訳にはいかないのだ。

外に運び出して、魔石を出して処分する。

そうしなければ死霊になるからだ。


「どうされます?」

「石炭もとれるんだろ?

 それに焚き火用の薪も」


魔物が暖を取るのに、焚火も焚かれていた。

坑内で焚火とか危険なのだが、魔物にはそんな常識は無いのだろう。

平気で坑内で焚火をしていた。


「外でやるぞ

 私は死にたくないからな」

「こいつ等…

 平気でやってましたね」

「ああ

 知らないんだろう」


鉱山の様な空気の悪い場所で、焚火は危険なのだ。

松明だって慎重に扱われているのだ。

それを知らないのか、魔物は焚火までしていた。

そんな場所で眠っていて、よく死ななかったものだ。


「鉱山って危険なんですか?」

「そうか…

 子爵は鉱山は…」

「ええ

 昔はあったみたいなんですが、今は無いので…」


帝国では土地が枯れていて、鉱山と呼べる場所もほとんど無かった。

仮にあったとしても、年々地質が悪化していた。

砂岩と化した場所では、採掘など危険だったのだろう。

希少な鉱石も、今では砂に埋もれていた。


「鉱山に限らず、洞穴には危険な空気があるんです」

「即死性のガスや燃えるガス

 そして空気を吸えなくさせるガス」

「毒ガスですか?

 それなら聞いた事があります」

「ええ

 それがあるから危険なんです」


子爵はそれを聞いて納得した。

確かに兵士は、先ほどの広間で慌てて焚火を消していた。

それが燃えるガスを気にしているのなら、当然だろう。


「それに

 空気を吸えなくするガスは、空気の流れの悪い場所に出来やすいんです

 特に焚火や松明を使うと、すぐに空気が悪くなります」

「なるほど

 それで焚火は…」

「ええ

 あそこはまだ、大丈夫そうだったんですが

 いつその悪い空気が溜まるか分かりませんからね」

「目に見えないですから」

「そうですな」


一連の行動の意味を知り、改めて恐ろしいと気付く。

子爵は、魔物が本当に頭が悪いと気付かされた。

人間の真似は出来るが、その意味を理解していないのだろう。


「肉を焼いたりしていましたよね」

「ええ

 よく大丈夫だったものだ

 あそこで死んでいてもおかしくないですよ」

「その場合は?」

「我々は慌てて逃げ出していたでしょうね

 危険を知っていますから」

「ですが鉱山は…」

「暫く使えなかったでしょう

 残念ですが」


その悪いガスが無くて、本当に良かったと思う。

そうで無ければ、爆発したり息苦しくて死んでいただろう。

思い出してみれば、ギルバート達も松明は使っていなかった。

坑道に入る時も、暗い場所以外では魔石を使っていたのだ。


「それでは魔石を使っていたのも…」

「ええ

 燃えるガスの対策です」

「爆発で死ぬなんて御免ですからね」


そうこうする内に、一行は鉱山の外に出る。

既に日は頂点を越え、ソルスは東に向かっていた。


「さあ

 解体して焼くぞ」

「大丈夫なんですか?」

「ええ

 ここは外ですし

 中にも燃えるガスは無かったみたいですから」


ギルバートは兵士に指示を出し、オークから魔石を回収する。

先程の話では無いが、オークの中には魔石が一回り大きい者のも居た。

そういった者は、他の魔物の魔石を食べていたのだろう。

しかし兵士に囲まれては、如何に強くても意味が無い。

数で囲まれれば、少々の強さでは関係が無いのだ。


「うっ…」

「この光景は…」

「言うな、慣れるしかない」


子爵の私兵の中には、魔物の胸を切り裂いて魔石を探す光景から、目を逸らす者も少なからず居た。

頭が豚なだけで、見た目が人間に近いからだ。

しかし貴重な魔石を入手するには、これに慣れる必要がある。

相手は人間で無いと、自分に言い聞かせるしか無いのだ。


「さあ

 こっちに集めてくれ」

「ギルバート殿

 何で燃やすんですか?」

「死霊にならない様にする為です」

「死霊ですか…

 しかし砂漠では…」

「そうなんですよね

 何で死霊にならないのか?」


魔獣がならないのは、まだ説得力があるだろう。

死霊になるのは、人型の魔物だけだとか理由が付けられる。

しかし、人間の死体も死霊になり難いのだ。

その理由は、ギルバートにも分からなかった。


しかし、少なくともカラガン伯爵達は、死霊にはなっていなかった。

その事は、あの後に通った事で確認出来ている。

彼等の死体は、砂漠に飲まれたのか?

はたまた魔獣に食い荒らされたのか?

死霊として現れる事は無かった。


「変ですよね

 少なくとも、帝都に魔王が現れるまでは…

 死霊なんて見た事がありませんでしたから」

「子爵は?」

「ワシですか?

 ワシも見た事は…」


幾つかの部族が、死霊に襲われたと聞いていた。

しかし子爵自身は、それを目撃する事は無かった。

偶々狙われなかったのか?

それとも狙いは決まっていたのか?

ムルムルは主に帝都を狙っていた。


「死霊に関しては、まだまだ分からない事が多いですね」

「そうですな

 いっそ魔王とやらに聞ければ…」

「はははは

 そうですね」


二人はそう話しながら、遺骸を焼く炎を見詰めていた。

まだまだ続きます。

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