第425話
オアシスでは夜になり、簡単な食事が用意される
肉は途中で倒した、サンドリザードの肉を提供する
その肉を塩焼きにして、オアシスのみんなと食べる
久しぶりの肉に、オアシスのみんなが盛り上がる
オアシスの夜は、思ったよりも冷えている
焚火をしなければ、肌寒くて震えてしまうだろう
焚火に当たりながら、串に刺した肉を焼いて行く
その焼けた肉に、塩を振りかける
それをみんなに配って、騒ぎながら食べる。
「なあ
この塩は何処で採れたんだ?
周りは砂だらけなんだが…」
「え?
それは…」
「ははは
岩塩ですよ、岩塩」
「岩塩?
この辺で採れるのか?」
「え?
それは…まあ」
「ん?
まさか…」
「え?」
「例の塩の柱じゃあ…」
ギルバートは嫌な予感がして、塩の柱か確認をする。
元は人間とはいえ、あれも塩には違いが無い。
しかし人間だっと考えると、食欲には影響するだろう。
「はははは
さすがにそれは…」
「本当か?」
「ああ
さすがに塩の柱には、ワシ等でも手は出さんさ」
「子爵?」
「これはな、実はな…」
凌砂漠には、何ヶ所か湖が枯れた場所があった。
そこには何が元になったのか、塩の塊が残されていた。
この岩塩も、その湖の跡から採られていた。
「この塩はな、枯れた湖から採れたんだ」
「湖から?」
「ああ
湖が枯れた跡に、塩の塊が残されるんだ」
「へえ…
そんな事が」
「ああ
さすがに元は何なのか…
湖の跡で見付かるからな」
「なるほど…
そんな事が…」
塩の元が柱で無いと聞いて、ギルバートはホッとする。
さすがにそんな事は無いと思っていたが、気になっていたのだ。
「はははは
さすがに変な物は出さないさ」
「そりゃあそうですね」
「ああ
だけど…
塩が何から出来たかは考えるなよ」
「え?
だって湖が…」
「ああ
だが、普通は湖の水なら、塩は出来ない筈だ」
「ええ?」
「馬鹿
子爵に揶揄われてるんだよ」
すかさずアーネストが、横から突っ込みを入れる。
実際に湖の水でも、少しだけなら塩は出来るのだ。
ただし湖の水を、全て使っても対し多量にはならないだろう。
塩の塊として採れるには、何か訳はありそうだった。
しかしアーネストは、そこは触れない様にした。
世の中には、知らない方が良い事があるからだ。
「ふっふっふっふっ
そういう事にしておこう」
「子爵
ほどほどにしてください
こいつ、本気で信じますから」
「アーネスト」
それから夜が明けて、いよいよ出発の準備が進められる。
さすがに夜は寒いので、毛布などは片付けれなかった。
朝になってから、天幕や毛布も積み込まれる。
砂漠の民も、荷運び用の竜車を保有している。
それに荷物を詰め込んで、載せられないのはギルバート達の竜車に載せられた。
「これで荷物は全てだ」
「思ったより少ないですね」
「ああ
ここで暮らすのがやっとっだったんだ
そんなに荷物も無いさ」
魔石や貴重品は、各自で砂竜に載せられる。
しかし他の荷物は、オアシスに捨てて行く事になる。
砂漠を渡るには、最低限の荷物しか持てないのだ。
「木製の家具は…」
「向こうでまた作るさ」
「そうか…」
中には愛着があったのだろう。
別れを惜しむ様に一ヶ所に纏められる。
「さあ
旅立ちに盛大に燃やせ
我等の新たな旅立ちに」
「おう!」
不要になった家具を、残さず火で焼いて行く。
それは砂漠の民の、旅立ちの儀式なのだ。
元は遊牧民だった頃に、不用品を棄てるのが旅立ちの儀式だったらしい。
それを砂漠のスタイルに合わせて、焼いて送り出すのだ。
「さあ
思い残す事は無い
行くぞ!」
「おう!」
「豪快だな…」
「ああ
遊牧民だった頃は、土に還すという意味で埋めていた
砂漠では、燃やして天上の皇宮に送るんだ」
「へえ…」
「天上には初代の皇帝が住まう、天上の皇宮がある
帝国に伝わる宗教観だ」
「なるほど」
女神の教えでは、死んだ者は女神の元に還るとされている。
そこで輪廻の環に還り、順番に転生すると考えれている。
この辺は、国ごとの宗教観の違いだろう。
「では、行きましょうか」
「ああ
王都に向かって
出発!」
「出発!」
ギルバート達も、号令を掛けて出発する。
ここからカザンの街までは、3日から4日ほどの予定だ。
竜車は砂漠に滑り出すと、ゆっくりと進んだ。
それから4日を掛けて、竜車はカザンの街の側に到着する。
日はまだ高かったので、そのまま街の入り口に向かった。
「ここはカザンの…
これはアーネスト様」
門番の兵士は、竜車に気が付いて門を開ける。
「開門!」
「どうした?」
「帝国に向かわれていた、アーネスト様だ
侯爵に伝令を」
「分かった
開門!」
城門がゆっくり開き、番兵達が出迎える。
「行きの時より増えていますが?」
「ああ
訳あってな、移民も一緒に来ている」
「移民ですか?」
「ああ
彼等は王都に向かう事になる
馬車の手配をお願いしたい」
「あ、はい」
竜車の数は、行きの倍近くに増えていた。
それに加えて、砂漠の民を乗せた砂竜も同行している。
カザンを出発した時の、数倍の人数に膨れ上がっていた。
「しかしこの人数は…」
「宿は足らないか?」
「ええ
この街には隊商も来ますから」
さすがに全員は、収容する宿が足りなかった。
「ワシ等は場所さえ借りられれば、そこに天幕を張りますよ」
「しかし子爵…」
「子爵様ですか?
ううむ
それならば…」
番兵は相談して、何とか泊まれる場所が無いか探させる事にする。
さすがに子爵を、外の天幕で休ませれないからだ。
「砂漠の民だけで、500名ほどになる」
「さすがに全ては…
しかし子爵様は、どうか侯爵の館へ向かってください
他の者の泊まる場所は、侯爵と相談しますので」
「大丈夫なのか?」
「そうですね
恐らくは使っていない兵舎などを空けて…」
「そうか
悪いな」
アーネストはそう言うと、侯爵からの使いの兵を待つ。
伝令が向かった以上、勝手に動く事は出来ないのだ。
侯爵に失礼の無いように、迎えが来るまで待つ必要があるのだ。
暫くして、伝令に走った兵士が戻って来る。
「どうぞ
侯爵がお待ちです」
「分かった
案内を頼む」
「はい
どうぞこちらに」
兵士が用意した、街用の馬車が来る。
それにギルバートを始めとして、侯爵やセリアも乗り込んだ。
そして番兵が御者台に乗り込み、領主の館へと向かう。
馬車には領主の家紋が刻まれ、道行く住民達も道を譲ってくれる。
馬車はそのまま、領主の館の入り口に到着した。
「さあ
どうぞ」
番兵に促されて、アーネストを先頭に馬車を降りる。
セリアも状況を理解してか、大人しく従っていた。
そのまま客間に案内されて、すぐに湯浴みの用意が整えられる。
「どうぞ
先ずは旅の疲れを癒してください」
「すまない」
「お嬢様はこちらへ」
「うにゅっ
セリアもお兄ちゃんと一緒に…」
「セリア…」
「駄目だぞ」
「うにゅう…」
セリアは残念そうに、メイドに連れられて行った。
それからギルバートは子爵と一緒に湯屋に向かった。
アーネストは二人に気を利かせて、時間をずらすと言って部屋に残った。
そこでギルバートは、王国流の風呂を案内する事にした。
「ほう…
これが風呂という物か」
「ええ
先ずはこちらで、お湯を被ります」
「お湯を?
良いのか?」
「ええ
ここでは水も沢山ありますし、魔石でお湯に出来ます」
「ううむ…
こんな贅沢を…」
「はははは
王国では、週に何度か風呂に入ります」
「これを?
週に何度もか?」
「ええ」
子爵は驚き、お湯の入った湯船を見る。
「これだけでも贅沢だな」
「はははは
これは汚れを落とす為のお湯です
あそこに香油やブラシもありますよ」
ギルバートは実践して見せて、子爵に使い方を教える。
「こんな贅沢な物…」
「王族なら、毎日入ります
身だしなみも王族には重要ですから」
「それはそうだろうが…」
ギルバートは、それから浸かる為の湯船に案内する。
「え?
浸かるだけ?」
「ええ
熱いお湯なので気を付けて」
「お湯って…
ワシ等は水浴びしか…」
「ええ
これが気持ちが良いんですよ」
小さな部屋ぐらいの大きさの、大きな湯船が用意されている。
そこには魔石で、沸きだしたお湯が溜まる様になっている。
こんこんと湧くお湯に、子爵は目を丸くして驚く。
「凄い…」
「どうです?」
「はあ…
こいつは気持ち良い」
子爵はお湯に浸かって、気持ち良さそうな顔をする。
「髪や身体を洗って、こうしてお湯に浸かる
嘗て魔導王国では、当たり前の様に毎日使っていたそうですよ」
「魔導王国か
あれは別物だろう?
何でも魔力で出来たんだから」
「それもこれも、奴隷ありきですがね」
「奴隷か…
確かにそうだろうな
それが衰退した原因だし」
何でも奴隷にやらせて、働こうとしなかった。
その事で、後期の魔導王国の民は、識字率も急激に下がっていた。
そこに奴隷の反乱と、精霊力の急激な枯渇。
何とかしようとして、造った魔導器具は魔力をも枯渇させた。
そこまで間違った行いをしたのは、奴隷に頼っていた事もあるのだろう。
「まあ
奴隷なんか使わなくても、国民が勤勉なら使えるんです
王国ではそうして来ましたから」
「うむ
ワシ等もその一員になるのだな」
「ええ
期待していますよ」
ギルバートの言葉に、侯爵はニヤリと笑う。
「任せろ
こんな気持ちの良い物があるのなら、民も頑張る筈だ」
「はははは」
「わはははは」
二人はさっぱりすると、客人用のローブを借りる。
その間に、着ていた服は洗濯されるのだ。
「どうだった?」
「ああ
すっかり疲れも取れたさ」
「ああ
こんな気持ちの良い物があるとはな」
「はははは
それじゃあ、オレも堪能してくるよ」
アーネストはそう言って、湯屋に向かって行った。
ギルバートが子爵と談笑していると、客間のドアがノックされる。
コンコン!
「どうぞ」
「お風呂はどうでしたかな?」
「快適でしたよ」
「こ、これは王太子殿下」
ノーランド侯爵は、アーネストが居るものと思っていた。
しかしそこには、王太子のギルバートと、顔も知らない男が寛いでいた。
「ノーランド侯爵
そんなに畏まらなくても」
「で、殿下はご体調は?」
「ああ
おかげさまですっかり、良くなったよ」
「ははあ
それはそれは、良かったです」
「侯爵…」
ノーランド侯爵は、旅の目的がギルバートの病を癒す事と知っていた。
しかしまさか、こうして元気になった王太子と、話す事になるとは思っていなかったのだ。
「して?
アーネスト殿は?」
「ああ
私達に先に入らせて、今頃ゆっくりしているよ」
「さようでございますか
して、そちらの御仁は?」
「ああ
彼はハルムート子爵です」
「はて?
そんな名の子爵は居りましたかな?」
「ハルムートと申します
帝国貴族でしたが、この度王太子殿下のご厚意で、移住する事になりました」
「て、帝国の!
ですが子爵となりますと…」
侯爵は帝国の貴族と聞いて、顔を白黒させる。
まさか帝国の貴族が、ここまで来るとは思っていなかったのだ。
「まさか…
砂漠の獅子の…」
「はははは
それは父の渾名ですな
ワシはその息子です」
「はあ…
あの獅子の息子…」
「何だ?
そのししって?」
ギルバートは聞き慣れない単語に、侯爵に質問した。
「殿下
帝国の貴族が、何度か王国と戦ったのはご存知で?」
「ああ
何度か激戦があったと聞いている」
「その内の一つが、このカザンを襲った砂竜の群れです」
「ああ
そう言えば父が話していたな
王国の街の一つを襲撃したって」
「砂竜でか?」
「ええ
あれは大規模な戦いになり、当時の領主は亡くなりました
それで私がここの領主に…」
「へえ…」
侯爵は複雑な顔をして、子爵を見る。
彼の父には損害を受けたが、それで公爵は領主になれた。
そう思えば、怒るべきか、感謝すべきか複雑な心境なのだ。
「その戦いで、彼は魔導王国の幻の獣、獅子の名を授かったと」
「そうだな
獅子とは恐ろしく獰猛な獣だったらしい
その名を授かったと、父は話してくれたな」
「へえ…
獅子か…」
ギルバートは、獅子がどういう物か知らなかった。
しかし獰猛な獣と聞いて、その名を格好良いなと思った。
「まさか…
因縁のある砂漠の獅子の息子が来るとは…」
侯爵は汗を拭きながら、ギルバートと子爵を交互に見る。
「そのう…
移住というのは?」
「ああ
王都は今、民の数が少なくなっている
そこで移民を受ける事にしたんだ」
「帝国ですぞ?」
「ああ
しかし、今の状況を考えれば、帝国とか王国とか言ってられないだろ?」
「魔物…ですか?」
「ああ」
侯爵も、アーネストからは魔物に対抗する為に、帝国と手を結ぶべきだと聞いていた。
公爵自身も、帝国と協力するのは歓迎だった。
そうすれば、今までこっそり交易していたのが、堂々と出来るからだ。
しかしまさか、帝国の民が移住して来るとは思っていなかった。
「大丈夫…なんですか?」
「ああ
その辺は問題無い
今はいがみ合うより、力を合わせるべきなんだ」
「はあ…
殿下がそう仰いますなら…」
侯爵としても、反対する様な理由も無かった。
だから驚きこそすれども、移民には理解は出来た。
「それでな、移民の事なんだけど…」
「まさか泊る所と言うのは…」
「ああ
その移民達の事だ」
「人数は?」
「どのくらいなんだ?」
「ざっと512名だな」
「ご、500??」
侯爵は具体的な人数は聞いていなかったらしく、慌てて部屋から出て行った。
「え?」
「あ…
ちゃんと伝わっていなかったか」
「おい
それって!」
「ああ
申し訳ない事をしたな」
侯爵はその後、大慌てで宿泊施設を手配する事になる。
兵士は叱られる事を恐れて、報告で正確な人数を言わなかったのだ。
無事に宿舎が用意されたのは、夕方を過ぎてからとなった。
侯爵はそのせいで、頭の毛が抜けそうだと嘆いていたという話だった。
まだまだ続きます。
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