第424話
ギルバート達は、無事にオアシスに辿り着く
そこでは子爵が現れ、歓迎される事になる
ギルバートとアーネストは、子爵の天幕に招かれる
そこで帝都で起こって事を、子爵に話す為だ
子爵に案内されて、二人は天幕の中に入る
そこには既に、連絡を受けて用意していたのだろう
話し合う為に絨毯が敷かれて、子爵の側近も待っていた
二人は絨毯に腰を下ろすと、さっそく話し始めた
「先ずは王太子殿下
ご快復おめでとうございます」
子爵は開口一番、先ずはギルバートの事に触れる。
この旅の本当の目的が、ギルバートの病を癒す事だったのだ。
事情を聞かされていた子爵は、先ずはその事に触れる。
「ありがとうございます
これも子爵の手助けがあったからこそ」
「いえ
ワシは道を教えただけです」
「それでもです
お陰で助かりました」
「はははは
カラガンにはワシも腹に据えかねておりました
一泡吹かせたとなれば、はははは」
子爵は上機嫌で答え、それから眉を顰める。
「それにしても
カラガンの奴、ここ数週間大人しいです
何を企んでいるのやら…」
「そのカラガン伯爵ですが…」
「え?」
「アルマート公爵と共に討伐しました」
「はあ?」
アーネストは、アルマート公爵と出会った事を説明する。
その頃はギルバートは、病で意識を失っていた。
だから話には加われないでいた。
「死の街を抜けて…
公道に出た所で伯爵は待ち構えていました」
「何と!
カラガンの奴め、蛇蝎の如くしつこいですな」
「ええ
しかしアルマート公爵が迎えに来られていまして」
「はははは
それはカラガンも慌てたでしょうな」
「ええ」
子爵は上機嫌だったが、アーネストは苦笑いだった。
まさか安全な公道に復帰した所で、伯爵が待ち構えて居るとはおもわなかったのだ。
「それで?
カラガンの奴は?」
「ええ
一旦は引きましたが…
他の貴族の私兵も集めて」
「ううむ
奴は帝位を狙っておりましたからな
大方他の貴族を唆し、公爵を亡き者にしようと考えたか」
「でしょうね
念入りに、砂丘に布陣してましたし
こちらを挑発していました」
カラガンの策は、砂丘に誘き寄せて、魔獣に襲わせようという物だった。
しかし見え見えの砂丘に布陣していては、誰が向かって行くだろう?
「砂丘ですか…
しかしそれでは?」
「ええ
魔法を撃ち込んでやりました」
「魔法?」
「ええ
砂丘にね」
「ああ!
それは…くっ…
ぷはははは」
その状況を想像して、子爵は笑い出す。
罠のつもりで砂丘に陣取り、そこに魔法が撃ち込まれる。
そうなれば魔獣が、砂丘に居る伯爵達を襲う事になるだろう。
「それは…ぷくっ
堪らんでしょうな、はははは」
「ええ
敵陣が崩れた所で、後は勝負は簡単でした」
「でしょうな
あ奴は奸計は得意ですが、実戦は…」
伯爵は悪巧みは得意だが、戦いに関しては素人同然だった。
それが結果として、短期で勝負が決まる事となった。
「伯爵は魔獣から逃げ出し、公爵の軍に呆気無く…」
「はあ…
思えば哀れな奴ですな
策ばかりに頼り、最期は自滅ですか」
「ええ」
「しかし同情はしませんぞ
奴めは陛下の仇!」
子爵はそう言うと、拳を握り締める。
「子爵も皇帝の事は…」
「ええ
カザンの隊商が話していました
カラガンの元で、皇帝を倒したと自慢話を聞かされたと」
「はあ…
自ら自白してたんですか」
「ええ
ですから隊商も、あちこちで話していたでしょうな」
「それで公爵も…」
「でしょうな
隊商は帝都にも出入りしてましたから」
伯爵は余程の自信家か馬鹿だったのだろう。
自ら犯した罪を、隊商に自慢話として語っていたのだから。
それでは犯罪もバレて、周りに目を着けられていても当然だ。
彼に従った貴族達も同罪だろう。
「それで?
カラガンを討伐して、無事に帝都に?」
「ええ
そして…
無事とは言えませんが、皇女にも会えました」
「良かった…
ん?
無事とは言えないって?」
子爵は、言葉を濁すアーネストに疑問を感じた。
「ええっと…」
「何があったんです?」
子爵は真面目な顔をして質問する。
子爵にとっては、皇女は皇帝も同然なお方なのだ。
その皇女に、一体何が起こったのか?
「実は…
そのう…」
「ああ」
「皇女は婚姻を求められると勘違いして…」
「はあ?」
「ちょ!
お前!」
「オレのせいじゃ無いぞ
公爵が勘違いしたんだから」
アーネストは必死に言い訳をする。
勿論アーネストが原因では無いのだが、原因にされているのだ。
必死に弁解をする。
「私はそんなつもりは無いんだぞ」
「当たり前だ
お前はフィオーナと生まれて来る子供が居るだろ!」
「怒るなよ
オレは…
オレも聞かされて驚いたんだから」
「ははあん…
皇女も若いしお年頃
それに若い男二人が、皇女に会いたいと」
「そう、それです
それですっかり勘違いしてて…」
「だからってお前…」
ギルバートは呆れていたが、アーネストは必死になる。
「お前もだぞ
セリアが居るって説得したけど…」
「はあ?
何で私が?」
「馬鹿
お前も年齢的にはちょうど良いんだよ
それに王太子だし」
「私を巻き込むな!」
「はははは
それで皇女に勘違いされて…」
「ええ
大変でした」
アーネストは子爵が理解してくれて、ホッと胸を撫で下ろす。
「それはまた…くくくく」
「笑い事じゃありませんよ
それで顔も見てくれない状況で…」
「ああ
それで真っ赤になって逃げだしていたのか」
「ああ
まあ…
そんなところだ」
最後のは、別な勘違いで逃げ出したのだが、アーネストは適当に誤魔化す。
一々説明するのが面倒臭くなったのだ。
「はあ…
それで皇女は?」
「公爵が説明したと言っていましたが…」
「女騎士の元で修行ばっかりしてたって話だしなあ
さぞかし…」
「ええ
どこまで信じているのやら」
子爵も事情は知っているので、何となく理解していた。
男慣れしていない皇女が、いきなりの婚約話だ。
帝都ではさぞ揉めた事だろう。
「おい
本当に大丈夫なのか?」
「さあ?
公爵は説得したって
だけどどこまで納得しているかは…」
「おいおい
それじゃあまた後で…」
「ああ
再燃するかもな」
「ああ…」
アーネストとギルバートは、違う思いで頭を抱える。
アーネストはフィオーナにどう説明するか悩む。
そしてギルバートは、皇女が言い寄って来ないか戦々恐々としていた。
「ぷっ
くはははは
若い事は良い事じゃのう」
「笑い事じゃあ無いですよ」
「そうですよ
子爵は当事者で無いですから」
「そりゃそうだ
ワシが巻き込まれるなら、早々に退散するさ」
「そんな無責任な…」
「はあ…
どうすりゃ良いんだ?」
二人が頭を抱える様子を、子爵は笑いながら暫く眺める。
それから一頻り笑うと、急に真面目な顔をする。
「そんなに嫌なら、暫く逃げ回れば良いさ」
「逃げ回るって…」
「どこへですか?」
「さあな?
公務なりなんなり、理由を付けて逃げれば良いだろ?」
「そうか!」
「なるほど…」
さすが大人だと感心して、二人は子爵の言葉に納得する。
しかし二人は、年頃の乙女心を知らなかった。
下手に逃げ出せば、余計に拗れるとは思っていなかったのだ。
「よし」
「ああ
上手く口実を設けて、逃げ切ろう」
「はははは
その意気だ」
二人が納得したところで、子爵は話題を変える事にする。
「それで?
公爵は移住に関しては?」
「ああ
そうだった」
「おいおい
それこそワシは、当事者なんだぞ」
アーネストは、公爵から預かった書類を取り出す。
「こちらに」
「うむ
ふむふむ…」
子爵は書類を受け取ると、その詳細を確認する。
「おい
大丈夫なのか?」
「ああ
バルトフェルド様には確認してある」
アーネストは、帝都に居る間にも使い魔を送っていた。
それで王都からも、移住の件は任せると承諾を得ていた。
「何!」
「え?」
「ここには帝都を棄てると…」
「ああ
その件ですか」
アーネストは公爵との、移住の話を説明する。
その為には、帝都の現状も重要だった。
「帝都はここよりもましですが…
もって後2年です」
「もって…」
「ええ
精霊が去り、年々精霊力が枯渇して行っています」
「ううむ…」
アーネストは妖精郷で、精霊に聞いた話をする。
「…といった具合で」
「ううむ
元は魔導王国からなのか」
「ええ
ですが事態は悪くなる一方で」
「魔力災害だけでは無かったのか…」
「はい」
「帝国が作られてからも、土地の荒れ様は問題視されておった」
「ええ
しかし肝心の精霊力が無くては…」
「そうじゃなあ
致し方無いのか」
帝国が作られた経緯も、土地が荒れ始めたからだ。
当時の遊牧民達が、生活が立ち行かなくなったのだ。
それで魔導王国を攻め落とし、豊かな土地を得ようとした。
しかし、魔導王国自体が、既に荒れ始めていたのだ。
「ワシ等の先祖が、豊かな土地を求めてここに来た
しかしこの土地も、既に滅びに向かっていた訳か」
「はい
それが大元の原因です」
「魔導王国か…
しかしそんな罪を、人間は犯していたのだな」
「ええ
女神様がお怒りになる訳です」
「ワシ等は…
六大神を掲げた
それは女神が、この世界を救ってくれないからだと思っていた」
「実際は、女神様は警告されていたんです
それも随分前から」
「ワシ等に報せてくれたのなら…」
「そうですね…」
アーネストは、エルリックの言葉を思い出していた。
女神様は、ここ数百年は眠りがちだったと。
女神様が起きていたなら、帝国にも警告はあったかも知れない。
しかし実際は、警告も無しにいきなり断罪である。
これでは帝国としては、あまりな事であった。
「女神様の使徒の話では、女神様はずっと眠られていると」
「眠っておられると?」
「ええ
それが何が原因なのか?
使徒でも詳しく分からないそうです」
「それでは今も?」
子爵は、女神は今も眠っていると思った。
しかし、その割には魔獣が増え、王国は襲撃されている。
「使徒の一部は…
魔王は女神様の指示と言っていました」
「それでは女神は?」
「しかし…
本当に女神様は、起きて人間を滅ぼせと言っているのでしょうか?」
「ううむ
ワシには分からん」
女神は起きているのか?
本当に魔王達に、人間を滅ぼせと命令しているのか?
それは誰にも分からなかった。
当の魔王でさえ、それを納得出来ずに悩んでいたのだ。
「魔王が分からないと言っていました」
「命令された本人がか?」
「ええ
あれは女神様に見えたが…
果たして本当に女神様なのだろうかって…」
「ううむ
何が起きているのか?
ワシ等人間には理解出来んのか?」
「そうですね
少なくとも、当の女神様に聞かない限りは…」
「聞けないのか?」
「え?」
「はあ?」
唐突に、ギルバートは質問する。
「なあ
その女神様って奴に、会えないのかなあ?」
「はあ?
奴って…
仮にも女神様だぞ」
「そうじゃなあ
少なくとも、ワシ等人間が会えるとは…」
「そうなのかなあ?
エルリックなら、何か知ってそうだが?」
エルリックの名前が出た事で、子爵は首を傾げる。
「そのエルリックってのは?」
「ああ
女神様の使徒です
フェイト・スピナーって言う…」
「フェイト・スピナー?
魔導王国を導いたって言う?」
「え?
それは違うかと」
「そうだな
奴が生まれたのって、確か魔導王国が滅びる頃だから…」
「そんなに何人も居るのか?」
「ええ
どうやらそうみたいです」
「ううむ
そうか…」
子爵は唸りながら、何事か思案する。
「どうでも良いけど
肝心の奴が現れないとな」
「連絡は着かないのか?」
「ええ
いつも突然、ふらりと現れますから」
「そうか…」
「奴が現れるまでは、待つしか無いか」
「そうだな
それまでは…」
「王都の復旧だな」
「そうじゃな
ワシ等も協力させてもらう」
子爵はやる気を見せて、力瘤を作る。
「子爵
建物は復旧しつつあります
今はそれよりも、誰かが住んで街に活気を戻さねば」
「ん?」
「そうですね
先ずは王都で暮らす事を考えませんと」
「そうか」
子爵は力瘤を見詰め、困った顔をする。
「はははは
当面は生活基盤と、魔物に備える事ですね」
「討伐なら任せろ!」
「いや
こっちと魔物が違います
先ずはそこからですから」
「そうか?
ううむ」
「はははは」
「くくくく」
「わはははは」
それから移住の計画を、具体的に練り始める。
カザンまでは、砂竜で移動する事になる。
しかしそこからは、馬に慣れる必要がある。
馬と砂竜では、動き方がまるで違うからだ。
カザンで馬や馬車を用意して、王都に向かう事になるだろう。
その為にも、持てる荷物は全て運ぶ必要があるだろう。
カザンで不要な荷物を換金して、王都での生活に必要な物にする必要がある。
砂漠と王国では、気候も暮らし方も違うからだ。
「向こうは雪が降ったり、寒くなります」
「雪?
白い物が降るってあれか?」
「ええ
そして冬が来ると、毎日が寒くなります」
「寒くって?」
「そうですね…
ここの夜よりは寒いかと」
「ええ!」
「これは…
暫く大変だな」
王国に戻る頃には、8の月に入っているだろう。
それから暫くは、過ごし易い季節になる。
しかし、また冬がやって来るのだ。
それまでに移住者は、冬の支度もしなければならない。
ギルバート達は、子爵に冬の暮らしを説明しながら、夕食を共にするのだった。
まだまだ続きます。
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