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聖王伝  作者: 竜人
第十三章 帝国の罠
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第409話

アーネスト達は、旅立つ支度をしていた

このオアシスから、東の死の街へ向かう為だ

そこには危険な流砂が待ち構えているが、それを乗り越えなければならない

そうしなければ、帝都の跡地に向えないからだ

アーネストはオアシスの住民達に、移民を受け入れれる事を伝えた

既に子爵に話してあるので、それは余計な事になるだろう

しかし兵士達が、住民達を心配して誘ってしまったのだ

話しの流れから、受け入れが出来ると言うしか無かったのだ


「さあ

 出発の支度を急ぐぞ」

「え?」

「結果は聞かないんですか?」


兵士達は驚いた顔をする。

しかしアーネストは、既に子爵に話を持ち掛けているのだ。


「子爵には移民の話はしてある」

「あ…」

「もしかしてオレ達、余計な事を…」

「そうだな

 しかし彼等も乗り気な様だ

 後は子爵が決めるだろう」

「そりゃあそうですが…」

「どうなるんだろう?」


兵士達は不安そうな顔をする。

そこでアーネストは、手を叩いて兵士達の意識を向けさせる。


パンパン!

「さあ

 悩んだって仕方が無いだろ

 後は彼等が決める事だ」

「ですが…」

「オレ達って余計な事を…」

「良いから

 移民の話も、オレ達が交渉を成功させてからの事だ

 今は帝都に向かう事が重要だぞ」

「あ!」

「そうか…

 国交が回復しないと…」

「そういう事だ

 責任重大だぞ」

『はい』


兵士達は新たな目的が出来て、より真剣に支度を始める。

自分達が成功させないと、彼等の移住の話も無くなるのだ。

住民達が運んでくれた水を、大事そうに竜車に積み込む。

砂漠の水は、命を支える貴重な物なのだ。

この水を分けてくれた彼等の為にも、交渉に失敗は許されないだろう。


「絶対に成功させるぞ」

「ああ

 そうだな」

「これだけ協力してくれた彼等に報いる為にもな」

「ああ」


兵士がやる気を出していたので、出発の準備は滞りなく行われた。

日差しが強くなる前に、すっかり準備が整う。


「さあ

 出発しましょう」

「ああ

 東に向かうぞ」


死の街は、ハルムート子爵の治めるこのオアシスから、ほぼ南東に向かった場所になる。


「行かれるのか?」

「ええ

 お世話になりました」


朝食を済ませて、オアシスの北にある岩山の切れ目に向かう。

そこにはオアシスの出入りを見張る、子爵の私兵が見張りに立っていた。

彼はここで門番をしていて、アーネストの出発を見送ってくれる。


「ここから先ず東に向え

 あっちの方角だ

 そこにサボテンの群生する場所がある筈だ」

「サボテン?

 砂漠に生えてるあの木か?」

「木では無いんだが…

 まあ、似た様な物か」


サボテン自体は、砂漠に入ってから見た事はある。

しかしこれまでのサボテンは、水気が少ないのか小さな物ばかりだった。


「目印になるのか?」

「ああ

 あの辺りは地下水が残されているらしい

 サボテンも人の身長ぐらいの物ばかりだ」

「そうか

 それは助かる」

「うむ

 そこからは南南東に向え

 恐らく半日で群生地に着くから、ソルスの太陽から少し右に向えば良い」

「南南東だな」

「ああ

 そこに塩の柱が見えて来る筈だ」

「塩の柱?」


門番の兵士は頷く。


「その昔、ソルトレイクがまだ出来ていない頃の話だ

 女神様に逆らった愚か者共が、そこで禁忌の魔法を試したそうだ

 結果はみな、その塩の柱にされたそうだ」

「禁忌の魔法?

 ソルトレイクって死の街の事か?」

「ああ

 川と塩が取れる塩湖があったそうだ

 それで街が築かれて、ソルトレイクと名付けられたそうだ」

「塩の湖に塩の柱

 何だか不気味だな」

「そうか?

 塩の柱は兎も角、塩湖は関係無いぞ

 あれは砂漠が出来上がる前から、塩湖として存在していたらしいからな」


むしろ禁忌の魔法を使った者が、塩の柱にされたという事の方が皮肉だろう。

女神が何を思ってそうしたのか、それは誰にも分からなかった。

しかし塩の柱が、旅人の目印として有効に使われている。

その事はソルトレイクに向かうには有益な情報だった。


「ただし、明るくなるまでは街には入るなよ」

 街もあちこちが砂に埋もれている

 迂闊に踏み込むと流砂に巻き込まれるぞ」

「え?

 流砂って川以外にも?」

「ああ

 街の高低差で流砂になる場所がある

 それを知らないと、巻き込まれるだろう」


門番の言葉に、兵士達は震えていた。


「大丈夫だ

 場所さえ分れば危険は無い

 街の中は、未だに砂岩の建物の跡が残っているからな」

「その建物の跡なら?」

「ああ

 野営するにも問題は無い

 むしろ建物の跡が無い所は、流砂や魔獣が潜んで居る

 決して近付くなよ」

「ありがとう

 助かるよ」

「なあに

 子爵様がお認めになられたんだ

 あんた等の旅に導きの在らん事を」

「あなた達の生活に、恵みの在らん事を」


砂漠の民特有の、旅の別れの挨拶をして、一行は砂漠地帯に向かう。

そこから門番の示した、東に向かう事にする。


「ここから半日ほどで、サボテンの群生地に着く筈だ」

「分かりました

 多少はズレると思いますので、各自で確認しながら進みます」

「ああ

 頼んだぞ」


東と言っても、何も目印の無い砂だらけの砂漠だ。

太陽はある程度の目印になるが、正確な方角は確認出来ない。

それに魔物が潜んで居る砂丘もそこかしこに点在している。

それを避けながら、正確に東に進むのは難しいだろう。


太陽を背中に受けながら、影の差す方へ進んで行く。

ソルスが西から昇り、東に沈むからだ。

太陽を背にして、影に向かって進めばほぼ東に向かう事になる。

公道も目印も無い砂漠では、ソルスの光と影しか目印は無いのだ。


「暑い…」

「言うな

 余計に暑くなる」


外はソルスの強い日差しに、すっかり暑くなっている。

そして日差しを遮る物や、涼しい木陰や水辺も無かった。

竜車の中とは言え、外の日差しですっかり暑くなっていた。


ギルバートの竜車は、セリアが何とか精霊の加護を発動していた。

しかし僅かながら涼しいだけで、ギルバートは確実に体力を削られていた。

水に浸した布を、苦しむギルバートの額に乗せる。

しかしそれさえも、数分で乾いてしまっていた。


「苦しいな…

 まだサボテンの群生は見えないか?」

「ええ

 見回しながら進んでいますが…

 それらしい物は…」


御者も懸命に、サボテンの群生を探していた。

それを見落とす事は、この広大な砂漠で迷子になってしまう。

そうなれば、流砂に巻き込まれたり、何も目印も無いまま帝都を見失う事になる。

アーネストは焦り、南東に進路を変えようかと考えていた。

その時、御者が歓声を上げる。


「見えました

 あれです!」

「見えて来たか」

「はい

 しかしも暫く掛かりますよ」


遠くに熱で見える幻の様に、微かに何かが見える。

しかしここで速度を上げれば、砂竜がばてて却って危険になる。

御者は無理に速度を上げず、慎重に進んだ。


それから半刻ほど、まだサボテンの群生には着いていない。

遠くに見える影は、まるで嘲笑う様に一向に近付かなかった。

それは砂漠の熱が見せる、蜃気楼の幻だったのだ。


「まだ着かないのか?」

「ええ

 あれは遠くの景色が近くに見えるだけです」

「え?」

「砂漠の幻と言いましてね

 砂漠では熱のせいか、遠くの物が近くに見える事があるんです」

「じゃあ…

 あれは?」

「ええ

 まだまだ当分先ですよ」

「そんな…」

「はははは

 まだソルスは頂点に達したところです

 昼過ぎと言われたんでしょう?」


太陽は今、丁度真上に達したところだった。

ここから先は、今度は太陽を目指して進む事になる。


「もう2刻、3刻ほどで本物が見えて来る筈です」

「そんなに掛かるのか?」

「ええ

 砂漠の幻とはそんな物です」


御者は頷くと、視線を先に向ける。

熱砂の上に、陽炎のサボテンが揺らめく。

あれがハッキリと見えだしたら、本物も近いだろう。

御者は砂竜が焦らない様に、慎重に手綱を操る。


それから2時間ほどで、揺らめくサボテンの影が消える。

そしてその向こうに、微かに何かが見えてきた。


「見えてきましたよ」

「おお!

 本当に2刻は掛かったな」

「ええ

 私も砂漠にはよく出向きますんで

 砂漠の幻は聞いた事があったんですが…

 やはり遠くの景色が見えるんですねえ」


御者はしみじと頷く。

1刻は帝国で使われる日時計の刻みで、約1時間である。

季節によって多少のズレはあるものの、ほぼ正確な時間を示す。


「それで?

 後どのくらいで着くんだ?」

「そうですね

 この距離なら…

 おっと、砂丘があります

 迂回するから半刻ぐらいですかね」

「砂丘か…」


砂丘には魔物が潜んで居る可能性が高い。

迂闊に近付けば魔物に襲われるだろう。

御者は器用に砂竜を操ると、砂丘を避けてサボテンに近付く。


それは最初は2、3本のサボテンが集まる光景だった。

しかし暫く進むと、数本のサボテンが集まる景色に変わる。

サボテンはほとんどが緑色をしているが、中には茶色く変色して倒れている物もあった。


「本当は綺麗な景色な筈なんですがね…

 この辺も雨が降らないんでしょう」


水気が足りなくなって、茶色く変色して枯るのだろう。

地下水が流れている筈なのだが、雨量が少なくて枯れている様だ。


「セリア?」

「うん

 ここも精霊の力が弱っているね

 水の精霊も居ないみたい」

「そうか…」


魔導王国の魔導士達が、あちこちで精霊力を得ようと実験を繰り返した。

結果として、こうして精霊力が枯渇してしまっている。

最悪の場合は、魔力が暴発して周囲を負の魔力で吞み込んでしまう。

それが魔力災害として、生き物が住めない死の大地を作り出す。

ここはまだ、地下水が流れているだけマシなのだろう。


「どうしますか?

 このまま進むには…」

「そうだな

 少し予想より遅れている

 今日は無理しないでここで休もう」

「はい」


サボテンの群生地は、他の場所よりも少しだけ涼しい。

夜間になれば寒くなるだろうが、他の砂地よりはマシだろう。

兵士に枯れたサボテンを集めさせて、それを薪の代わりにする。

そして緑のサボテンを切って、新鮮な水を集める。


「多少青臭いけど、味は良いですね」

「ああ

 砂漠の民は、迷った時はこうして水を得るそうだ

 水の節約にもなる」


御者はサボテンを切ると、それを焚火の火で炙った。


「こうして焼きますと食べれます

 食料が不足した時にも役立ちます」

「うえ…

 これは何とも言えない味だな」


苦みが強くて強烈な味だが、食糧が無い時では贅沢は言えない。

非常食という意味では貴重なのだろう。


「そのままでは食べないでください

 中には食中りする種類もあります」

「種類があるのか?」

「ええ

 見た目は似ていますが、食用とそうじゃないのがあります

 本当の食用は、甘くて美味しいんですが…」


御者は周りを見回すが、それらしいサボテンは生えていない様だ。


「この辺のは食べれそうですが…

 この棘が多いのは止めてください

 腹を下します」

「分かった

 試すのは止めておこう」


食料を浮かす為に、美味いのなら食べようとも思った。

しかし危険を冒してまで、食べる必要も無い。

兵士の何人かが、試しに大丈夫そうなサボテンを食べてみる。

しかし苦そうな顔をして、大人しく黒パンを齧っていた。


「はははは

 そう簡単に美味いのはありませんよ

 そんな事になれば食べられてしまいますからね」

「なるほど

 マズいのは自衛の為か」

「そうですね

 そうかも知れません」


自然の力というのは、時として人間の知識を越えて来る。

このサボテン達も、人間や魔物に食われない為に、敢えて苦くなっているのかも知れないのだ。

そんな事を考えながら、アーネストは地図を調べる。

子爵の話では、ここから半日ほど進んだ場所に、塩になった魔術師達の柱が立っている筈だ。

そこから死の街が一望出来る筈だ。


あと少しで死の街に着く

そこを越えれば、後は帝都までは何も無い筈だ


アーネストは地図を調べながら、ふと砂丘を振り返る。

砂が流れる音がして、サンドワームが移動を開始する。

兵士達は緊張して、騒ぐ事を止めて見詰めていた。


「う…」

「声を上げるな

 静かにしていれば気付かれない」


アーネストは囁く様に、兵士に注意をする。


暫くすると、サンドワームが3匹去って行く。


「ふう…」

「奴等は目が見えないからな

 音を出したり騒がなければ気付かれない」

「そうなんですか?」

「ああ

 だからお前達がバカ騒ぎをしていると…」

「うう…ブルブル」

「勘弁してください」


しかし実際のところ、あのワームが動き出したのは兵士のせいだろう。

その直前まで、サボテンの事で盛り上がっていたからだ。

その騒ぎ声で、ワームが周囲を探った可能性は高かった。

結果として、静かしていたからワームは去って行ったが、あれで騒いでいたら襲われていただろう。


「明日も早いんだから、ほどほどにしとけよ」

「は~い」

「もう騒ぎません」


兵士達はそう言いながら、その後も騒いでいた。

そうしてワームが現れると、静かにするのであった。

こうして初めて、砂漠での野営が行われた。


「うう…

 寒い」

「焚火の火を切らすなよ

 凍えてしまうぞ」

「サボテンをもっと持って来い」


兵士は寒さに耐えきれず、夜を徹して枯れたサボテンを探す。

少しでも火勢が弱まれば、周囲が寒くなるからだ。

砂漠の昼は遮る物も無く、炎天下で暑さに苦しめられる。

しかし逆に、夜は極寒の寒さに震える事になるのだ。


寒さに震えながら、天幕の中でも毛布が必要だった。

こうして砂漠での夜は更けるのであった。

まだまだ続きます。

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