表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十三章 帝国の罠
404/800

第404話

アーネストは侯爵の館で、国交の使者としての話をしていた

侯爵としては、この時期にアーネストが向かう事には反対だった

アーネストが有能な魔術師であるからこそ、残って王都の防衛を任せたかった

しかしギルバートを連れて来て、アーネストは説得に試みる

侯爵を真面目な人物と評価して、腹を割って話す事にしたのだ

アーネストの試みは当たり、侯爵はギルバートの現状を理解した

そしてセリアが同行するという条件で、国交の交渉を認めるのだった

侯爵の許可が出た事で、兵士達は出発の支度を始める。

砂漠には馬が適さないので、竜車が侯爵の手で用意される

ギルバート達は、これに乗って砂漠を越える事になるのだ


翌日の朝早く、ギルバートはカザンの街の城門前広場に立っていた。

目の前には、8人まで乗れる頑丈な竜車が7台並んでいる。

馬車より一回り大きく、中は風通しが良い造りになっている。

これは暑さ対策でもあるが、熱風に煽られない為にも必要なのだ。

砂漠には温度差で、時折強烈な横風が吹き抜ける。

それに煽られれば、頑丈な竜車でも簡単にひっくり返るからだ。


「やけに頑丈な造りなんだな」

「ええ

 砂漠での暑さ対策にもなるので、昼間はこの中で過ごす事になります」

「暑く無いのか?」

「ええ

 内装は特殊な構造になっているので、外の熱気を抑えてくれます」

「それと砂漠の熱風も抑えてくれます」

「熱風?」


兵士は街で、事前に情報を集めていた。

アーネストが交渉中は、兵士もする事が無かったのだ。

その中で砂漠の過ごし方を、隊商や住民達から聞き込んでいたのだ。


「砂漠では昼間の内に、猛烈な暑さに見舞われます

 恐らくは大気の精霊が居ないからでしょう」

「それで?」

「暑くなりますと、涼しい方から風が吹きます」

「これは気温の差が大きいほど強くなるみたいで、時には嵐になるそうです」

「嵐?

 そんなに酷いのか…

 でもそれじゃあ…」


「大丈夫です

 砂竜は元々、そんな場所で移動する為に作られた生き物です」

「少々の熱砂の嵐の中でも平気だそうです」

「作られた…

 そう言えば、そういう話だったな」


砂竜は馬より一回り小さいが、がっしりとした大きな後ろ足を持つ。

普段は二足歩行だが、嵐の中では前足も使って踏ん張れる様になっている。

顔は小さな牙を持ったトカゲで、種類によっては角も生えるらしい。

カザンに居る砂竜は、もっぱら大きくなった砂トカゲといった感じだ。

大きな瞳が可愛い、大人しい砂竜ばかりだ。


「こいつが砂漠を?」

「ええ

 この表皮が分厚くて、砂漠の熱を遮断します」


兵士がツルツルした鱗を撫でると、砂竜は嬉しそうに兵士に顔を擦り付ける。


「お?

 はははは」

「可愛いな

 王都でも飼えるのか?」

「それは無理でしょう

 元は砂トカゲですから、寒い場所は苦手です」

「冬は冬眠しますが…

 あまり寒いと死んでしまいます」

「そうか…」


ギルバートは残念そうにする。

王都で飼えるのなら、騎乗用に良いかもと思ったのだ。


「そんなに気に入ったんでしたら、岩トカゲとかどうです?」

「いや

 あれはこんなに可愛く無いだろ」

「あー…

 そうですね」


兵士達もその意見には賛成だった。

岩トカゲは砂竜に似ているが、もう少し姿勢が低くてずんぐりとしている。

そして顔は浮腫んだ様にゴツゴツとして、いつも眠そうな目をしている。

なによりも、鱗は岩を貼り付けた様にデコボコしていて、触り心地は悪そうだった。

これは育っている環境の問題だろう。


「砂竜は砂漠トカゲを元にしていますからね

 砂に隠れるのはツルツルした鱗の方が良いですからね」

「逆に岩トカゲは岩山に住んでいますからね

 隠れるならゴツゴツした鱗の方が良いんでしょうね」


これがもう少し可愛い顔をしていれば、岩トカゲも可愛がられていただろう。

しかしゴツゴツして大きな見た目は、とても可愛いとは思えなかった。


「まあ、岩トカゲも滅多に見かけません

 むしろ魔獣扱いのロックリザードの方が多いですからね」

「そうだな

 しかしロックリザードも、人間を襲わないのなら良いんだけどね」


王国の中でも、竜の背骨山脈ではロックリザードが主に見られる。

岩トカゲはそこまで大きく無いのだが、ロックリザードは馬より大きい。

そして四足で動きが緩慢な割には、獰猛な肉食だ。

人間や魔物などの区別なく、食えそうな獲物には食らいついて来る。

だから危険なので、魔獣として扱われている。

アーネストの魔物辞典には、どちらも魔獣としては登録されていない。

恐らくは殺しても、魔石を持っていないからだろう。


「ロックリザードが魔獣じゃないのは、魔石を有していないからだ

 魔石を持つ様になると、もう少し大きくなって危険になる」

「アーネスト」

「アーネスト様

 おはようございます」


ギルバート達の話が聞こえたのか、ロックリザードの説明を始めた。


「そもそもロックリザードは、魔獣のコモドドラゴンを飼育用にした物だ

 狂暴な肉食でも、口に拘束具をすれば安心だからね」

「え?

 あれを飼育だって?」

「ああ

 食用にもなるし、何よりも荷役に向いている」

「荷役ねえ

 動きが遅く無いか?」

「その代わり体力があるし、重い荷物も運べる

 何よりも岩場で安定して動けるからね

 鉱山や岩場で活躍してたんだ」

「なるほど…」


今ではドワーフが居ないが、昔はドワーフが使役していた。

鉱山での功績運びや、荷物を載せて騎乗していたのだ。

それがドワーフが居なくなったので、そのまま竜の背骨山脈に住み着いてしまったのだ。


「さあ

 雑談はそろそろ終わりにしよう

 ギルも…」

「あ、ああ…」


ギルバートも気が付いていなかったが、既に足元がふらついていた。

それを支えながら、アーネストはギルバートを馬車に乗せる。


「すまない」

「良いって事さ

 セリアは先に乗ってるぞ」


ギルバートが兵士と話していたので、セリアは先に乗り込んでいた。

そして退屈したのか、椅子の上で寝ていた。


「起こすなよ」

「ああ

 うるさくなるのは御免だ」


アーネストはニヤリと笑って乗り込む。

馬車には三人と御者以外に、護衛の兵士が二人乗り込む。

残りの竜車には兵士が乗り込み、王国からの贈り物も乗せられていた。

贈り物には、魔鉱石製の武具が載せられている

それが敵に渡れば危険だが、帝国に恩義を売るには良い品だと思われる。


全ての準備が整い、後は領主であるノーランド侯爵の挨拶だけとなった。


「それではアーネスト殿

 殿下をお願いいたします」

「ああ

 任せてくれ

 必ず国交も交渉も成功させてみせる」


アーネストは力強く頷き、ギルバートとセリアを見る。


「殿下

 御一緒出来ませんこの老骨を、恨みます

 どうかご無事で…」

「ああ

 行って来る」


「開門!」

「開門!」


砂竜がゆっくりと歩きだし、東に向けて進み始める。

砂漠に入るまでは、車輪の方が楽に感じる。

しかし視線の先には、すぐに砂だらけの景色が見えて来る。

そこから先は、そこに張られた板がソリの役目を果たす。


砂竜の足の膜が、砂に埋もれない様に足を支える。

そうして力強く進むと、竜車が砂の上を走って行く。

砂の上を走る方が、平原を進むよりも早く移動出来る。

竜車は砂漠の中を、スイスイと進んで行った。


「行ったか…」

「ええ」

「どうかご無事で」


侯爵は深々と頭を下げると、他の者が城門に来る前にその場を去った。

侯爵がこの場に居る事を、不審に思わせない為だ。

アーネストが貴族であり、帝国への使者だとしても、侯爵が頭を下げるのは変だからだ。


しかしその様子を、物陰から伺う者が居た。


「行ったな」

「ああ

 これで伯爵様に報せれば…」

「おい!

 ここは街中だぞ」

「おっと、すまねえ…」


男達はコソコソと、城門に近い建物の陰で話していた。

その様子は不審で、コソコソと建物の陰から出ると、城門の前に並び始める人込みに紛れる。

それから城門を抜けると、砂竜に乗って砂漠に出る。

こうして男達は、ギルバートを追う様に砂漠の中に消えて行った。


そんな事とは知らずに、ギルバートはのんびりと眠っていた。

魔物が出ない限りは、砂漠では特にする事は無い。

御者は砂竜の操縦があるが、屋根の下に隠れて日差しに当たらない様にする。

ローブを着込んでいても、日差しを浴び続ければ脱水症状になるからだ。


「このまま進めば、もうすぐ小さな泉があります」

「こんな砂漠にも、泉はあるんだな」

「ここはまだ、砂漠とは言えないんですよ

 所々に灌木もありますからね」


御者の言う通りに、所々に灌木が生えている。

これが枯れてしまえば、植物も無い砂漠になるだろう。

ここはまだ、砂漠にはなり切れていないのだ。


「このまま泉や灌木も無くなり、やがて砂漠になります

 この辺りはまだ、砂漠とは言えないんです」

「砂漠とは植物も無いのか?」

「正確にはありますよ

 小さな草花やサボテンってひょろ長い木みたいなのも生えますよ」

「サボってん?」

「サボテン

 草の仲間みたいな細長いヤツだ

 その内見れるさ」

「そうですね

 明日には本格的な砂漠になりますから

 砂トカゲに気を付けてくださいね」


砂トカゲは、別名サンドリザードと呼ばれる魔獣である。

コモドドラゴンの砂漠版といった生き物で、魔石を持つ魔獣である。

砂竜の元になった魔獣で、二足では無く四足で這いながら進んで来る。

口の両脇に鋭い牙が伸びて、砂の上を滑る様に進んで来る。


時には砂の中に潜って、近くに通る獲物に襲い掛かる。

正確は獰猛で、何でも食べる雑食である。

砂漠に住む以上、食べる物に拘れば死んでしまうからだ。

砂漠はそれだけ、食糧事情が逼迫しているのだ。


「砂トカゲって何だ?」

「サンドリザードの事だな

 見れば分かるさ

 砂漠のロックリザードみたいな物だ」

「ロックリザード…

 では危険だな」

「ああ

 問答無用で襲い掛かって来る

 それに雑食だから、人間でも砂竜でも食えれば何でも構わない」

「そいつは厄介だな」


砂竜も狙うとなれば、乗り物が無くなってしまう。

そうなる前に、魔獣を倒す必要がある。


「砂トカゲが現れる時は、大抵待ち伏せです

 私達御者も注意していますが、砂が盛り上がっている場所には近づかないでください」

「なるほど

 そこに隠れているのか」


アーネストは後で、ギルバートに注意しておこうと思った。

特にセリアが、何も知らないで近付く恐れがある。


「他に注意する魔物は居ますか?」

「そうだな

 砂漠には魔物は出ないが…

 サンドワームという大きなミミズの様な魔獣は出るぞ」

「大きな…」

「ミミズ?」


兵士達は、あからさまに気持ち悪そうな顔をする。

確かにミミズは、人によっては好き嫌いが別れるだろう。

しかもそれが、大きなミミズとなれば気持ち悪いだろう。


「こいつも砂に潜っているらしいんですが…」

「目撃者は少ないだろうな」

「ええ

 見付けた時には、既に腹の中って可能性が高いでしょう」

「だろうな

 砂が膨らんでいる場所は要注意だな」


注意喚起をしたところで、砂の上の日差しが少しづつ弱まる。


「そろそろ日が暮れますね

 野営の準備に掛かりましょう」

「え?」

「もう?」


兵士は驚いていたが、時間は大分経っているのだ。

竜車が静かに動く事と、周りが砂ばかりで何も無いから気付かないのだ。

距離も大分稼いでいて、最初に話しに出ていた泉が見えてきた。


「良かった

 何とか日が暮れる前に着きましたね」

「いやあ…

 砂丘が並んでいる時はどうしようかと思ったよ」

「どれもただの砂丘で良かったよ」


御者は集まって、無事に到着した事を喜んでいた。

どうやら途中に、砂丘が不自然に並ぶ場所があったらしい。

この辺りまで魔獣が来るのは珍しい事なのだが、それが普通の風が作った砂丘だったので助かった。

もし魔物が潜んで居れば、今頃戦闘になり、砂竜や竜車が犠牲になっていたかも知れない。


「この辺りまで来る事は無いだろう」

「しかし魔物が活性化しているって話だ」

「まさか?

 ここも危ないって事は無いだろうな?」

「それは分からんが…

 ここには土があるからな」


砂漠の魔物は砂地だから潜る事が出来る。

土の方が固いから、潜るのは難しいだろう。


「土がある場所は安全だろうが…

 砂地には気を付けろ

 ここは浅い筈だが流砂もあるからな」

「流砂?」

「砂が流れて巻き込まれるんだ

 底なし沼みたいに砂の中に埋められるからな

 各自二人以上で行動する様に」

「は、はい」


流砂は無いだろうが、どんな危険があるか分からない。

そうである以上は、二人で居た方が安全なのだ。

一人が襲われても、もう一人がそれを目撃出来る。

そうすれば、少なくとも他の者には危険を報せれる。


「日が暮れると一気に気温が下がるぞ

 手早く枯れ木を集めて焚火を作れ」

「はい」


気温が下がると、ほとんど氷点下にまで下がる。

そんな場所に長く居れば、凍えてしまうだろう。

兵士達は焚火を焚いて、天幕を張り始めた。

竜車では風通しが良過ぎるので、夜に休むには適さないのだ。


早目の夕食を済ますと、各自で砂竜の世話や竜車の点検をする。

明日からの旅を考えれば、しっかりと点検する必要があるのだ。

そうして警戒をしながら、1日目の夜は更けて行くのだった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ