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聖王伝  作者: 竜人
第十二章 妖精の故郷
397/800

第397話

ギルバート達は、馬車でカザンの街に向かっていた

そこから帝国に入る為に、向かっているのだ

しかし魔物は、確実にその数を増やしていた

この辺境の街の側にも、魔物は集団で待ち構えていた

北の森の中に、コボルトの集団が待ち構えていた

その数はおよそ50体ほどだ

護衛に着いている兵士と、変わらないぐらいの数が集まっていた

そしてその中には、コボルトの上位種も紛れていた


「来たぞ!」

「結構な数が居ますね」

「ああ

 おおよそ50体ってところだ」

「50体!

 オレ達と同じぐらい居るじゃないですか」


こんな辺境の街の周辺に、これだけの規模の魔物が集まっている。

それだけでも危険だろう。


「上位種も居るみたいだぞ

 気を付けろ」

「はい」


アーネストは強い魔力の反応を、二つ感知していた。

1体はそこまででも無かったが、もう一体が危険だと感じていた。


「恐らくコボルト・ソルジャーと、さらに上のコボルト・コマンドだな」

「それは何なんだ?」

「ソルジャーは戦士のジョブだ

 しかしコマンドは…

 人間で言う将軍だ」

「コボルトの将軍?

 そんな奴が…」

「ああ

 居るだけで士気が上がる

 それに的確な指揮で、魔物の戦闘能力も上がっている」

「それじゃあ危険じゃないか」

「ああ

 だからオレも参戦する」


アーネストは馬車から降りると、兵士が向かう先を睨む。

そこには一回り大きいコボルトと、鎧を着込んだコボルトが居た。


「あれだな…」


アーネストは標的を見付けて、呪文を唱え始めた。

しかし魔物も、目聡くそれに気付いていた。

コボルト・コマンドが、配下のコボルト達に指示を出す。

その指示に従って、魔物はアーネストの方に向かって来た。


「マズい!」

「このままではアーネスト様が…」


兵士も気が付いて、慌てて守ろうとする。

しかし魔物の数が多くて、すぐには帰れそうに無かった。


「くそっ

 間に合わない」

「アーネスト様!」


「サンダー・レイン」

シュバッ!

ドシャ!

ズドーン!


閃光が走り、魔物は思わず視界を奪われる。

兵士達は魔法の効果を知っていたので、目を瞑って対処していた。


グギャア

ギャワワワ


魔物は短い悲鳴を上げて、目を覆っていた。

しかし雷光に視界を焼かれたので、暫くは見え難いだろう。

そしてアーネストの周囲に集まっていた魔物は、雷撃にその身を焼かれていた。


「ふん

 そんな見え見えの手に引っ掛かるか」


アーネストはそう言いながら、次の魔法の呪文を唱え始める。


「今の内に、少しでも削るぞ」

「おう!」


兵士達は、視界を奪われたコボルト達を次々と切り倒す。

さすがにコマンドは躱すが、ソルジャーは切り倒された。


「残すはこいつのみだ」

「気を付けろ

 こいつが一番手強いぞ」

グギャアア


コボルト・コマンドは、その鋭い爪で兵士の剣戟を弾き返す。

どうやら閃光にも耐えれた様で、そこまで視界は奪われていない様だ。

しかし少しは効果があった様子で、攻撃には怯んでいた。


「残るコボルトは少しだ

 射線上から避けてくれ

 ライトニングボルト」

シュバババ!

グギャアアア


魔物に向けて、雷の矢が放たれる。

魔法の矢を受けて、魔物は痺れて動きが止まる。


「今だ!」

「食らえ!」


兵士が止めに、魔物の首を刎ね飛ばした。


「はあはあ…」

「何とか倒せましたね」

「ああ

 アーネスト様の魔法があってこそだ」


兵士達はアーネストに感謝し、魔物の遺骸を一ヶ所に集める。

そこにカザンの城門から、兵士達が出て来るのが見える。

彼等は魔物の存在に気付き、加勢してくれようとしていた。

小型の砂竜と呼ばれる騎乗用の魔物に乗って駆けて来る。


砂竜とは、砂漠で移動する者には必需品である。

馬より一回り小さいが、がっしりとした二足歩行で、警戒に走る事が出来る。

足には膜が付いていて、砂の上を走り易く出来ている。

過去に魔導王国が、滅びる前に開発した人工生物なのだ。

魔石は有していないが、トカゲ型の魔物を改良した物だという話だ。

それで砂漠化する場所の移動をしていたのだが、そのまま帝国が捕獲して繁殖させたのだ。


「あれが砂竜ですか?」

「ああ

 砂漠では馬は満足に走れない

 砂漠に行くにはあれが必要なんだ」


カザンの街も砂漠と隣接しているので、砂竜を沢山繁殖している。

馬と違って、砂竜は普通の平原でもある程度走れる。

だからこの辺では、砂竜を主な移動の手段に使っているのだ。


「砂漠という事は、あれは砂の上でも平気なんですか?」

「ああ

 足にある膜で、砂の上を器用に走るんだ

 それに暑さにも強いからな」


人間は砂漠の暑さには耐えられない。

昼間は馬車の代わりの竜車というソリの中に居ないと、熱さにやられて脱水症状になってしまう。

だから砂竜は、砂漠を渡るには重要なのだ。


「大丈夫ですか?」

「旅の方とお見受けしましたが?」

「はい

 何とか倒せました」

「私達は帝国に向かっております」

「帝国に?」


帝国と聞いて、兵士は警戒をする。

クリサリスと帝国は、ここ30数年国交が絶えているのだ。

それを危険を冒して、帝国に向かうと言うのだ。

しかも見たところ、そこそこ腕も立つ様子だ。

警戒するなと言うのが難しいだろう。


「なかなかの腕前の様だな」

「その様子では、砂漠を渡る事は出来そうだな」

「ああ

 重要な案件があってな…」

「しかし

 怪しいな」

「ちょ!

 ちょっと待て」


身構える兵士達に、護衛達は慌てて敵意が無い事を示す。


「我々は帝国との、国交を願って向かうんだ」

「帝国と国交?

 本気か?」

「嘘じゃ無いぞ

 ここに親善大使として、アーネスト伯爵様もいらっしゃている」

「伯爵様?」

「この若造がか?」


ギルバートも居るのだが、この旅に同行している事は内密にしている。

王太子が居るとバレれば、帝国の貴族に狙われるからだ。

だからギルバートは、身体の弱い義兄という事にしている。

今回の旅で、帝国の視察を希望している事にしているのだ。


「アーネスト様は、若いが優秀な魔術師だ

 今の魔物達も、アーネスト様の手助けがあったから楽に倒せたんだ」

「そうだぞ

 舐めた口は利くなよ」

「魔術師…」

「そう言えば、王都に優秀な魔導士が現れたと聞いた事がある」

「それがこいつ…いや、この方か?」

「そうだ」


兵士が威張っているが、実際に偉いのはアーネストである。

アーネストは苦笑いをしながら、親善大使の書類を差し出す。


「君達は城門の見張りの兵士だね」

「は、はい」

「本物だ…」


兵士達は書類に目を通し、王家からの依頼という事も確認する。


「申し訳ありませんでした」

「失礼な失言をして…」

「まあまあ

 確かにオレは若いからね、それは仕方が無いだろう

 しかし…オレ達の話は聞いていないのか?」

「は、はい」

「ふうむ…」


どうやら領主は、アーネスト達が来る事を門番には告げていないらしい。

それもそうだろうと、アーネストは冷静に考える。

今は王都は再建中で、そんな余裕は無い筈なのだ。

だからこの話も、信用されていないのだろう。


「金目当ての狂言と思われたか?」

「へ?」

「ええ?」

「だって王都は大変な状況だ

 こんな時に国交だなんて、オレでも正気を疑うだろう」

「いや、それを言いだしたのはアーネスト様では?」

「それはそうだが、疑われるのは仕方が無いって

 それぐらい慎重じゃ無いと、領主は出来ないだろ」


アーネストはそう言いながら、仕方が無いと肩を竦める。

それから兵士達の方を向いて、これからどうすべきかを話す。


「何にしても、ここでこのまま居ても…ねえ」

「は、はい

 すいません」

「直ちにご案内致します」

「うん

 それよりも先に…」


今度は兵士達の方を向くと、魔物の遺骸を運ぶ様に指示をする。


「折角だ、こいつ等の魔石と素材を街に提供しよう」

「良いんですか?」

「ああ

 こちらの装備は…

 だから今さら、コボルトの素材なんて要らないんだ」

「それもそうか…」

「しかし魔石は?」


魔石は魔道具の素材になるし、それなりの値段で売れる。

特にコボルト・コマンドの魔石は、強かっただけに期待が出来る。

しかしアーネストからすれば、そんな物は必要が無かった。

これが王都なら、これからの資金の為に必要だろう。

しかし旅に出ている以上は、ここで金に拘る意味は無かった。


「今は金に困っている訳でもない

 それに魔石を有用に使ってもらえる方が良いだろう」

「分かりました

 それでは運びますね」


兵士達は馬車を降りると、代わりに魔物の遺骸を載せる。

それ以外に運ぶ方法が無いからだ。


「わざわざすいません」

「構いませんよ

 街に入るついでですから

 それに死体を片付ける手間も減ります」


死体をそのままにしておくと、死霊化する恐れがある。

その為に、このまま置いておくのなら、手足や首を切り落とす必要がある。

その手間を考えれば、兵士の輸送用の馬車が汚れるぐらい問題無かった。


「王都でも死体は…」

「そうですね

 早急に焼き払うか、動けない様にしますね」

「そうですか…」

「何かあったんですか?」

「それが…」


少し前の話だが、帝国領のあちこちで死霊が出る事件が起こった。

所領を持たない者達は、遊牧民として少ない平原を移動して暮らしていた。

そこに大量の死霊が襲い掛かり、多くの者が殺されたのだ。

その事件の事は、カザンの街にも伝わっていた。


「死霊が大量に発生した?」

「ええ

 被害に遭ったのは帝国側なんですが、ここも他人事とは思えなくて…」

「それで兵を用意して警戒していたのか」

「へ?」

「城門の近くに集まっているだろう?」

「なんでそれを!」

「それは魔法を使えばね」


アーネストは魔法で調べた事にしていた。

しかし実際は、兵士が出て来たタイミングで予想していたのだ。

そうで無ければ、出て来るのが早過ぎるのだ。


「凄いですね

 隠れている兵士にも気付くなんて…」

「はははは

 さあ、街に向かいましょう」


アーネストは兵士を先頭にして、カザンの街に向かう。

既に入る為の書類は、先ほど兵士に見せてある。

後は書類にサインしてもらって、入場の許可を得るだけだった


「どうされます?

 入ってすぐに領主様にお会いになりますか?」

「そうだな

 先に泊る宿を探したいのだが…」

「泊まるのは領主様の館では?」

「そうしたいがな

 こっちの兵士も居るから」

「ああ

 さすがに全員は無理ですか」


兵士は事情を察して、近場の大きな宿屋を紹介してくれる。


「アーネスト様は貴族だという事ですから

 宿は別にした方がよろしいですよ」

「領主様が泊まって行けと仰ると思いますから」

「うーん

 それもそうか」


アーネストは馬車の中に戻ると、ギルバートに相談をする。


「どうする?

 オレ一人なら問題は無いが…」

「そうだな」

「ギルは領主と面識は?」

「確か…ノーランド侯爵だったか?

 新年の挨拶に見掛けたぐらいだな」


アーネストは思案する。

侯爵がギルバートを覚えているのなら、顔を見た時点でバレるだろう。

それならば、最初から連れて行かない方が良いだろう。


「正直に事情を話すか、それとも…」

「そうだな

 侯爵が信用出来る人物なのか

 それが分からないからな」

「それなら、最初はオレだけが向かおう」

「ああ

 すまないが頼む」


ギルバートの正体がバレると、場合によってはマズい事態になる。

それを思って、先ずはアーネストだけが領主に会いに行く事にする。

それで信頼出来そうなら、改めて事情を話せば良いだろう。


「それでは、オレだけが面会に伺う

 ノーランド侯爵にお伝えしてくれ」

「はい

 伝令に頼みますね

 それでは少々お待ちください」


兵士は書類を記入しながら、伝令を向かわせる。

ここから領主の館までは、推定で1㎞はあるだろう。

馬で行って戻っても、1、2時間は掛かるだろう。

その間に、兵士には魔物の素材を渡してもらう事にする。


「職工ギルドはどこにあるのかな?」

「魔物の素材ですか?」

「ああ

 このままにしとく訳にもいかんだろう」


魔物の遺骸は、兵士が乗る馬車に乗せたままになっている。

このまま放置していて、死霊化しては困るだろう。

ギルドの職員に、早目に渡した方が良いのだ。


「それではこちらで、ギルドの職員に連絡しておきます

 遺骸はここに置いてください」


兵士は見張り小屋の横の、広場になっている場所を示す。

そこには魔物に警戒して、兵士が待機している。

その兵士に手伝ってもらって、魔物の遺骸を全て下ろす。


「これは…」

「普通のコボルトではありませんね」

「ああ

 こっちはコボルト・ソルジャー

 そしてこっちがコボルト・コマンドだ」

「コボルト・ソルジャーとコボルト・コマンドですか…」

「ああ

 上位の魔物になる」


上位と聞いて、兵士達は興味深げに魔物を見る。


「他の魔物も、通常の個体より強力です

 月の魔力で狂暴化していますから」

「月の?

 ルナのですか?」

「ああ

 去年から月が、紅く輝く事があるだろう

 それは女神様の力で、魔物を狂暴化させているんだ」


アーネストの言葉に、兵士達は驚いた顔をする。

どうやらこの街には、月の魔力の話は伝わっていない様子だった。


「女神様の?」

「それはどういう事ですか?」

「うむ

 詳しい事は、領主様にお話する

 ここで話しても無用な混乱を生むからな」

「は、はあ…」


兵士は気になっていたが、それ以上は聞いて来なかった。

アーネストが領主に話すと言っているし、貴族相手に下手な事は言えないからだ。

そのまま領主の返事が来るまで、一行は待機する事となった。

まだまだ続きます。

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