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聖王伝  作者: 竜人
第十二章 妖精の故郷
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第392話

ギルバートが帰還した事で、王都は喜びに満ち溢れていた

しかしギルバートの、病は完治していなかった

再び旅立つ事に、国王代理のフランツは難色を示す

しかし病を完全に癒すには、帝国の跡地に居るであろう光の精霊の力が必要なのだ

再びギルバートは、旅に出なければならないのだ

帝国に向かうという事で、マーリンは使者を立てる事にした

アーネストを親善大使として、派遣する事にしたのだ

それしか敵対していた帝国に、入国する手段は無かったのだ

その使者を送り出している時に、ギルバートは倒れてしまった


「ギル…」

「顔色は良くなって来たな」

「そうじゃな

 しかし今度は…」


救護所のベッドに横たわるギルバートは、顔色は幾分か良くなっていた。

しかし今度は、セリアが倒れていた。


ギルバートの隣のベッドに眠っているが、相当な無理をした様だ。

精霊を呼び出して、一緒にギルバートに力を流し込んだのだ。

結果として、ギルバートの容体は安定していた。

しかしセリアは、力の使い過ぎで倒れていた。


「しかし精霊じゃと?」

「そうですよ

 何でイーセリア様は精霊の力を?」

「詳しくは話せませんが、セリアには精霊の力を使う素質があります」

「ううむ…」


「その力があるからこそ、オレ達は妖精郷に入れたんです」

「イーセリア様の力でですか?」

「ええ

 そうでなければ入れませんでした」

「それでイーセリア様も旅に同行してたんですか?」

「ええ

 セリアの力が無ければ、妖精郷に向かう話も無かったでしょう」

「ふうむ…」


セリアが精霊女王という事は伏せたかった。

しかしこれだけ目立ってしまえば、ある程度の情報の開示は必然的だった。


「それでは先ほどの姿も?」

「先ほどの?」

「ええ

 イーセリア様は義兄上と変わらぬ歳の姿に変わられていました」

「なぬ?」

「アーネスト様はご存知で無いのですか?」

「それは…

 うぬぬぬ…」


折角隠そうとしていたのに、既にセリアは精霊女王の姿を見られていた。

それで止む無く、アーネストは話さなければならなくなった。

アーネストは頭を抱えると、暫し思案に暮れた。

そしてたっぷりと考えた後で、二人を手招きした。


「ここだけの話だぞ」

「へ?」

「何じゃ?」


「セリアのあの姿は、精霊女王の本体だ」

「はあ??」

「せ、精霊女王って…」

「しーっ!

 静かに」


アーネストは大声を上げそうになる、フランツとマーリンに呼び掛ける。

二人も何となく察して、神妙な顔になる。


「その様子では、知られてはマズい事なんですか?」

「ああ

 幸いここには、我々しか居ないな」

「ええ

 メイドも施療の係の神官も居ません」


急な事だったのと、王太子の事だった為、神官も入れさせていなかった。


「セリア…

 イーセリアはハイエルフの王国の女王だ」

「はあ?

 あれが?」

「ああ

 あれでだ」

「精霊女王様とは神話のお話じゃあ…」

「いや

 現物があれなんだ」


セリアの正体を聞いて、フランツもマーリンも困惑していた。

普段の様子を見ると、とても女王などと言う存在には見えなかった。

ましては物語に出て来る様な、エルフの女王などと考えれば、とても威厳を感じられ無かった。


「まあ…

 普段の姿を見てればな…」

「ええ…」

「とてもじゃ無いがその様には…」


「しかし現実として、彼女は精霊を従える…

 あ、いや違うか」

「?」

「精霊と友好関係のあるハイエルフの女王なんだ」

「何で言い直したんだ?」

「それは…」


アーネストは妖精郷で聞いた、精霊と人間の歴史を語った。

そして現在のエルフと、ハイエルフの関係も説明する。


「そんな事が…」

「なるほど

 それは危ういですのう」

「え?」


フランツは今の説明で、今一把握していなかった。

そこでアーネストは念押しをする。


「人間がハイエルフにしてきた事は最悪だ

 それこそ憎まれて、滅ぼされても当然だろう」

「それはそうでしょうが、それは過去の魔導王国や帝国がしてきた事でしょう?」

「いや、そうではござらんじゃろう

 長く時を生きるエルフや精霊からすれば、ワシ等もその仲間にしか見えんじゃろう」

「ああ

 マーリン様の言う通りだ

 人間は等しく敵視されているだろう」

「それならイーセリア様も?」

「本来ならな」


セリアが人間に寛容な理由は、まだ子供だった事がある。

そしてよく分からない内に、優しい人間に接した事が幸いだった。

その後に魔物に襲われて、人間の街に入った訳だが、そこでもアルベルトとギルバートに出会った。

それが無ければ、セリアも人間を憎んでいたかも知れない。


「偶然が重なったんだろな

 そうしてセリアは、ギルに出会った」

「うむ

 それこそ女神様のお導きかも知れんな」

「義兄上に会ったから?

 それで変わったと言うのですか?」

「正確には、優しい人間に出会って、そうしてその内の一人に恋した

 そんなところかな?」

「恋?

 それだけで?」


フランツには、今一納得が行かなかった。

確かに恋は盲目的なのかも知れない。

それにしても、ああも変わる物なのか?


「セリアが人間に拾われたのは確かだ

 しかしそこでは、優しくされていたのだろう」

「うーん

 そこがよく分からないや」

「フランシスカ様はな…」

「ええ

 あまり悪意に遭われておらんですから」

「どういう意味だ?」

「そのままですよ

 あなたは人間の悪意を知らな過ぎます」

「そうじゃな…」


二人に駄目だしされて、フランツは不満そうな顔をする。

しかしだからこそ、彼に善政が期待されているのだ。

そういった人の悪意には、マーリンやバルトフェルドが対処すれば良いのだ。


「問題は、精霊女王の力が大きい事だ」

「それが問題ですか?」

「はあ…

 これだから」

「そうなんじゃ

 フランシスカ様は人間の恐ろしさを理解しておらん」

「へ?」


「セリアは確かに力を持っているかも知れない

 しかし普段は…

 あの残念な少女だ」

「え?

 まあ…」

「そんな少女が不釣り合いな力を持っておる

 お前が貪欲な国王じゃったら、どうする?」

「え?」


フランツは理解に苦しみ、しばし考え込む。


「身柄を拘束して、幽閉しますな」

「まあ、妥当だな」

「へ?」

「その上で、無理矢理精霊を働かせる

 精霊の力なら、国は富みますでしょう」

「ああ

 オレが王でもそうするな」

「ええ?」

「だからフランシスカ様は…」

「ええ

 甘うございますな」


二人の物騒な発言に、フランツは目を白黒させる。


「そうだな…

 オレならその上で、無理矢理子供も作るだろうな」

「そうですな

 子供にも精霊を操る力が継承される可能性はございます

 それに精霊の女王となれば、国王に箔も付きますな」

「はあ?

 何でそんな事を…」

「人間じゃあ無いからな」

「相手が妖精ですから」

「はあ?」


フランツはガタガタと震えて、信じられ無いと二人を見る。


「それが人間がしてきた事です」

「事実そうして、エルフは生まれたそうですからな」

「しかしその精霊の女王も…」

「人間ではありません

 そうなれば、悪しき心がある人間はどこまでも残酷になります」

「そういう事です」


二人の言葉に、フランツは信じられ無いと首を振る。

しかし過去に、人間はそれだけの事をしてきた。

そして、現在もそうしないという保証は無いのだ。


「分かりましたか?」

「そうですな

 イーセリア様の事が知れれば、その身を狙う者は多く現れましょう」

「そんな!

 イーセリア様は義兄上の婚約者で…」

「悪人にそんな言葉は通用しませんよ」

「そうですぞ

 どこまでも己の欲に忠実です

 その存在を白日の下にして、利権を得る為に独占しようとするでしょう」

「そんな事が…」

「少なくとも過去に何度も行われました」

「そうじゃな

 寓話になるほど有名な話じゃ」


マーリンはここで、精霊に恋した青年の物語を語り出した。


「昔…

 魔導王国のある青年は、魔物と通じる少女に恋をした」

「マーリン?」

「黙って聞きなさい」

「は、はい」


「青年は少女に近付き、何とか交際を始めた

 そして少女は、そんな青年を守る為に、魔物を街に近付けない様にした

 しかし彼等の周りの者は、そんな二人を許さなかった

 魔物に襲われたのは少女のせいだとして、激しく二人を責めた」

「そんな…」


「やがて国王は、少女に命令を下した

 魔物を退けて、王国の領土を拡げる様に

 少女は泣きながら、魔物を苦しめるのは止めてくれと訴えた」

「そんな事が許されるのですか?」

「許されるのです

 所詮は小娘の命と国の利権

 優先すべきはどちらか明白です」


「そして国王は、青年を捕らえて拷問をする

 少女に言う事を聞かなければ、青年を殺すと脅しを掛けて

 そして少女は、国王の言う事を聞くしか無かった…」

「それで?

 その青年と少女は?」

「後日街の広場には、無残に殺された青年と少女の遺体が、衆目の下に晒された

 魔物と通じた罪として、処刑されたのじゃ」

「な、何てことを…」


「東の国に伝わる寓話ですね」

「ええ

 その後にその王国は、魔物によって滅ぼされます

 魔物の報復ですな」

「何て事を…

 その話は…」

「事実を元にした寓話です」

「実際には魔物では無く、エルフの少女ですが

 対外的に体裁が悪いので、魔物の仕業になっていますが」


マーリンの語った物語を聞いて、フランツはわなわなと震えていた。


「信じられ無い…」

「ですがこれは真実です

 そして現実はもっと残酷なんですが…」

「はあ?」

「魔物では無く、エルフを奴隷にする為に、誘き寄せた

 そして逆らう事を恐れて、女王を殺した

 この物語の裏の話です」

「な…

 馬鹿げてる」

ダン!


フランツは怒りを押し殺して、近くにあった寝台を叩いた。


「しっ!」

「お静かに

 お二人が寝ております」

「あ、ああ…」


フランツはふらふらと、寝台の上に腰を下ろす。

そして頭を抱えた。


「実際にこの物語に出て来る王国は、大量のエルフの奴隷を得ました

 そしてそれを売り捌いて、裕福になったとか」

「そんな人身売買で得た幸福なんて…」

「そうですな

 その内他のエルフ達に狙われて、滅ぼされましたから」

「当然だろうな…」


二人の話を聞いて、フランツは考え込む。


「その話が本当として…」

「事実です」

「残念ですが、裏付ける資料も残されています」

「はあ…

 人間はそこまで悪になれるのか?」

「ええ」

「過去が証明しています」

「そうか…」


フランツは頷くと、暗い顔をしながら頷いた。


「二人の懸念はよく分かった

 この事は父上や姫にも話せんな」

「ええ

 お話にならない方がよろしいでしょう」

「どこで漏れるか分かりませんから」

「ああ

 分かったよ

 はあ…」


フランツは溜息を吐きながら、頭に手をやる。


「二人の私に関する評価もよく分かった」

「そ、それは…」

「いや、良いんだ

 確かに私は甘かった

 いや、甘いんだろうな、今も…」


少し頭を冷やすと言って、フランツは救護所を出て行った。


「少しやり過ぎたかのう?」

「そうでしょうか?

 私は良い薬だと思いますよ」


フランツは国王代理となり、忙しいながらも少し浮かれていた。

だからアーネストは、釘を刺す意味でもこれは妥当だと思っていた。


「少しやり過ぎだ」

「ギル?」

「おお

 殿下

 お目覚めで」


ギルバートは寝たままだが、首を動かして二人を見る。


「ああ

 騒々しかったからな」

「あ…」

「すまない」


「それにしても…

 他に言い様があるだろ」

「そうかな?」

「ワシは灸を据える意味でも…」

「相手はまだ子供だぞ!」

「ギル…」

「それは甘いかと…」


フランツは、確かにまだ成人していなかった。

しかし姫の婚約者として、国王の代理としてはしっかりとしてもらわなければならなかった。


「フランシスカ様は国王代理ですぞ」

「そうだよ」

「しかし…

 あれは相当効いているぞ」

「う…」

「いやあ…」


「後でフォローしてやれよ」

「はあ…」

「そうだな…」


ギルバートに諭されて、二人はやり過ぎたかと反省していた。


「それで?

 私はどうなっていたんだ?」


ギルバートは少し起き上がると、ふらつく頭を抱える。


「くっ…」

「無理をなされるな」

「そうだぞ

 セリアが助けてくれたが…」

「セリア?」


ギルバートは周囲を見回して、隣で眠るセリアを見付ける。


「セリア!

 おい!

 大丈夫か?」

「うにゅう…

 むにゃむにゃ」

「おいおい、起こすなよ

 力を使って休んでいるんだから」

「力を?」

「ええ

 殿下が苦しんでいる様子を見られて、それで…」


ギルバートはハッとして、アーネストの顔を見る。

アーネストが頷いたのを見て、納得した様に頷いた。


「それでフランツにあの様な…」

「ああ

 セリアの事を口外されては困るからな」

「そういう事ですじゃ」


「ふうむ

 バルトフェルド様にも詳細は話していないからな」

「そうなんだよな

 マーリンは兎も角、フランツじゃあ…」

「うっかり話す可能性が…あるか」

「はい」


二人がフランツを責めていたのも、その事を懸念していたからだ。

少し厳しかったが、セリアの事がバレればどうなるか示した訳だ。

その事には、ギルバートは素直に頭を下げた。


「すまなかった

 二人には悪役を演じてもらって」

「いえいえ」

「オレとしても、事は重大だからな」


セリアがギルバートの婚約者である以上、アーネストとしてはその事は秘密にしておきたかった。

いつか精霊が受け入れられて、セリアの事情が知られても良い様になるまで。

それまでは秘密にしておくべきだと思っていた。


「それより、具合は良いのか?」

「ああ

 まだ少し頭が痛いが、大分マシになったよ」


ギルバートはセリアの頭を撫でながら、そう呟くのであった。

まだまだ続きます。

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