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聖王伝  作者: 竜人
第十二章 妖精の故郷
384/800

第384話

オウルアイの町の宿屋で、ギルバートは泊まっていた

妖精郷での話は、領主であるオウルアイに話した

そして精霊からのお願いも伝えて、友好的にする様に伝えた

こうして精霊からの頼みも聞いたので、ギルバートはオウルアイの町を発つ事にする

まだ向かうべき場所があるのだ

ギルバートは、宿屋『踊る子猫亭』に泊っていた

昨夜は旅立ち前とあって、兵士達も少々騒いでいた

しかし朝には、すっかりと酔いも醒めて起きていた

まだ眠っていたのは、深酒をしていたアーネストだけだった


「アーネストは?」

「まだ起きていません」

「だろうな…

 あれだけ飲んでたからな」

「はははは」


兵士達は笑っていたが、顔は少し引き攣っていた。

昨夜の様子からも、これはフィオーナにバラされるだろう。

兵士も酒は飲む方なので、他人事では無いのだ。

多少はアーネストの事を、同情していた。


「殿下

 お手柔らかにお願いします」

「ん?

 私は特に何もしないが?」

「ですがフィオーナ様には…」

「ああ

 セリアが告げ口するだろうな」

「はあ…」

「あれだけ忠告したのに、それでも飲んでたんだ

 二日酔いでも自業自得だろ?」

「それはそうですが…」


最早兵士達は、苦笑いしか出来なかった。

これはどう説得しても、アーネストが許される事は無いだろう。

兵士達は巻き込まれない為にも、早目に出立の準備に掛かった。

その方が、アーネストが起きて来た時に巻き込まれる心配が無いからだ。


「殿下

 お弁当の支度は出来ました」

「ありがとう」

「いえ

 お気を付けて行ってください」

「ああ

 世話になったな」


「ちょ!

 殿下?」

「ん?」

「アーネスト様は?」

「うーん

 置いて行っても良いんだが…」

「そりゃあ無いでしょう」

「仕方が無い

 起こして来てくれ」

「はい…」


兵士は渋々と、アーネストを起こしに向かった。

これから起こるであろう騒ぎを思えば、胃が痛くなる。


コンコン!

「アーネスト様」


兵士がノックしてドアを開けると、そこには支度の整ったアーネストが居た。


「ん?

 もう出発するのか?」

「ええ

 みなはもう、食事を済ませて待っています」

「分かった」


アーネストが二日酔いの様子も無いので、兵士は胸を撫で下ろす。

これで少しは、ギルバートの留飲も下がるだろう。

そう考えて、兵士はアーネストと下の階に降りた。


「何だ

 起きてはいたのか」

「ああ

 当然だろ」

「いや、それなら朝食には来いよ」


ギルバートは軽く突っ込みながら、さっさと食事を済ませる様に伝える。


「みんな待ってるから、さっさと済ませて来い」

「良いよ

 そんなに食欲は無いから」

「そんな事言って、後で腹が減っても知らないぞ」

「大丈夫さ」


アーネストはそう言うと、さっさと馬車に乗り込む為に外に出る。

ギルバートも肩を竦めると、兵士に促しながら外に出る。

外では他の兵士が、既に馬を用意して待っていた。

宿の主人も出て、見送りに立ってくれる。


「それでは殿下

 お気を付けて」

「ああ、世話になったな」


ギルバートは軽く頭を下げると、馬車に乗り込む。

セリアとアーネストは、先に出て乗り込んでいた。


「それでは行くぞ」

「はい」

「出発!」

「出発」


兵士は復唱しながら、馬に鐙を当てる。

それから馬車を守りながら、城門へ向かった。


城門でも特に問題は無く、門番の兵士も気さくに話し掛けて来た。

そして軽い世間話をする内に、町を出る審査は終わっていた。


「魔物の報告が、そんなに珍しいか?」

「うーん

 珍しいと言うか、魔物が弱くなっているからな」

「弱く?

 そういえばそうか…」


門番の兵士の話では、最近はオーガは見掛けなくなっていた。

その代わりに、ワイルド・ボアの数が増えているらしい。

そしてオークよりも、フォレスト・ウルフやワイルド・ベアといった魔獣の方が多いらしかった。


「魔物の発見は減って、代わりに魔獣の方が増えているみたいだ」

「魔獣か

 ワイルド・ベアは厄介だからな」

「ああ

 しかし多いのは、フォレスト・ウルフやワイルド・ボアだな」

「そうか

 それならそれほど危険でも無いか」


ギルバートの言葉を聞いて、アーネストも安心していた。

ワイルド・ベアが多くなれば、騎士達でも対応は厳しいだろう。

しかしフォレスト・ウルフならば、騎兵や冒険者でも何とかなる。

特にオウルアイに集まる冒険者達は、日頃から魔獣を狩っている。

フォレスト・ウルフが相手でも、十分に戦えるのだ。


「それに…

 セリアが居るけど、一応聞いておいた方が良いだろ」

「なるほど」


ギルバートは、これから向かう竜の背骨山脈に入る、道中の魔物を気にしていたのだ。

精霊の加護があるので、余程の魔物でなければ来ないだろう。

しかし、用心に越した事は無いのだ。


「まあ、加護が効いているから大丈夫だと思うが」

「そうだな

 加護を抜けるとなると…

 ランクEだな」

「ランクEか…

 どんな魔物が居るんだ?」


ギルバートの質問に、アーネストは顎に手を当てて考え込む。


「うーん…

 この辺りには居ないと思うが…」


アーネストは書物を開きながら続ける。


「先ずはアーマード・ライノ

 こいつは前に戦った事があるな」

「あの硬いワイルド・ボアみたいなやつか」

「ああ

 この辺には元々居ない魔獣だ」


アーマード・ライノは、以前にギルバートも倒した事がある。

しかし元来なら、帝国領である砂漠地帯に住む魔獣である。

以前に現れたのも、ベヘモットが魔物を増やした時の事だった。

どうしてここに差し向けたのかは分からないが、森や平原には適していない魔獣だ。


「それからグレイ・ウルフとグレイ・ベア

 こいつはフォレスト・ウルフとワイルド・ベアの上位個体だな」

「強いのか?」

「ああ

 耐久力、腕力、硬さも上がっているだろう

 上位個体というだけあって、単独でも手強い魔獣だろう」

「そうか…」

「特徴としては、毛並みが灰がかった色をしている

 その毛皮が、また頑丈で剣も通り難いらしい」


アーネストは、描かれた魔物の絵を指差す。


「魔鉱石の武器でもか?」

「どうだろうな?

 普通の鉄製の武器では通らないだろうが…

 この書物が書かれた頃に、魔鉱石が開発されていたのか…」


書物が書かれたのは、魔導王国の時代である。

普通の鉄製の武器に、魔法の付与を行っていた時代だ。

もしかしたら、魔鉱石も当時は使われていたかも知れない。


「後はそうだな…

 スケルトン・ジェネラル

 これも戦った事があるな」

「あの時のスケルトンか」

「ああ

 あれは強化個体だったが、普通のスケルトン・ジェネラルも強い

 十分に警戒すべき相手だな」

「スケルトンか…

 しかしムルムルが居る訳でも無いしな…」


スケルトンとなれば、死霊と呼ばれる魔物だ。

死霊は成仏出来なかった者が、黒い魔力の影響で魔物化した物だ。

そして上位の死霊となれば、召喚でもしなければ滅多に現れない。

アーネストはそれを知っているので、居ないと判断していた。


「他にも、ゴブリンやコボルト、オークの上位種も居るな」

「ゴブリンやコボルト…

 どんな奴だ?」

「単純に職業に特化した魔物だ

 例えば戦士として剣や斧に秀でた、ゴブリン・ファイターとか

 魔法を得意としたオーク・メイジとか」

「なるほど

 職業を名前として持つのか」

「ああ

 書物ではそれを、ジョブを持った魔物と分類している

 物によっては、もっと上のクラスの魔物に分類される

 だから武装した魔物は要注意なんだ」

「そういえば、以前にも武装したゴブリンとか居たな」


ギルバートは、以前にダーナの砦を襲った魔物を思い出した。

あれは武装したゴブリンであったが、そこまで強く感じていなかった。


「あれは単純に武装しただけだったからな

 本当にジョブを持った魔物なら、騎士でも勝てないかも知れない」

「そんなにか?」

「ああ

 少なくとも、ここに書かれているゴブリン・ファイターでも、騎士団が苦戦したと書かれている

 集団で現れたら、危険な存在だな」

「それはまた…」


魔導王国の騎士が苦戦するのだ。

王国の騎士では全滅するかも知れない。

そんな魔物が、集団で現れるかも知れない。

そう考えると、クラスEの魔物は現状では危険な魔物であった。


「ギルが本調子でも、オレの魔法の支援が無いと危険かもな」

「そうだな

 単体なら何とかなりそうだが…

 集団か…」


ギルバートは想像して、思わず身震いする。

今は力が出せないし、護衛も兵士だけだ。

それに馬車にはセリアも乗っている。

出来ればそんな魔物には、出くわしたく無い。


「出て来ないよ…な?」

「そうだな

 少なくとも、魔王が連れて来ない限りは現れないだろう」

「そうか…」


「だけどな、エルリックの言っていたファクトリーが気になる」

「ファクトリー?

 確か魔物を生み出すって…」

「ああ

 そのファクトリーだ」


アーネストは、アーマード・ライノもファクトリーが生み出したのではと推察していた。

魔王とは関係なく、女神の指示で動いている可能性が高いのだ。

そう推測した時に、魔物の上位種が生み出されていてもおかしくないのだ。


「もし…

 そこで強力な魔物が生み出されていたら?」

「しかしエルリックの話では…」

「ああ

 本来は魔王が、必要な魔物を補充する為にあるのだろう

 しかし今は、魔王と関係無く生み出されている」

「そう…だな…」


魔王の指示ではなく、独自に魔物が生み出されている。

エルリックの話では、そうそう強力な魔物は生み出されないらしい。

しかし時間さえ掛ければ、強い魔物も生み出せるという話だ。

そう考えれば、魔物が生み出されていても不思議では無い。

いや、むしろ今までそうでは無かったのが不思議なのだ。


「しかし、ここにもそれがあるのか?」

「エルリックが、自分の住処の近くで見たと言っていただろ

 それに以前に、竜の背骨山脈に住んでいるって…」

「そういえばそんな事を…」

「ああ

 だからこの山脈の周りには、昔から魔物が居るんだ」


言われてみれば、ゴブリンが現れる前から、ここには曰くがあった。

それが魔物の仕業と知ったのは、魔物が現れてからだ。

それ以前から、この山脈の周辺には、魔物が住み付いていたのだ。

それがファクトリーなる物があるのが原因であるなら、納得が行く話だ。


「それじゃあこの辺りの魔物は…」

「ああ

 恐らくそこで生み出されたのだろう」


アーネストは書物を仕舞いながら、言葉を続ける。


「尤も魔物によっては、独自に繁殖するものもいる

 そうした魔物は、自分達で数を増やしたんだろうな」

「そうか

 ゴブリンやコボルトは、すぐに繁殖するからな」

「そういう事だ」


ギルバートは、不安そうに竜の背骨山脈を見上げる。

場合によっては、これから強力な魔物が増えるかも知れない。

今度エルリックに会ったなら、その辺を確認する必要があるだろう。


「もうお話は終わった?」


座席に登って、外の景色を見ていたセリアが振り返る。

二人が難しい話をしていたので、退屈していたのだ。


「ああ

 心配しても仕様が無いか」

「そうだな

 今のところは加護が効いているからな」


二人は席に座り直すセリアの方を見る。

退屈していたのか、頬を膨らませていた。


「むう

 難しい話しばっかり、つまんない~」

「はははは

 そうむくれるな」

「うにゅう…」


ギルバートは笑いながら、セリアの頬をつついた。

セリアは膨らませた頬を突かれて、益々頬を膨らませる。


「はあ…

 中の良い事で」

「そういうアーネストも

 いつの間に子供なんか…」

「それは出発の直前だ

 それまでは手を握るぐらいしかしてないぞ」

「ふうん…」

「うみゅう?

 キスはしてたでしょ?」

「何!」

「セリア!

 何で知って…

 いや、バラすなよ」


アーネストは慌てて誤魔化そうとするも、既にギルバートの顔は引き攣っていた。


「だってお姉ちゃんが自慢してたもん」

「だからってこんな時に…」

「アーネスト

 いや、義弟と言うべきかな?」

「だからお前は義兄じゃないだろ

 それにキスぐらい良いだろ」

「詳しい話をしてもらおうか?」


それから暫く、アーネストはギルバートに絡まれる。

しかもセリアが色々とバラすので、火に油を注いでいた。

フィオーナはセリアに、色々と自慢していたのだ。


「セリア

 後で覚えてろ」

「へへーん」


セリアは色々とバラしたので、すっかり上機嫌になっていた。

そうして騒がしい馬車を見て、兵士達は溜息を吐くのだった。


馬車はそのまま公道を進むが、魔物からの襲撃は無かった。

今のところは、ギルバートの心配は杞憂だった。

そうしてある程度進んだところで、一行は一旦止まった。

用意してもらった、お弁当で昼食を取る為だ。


馬車を公道の脇に止めると、良さそうな開けた場所に腰を下ろす。

そこで馬車からお弁当を下ろすと、昼食に掛かった。


季節はまだ冬で、外では肌寒いぐらいだった。

しかし春の足音は、すぐそこまで近付いている。

このまま王都に戻る頃には、春の訪れを感じている頃だろう。

その頃には、フィオーナのお腹ももう少し大きくなっている筈だ。

ギルバートは王都に戻る事を、楽しみにしていた。

しかしその先には、再び王都を離れなければならない。


一行は食事を済ませると、王都に向けて先を急ぐのだった。

まだまだ続きます。

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