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聖王伝  作者: 竜人
第十二章 妖精の故郷
382/800

第382話

ギルバート達は、翌日は朝早くから起きていた

眠気は強かったが、身体の方は元気だった

恐らく眠気に関しては、妖精郷に入った事で時間の感覚が狂ったのだろう

一晩ゆっくり眠ったので、感覚は正常に戻っている筈だ

朝の新鮮な空気を吸って、ギルバートは宿の入り口を出た

ギルバート達は食事を済ませると、各々の仕事に出向く事にする

兵士達には出立の準備を頼み、ギルバートとアーネストは領主に会いに行く

その間に、セリアは兵士に任せる事にした

町の住民はセリアを知っているし、住民は安心して話せる

依然にこの町の復興を手助けしたので、住民達の事はよく知っているのだ


「それでは私は、アーネストと領主に会って来る」

「はい

 セリア様の事はお任せください」

「うん

 セリアは良い子にしてるね」

「ああ

 しっかり頼むぞ」


ギルバートはセリアの頭を撫でると、アーネストと一緒に領主の館に向かった。

館は以前に、ギルバートが住んでいたアルベルトの館の跡に建てられている。

ギルバートがここを発つ時には、まだ建てられている途中だった。

今では併設された迎賓館も完成して、すっかり領主の館らしくなっていた。


「うん

 しっかりとした建物に仕上がっている」

「しかし…

 アルベルト様の時とは違った雰囲気だな」


建物は砦の様な感じから一新して、洋館をメインにしている。

その脇に迎賓館が建ち、さらに周りに警備兵の宿舎と騎士の宿舎が建っている。

住民が避難する砦は、その隣に新たに建てられている。

アルベルトと違って、オウルアイは貴族らしい面もしっかりと持ち合わせているのだ。


「如何にも貴族らしい、立派な洋館だな」

「ああ

 しかし魔物の被害が抑えられているから、この方が好ましいのだろう」

「ふうん…」


オウルアイの町は、精霊の加護を受けている。

セリアが居る時ほどでは無いが、ここを気に入って住み着いてくれたのだ。

だから畑や水路を探せば、精霊の姿を見掛ける事もある。

この町では、人と精霊が良好な関係を築いているのだ。


「上手く精霊が溶け込んでいるんだな」

「ああ

 セリアが住民達の前で見せたからな」

「危険な事を…」

「ああ

 しかし当時は、そんな事を言ってられなかったからな」


セリアの力を借りて、町の復興をする。

いう事は簡単だが、なかなか危険で難しい事だ。

しかし移民達が一丸となって働いたので、今日のオウルアイの町があるのだ。


「さあ、着いたぞ」

「おお

 王太子殿下

 お久しぶりです」

「君はあの時の」

「ええ

 そのままここの門番になれました

 これも殿下のおかげです」

「はははは

 君の頑張りでもあるんだよ」


ギルバートは、こんな時には素直に相手を褒める。

そしてその気にさせて、しっかりと仕事を任せるのだ。

こういう所が、ギルバートが領主に向いている点だとアーネストは思う。

しかしながら、当の本人はその事に気付いていない。

そういう意味では、天然の人誑しなのだ。


「領主様に会いに来られたので?」

「はい」

「それではご案内します」

「おいおい

 門番は良いのか?」

「この町の治安は良い

 門番の必要性は、見張りよりも来訪者の案内だな」

「はははは

 そういう事です

 ですから私には適任なんです」


確かに門番にしては、彼は決して強そうでは無かった。

むしろ人当たりが良くて、来訪者の相手をする方が向ているだろう。


門番に案内されて、ギルバート達は領主の部屋に通された。

そこは執務室になっていて、机の側にはロナルドが立っていた。


「お久しぶりです」

「おお

 これは殿下とアーネスト殿ではないですか」

「お久しぶりですね」


ギルバートの姿を見て、オウルアイ侯爵と孫のロナルドも挨拶を返す。

町は安全だが、もしもの為にロナルドが立っているのだ。


「この前は…」

「半年ほど前ですね

 確か10月に入る頃だったと…」

「そうそう

 王都があんな事になってすぐに、こちらに来られましたよね?

 一体何が起こっていたんです?」

「それについてなんですが…」


ギルバートは目配せして、ロナルドに合図をする。

ロナルドは何となく察して、門番の男に持ち場に戻って良いと告げる。


「分かりました

 何かございましたら呼んでください」


門番の男は、そう言って門の所へ戻って行った。


「メイドも入って来ませんので、これで人払いは十分かと」

「ありがとうございます」


ギルバートは礼を言ってから、話を始める。


「先ずは王都の事ですが…

 巨人に襲撃されました」

「何と…」

「巨人ですか?」

「ええ

 巨人に北の城壁を壊されまして…

 国王様もその襲撃で…」


巨人と聞いて、ロナルドも驚いていた。


「巨人だなんて、物語の話かと…」

「それに国王様が亡くなられただなんて…

 それでは王都は?」

「ええ

 大きく混乱しまして、多くの住民が亡くなりました」

「そんな…」


王都の惨状を聞いて、オウルアイ侯爵も言葉を失う。


「巨人だけではありません

 魔王も居ましたし、死霊も襲って来ましたからね」

「そんな…」

「それで殿下は?」

「ああ

 私は魔王に負けましてね

 命は助かりましたが…」

「それはそうでしょう

 いくら殿下がお強いと言っても、相手は魔物の王でしょう?

 そんな者と戦うだなんて」

「これ、ロナルド」


オウルアイ侯爵は窘めるが、ロナルドには悪気は無かった。

むしろギルバートを心配して、魔王と戦うなんて無茶だと思ったのだ。


「それでここに来た理由ですが…」

「おお

 そうですな」

「先日の時は補充だけ済ませて、北に向かわれたそうですね」

「ええ

 北の森に用がありまして」

「北の森?」

「はて?

 あんな所に何かありましたか?」

「採石場ぐらいしかありませんが…」


ロナルドも頭を捻るが、何も思い付かなかった。

それもそうだろう。

あそこに妖精郷があるだなんて、ギルバートも知らなかったのだ。


「以前に砦や集落があった場所なんですが…

 そこに精霊の住む場所があります」

「精霊ですと」

「そんな場所があるんですか?」

「ええ

 私も最近になって聞いた場所でして」

「しかし殿下

 そんな場所にどういったご用件が?」


「それがですね

 実は魔王と戦った際に、ちょっとやられましてね

 黒い魔力の影響を受けまして」

「黒い魔力…ですか?」

「ええ

 それを癒す為に、精霊の住まう妖精郷を探していたのです」

「なるほど…」

「それで妖精郷?

 そこを探していたんですね」


ギルバートが妖精郷を探していた事を、侯爵は納得した。

しかしそれから、半年近くも時間が経過していた。

今ここに来た理由を、侯爵は疑問に思っていた。


「しかし

 それでは半年もの間、殿下はどちらにいらしてたんです?

 外は冬でしたんですぞ」

「そういえばそうですね」

「ええ

 それが人払いしてもらった理由です」

「何ですと?」


「妖精郷ですが…」

「時間の流れが違う

 分かり易く言うなら、向こうでの1日がこちらでの1月ぐらいです」

「何ですと!」

「それで暫くお見えにならなかったんですか?」

「ああ、うん

 向こうでは数日ぐらいしか居なかったんだ」

「信じられません…」

「そうですね

 こうしてお話を聞いても、まだ信じられませんね」

「ですから人払いまでしたんです

 迂闊に踏み込めば、そこで時間が過ぎてしまいます」


ギルバートは、アーネストに説明してもらったので、話が楽になった。

アーネストとしても、ギルバートが下手な説明をすると、信憑性が下がると判断したのだ。


「それはまた…」

「危険な場所ですね」

「いえ

 むしろ安全な場所なんですよ

 四大精霊が守っていますし」

「おい

 侯爵が申したいのは、入るのが危険だって事だ」

「あ…」


「はははは

 確かに安全そうですね

 その時間の問題が無ければ」

「ええ

 住民達には、迂闊に迷い込まない様に注意しましょう

 差し詰め精霊様への不敬になるので、変に探さない様に伝えましょう」

「うむ

 その方が差し障りが無さそうじゃな」


侯爵側の判断が着いたので、この話はここまでとなった。

下手に詳しく話すと、ギルバートの問題にまで踏み込む事になる。

出来ればそれは、侯爵には話さない方が良いという判断だった。


「それで、精霊達からの要望なんですが…」

「精霊様ですか?

 何か問題でもありましたでしょうか?」

「いや

 問題では無いのだが…」


ギルバートは、アーネストの方をチラチラと見る。

アーネストは溜息を吐きながら、説明を代わった。


「精霊なんですが、大分人間とは仲良くしていると思います」

「それは…」

「ここオウルアイでは、女神様への信仰と共に、精霊様への祈りも絶やさない様にしております

 ここが栄えているのも、偏に精霊様のご加護があるからです」

「そうですね

 ここには精霊の力が満ちていると思います」

「ええ

 子供達は精霊に話し掛けて、仲良く暮らしています」

「そう、それです」

「え?」

「ん?」


「精霊達は、人間と仲良くしたいのです

 ですから話し掛けて、声を聞かせてあげてください」

「ほう…」

「なるほど

 しかし精霊への敬意が…」

「それに関しては、むしろ親しみを込めて話し掛けた方がよろしいかと

 精霊達は、人間の喜びや感謝の気持ちを喜んでいました

 ですから下手に畏まらずに、親しみを込めて喜びを伝えてください」

「分かりました

 住民達にはその様に伝えましょう」

「精霊様への感謝か

 それなら祭りなどよろしいでしょうか?

 いつぞやの雪の精霊の様に…」

「良いですね

 それは喜びそうです」

「精霊に感謝する祭りか

 それは一緒になって、喜んで参加するだろうな」


精霊の話しに、ロナルドはいつぞやの冬の祭りを思い出した。

そしてその祭りを、年間行事にする事にした。

冬の雪の祭りもだが、他の精霊に感謝する、そんな楽しい祭りだ。


精霊に感謝して、住民と共に祝う。

そんな祭りを、オウルアイの行事の一つとして行う。

そんな事が決まった。


「いつがよろしいでしょうか?」

「そうだなあ…

 さすがにこの時期は難しいだろう」

「そうですね

 住民達の半数は、農民ですから

 春の種蒔きが終わった時か、秋の収穫祭がよろしいかと」

「収穫祭は女神様に捧げる祭りじゃ

 するなら種を蒔き終わった後に、豊作を祈願する時に一緒にするのはどうじゃ?」

「良いですね

 それで行きましょう」


「良かった

 これなら精霊達も喜ぶし、住民達も精霊に親しみが持てるだろう」

「ええ

 祭りとなれば、子供達も喜びます

 それが精霊様の事となれば、それだけ精霊様に関心も持ちそうですね」


精霊に感謝と友好の祭りを行う、そう取り決めが出来てギルバートも安心した。

そしてそれを、王都でも提案しようと思った。

今はまだ、立て直しに忙しくて難しいだろう。

だが、だからこそ、住民達に息抜きとしての祭りは良い事だと思われた。


「アーネスト

 王都でも行えるか?」

「うーん

 今は復興の途中だろうからな…」

「だからこそ、収穫を祈願して祈りを捧げる

 それに息抜きにもならないか?」

「ああ…

 そういう事なら良いかもな」

「ああ

 王都に戻ったら、さっそくバルトフェルド様に話してみよう」

「その前に、お前はまだ用事があるだろ」

「うーん

 それは…」


「殿下?

 王都には戻られないんですか?」

「いや

 一度戻るが…

 実はまだ完全には癒えていないんだ」

「何と!」

「それでは?」

「ええ

 今度は王都の東、旧帝国跡地に向かいます」

「帝国跡地ですと?

 あそこは危険です」


一部の貴族は、帝国跡地を危険だと判断していた。

そこには旧帝国の貴族達が、未だに遊牧民として活動を続けている。

帝国を滅ぼした原因の一つである、独立した王国の王太子が向かえばどうなる?

たちまち捕まって、見せしめとして殺される可能性があった。


「危険ですぞ」

「そうですよ

 まだ帝国の残党が居ます

 殺されに行く様な物です」

「しかし危険でも、行くしか無いんです」

「ギルの…

 ギルバートの病は完全に治っていません

 そこに行く必要があるんです」

「ううむ…」

「お爺様」

「いや

 ワシ等に止める資格は無い

 それに…

 バルトフェルドも止めれんじゃろう

 何せ殿下の命が掛かっておるのじゃからな」

「しかし…」


ロナルドは心配して、止めたいと思っていた。

しかし侯爵は、仕方が無い事だと思っていた。

問題の黒い魔力とやらが、未だにギルバートを侵しているのだ。


「殿下

 東に向かうのでしたら、どうかロマノフの名を継ぐ者をお探しください」

「ロマノフ?」

「ええ

 帝国の皇帝の血筋です」

「お爺様

 それは危険では?」


「いや

 彼の一族なら、話し合いで済ませるだろう

 何せロマノフの一族は、帝国の支配に疑問を持っておった」

「皇帝の一族なのに?」

「ええ

 あなたのお父上も、実はロマノフの血筋です」

「え?」

「何だって?」


「分家には当たりますが、ハルバート様はロマノフの血を受けております

 ですからハルバート様の名を出せば…

 あるいは」

「多少は友好的かも知れないと?」

「はい

 他の氏族では、相当恨まれている可能性もございます

 どうか迂闊には、ご自分の名は出さないでください」

「分かった

 助言をありがとう」

「なんの

 単なる年寄りの独り言です」


オウルアイは、昔のハルバートを知る者の一人だった。

そうした事から、友好的になれそうな者を知っていたのだ。

ギルバートは侯爵の助言を、ありがたいと思った。

これから向かうであろう場所は、まさに敵国の跡地なのだ。


「殿下

 私に手助け出来る事は…」

「そうですね

 ロナルド様はここを守ってください

 私は病が癒えるまでは、国政に関われません」

「そうですね…

 分かりました

 外国から攻め込まれない様に、この町は私が守ります」

「ええ

 頼みましたよ」


その後も暫くギルバートとアーネストは、領主の館で話をした。

そして今話せる事は、全て伝えれたと思う。

後はこのまま、王都に帰還するだけだった。

二人はそのまま、宿に向かって帰って行った。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

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