第380話
今回はおふざけ回です
本編とは…あまり関係無いです
読み飛ばしていただいても問題ありません
嫌いな方は気にせず、次のお話から読んでください
それはギルバート達が、オウルアイの町に帰って来た時の事である
ギルバートとアーネストは、領主であるオウルアイに会いに行っていた
その間だが、セリアの世話を兵士達に頼んでいた
これはその間の話である
「ふんふんふ~ん
ふんふんふ~ん」
セリアは上機嫌で、オウルアイの町を歩く。
後ろには護衛に、3人の兵士が着いて来る。
彼等は只の一兵士で、名前も憶えられていなかった。
便宜上彼等を、兵士A、B、Cと呼ぶ事にする。
兵士Aは、小柄で落ち着いた兵士だった。
兵士Bは、背は高いが痩せていて、見るからに気弱そうな兵士だった。
最後の兵士Cは、見た目は強そうだったが、実は臆病だった。
このオウルアイの町に、セリアは依然暫く住んでいた。
だからギルバートは、この町での護衛は不要だと考えていた。
しかしギルバートの婚約者でもあるので、一応護衛は着いていた。
だから護衛に選ばれた兵士は、そんなに実力の無い兵士が選ばれていた。
その間に他の兵士達は、町で王都への帰還の準備を進めているのだ。
「セリア様
どこに向かわれるんです?」
「んとね
セリアが前に住んでいたお家だよ」
「セリア様のお家ですか?」
「うん
あそこだよ」
セリアが指差したのは、以前に住んでいた丘の上の家だった。
そこにはセリアが育てた庭園があり、そこには精霊が集まっている。
セリアはそこに居る精霊達に会いに来たのだ。
「みんな
セリアが来たよ」
セリアが話し掛けると、地面から小人が現れる。
それはノームを一回り小さくした、可愛らしい小人達だった。
続いてそよ風が吹き、半透明な小さな妖精達が現れる。
それはシルフに似た、風邪の妖精達だった。
「みんな
元気にしてた?」
セリアは精霊達に囲まれて、嬉しそうに頭を撫でていた。
その様子を見て、兵士達の顔も緩んでいた。
「可愛いな」
「ああ
オレ達の女神様だ」
「おい
さすがにそれは、不敬だろ」
「いや
それぐらいじゃあ女神様も怒らんだろ」
兵士はそう言いながら、緩んだ顔でセリアを眺めていた。
次にセリアは、庭園の横に流れる水路に向かう。
そこで靴を脱ぐと、そのまま素足で水路に入った。
「あ!
セリア様」
「さすがにそれは…」
「危なくないですか?」
セリアは嬌声を上げながら、冷たい水に入った。
今は季節は冬である。
普通なら、そんな事をすれば凍えてしまうだろう。
いや、そうで無くても、冷たさで心臓が止まるかも知れない。
「きゃははは
冷たいよ」
しかし精霊の加護が働いているので、水もそこまで冷たく無い。
それに気が付けば、周りの空気も穏やかな温かさに変わっていた。
まるで春の陽気の様に、暖かな日差しが差し込んでいた。
「あれ?
寒く無いぞ」
「本当だ」
「水もそこまで冷たく無いぞ」
兵士Cが、恐る恐る水に手を浸けてみる。
しかし水は、思ったほど冷たく無かった。
「不思議だ…」
「まるで春の陽だまりの様だ」
「分かった
これが精霊の加護の力なんだ」
兵士Aが、何かを納得した様に頷く。
「精霊の加護だって?」
「それは魔物を寄せ付けない…」
「いや
殿下が仰っていたんだ
魔物を追い払う効果もあるが、元々は精霊の加護は、過ごしやすい場所を作る為にあるって」
「過ごしやすい場所?」
「ああ
妖精の森って、森の貴人達が住んでいた場所があったんだって
ほら、精霊様も仰っていただろ?」
「そういえば…」
兵士達も真面目に聞いていなかったので、細部は忘れていた。
しかし精霊とギルバート達の会話に、その様な言葉は出ていた。
「精霊様の力を借りて、美しい森があったんだって
昔話にも出て来ていただろう」
「いやあ
オレは知らないな」
「そうだよ
お前は南の森で育ったんだろ?
オレ達は王都育ちだから、そんな昔話は知らないよ」
「そうかなあ
結構有名な話だと思うんだけどな…」
確かに、兵士Aが言う様に、有名な子供に語る物語はある。
そしてその一つに、戦士カイザードの冒険という物語がある。
その中の一節に、森の貴婦人との恋物語がある。
しかしそれは、王都の様な都会では話されていなかった。
たとえ話に出す様な、深い森が近くに無かったからだ。
「カイザードの冒険に、森の貴婦人の話があるだろ?」
「いや、だから知らないんだって」
「そうだよ
お前の話す物語の幾つかは、オレ達が知らない話なんだ」
「そうなのか?
うーん…」
兵士Aは納得出来なかったが、知らないなら例えには使えない。
兵士Aはどう説明しようか、困って頭を悩ませた。
「兎に角
そこは年中春の様な陽気で、水も綺麗なんだ
そして作物も良く育って、平和な場所なんだ」
「何だよそれは
それじゃあ約束された女神様の楽園じゃあないか」
「そう!
それだ!
経典に出る、女神様の楽園
そこみたいな場所を作り出せるんだ」
「ふうん…」
「へえ…」
兵士Aは興奮していたが、他の兵士は興味無さそうだった。
確かに魅力的な話だが、あくまでも物語の話だ。
現実にそんな事が、起きるとは思っていないのだ。
「どうせ物語の話だ
どこまで信用出来るか」
「そうだな
便利そうだけどな…」
「お前らなあ…」
「それより見てみろよ」
「ああ
美しい…」
「そう…だな」
セリアは水路で、水から生えた様な精霊達と遊んでいた。
水を掛け合ったりして、陽光に反射する耀きが、セリアを幻想的に映し出す。
「可愛いな」
「ああ
尊い…」
「あの方を守るのが、オレ達の使命だ」
「そうだな
絶対にこの命に替えても…」
兵士はセリアの姿に、鼻の下を伸ばして見惚れていた。
格好良い事を言っているが、現実は少女を見て鼻の下を伸ばすおっさんの集まりだ。
しかもセリアは、水が掛かって服が透けて見えていた。
傍から見れば、水浴びを除くおっさんの集団なのだ。
だから彼等は、女性には人気が無かった…。
「ふう…
次に行くよ」
「セリア様
そのままでは…そのう…」
兵士Bは、羽織っていたマントを差し出そうとする。
しかし精霊達が、服の水気を払っていた。
すぐに乾いて、透けていた小さな膨らみも見えなくなる。
「大丈夫だよ
服はすぐに乾くから」
「え?
あ?」
「そうですか…」
「チッ
残念だ…」
兵士Cのぼやいた呟きが、彼等の心情を現わしていた。
そんな事も気にしないで、セリアは家のドアを開ける。
「セリア様?
そこは誰も居ないんじゃあ…」
「ん?
精霊は居るよ」
「そりゃあそうでしょうが…」
セリアは家に入ると、厨房の竈に向かった。
そこで誰かに呼び掛ける。
「出ておいで」
「え?」
「危ない」
竈の中から、弾け出た火の様な紅い何かが出て来た。
兵士Cは思わず、セリアの前に飛び出した。
それは赤い火の玉の様な、火の塊だった。
「熱っつ!
…くない?」
「おい!
大丈夫か?」
「気持ちイイ~」
「は?」
「へ?」
兵士Cは、紅い火の玉に纏わり着かれていた。
しかしその火は、彼を燃やす事は無かった。
考えてみれば、セリアに飛び付こうとしていたのだ。
そんな彼等が、セリアを傷つける事をする筈が無いのだ。
「気持ち良い
まるでメリアちゃんの蝋燭の様だ」
「はあ?」
「ちょ!
おま!」
兵士Cは恍惚として、火の熱さを楽しんでいた。
精霊達は、火傷しない程度の温度を維持していたのだ。
しかしその顔は、困惑して困っていた。
「え?
気持ち良いって…」
そんな彼の様子に、セリアも顔を引き攣らせる。
「おい
そこまでにしておけ」
「そうだぞ
お前のみっともない性癖を、セリア様に見せるんじゃあ無い」
兵士Aと兵士Bが、思わず兵士Cを引き離す。
彼は恍惚としたまま、竈の前から引き離された。
「性癖って…なに?」
「い、いやあ…
はははは…」
「セリア様が知る必要が無い事です」
「ふうん…」
セリアはジト目で、兵士達の様子を見る。
兵士Cも、興奮から醒めて顔を赤らめて、もじもじとしていた。
「おじさん達…
なんかキモイ…」
「ぐはっ!」
「すいませんすいませんすいませんすいません…」
「セリア様
キモイのはこいつだけで…」
「ふうん…」
しかし今度は、兵士Bが恍惚とした顔をしている。
「ああ
その顔で罵られるの…イイ…」
「おい!
帰って来い」
「そうだぞ
さすがにそれはマズいぞ」
「うげえっ
気持ち悪い」
しかしセリアの言葉に、兵士Bは益々興奮する。
そして恍惚とした表情で、身体をビクンビクンと痙攣させる。
「バカ」
「いい加減にしろ」
「はあっ
もっと罵られたい…」
「このっ!」
「いい加減にしなさい
もう」
セリアは怒って、地面に向けて手を振るった。
「そこで反省してなさい」
セリアの言葉を合図に、地面から無数の蔦が伸び出す。
それは兵士達に向かって、ゆっくりと伸びて行く。
「セ、セリア様
それはマズいです」
「うるさ~い
そこで反省してなさい」
セリアはぷんすか怒って、家の外に出て行った。
兵士達は蔦に絡まれて、ゆっくりと拘束される。
さすがに反省させる為なので、キツく縛る事は無かった。
しかしその事が、却って兵士Aを興奮させていた。
「あ…
ああ…」
「おい
変な声を出すなよ」
「あふっ
この絶妙な縛り具合が…」
「おい
ジェシカちゃんの縛りプレイじゃ無いんだから…」
今度は兵士Aが、縛られて恍惚としていた。
そんな兵士を見上げて、精霊達も呆れた顔をしていた。
罰を与える様に指示されていたが、却ってご褒美になっていたのだ。
それから少しして、三人は解放された。
そして家の前で説教されるのだが…。
再び一人が恍惚として、トロンとした顔をしていた。
「まったくもう!
気持ち悪いよ」
「すいません…」
「申し訳ありません」
「はあはあ…」
「熱いのや縛られるのが好きって…
性癖って何なの?
その人みたいになる事?」
「いや…」
「それは…」
兵士AとCが、困った様な顔で兵士Bを見る。
彼は説教されているのに、最高のご褒美を頂いた顔になっていた。
「あまり良い事では無いので…」
「そうですよ
知られたくない事ですから」
「ふうん
その割には…」
「まあ、セリア様が可愛いので、こいつも我慢出来なかったのでしょう」
「そうですよ
そんな可愛いらしい顔で罵るなんて…」
「おい…」
「いい加減にしろ」
さすがにこれには、兵士AとCもドン引きしていた。
しかし彼等も、あまり良い性癖では無いのだ。
「お兄ちゃんに言いつけてやる」
「それだけはご勘弁を」
「お願いします」
「はあはあ…」
「もう
人前ではしない?」
「それは…」
「そのう…
気を付けます」
「はあはあ…」
「むう…」
セリアは呆れて、引き攣った顔で兵士を睨む。
しかし却って、兵士Bは興奮していた。
「オレ達はセリア様をお守りしたいんです」
「そうですよ
あなた様を守る為に、この命を掛けたいんです」
「本当に?」
「ええ」
「この命に替えましても」
「はい
あなた様を守りたいんです」
「お兄ちゃんも?」
「それは…」
「殿下はお強いですし」
「オレ達では却って、足手纏いになります」
「ふうん…」
セリアはジト目で見ながらも、何とか考えをまとめようとする。
しかし子供の状態なので、そこまで深くは考えられない。
取り敢えず、気持ちが悪いところはあるが、そんなに悪い人達では無い。
それにセリアの事を、本気で守ってくれようとはしている。
「分かった
でも…
こんな変な事はしないでよ」
「はい!」
「気を付けます」
兵士達が反省しているのを見て、セリアは何とか我慢する事にする。
これ以上何か言っても、またはあはあするだけだろう。
「精霊に変な影響を与えないと良いけど…」
「すいません…」
兵士達が揃って頭を下げるので、セリアは一応許す事にした。
しかし性癖という言葉は、気になっていた。
そこでギルバートと合流した時に、改めて聞いてみる事にした。
それから夕刻になり、セリアは領主の館に向かった。
後ろには先ほどの兵士が、他の兵士達と一緒に居た。
「お兄ちゃん」
「おう
町の様子はどうだった?」
「うん
精霊さんはみんな元気にしてたよ」
「うん?
そ、そうか…」
てっきり町の散策をしていると思ったが、精霊と遊んでいたらしい。
そう思ったギルバートは、セリアの頭を撫でていた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「性癖ってなあに?」
「な!」
ギルバートの顔が、思わず引き攣る。
「お兄ちゃんの性癖って、セリアの頭を撫でる事?」
「な…」
キッとギルバートは、兵士達の方を睨む。
兵士達は三人の兵士を囲んで詰問を始める。
「お前達なんて事を…」
「そんなご褒美をもらうなんて、羨ま…けしからん!」
「吐け!
一体何をしたんだ!」
それをジト目で睨み、ギルバートはセリアの方を向く。
「セリア
それはもう少し大人になって…」
「セリアの方が本当は、大人なんだよ」
「それはそうだが…
ううむ」
「言い難い事なの?」
「そうだな
人前で話す事じゃあ…無いな」
「うーん
分かった」
そんなセリアの頭を、ギルバートは優しく撫でる。
後で兵士達には、キツく指導しようと思いながら。
この日の事で、セリアの親衛隊の結束が強まった。
それがどういう理由かは、ギルバートは知らない。
しかし兵士達は、より強い結束を生み出す事に成功した。
それは聞きだした、ご褒美の効果なのかもしれない。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。
今回はおふざけの閑話です。




