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聖王伝  作者: 竜人
第十二章 妖精の故郷
379/800

第379話

ギルバート達は、オウルアイ領にある妖精郷に来ていた

ギルバートが侵されている、黒い魔力を浄化する為だ

しかし光の精霊が居ないので、キチンとした浄化は出来なかった

次は光の精霊を探しに、王国の東に向かわなければならない

そこにある、帝国の跡地で勇者を探す必要があるのだ

光の精霊は勇者に着いているらしいのだ

妖精郷でセリアが休んでいる間に、ギルバートは精霊と話していた

精霊の話を聞いて、彼等と人間の間に起こった出来事を知ったのだ

過去の人間の行いが、精霊の怒りを買ったのだ

人間の国が滅びた原因は、その出来事が原因であった


「う…ん」

「お前達が騒ぐから…」

「起きちゃったよ」

「…」


兵士達が馬鹿騒ぎをしていたので、セリアが起きてしまった。

兵士達は慌てて、話をするのを中断した。

内容が内容だったので、セリアに聞かれる訳にはいかなかった。


「女王様

 お加減は?」

「うん…

 少し眠ったから、大分回復出来たよ」

「そうですか」

「それならもう、隧道に出ても大丈夫かな?」

「うん」


セリアの力が回復したので、そろそろ戻れそうになっていた。


「それでは女王様

 こちらの果物をどうぞ

「ありがとう」


ノームが木の実を集めて、セリアに献上する。

それをセリアは食べながら、足をぶらぶらしていた。


「みなさんもどうぞ

 体力と魔力が回復しますぞ」

「ありがとう」

「助かります」


ノームはギルバート達にも、果物を持って来てくれた。


「なあ

 これは外の世界でも作れるかい?」

「ええ

 ですが回復効果は、ここで作られたほどではありませんよ」

「そうだね

 わたし達の力が宿っているから

 外では精霊に作ってもらわないと」


中には珍しい果物もあったが、回復効果はここだけの物らしい。

果物の中には、酸っぱい酸味の強い物もあった。

酸味がほど良くて、眠気が冷める感じがする。


「良かったら幾つかお持ちください」

「良いんですか?」

「ええ

 女王様も召し上がるでしょうから」


ノームは兵士が用意した革袋に、果物を詰めてくれた。

それを馬車に積み込んで、出発の準備が整った。


「どうするの?

 このまま町に戻るの?」

「そうだな

 森を出たら一旦、オウルアイに向かいたい」

「精霊の話をしておきたいな」

「分かった」


準備が整い、ギルバートも馬車の前に移動した。


「今回は助かりました」

「いえ

 人間の手助けになったのなら、私達も嬉しいです」

「そうじゃのう

 久しぶりに人間に会えたからのう」


「いつかまた来れましたら、是非ごあいさつに…」

「いや、構わんよ」

「そうだよ

 子供達に声を聞かせてくれたら、それが私達にも届くから」

「そうだとも

 ワシ等の子供達をよろしく頼む」


「分かりました

 王都に戻りましたら、必ず伝えておきます」

「頼んだぞ

 人間の青年よ」


「私はギルバート

 ギルバートと申します」

「うむ

 ギルバート

 覚えておくぞ」

「そうね

 人の子は定命で、その生は短いけど

 あなたにはまた会えそうね」


「オレはアーネストと申します」

「うむ

 お前には精霊の声を聴ける素質があるな」

「機会があれば、ここに来なさい」

「精霊と会話する方法を授けよう」

「え?

 良いんですか?」

「ダメだよ!」


アーネストが精霊と対話する方法を教えると言われて、手放しで喜ぶ。

しかしセリアもギルバートも、そんなアーネストをジト目で見ていた。


「フィオーナはどうする?」

「え?」

「そうだよ

 お姉ちゃんを放っておくつもり?」

「あ…」


「ふむ

 人の世の…シラミじゃったか?」

「違うでしょ

 し・が・ら・み」

「そうそう

 しがらみじゃったな」


「うう…

 残念ですが、私には愛する妻と子供が…」

「そうか

 しかしお前の子供か…」

「シルフ

 あなたなら見えるのでは?」

「うーん

 ちょっと待ってて」


シルフは童顔の可愛らしい顔を歪めて、目を瞑って集中する。


「う…ん

 あと少し…」

「どうじゃ?

 見えそうか?」

「黙ってなさい

 集中が乱れます」


ノームを叱りながら、ウンディーネが心配そうに見守る。


「見えた!

 キタキタキター!」

「どうじゃ?」

「うん

 この子で間違い無いね

 確かに同じ波長の子供が、女の子のお腹の中に見えるわ」

「おお

 無事に育っておる様じゃ」

「ここから見えるのか?」

「フィオーナ?

 子供を妊娠してる?」


アーネストはフィオーナのお腹に子供が居ると聞いて、改めてソワソワし始める。

セリアにそれとなく聞いていたが、無事に大きくなっていると聞いて落ち着けなくなったのだ。


「大丈夫だよ

 近くには精霊が居るから」

「それは…

 うん、分かっているんだけど」

「何かあったら守ってくれるから」

「何かあったら困るんだが…」


「シルフ

 すまないがその子供に…」

「うん

 分かってる

 まっかせなさーい!」

「大丈夫かのう…」

「ん?

 何をする気なんだ?」


ノームがシルフに頼んで、お腹の子供に何かをしようとした。


「よし

 これで大丈夫!」

「ふむ

 シルフに頼んでな

 お前さんの子供に祝福を授けた」

「祝福?」


「ああ

 精霊に認められた子供達には、四大精霊から祝福が授かる」

「わたしの祝福は、足の速さだよ」

「へえ…」


「それだけじゃあ無いぞ

 今なら何と!

 生まれながらに精霊と会話が出来る特典付きじゃ」

「ええ!」

「それは素直に羨ましい」


精霊の祝福は、本来は妖精の森で行われていた。

そこはエルフが治める地で、穏やかな気候に恵まれる。

しかし魔導王国や帝国の行いで、そんな妖精の森のほとんどが失われていた。

だから今回は、特別に子供である精霊を通して祝福を与える事にしたのだ。


祝福自体は、産まれて数ヶ月までの子供に与えられる。

今回はお腹の中の子供だけれど、精霊がお腹に触れて祝福を与える。

それは上手く行って、無事に子供に祝福が与えられたのだ。


「あ!

 しまった

 祝福の影響で、お母さんの方にも声が聞こえる様になっちゃった」

「え?」

「何じゃと」

「それでは精霊の声が…」

「うん…

 聞こえたみたい

 キョロキョロしてる」


しかしお腹の中の子供に与えたので、母体にも影響が出ていた。

精霊言語までは使えないが、声は聞こえる様になっていた。

だからフィオーナは、急に聞こえ出した声に戸惑っていた。

近くで見ていたジェニファーが、心配そうに娘を見詰める。

妊娠の不安から、おかしくなったのでは疑っているのだ。


「マズいわね…」

「うーむ」

「こちらの言葉を伝えられますか?」

「え?

 出来るけど?」

「それじゃあ…」


アーネストは無事に妖精郷に辿り着き、そちらの様子を見ている事を伝えた。

そしてこれから帰るので、子供の出産に間に合うか微妙だとも付け加える。


「分かったわ

 そう伝えるね」

「お願いします」

「…」


「あ!

 喜んでる!」

「良かったのう」

「あら?

 この子の母親かしら?

 一緒にありがとうって言ってるわ

 うふふふ」

「ジェニファー様も居たのか

 良かった」

「…」


ジェニファーとフィオーナが喜んでいる様子に、ギルバートは何とも言えない顔をする。


「ふむ

 お前さんを覆っておる精神は、その娘達の親族じゃな?」

「え?

 はい…」

「ふむ

 真っ黒じゃった精神に、少しだけ光が差しておる

 良い傾向じゃ」

「は、はあ…」


ジェニファー達の事を聞いて、ギルバートだった者の魂が、少なからず安らぎを覚えた様だ。

それの影響なのか、ギルバートの心にも暖かい何かが流れて来る。


「無理をしないで、無事に帰って来てって」

「そうか…」

「良かったわね」

「ああ

 ありがとう」


「ふふふ

 あの子の喜びを感じられて、わたし達も嬉しいわ」

「そうですね」

「これでその子供が育てば、お前さんも話せる様になるじゃろう」

「へ?

 あ!そうか!」

「ああ

 子供と一緒に学びなさい」

「そうすれば覚えられるじゃろう」


「これは素晴らしい贈り物だ」

「何て言ったら良いのか…

 本当にありがとうございます」


「良いんじゃ

 ワシ等はその感謝の言葉が嬉しい」

「そうですよ」

「この子が大きくなったら

 わたし達の子供達といっぱいお話ししてね」

「ええ

 必ず」


「さて

 あの子達も帰してあげないと

 じゃーね

 バイバイ」


この時に、シルフは一つのミスをしていた。

精霊を通して、彼女の言葉を伝えていたのだ。


フィオーナは妊娠から来る不安と、夫か無事か心配していた。

傍らにはジェニファーが座って、幼児用のおむつや靴下を編んでいた。

娘の不安が伝わって、近くで見守っていたのだ。


そんな時に、突然不思議な現象が起こった。

突然フィオーナのお腹が蒼白く輝くと、フィオーナも全身が輝きだした。


「な、何事です!」

「え?

 え?

 あれ?」


フィオーナは大きくなったお腹を押さえながら、驚いて立ち上がる。

それから辺りを見回すと、誰かに語り掛ける様に声を出した。


「誰?

 誰なの?」

「フィオーナ?」

「どこに居るの?

 あなたは誰なの?」

「フィオーナ

 どうしたの?」


ジェニファーは不安になり、娘を抱き締める。

誰も居ないのに、フィオーナには誰かの声が聞こえているのだ。

いや、正確には聞こえていると思い込んでいるのだろう。

不安や心配に、心が圧し潰されてしまった。

ジェニファーはすっかりそう思い込んでいた。


「え?

 アーネスト?

 そこに居るの?」

「ああ…

 フィオーナ」


ジェニファーは涙を流して、娘を強く抱きしめた。

居る筈の無い夫を、そこに居ると思っているのだ。


「そう

 あなたも精霊様なんですね

 ありがとうございます」

「フィオーナ?」


フィオーナは虚空に向かって、深々と頭を下げた。

ジェニファーは状況を理解出来ず、娘の傍らで固まっていた。


「お母様

 精霊様ですって

 私に話し掛けてくださったの」

「へ?

 ええ?」


「精霊様が、この子に祝福を授けてくださったの

 それで私にも、声が聴こえる様になったって…」

「え?

 ああ…

 そういう事なのね…」


ジェニファーは勘違いだと気付いて、顔を赤くして俯いた。


「お母様

 お兄様達は無事に、妖精郷に辿り着いたそうよ

 アーネストもそこに居るそうなの」

「そうなの

 それは良かったわ」


「それでね

 これから帰って来るそうです」

「そう

 しかしこの子の出産には…」

「ええ

 間に合いそうには無いわね」


それから二人は、虚空に向かって深々と頭を下げる。

知らない人が見たら、二人共気が触れたと思われただろう。

しかし、幸いここは離宮の中だった。

世話するメイドも、今は近くには居なかった。


「ありがとうございます

 精霊様」

「ありがとうございます

 夫には急がなくて良いので、無事に帰る様にお伝えください」


二人が感謝の言葉を伝えると、また何か呟いた様だった。


「フィオーナ?」

「お母様

 精霊様がジャーネって」

「え?」


「この子の事をジャーネって呼んでいましたわ」

「そう

 祝福をしてくださったんですから、名前も当然よね」

「ええ

 この子はジャーネ…

 ジャーネ・クリサリス」

「素敵な名前ね」

「うふふふ」


フィオーナはジャーネと呼び掛けて、嬉しそうにお腹をさする。


そう、二人はジャーネ、バイバイという言葉を、勘違いしてしまったのだ。

それはシルフが、別れのつもりで掛けた言葉だった。

しかしフィオーナは、それをお腹の子供に言ったのだと勘違いしたのだ。


子供が産まれた時、最初は名前を付けられない。

誰々の何番目の子供などと呼ぶ習わしがある。

これは子供の名前が、祝福の際に付けられるからだ。

産まれて数ヶ月、安定した頃に教会に向かう。

そこで女神様に祝福を求めて、その時に浮かんだ名前が授けられる。

それがこの国での、子供の名前になるのだ。


勿論、平民の子供の場合は違っていた。

熱心な教徒は従うが、その他は自分達で適当な名前を付けていた。

しかしここは、聖教王国である。

貴族や王族は、女神様を信じて信仰していた。

だから祝福を授かるという事は、名前を授かるという意味合いもあるのだ。


二人はすっかり信じていて、子供の名前をジャーネだと思っていた。

精霊の祝福には、そんな制度は無いのにだ。

今では精霊信仰は失われていたので、これは仕方が無い事だった。


そんな事になっているとは知らずに、ギルバート達は馬車に乗り込む。

いよいよ妖精郷を出るのだ。

時間にしては2日ぐらいだったと思う。

ここには昼夜の定義が無いので、時間が判らないからだ。


「色々ありがとうございました」

「道中気を付けるんだよ」

「魔物は隧道には出ない

 しかしそこから出たら、近くに魔物が居るかも知れないからね」


「一応出口には、子供達も向かっておる

 しかし、くれぐれも気を付けるのじゃぞ」

「魔物との戦闘は仕方無いけど、興奮しないでよ」

「負の感情は危険だからね」

「はい

 気を付けます」


戦闘で負の感情を持てば、折角浄化したのが無駄になってしまう。

今は護石で抑えているが、黒い魔力はまだ体内に残されているのだ。

ギルバートは、精霊の助言に素直に従う事にした。


「気を付けるのじゃぞ」

「バイバイ」

「あなた達の行く道の先に、希望の灯が灯されん事を」

「今度来る時は、旨い酒を持って来てくれよ」

「おい!

 お前はまた…」


精霊達に見送られながら、ギルバート達は妖精郷を出る。

今まで穏やかで温かった気温が、途端に数度下がった気がする。

妖精の隧道なので、外の影響は少なくなる。

しかしそれでも、この中の気温は下がっていた。


外はすっかり暗くなっていて、雪が舞っているのが見える。

既に月日が経ち、外は冬が訪れていたのだ。


「寒いな…」

「ええ…」

「ブルブルブル

 春から冬に、逆戻りだ」


兵士達は震えながら、慌てて馬具からマント引き出す。

そしてしっかりと羽織ると、隧道を急いで進み始めた。

ここでゆっくりしていると、さらに時間が進んでしまう。

隧道の中も、妖精郷と同じで時間の進みが早いのだ。


さっきまで真っ暗だった道に、朝日の光が差し込む。

その光を頼りに、兵士達は道を急ぐのだった。

まだまだ続きます。

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