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聖王伝  作者: 竜人
第十二章 妖精の故郷
378/800

第378話

妖精郷に辿り着いたギルバートは、治療を受けていた

魔王の狂気に侵されて、体内の魔石に黒い魔力が侵食しているのだ

これは魔石を持つ人間が、負の感情を持つ魔力を吸収して起こる

そして魔石は黒い魔力に穢されて、負の感情に囚われてしまう

ギルバートの事態は深刻で、魔石の中毒症状を起こしていた

水の精霊の力で、何とか症状は緩和された

しかし依然黒い魔力は健在で、ギルバートの身体を蝕んでいた

精霊達は光の精霊を探して、浄化する事を勧める

それまでの間は、ノームの作った護石を身に着ける様に言われた


ノームの作った護石は、ギルバートに精霊の加護を与えていた。

その力を使って、黒い魔力の力を中和するのだ。

しかし精霊の作った護石でも、万能では無い。

ギルバート自身が負の感情を強く持てば、加護の力を失ってしまうのだ。


「良いですか

 護石の力も万能じゃありません

 あなたが負の感情に囚われれば、その力は失われてしまいます」

「負の感情ですか?

 それは護石が駄目になるって事ですか?」

「おい、ギル」


アーネストは意味を察して、ギルバートに注意をした。


「いや

 フィオーナの事がある

 お前に殺意を抱くかも知れん」

「抱くな!

 オレはフィオーナと純粋に愛し合っている」

「そうか?

 しかし少しでも不審な点があるのなら…」

「無い無い!

 しつこいぞ!

 つか負の感情が漏れてるぞ!」

「あ…

 うむ…」


「クスクス…

 面白いですね

 ですがあまり負の感情は貯め込まないでください

 護石は壊れませんが、暫く使い物にならなくなりますよ」

「分かりました

 気を付けます」


ギルバートは深呼吸をして、溜まりかけていた負の感情を追い出す。

それを横目にしながら、アーネストは精霊達に尋ねる。


「しかし精霊って言っても、あまり偉そうにしないんですね」

「え?」

「それはどういう事じゃ?」

「いやあ

 人間からしてみれば、精霊って精霊様とか呼んでありがたがりますし

 もっと威張った偉い存在かと…」

「はははは

 そうじゃのう

 イフリーテなら威張っておるかも知れん」

「おい

 ワシは…」

「砂漠の民から神として崇められておるじゃろ」

「別にワシは…

 ふん」


イフリーテはむくれてそっぽを向く。


「イフリーテは砂漠の民に、神などと呼ばれておる」

「しかし私達は、基本はそんなに偉い存在ではありません」

「そこら中に居るからね」

「はあ…」


「昔は…

 世界中のどこにでも居った

 それこそ人間の身近にもな」

「どうしてここに隠れているんですか?」

「それはのう…」


ノームは穏やかながら、迫力のある顔をする。


「これはお前さん達には直接は関係無い

 しかし過去に人間は、多くの過ちを犯して来た」

「同族の隷属化も目に余りましたがね…

 エルフの民とドワーフが一番酷かった」

「一生働かされて、少しでも逆らったら殺してたもんね」

「ああ

 あれはワシも腹が立った」


精霊達も、人間が行って来た奴隷制度には怒っていた。

特に魔導王国時代の奴隷制度は酷くて、多くの亜人が苦しめられていた。

精霊達は直接関係無いので、怒ってはいないが、獣人達の迫害も相当に酷かった。

人間をペットの様に扱い、這って手を使わずに食事をさせたり、外の小屋に住まわせたりしていた。

その事も含めて、過去の人間達の行いは最悪であった。


「そんな人間から身を守る為に、ワシ等はここに引き籠った」

「精霊の力が使えないとなれば、エルフやドワーフの扱いも変わると思ったのです」

「しかしダメだったね

 エルフは性奴隷にされるし、ドワーフは一生穴倉暮らしだよ

 まったく酷い扱いだよ」

「だからワシは言ったんじゃ

 あいつ等は性根から腐ってるって」

「だからと言って、何も大地を焼き尽くさんでも…」

「そうよ

 あなたのせいで私の力が及ばない土地になってしまったわ」

「そうだよ

 砂漠になるとウンディーネちゃんは困るんだよ」

「砂漠?」


精霊達の言葉に、アーネストは顔を引き攣らせる。

人間の行いに激怒したイフリーテは、魔導王国の都市を一つ、焼き尽くしたのだ。

そこから水の精霊力が失われて、徐々に砂漠化が進んだ。

結果として魔導王国の多くの都市が、人の住めない砂漠に覆われてしまった。

それは歴史書にも、魔導王国の魔力災害として残されている。

しかし実際は、精霊の怒りが引き起こした災害だった。


「魔導王国が滅びた理由が、精霊の怒りだったなんて…」

「おい

 お前知ってたか?」

「いや

 そもそも魔導王国ってなんだ?」

「あれだろ?

 子供が読むおとぎ話の…」


兵士達は暢気に、精霊達の話を聞いていた。

彼等からすれば精霊は、別世界の神様の様な存在だ。

既に話からは、置いて行かれているのだ。


「そんな許せない筈の人間に、何でこんなに良くしてくれるんです?」

「ん?」

「そうでも無いわよ」

「言ったでしょう

 キミ達は別物だって」

「そうだな

 過去は過去だ

 今のお前達には罪は無い」

「そうじゃな

 一部許せん国もあるがな」


ノームはニヤリと、好戦的な笑みを浮かべる。

まだドワーフを奴隷として、働かせる国は残っている。

ノームとしては、それが許せないのだ。


「それにね

 私達は人間と仲良くしたいの」

「おもしろい事をいっぱい教えてくれるからね」

「うむ

 それに供物も助かる

 偶に上手い酒があってな…」

「お前さんはすぐにそれじゃ

 供物なんて必要無いじゃろう

 大切なのは気持ちじゃ」

「そうね」


「人間と仲良くしたい?」

「ええ

 私達の子供達は、世界中のあちこちに散らばっているわ」

「そうそう

 キミ達が来た町にも、わたし達の子供達が居るわよ」

「ワシの子供は居らんぞ…」


「人間が仲良くしたいと思えば、ワシ等は何処にでも居る

 それこそ畑や用水路の中」

「風車小屋にも居るよ」

「私達と仲良くしたい

 その気持ちが大事なんです」

「だからワシは…」

「うるさい

 お前さんの眷属も、竈や炉の中には居るじゃろうが」

「しかしそんなところじゃあ…

 むさいおっさんしか…」

「まあ、子供に火は危険だからね

 キシシシシ」


アーネストは改めて、精霊があちこちに居る事を知った。

それこそ炉の中にまで居ると言うのだ。


「昔はどわあふもな、ワシの声を聞いておったんじゃ」

「そうじゃな

 あの頃が懐かしい」

「でも、人間では精霊の声は聞けないんですよね?」

「いんや、偶に聞ける子は居るぞ」

「それに聞こえなくても、私達は話を聞いています

 大事なのは話し掛けてくれる事

 それが嬉しいんです」

「そだね

 わたしも人間達から、うれしいって感情を教えてもらったよ」

「嬉しい

 感情を教わった時は、ワシ等も嬉しかったな…」


精霊達は目を細めて、過去を振り返る。

人間が仲良くしようと思っていた頃は、精霊も幸せだったのだ。

それが精霊を道具として扱う様になり、その関係は悪化して行った。

人間は精霊を軽く見て、精霊使いである森の民を奴隷にした。

その事が結果として、魔導王国が砂漠に埋もれる原因となったのだ。


「ワシ等も人間と同様、嬉しいという感情はある」

「人間が嬉しいと思えば、私達も嬉しくて幸せな気持ちになる」

「その事はワシも、女神には感謝しておる

 悪い感情は困るがな」

「そうね

 人間が怖がったり気味悪がると、わたし達も良い気がしないわ」


「それは良い感情だと、精霊には良い影響があると?」

「そうね

 あなた達が住んでいる町にも、私達の子供達が居るわ」

「その子達に良い感情を与えれば、ワシ等もそれだけ活発になる」

「そうだね

 そうすれば私達も遊びに来れるし

 作物や水の流れも良くしてあげられる」


「分かりました

 王都に戻りましたら、国民に触れを出させます」

「そうだな

 それにオウルアイにも話しておこう」


精霊に友好的にしようと、アーネストは国民に訴える事にした。

そうすれば作物もよく出来る様になるし、川の氾濫も少なくなるだろう。

もしかしたら、セリアが精霊にお願いしている様な、効果があるかも知れない。

そう考えれば、精霊と仲良くする事は良い事だと思う。


ギルバート達が話し込んでいる間に、セリアは椅子で眠っていた。

ここに入る為に力を使ったので、疲れていたのだろう。

スヤスヤと寝息を立てる姿を、兵士達が優しい顔で見ている。

気が付けば兵士達の、ほとんどがセリアを見守っていた。


「しかし…

 ギル」

「ん?」

「帝国の跡地に向かうとなると、またすぐに王都を発つ事になるぞ」

「それは仕方が無いだろう」

「しかし国王様が居なんだ、本当はお前が国王代理として…」

「大丈夫だ

 今はバルトフェルド様とマーマンが居る

 それに噂話だが…

 フランツが国王代理になるらしいぞ」

「フランツ?」

「ああ

 バルトフェルド様のご子息だが、どうやら姫様と結婚するらしい」


ギルバートはマーリンから、フランツの恋バナを聞いていた。

どうやらフランツの方が熱心で、姫様もそれに応えているらしい。

父である国王を失った痛手で、フランツの熱意に打たれたらしい。


「らしいって

 姫様ならお前の妹だろう?」

「そうみたいだが…

 元々何年も会ってなかったし、王都に来てからもほとんど顔も見て無いんだぞ」

「そりゃそうだろうが…

 で?

 どっちの姫様だ」

「うーん

 聞いた限りではマリアンヌの方みたいだ」

「マリアンヌ様か

 それにしても国王代理ね…

 婚約でもするのか?」

「らしいぞ

 私の病が治らない以上、これ以上国民を待たせられ無いって

 それで近々発表するって話だ」

「そうか…」


国王の代理が擁立されるのなら、ギルバートが急いで治療する必要も無い。

バルトフェルドからすれば、ギルバートが王位に就くまでの繋ぎと考えているだろう。

しかしフランツが居るのなら、ギルバートが居なくても安心出来るとも言える。

現にこの状況も、そういった事があるので許されたのだろう。

そうでも無ければ、下手すれば数年も帰って来れない場所に行かせないだろう。


「それなら急いで帰らなくても…」

「駄目だぞ

 聞いたところによると、フィオーナに子供が出来たって?」

「いや、作るつもりでしたけど、出来たかはまだ分からないぞ」

「ん?

 キャベツ畑に種を蒔くんじゃ無いのか?」

「バ!

 お前そりゃあ子供に説明する嘘で…」

「え?

 嘘?」

「あ…

 いや…」


アーネストが答えに窮していると、兵士達が集まって来る。


「何々?

 殿下は知らないんですか?」

「そりゃあ大人の男女が交わす愛の一時は…」

「おい!

 お前はそっち側じゃ無いだろ

 まだ相手も居ないくせに」

「そんな事は無いぞ

 オレだって娼館に行くぐらいの金は…」

「馬鹿

 それは偽もんの愛だろ

 本物はもっと崇高で尊い…」

「え?

 偽物の愛?

 何だそれは?」


兵士達の言葉に、ギルバートは益々混乱する。


「馬鹿

 殿下に何を吹き込んでいるんだ

 バルトフェルド様にバレたら…」

「そうだぞ

 大体お前、DТだろ」

「うわっ

 それは酷いだろ」

「無いわ~」

「うるさい

 オレだって好きで独り身なんじゃあ…」


兵士達が内輪揉めをしている間に、アーネストはこっそりと耳打ちをする。


「この前にやった本があるだろ

 あれが子供を作るって事だ」

「この前?

 あ!」

「馬鹿

 大きな声を出すな」

「あんな事をしたのか?

 それでフィオーナは…」

「想像するな!」


アーネストは顔を真っ赤にして抗議する。

それを聞きつけて、兵士達は今度はアーネストの周りに集まる。


「何だ

 アーネスト様は艶本は知っているんですね」

「あれは大人の宝物ですからね」

「いや、そんな物じゃあ無いだろ

 そもそも娼館に行くって時点で問題だぞ」

「またまた

 本当はアーネスト様も好きなくせに」

「いや

 オレは違うぞ

 そもそもあの本は、将軍が仕事中に呼んでいたから取り上げた物で…」

「将軍って…ダガー将軍ですか?」

「違う

 オレの叔父に当たる人で、ダーナの将軍をしていた

 ダーナが滅びた時には…」

「あ…」

「馬鹿

 お前な、空気読めよ」


アーネストの様子に、浮かれていた兵士達もしょんぼりと黙り込む。

数人が互いに肘でつつき合い、誰が慰めるか相談する。


「いや、良いんだ

 既に終わった事だし

 おじさんもこんな暗い話にするより、笑ってあげた方が喜ぶ」

「しかし…

 アーネスト様」

「女好きでな、よく娼館にも足繫く通っていた」

「召喚って何だ?」

「殿下

 それは娼館です

 大人の男女が金で、恋愛の真似事をする場所です」

「え?

 ダーナにそんな所があったか?」

「あのなあ

 堂々とやってなかったさ

 酒場で客引きして、上の宿泊部屋で楽しむんだ」

「そうですよ

 王国の法で、買春は違法になります

 こっそりとするから楽しいんですよ」

「こっそりとって、それは違法じゃあ…」

「ギク!」

「馬鹿!」

「オレはしてませんよ

 まだDТですから!」


違法と聞いて、ギルバートは兵士達を睨む。

しかし兵士らの様子から、それは暗黙の了解でされていると察した。

どうやら息抜きぐらいに、そういった遊びは必要なのだろう。


「おじさんはよく行っていたからな

 給料の半分ぐらい溶かすから、止めろって叱ってたんだ」

「ヘンディー将軍か…

 あれ?

 でも将軍は、エレンと結婚して…」

「ああ

 結婚してからはすっぱりと止めたさ

 出ないとオレがバラしていただろうよ」

「ふうん…」


「殿下

 娼館というのは息抜きの為に必要で」

「そうですよ

 大人になれば、仕事の後の楽しみが必要なんです」

「その為にささやかな…」

「分かった分かった」

「あの、それでですね」

「もう分かったって!

 その代わり給料のほとんどをつぎ込む様な使い方はするなよ」

「は、はい…」

「気を付けます」


ギルバートは必死に弁解する兵士達に、呆れた顔をする。

そしてギルバートは、自分は大人になっても、そういう後ろめたい事はするまいと思うのだった。

まだまだ続きます。

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