第375話
病に臥せっている、ギルバートの元へセリアが来た
彼女との話の中で、妖精郷が健在である事が判明する
ギルバートの病を治すには、妖精郷に向かう必要があるのだ
アーネストはギルバートを連れて、妖精郷に向かう事にする
それは再び、オウルアイに向かう旅でもあった
オウルアイの北にある森に、妖精郷の入り口がある
嘗てセリアが住んでいた場所で、魔物が潜む森の中になる
そこに向かえば、ギルバートの病を治せる筈なのだ
アーネストは旅の支度をして、ギルバートを連れて行く事にした
王城の執務室で、アーネストはバルトフェルドと向き合っていた。
謁見の間は国王不在の為に、暫く使われていない。
国王の代行とはいえ、バルトフェルドは執務室しか使っていなかったのだ。
いずれはギルバートが、王の座に着く日が来るだろう。
自分はそれまでの、あくまでも代役に過ぎないと思っているからだ。
「どうしても…
行くのか?」
「はい」
「しかしそうすれば、次にフィオーナ殿と会えるのは数年後じゃぞ」
「分かっております」
「分かっておらんじゃろ」
バルトフェルドは溜息を吐いた。
「お前にとっての数ヶ月も、あの子には数年になるじゃろう」
「それはそうですが…」
「それにな
お前はそのままでも、あの子には数年の月日が経つ
それがどういう事か…」
「そうなんですが…」
それはアーネストも考えていた。
しかし魔物が潜んで居る森で、妖精郷の入り口を探すのだ。
精霊の加護があったとしても、それは危険な事だろう。
とてもじゃないが、彼女を連れては行けなかった。
遊びに行くわけでは無いのだ。
「ここに残る…」
「それは出来ません
ギルはボクの親友です
それに…ボクの魔法が必要な場面があるかも知れません」
「エルリックに頼む訳にはいかんのか?」
「ええ
彼はフェイト・スピナー
女神様の使徒です
本来なら、ボク達と敵対しないといけない身なんです」
「しかしのう…」
「今でも危ない橋を渡ってもらっています
これ以上協力を求めるのは…」
「ううむ」
エルリックの立場からすれば、今でも十分危険な状況なのだ。
女神に滅ぼせと言われた国で、王太子を助けようとしているのだ。
既に見付かっていて、刺客が差し向けられていても不思議では無いのだ。
「バルトフェルド様には大任をお任せしますが…」
「なあに
ワシはあくまで国王の代理じゃ
それに…」
このままギルバートの治療に時間が掛かるのなら、代わりの王が立てられる。
それは一番有力視されているのは、バルトフェルドの息子フランシスカなのだ。
それを思えば、今のこの役割も一時の事でしか無い。
いずれは国王代理として、フランシスカに任せるのだから。
「フランシスカ様は?」
「うむ
今は必死に、国政の勉強をしておる」
「でしたらギルが間に合わなくても…」
「出来れば間に合って欲しいがのう」
フランシスカはまだまだ子供なので、バルトフェルドとしても不安なのだ。
姫の気持ちにしても、一時の気の迷いかも知れない。
国王の代理になる為にも、しっかりと国政を担える様になる必要がある。
それまでは、バルトフェルドがしっかりと代役を果たす必要があるのだ。
「必ずギルを
ギルバート王太子を連れて帰ります」
「うむ
頼んだぞ」
アーネストは一礼をすると、執務室を出て行った。
「はあ…
あの子等には苦労を掛けるのう」
バルトフェルドは、溜息を吐きながらドアを見る。
出来得る事ならば、アーネストにこんな重圧の掛る任務を任せたくは無かった。
上手く行ったとしても、彼には不幸しか残らないのだ。
アーネストが帰って来た頃には、フィオーナは相応の年になっているだろう。
それこそ行き遅れと言われる年齢になっている可能性もあるのだ。
それではあまりにも可哀想だった。
誰かと結ばれて、幸せになる道もあるだろう。
しかしそれでは、アーネストが報われない。
だからといって、長く待ち続けた挙句に、年上の未婚の女性となれば…。
それはフィオーナにとっても可哀想な結果となる。
「一番良いのは…」
今、ここで二人が、別れを決心する事だろう。
しかしそれでは、あまりにもな事だ。
バルトフェルドは頭を振って、思い悩むのであった。
「アーネスト!」
「フィオーナ」
執務室を出て、アーネストはギルバートの寝室に向かっていた。
その途中で、フィオーナがアーネストを呼び止める。
「旅に出る前に、重要な話があるの」
「フィオーナ…」
「今夜…
私の寝室に来て」
「え?」
「必ずよ!」
「あ!
待って!」
フィオーナは顔を赤らめながら、アーネストの前を立ち去った。
アーネストは呆然として、その姿を見送った。
ギルバートを妖精郷に連れて行く旅は、危険な旅になりそうだった。
その為に有志の兵士達と、アーネストとセリアが同行する事になる。
ギルバート達は馬車に乗り、その周りを兵士が護衛する事になる。
騎士達が同行すると申し出たが、それは断られた。
騎士達には、王都を護るという重要な任務があるからだ。
兵士達にはオーガの素材を使った、新しい装備が送られた。
それらの慣らしをしてから、オウルアイへの旅に出る事になる。
そうした準備が勧められる中、マーリンは物憂げにするアーネストに声を掛けた。
「どうしたんじゃ?
先ほどから上の空じゃが?」
「あ!
マーリン様」
「あ!じゃないじゃろう
ワシはずっと前から居ったぞ」
「はあ…」
溜息とも取れる返事をしながら、アーネストは書類を手にする。
「どうしたんじゃ?
悩み事か?」
「ええ…
まあ…」
「ふふふふ
若い者はええのう
どれ
この爺に話してみろ」
「マーリン様」
アーネストはお道化るマーリンを見て、思わず苦笑いを浮かべる。
「若者が思い悩む事じゃ
恋の悩みかのう?」
「はははは
そうかも知れませんね」
「ほっ?
それは是非とも聞いてみたいのう
どれ、話してみなさい」
「マーリン様…」
マーリンはアーネストが、フィオーナと婚約している話を知らなかった。
いや、知らないと言うか、興味が無いので覚えていなかったのだ。
リュバンニや王都の統治に忙しくて、それどころでは無かったのだ。
それがアーネストが思い悩んでいるのを見て、見兼ねて声を掛けたのだ。
「実は…
フィオーナの事です」
「む?
あの娘に懸想したか?」
「懸想って…」
ニヤニヤ笑うマーリンを見て、アーネストは呆れた顔をした。
「ボクはフィオーナと婚約しているんですよ」
「む?
そうなのか?」
「そうなのかって…
一応正式に発表もされたんですが」
「すまんのう
ワシも忙しかったからのう
ほっほっほっほっ」
「ぬう…
この爺め」
ニヤニヤ笑うマーリンに、思わずアーネストも口が悪くなる。
「そんで?
婚約までして何を悩む?
夜這いの掛け方とかか?」
「マーリン様!」
「すまんすまん」
「実は…」
「ふむふむ…」
アーネストは先程、バルトフェルドに言われた事を話した。
「それはバルトフェルドに賛成じゃな
お前はあの子を残して、一人で旅に出るんじゃぞ」
「それはそうですが…」
「それに、娘の気持ちも考えよ」
「はあ…」
「お前が帰って来た時には、あの子はお前より何歳も年を食っておる」
「そんな言い方は…」
「まあ聞け
自分が行き遅れて、しかもお前は若いままじゃぞ」
「ううん」
「どうすれば良いか
それはお前達二人で決める事じゃ
しかしどう進めても、お互いに不幸なのかも知れんな」
「ですが…」
「言い訳はいかんぞ
どんな理由があろうとも、お前がする事はあの子を棄てるのと同義じゃ」
「はあ…」
アーネストは思ったよりも、事態が深刻だと気が付いた。
それを見兼ねて、マーリンは一つの話をする。
「昔のう
一人の若い魔術師が居った」
「マーリン様?」
「まあ聞け」
「そいつはな、いつか大成して高名な魔術師になると信じておった
そしてな、止せば良いのに愛し合う娘を置いて、遠く王都の街へと旅立った」
「それってまさか…」
「男は旅立つ前に、一時だけ娘と添い遂げていた
それがいかんかったのう」
「添い遂げるって…」
「男が旅立ってから、娘は子供を産んだんじゃ
娘によく似た、可愛い女の子じゃった」
「…」
「男が夢半ばにして、故郷の土を踏んだ時…
娘は既に、この世には居なかった」
「マーリン様…」
「男は深く悲しみ、自身の行いを後悔した
しかし娘が産んだ女の子は、既に他の家族に引き取られておった」
「その女の子は、娘の若い頃にそっくりじゃった…」
「マーリン様
ボクは…」
「後悔だけはするな
男は今も、あの時どうすべきだったか悩んでおる
しかし…」
マーリンは一旦言葉を切ると、アーネストを正面から見詰めた。
「今、同じ選択肢を掲げられても、男は同じ道を進むじゃろう
男はそれだけ、自分の進む道に新年を持っておった」
「マーリン様
ボクはどうすれば…」
「言ったじゃろ?
それは二人で決めなさい
ただ…
言い訳じゃあ無いがのう
娘は幸せに逝ったそうじゃ
男の帰りを待てなかったのは残念じゃったが、子を成せた事に満足してな」
マーリンはそれだけ言うと、アーネストの肩を叩いた。
そして旅の準備をする為に、自分の仕事に戻った。
「後悔するなって事か
それと納得が行くまで、二人だ話し合えと…」
マーリンの言葉に、アーネストは決心した顔になる。
それ以降は、アーネストは溜息を吐かなかった。
未だ気持ちは揺れていたが、自身が成す事は何かを決めれた様だった。
その夜に、アーネストはフィオーナの寝室に向かった。
フィオーナは起きていて、アーネストが来るのを待っていた。
コンコン!
「フィオーナ
入って良いかい?」
「ええ
待っていたわ」
フィオーナはドアを開けると、アーネストを招き入れた。
そしてアーネストの首に両手を回すと、情熱的なキスをした。
「む!」
「黙って
もう…」
もう一度キスをしてから、フィオーナは腕を放す。
そして後ろ手にもじもじしながら、上目遣いでアーネストを見る。
「アーネスト
好きよ
愛してる」
「ボクもさ
しかしボクは…」
フィオーナは右手の人差し指で、アーネストの口を塞ぐ。
「そうね
私を棄てて、お兄様の為に旅に出る」
「棄てるだなんて…」
「いいえ
棄てるも同然だわ
あなたが帰って来た頃には、私はおばさんになっているのよ」
「そんな事は無い
真っ直ぐに戻って来るよ」
「本当に?」
「ああ…」
しかしフィオーナは、首を振って否定する。
「嘘!
そんなに早く戻って来れないでしょう」
「それは…」
「ううん
良いのよ」
「フィオーナ?」
「あなたがこれから行う事は
きっとこの国の
いえ、きっとこの世界にとって必要な事なのよね」
「フィオーナ」
「分かっている」
「すまない…」
「だけどね…
私はそんなに待てないわよ」
「ああ
構わない
ボクの代わり…」
「あなたの代わりなんて…
そんな人は居ないわ!」
フィオーナはそう言うと、再び情熱的な口づけをした。
「ねえ…
私はあなたを、そんなに待ち続けれそうにないの」
「しかし…」
「馬鹿
一人じゃ待てないって言っているの」
「フィオーナ?」
この時に、アーネストはマーリンが言った言葉を思い出した。
彼が旅立つ時に、愛する女性との間に、子供が授けられていた。
そしてその女性は、マーリンを待ちながら子供を育てていたのだ。
そして彼女は、幸せだったと残して逝った。
「フィオーナ
良いのかい?」
「馬鹿
そんな事、女の子に聞く物じゃないのよ」
二人は再び、熱い口付けを交わす。
今度は時間を掛けて、ゆっくりと気持ちを昂らせる。
「フィーナ
ボクを…
オレを待っていてくれ」
「ええ
その代わり…
アーネスト
あなたの子をちょうだい」
二人は抱き合うと、激しく互いを求め合った。
そうしてアーネストが灯りを消すと、身体を重ねて寝台へと横たわった。
それから二人は、夜を徹して求め合った。
幾度目かの抱擁を交わした頃には、窓から朝日が差し込み始めていた。
「フィーナ」
「ん…
恥ずかし」
「ふふ…」
最後に情熱的な口付けをして、アーネストは寝台から起き上がった。
フィオーナは裸体を恥ずかしそうに隠して、アーネストを上目遣いに見上げる。
「無事に…帰って来てね」
「ああ
必ず戻る」
「私はこの子と、あなたの事を待っているから」
「ああ
約束だ」
アーネストは服を着ると、こっそりとフィオーナの寝室から出る。
周囲をキョロキョロと見回してから、誰も居ないのを確認する。
みなが起きるまでは、まだ時間がある筈だ。
それまでに私室に戻って、風呂に入って…。
「ん、んん!」
「ひゃっ!」
アーネストの背後で、不意に咳払いが聞こえた。
「アーネスト」
「は、はひ」
「事情は分かってるつもりだけど…
結婚前に手を出したわね」
「す、す、すいま…」
「怒っていないから安心しなさい」
「ホッ…」
ジェニファーは一晩中起きていたのか、眠そうな顔をしていた。
「も、もしか…して?」
「ええ
隣なのよ
しっかり聞こえてたわよ」
ジェニファーは溜息を吐きながら、迂闊な娘の夫を呆れた顔をして見る。
「まあ、事情が事情だからね
仕方が無いとは思うわ」
「は、はあ…」
「でもね
手を出した以上は…
しっかりと責任を取りなさい」
「はい」
「必ずギルバートと一緒に、無事で戻りなさいよ」
「はい」
ジェニファーはアーネストの胸を強く叩くと、そのまま振り返る。
そして眠そうに、再び寝室に戻って行った。
二人の会話が聞こえていて、フィオーナは寝台の上で身悶えをしていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




