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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
372/800

第372話

ギルバートが王都に帰還してから、1週間が過ぎていた

王都の城壁は少しずつだが、修復されていた

しかし石材が足りない為に、作業は難航していた

それに王都に住もうと思う移民も居ないので、街は相変わらず閑散としていた

このまま王都は、打ち棄てられる可能性が高かった

1週間経っても、ギルバートの体調は相変わらずだった

身体的な不調は見られ無いが、魔力は無いままであった

そして魔力が無くなった影響か、常に倦怠感に襲われている

そのまま回復する事も無く、時間だけが過ぎていた


アーネストは城壁に、強化の呪文を刻んでいた。

そこに魔力を通せば、城壁の強度が少しだけ増す。

この呪文を彫り込んでは、魔石を組み込んで魔力を流す。

こうする事で、城壁は以前よりも強固になっていた。


そんな作業をしていると、兵士がアーネストを呼びに来た。


「アーネスト様

 城門に旅人が来ています」

「旅人?

 入場の審査は済ませたのか」

「はい

 あ、いえ…

 どうもアーネスト様の知り合いだとか名乗ってまして…」

「ボクの?」


アーネストは首を傾げながら、兵士の後を着いて行った。


「ボクの知り合いって…

 誰なんだ?」

「そうですね

 殿下とアーネスト様のお知合いだと…」

「ボクとギルの?

 まさか!」


アーネストは急に走り出すと、城門の横にある天幕に駆け込んだ。


「エルリック!」

「やあ

 ここに居たんですね」


そこには真っ赤な出で立ちをした、エルリックが座って待っていた。


「アーネスト様

 こちらの方のお知り合いという事でよろしいんですか?」

「ええ

 重要な話がありますので、連れて行っても良いですか?」

「はい

 確認は取れましたのでどうぞ」


アーネストはエルリックを伴なって、王城に向かった。


「良かったです

 王城を脱出したところまでは知っていたんですが…

 リュバンニ?

 あそこでは居ないと言われまして」

「そうですね

 王都の再建の作業をしていましたから」

「再建ですか…」


それを聞いて、エルリックは難しそうな顔をする。

その視線の先には、未だに崩れたままの城壁が見える。


「正直…難しくないですか?」

「そうですね

 城壁を直すのでも一手間です」

「でしょうね

 アモンの奴め…」

「それに住民もほとんど亡くなりました」

「そうですか…」


エルリックは複雑そうな顔をして、頭を下げた。


「申し訳ないです

 結局彼を止められませんでした」

「いえ

 エルリックが悪いのではありませんから」

「それはそうなんですが…」


「それにしても、一体何処に行っていたんですか?」

「ああ

 あの時はアモンを追って、奴の居城に向かいました

 しかし奴の部下には通してもらえなくて」

「アモンの?」

「ええ

 結局奴を止める事は出来ませんでした」

「そうですか…」


その後の事は、アーネストの方がよく知っている。

アモンは巨人を引き連れて、王都を襲撃した。

結果は先程見た様に、王都は半壊していた。

多くの住民が亡くなり、都市の機能は停止している。


「ここまでは追って来ましたが、私が来た時には既に…」

「そうですね

 あっという間の事でしたからね」


「ギルバートは?

 彼が居たにしては、あっさりと敗けたみたいですが」

「それが…」


アーネストはアモンに起こった変化と、ムルムルが現れた事を伝えた。


「何と…

 ムルムルが来ていたんですか?」

「ええ

 襤褸を纏った男がそう名乗っていたと」

「そうですね

 恐らく彼で間違いは無いでしょう

 奴は死霊になっているので、その素顔を見せたがりません」


エルリックはムルムルの見た目を伝えるが、アーネストは会っていないので判断出来なかった。


「私は直接会ってませんので」

「そうですか…」


エルリックは頭を振りながら、話を続ける。


「まあ、会わなかった方が良かったのかも

 彼は君と同じ魔導士でしたから

 会っていれば、生きている君に嫉妬したかも」

「嫉妬ですか?」

「ええ

 彼は謀略によって、若くして亡くなりましたから

 君を見たら、きっと自分と重ね合わせるでしょうね」

「謀略ですか

 やはりザクソン砦の件で…」

「ええっと…

 場所は詳しく無いんですが、確か帝国の兵士1000名の前に置き去りにされたとか?」

「置き去りですか?」

「ええ」


「私の聞いた話では、奴隷の身分だったとか

 それから帝国と戦わせて、殺されたとか?」

「そうですね

 概ね合っていると思います

 置き去りにされて…

 必死になって戦って」

「そう…ですか」


エルリックから聞いた話で、アーネストも微妙な表情になる。

確かに自分が死んだ後も、死霊となって生き返り、目の前に有能な魔術師が現れたらどう思う?

自分は不幸な目に遭って、殺されてしまっているのに…。

そう思ったら、目の前にいる魔術師にどんな感情が生まれるだろう。

恐らくは良くない感情に囚われるのだろう。

そう思ったなら、会わなかったのは確かに良かったのかも知れない。


「それでムルムルは何だと?」

「それがどうやら、アモンとの戦闘に乱入したみたいで…」

「乱入って…」


「ギルがアモンと戦っている途中で、戦いの中に割って入ったみたいです」

「アモンに手柄を取られたくなかったのか…

 奴らしいな」

「え?

 いいえ

 アモンが突如狂暴化したみたいで

 それに合わせて王都を一気に殲滅しようとしたみたいです」

「何だって?

 ムルムルがそんな事を?」

「ええ」


アーネストも言葉を聞いて、エルリックは驚いた顔をする。


「どうしたんですか?

 ムルムルも魔王なんでしょ?

 それなら王都を攻め落とすのは当然じゃ無いんですか?」

「いや

 そりゃあ指示は受けているかも知れないが…

 奴が民衆に手を上げるなんて…」

「え?」


「さっき話しただろ

 ムルムルは帝国の兵士の前に置き去りにされたんだ」

「ええ

 そういう話でしたね」

「その時にムルムルは、奴隷落ちした名も無き一介の魔術師でしか無かったんです」

「一介の魔術師ですか…

 しかしその後に死霊と化したのなら…」

「それは理由があるんだ」

「理由?」


「ムルムルは同じ奴隷身分の者達と、一緒に置き去りにされたんです

 そんな奴隷達を守る為に、同じ帝国の者達に戦いを挑み…」

「な…」

「ただでさえ元同じ帝国の民です

 それを盾にして帝国軍を引き止めようとしたのです」

「そんな非道な事を?」

「ええ

 当時の軍の責任者は、奴隷制度を認める者でした

 結果として、ムルムルは奴隷達の死体を死霊に変えて、帝国の兵士達を蹂躙しました」

「それはまた…」


それだけの事をされれば、ムルムルがザクソン伯爵を恨むのも当然だろう。


「まだ終わりではありませんよ」

「いや、良い

 その先は知っている

 ムルムルは伯爵に殺されて、その死体は野晒しにされた」

「そうです

 よく知っていましたね」

「ギルがムルムルから聞いたって」

「そうですか

 彼がそこまで話すとは…」


「ムルムルがザクソン伯爵を恨むのは当然だろう

 それにそこまでされたのなら、生きている人間を恨んでいても…」

「いいえ、その逆ですよ」

「逆だって?」

「ええ

 彼は今でも人間を愛しているんです

 だからこそ、奴隷制度や平民を酷く扱う者には怒りを覚えるんです」

「だが…

 それじゃあ王都を襲ったのは?」

「そうなんですよね

 ギルバートの事なら、気に入る事はあれど殺そうとするなんて…」


「狂暴化…」

「え?

 まさか?」

「ムルムルは何故あんな事をしたのか分からないって言ってた」

「そりゃあ魔物は紅き月の力で、狂暴化するでしょうが…

 まさかムルムルがですか?」

「ああ

 アモンも狂暴化してたみたいだし…」

「それは…

 マズいですね」

「え?」


「ギルバートは?

 彼に異常はありませんでしたか?」

「そう!

 それなんだよ」

「え?」

「ギルが魔王との戦闘の後から、魔力を失ったみたいなんだ」

「やはり

 こうしちゃおれん

 ギルバートは何処へ行ったんです」

「ああ

 今向かっているところだが…」


話している間に、二人は王城の城門前に着いていた。


「アーネスト様

 そちらの方は?」

「ああ

 ボクの知り合いでね

 ギルに会いに来たんだ」

「そうですか

 ではどうぞ」


兵士に通されて、二人は王城の中を進む。


「それでギルバートの容体は?」

「ああ

 魔力が無いだけなんだが…

 それが原因か気力や覇気も無くて…」

「そりゃあそうでしょう

 魔力は生きる力にも繋がります

 それが失われた今、気力も湧かないでしょう」

「それならどうすれば良い?

 何か方法はあるのか?」


エルリックは立ち止まり、暫し考える。

しかし頭を振ると、短く答えた。


「先ずは様子を見てみます

 簡単に治せるかどうか…」

「分かった

 こっちだ」


アーネストに案内されて、エルリックはギルバートの寝室に入った。

本来はギルバートの私室はあるが、今は国王が使っていた寝室に案内されていた。

こちらの方が寝台が良かったし、何よりも日射しが暖かかった。

ギルバートは微睡の中、幸せそうな顔をしていた。


「ギル」

「ギルバート」

「ん、ううん…」


「良かった

 意識はあるな」

「大袈裟だな」

「そんな事は無い

 気力が無くなっているて事は、生きる気力も無くなっているんだ

 食欲も無いんじゃないか?」

「それは…」


二人が騒いでる間に、ギルバートが目を覚ます。


「ん…

 ああ、エルリックか」

「ああ

 ギルバート

 大丈夫かい?」

「大丈夫…なのかな?」

「ギル…」


そのままエルリックは、ギルバートに魔法を試してみる。

幾つかはアーネストと同じ魔法だったが、後半は知らない魔法も試していた。


「ううん

 あまり良く無いな」

「どうなんだ?」

「ああ

 やはり魔力を受け付けない

 このままでは、回復の魔法を使っても効果が無いだろう」

「そうか…」


エルリックの言葉に、アーネストは落胆した様子を見せる。


「ギルバート

 幾つか質問するが良いか?」

「ああ」

「それでは…」


エルリックはギルバートの症状を調べる為に、戦場での様子を尋ねる。

原因があるとすれば、魔王と戦った事だからだ。


「先ずはアモンの事だが…」

「アモンか」

「ああ

 奴が狂暴化していたって話だけど、本当かい?」

「ああ

 戦っている途中で、急に様子が変になって…」

「それは気が狂った様な様子だったかい?」

「ああ、そうだな

 奇声を上げて獣の様になっていたよ」

「そうか…」


「次にムルムルだけど、奴も同じ様な様子だったかい?」

「さあ?

 それは分からないが…」

「例えばアモンみたいに気が狂っている様な様子とか…

 口調が異様だったとか」

「そういえば…

 最初に会ったのが戦場だったけど、その後に会った時は様子が違っていたな」

「え?

 その後にも会ったのか?」


ギルバートはエルリックに、森で出会った事を話した。


「森でか…

 それに気絶したのを治したのか」

「ああ

 私は意識を失っていたんだが、ムルムルが治してくれたんだ」

「やはりムルムルは、そこまで洗脳されていないのか…」

「洗脳?」

「いや、何でも無い」


エルリックは黙り込むと、静かに何かを考えていた。


「どういう事なんだ?」

「ああ

 本来なら、ムルムルの性格を考えれば、苦しんでいる者を救おうとする筈なんだ

 あいつが死霊魔法を学んだのも、元々は人々を救う為だったんだ」

「なんだってそんな奴が魔王になんか…」

「女神様が認めてからだ

 人間に苦しめられた力ある者を、人間を制する為に集める

 魔王とは元々そういう者達だったんだ」

「人間を制する…」


「兎に角

 ギルバートの不調の原因は、魔王達の狂気が影響したんだろう」

「魔王の狂気?」

「ああ

 元々ギルバートは、覇王になる因子が組み込まれていた

 それに魔王の狂気が影響して、体内の魔石が汚染されたんだろう」

「魔石?

 それは魔物にしか…」

「いや

 魔石は人間にも出来るんだ

 特にギルは禁術を掛けられている

 その時に出来ていた可能性がある」

「そうだね

 アーネストの言う通り、過剰な魔力の影響で、体内に魔石が形成される

 それがギルバートの暴走の原因だ」


エルリックは静かに言うと、ギルバートに魔法を掛ける。

しかし魔法は、何も反応しないで消えた。


「本来なら、ギルバートの体内の魔石に反応するんだ

 それが反応が無いって事は…」

「魔石に何か起こっている?」

「そういう事だ」


エルリックの言葉には信憑性がある。

しかしそれにしても、腑に落ちない所があった。

それは…


「エルリック

 ムルムルは一介の魔術師と言っていたね」

「ああ、そうだよ

 特に目立った能力の無い、死霊魔法を覚えただけの魔術師だ」

「なら、そのムルムルは何で死霊になったんだ?」

「え?」


「死霊になった理由があるだろ?

 例えば死霊魔法に精通していたとか…」

「それは無い

 例え死霊魔法を知っていても、それを回避する方法なら兎も角、死霊になれる魔法なんて…」


「それなら、死霊になるほど人間を恨んでいたとか?」

「それも…うーん」

「でないと、ムルムルが死霊になった理由が運任せでは無いかな?」

「そうなんだけど…」


エルリックの言葉には、歯切れが悪かった。

確かにエルリックの前では、彼は人間を愛していたのだろう。

いや、それはギルバートが2度目に会った時も、それらしき様子が伺える。


しかし同時に、ザクソン砦を滅ぼしたという事もある。

同じ人物なのに、表と裏があるのだ。

それはもしかしてと、アーネストは推察していた。


「なあ、エルリック

 魔王って二重人格なのかい?」

「二重人格?」

「ああ

 アモンにしても、ムルムルにしても

 行動が裏表で極端過ぎる」

「ああ

 そういう事か」


「もしかして…

 それが魔王の狂気とやらの正体か?」

「う…

 察しが良いな」


エルリックは何かマズい事を気取られたという顔をしていた。

まだまだ続きます。

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