第371話
ギルバートが王都に帰還した事で、王宮内は俄かに活気づいていた
アーネストはマーリンと、ギルバートが行方不明の間の事を聞いた
そこでギルバートから、魔王ムルムルが絡んでいた事を聞いた
そしてアーネストは、ムルムルがどうして人間を憎んでいるのか推測する
それは先日滅ぼされた、ザクソン砦に関係していた
ムルムルの正体を知る為に、アーネストから魔族の説明が為される
そこには過去の人間達が、行った非道な行為も含まれている
一部の人型の魔物は、古代魔導王国で生み出された物なのだ
それは魔導王国を憎み、人間の王国を滅ぼす要因にもなっていた
だからこそ、ゴブリンやコボルトは人間を憎んでいるのだ
「話は終わったのか」
「そうですね
魔族の説明まで終わったところです」
「うむ」
バルトフェルドは、途中で気分が悪くなって中座していた。
何せ殺していた魔物が、人間に近しい存在だったのだ。
それを聞いて、バルトフェルドは気分が悪くなっていた。
今までは魔物が、一方的に人間を恨んでいると思っていたのだ。
それが実は、人間に原因があったからだ。
「ゴブリンやコボルトは人間から生まれた
そう考えて良いのだな」
「ええ
他にも居ますが、オーガ等は違いますからね」
「うむ」
バルトフェルドは、まだ顔色が優れない様だった。
「それで…
奴隷にしていたという話じゃが」
「そうですね
元々は魔族を奴隷にしていました
それから何らかの方法で、ゴブリンやコボルトを生み出した様です」
「何らかの方法か…
ん?
それは魔族が生んだのでは…」
「いえ
女神様でも無ければ、魔族との混血でも無いみたいです
魔族を何らかの方法で、魔物にしたみたいですね」
その辺に関しては、資料にも詳しくは書かれていなかった。
だからこそ推測で、アーネストは人間が作ったと思っていた。
女神が作ったのなら、その様な記載がある筈だからだ。
「それでは…」
「ええ
人間が作り出したと思われますね」
「そんな…」
「どんな事をしたのかは…分かりません
しかし魔法に精通した王国でしたから、何らかの方法を思いついたんでしょう」
「それで作り出した魔物に、国ごと滅ぼされたのか?」
「ええ
正確には他の亜人達にも恨みを買っていましたからね
いずれは滅びていたでしょう」
「何て事だ…
それでは救い様も無いではないか」
「そうですね…」
「古代魔導王国が滅びたのは、新たに生まれた他種族
亜人や魔物による物とされています
そしてそれを見た魔導王国は…」
「しかし、魔導王国も奴隷を抱えておったのじゃろう?」
「まあそうですね
獣人やドワーフ、後は一部の人間ですね」
「まるで懲りて無いじゃないか」
「ですよね…」
その後に出来た帝国でも、結局は他国の者を奴隷にしていた。
人間は何度でも過ちを繰り返す。
女神はそう思ったからこそ、人間の王国を滅ぼそうとしているのかも知れない。
「奴隷か…
今の貴族連中も、似た様な事をしておる
女神様がお怒りになる訳じゃな」
「ええ
ですが関係ない者まで巻き込むのは…」
「それだけ怒りが大きいのじゃろう」
バルトフェルドは溜息を吐きながら、頭を抱える。
「これは王国が滅ぼされても、当然なのか…」
「バルトフェルド様
そうは思いませんよ」
「そうじゃな
王国では奴隷制度を禁止しておった
一部の阿呆な貴族のせいで、国が滅びるなんぞ…」
「しかし
これからどうするんじゃ?」
「そうですね
何とか立て直すしか無いでしょう」
「しかし再び魔物が…」
「それは戦って退けるしか無いでしょう
ギルが力を取り戻せれば…」
「そうじゃ
一番の問題はそこじゃ」
バルトフェルドは思い出した様に、手を打った。
「殿下がそれだけ力をお持ちなら、ワシ等でも…」
「無理かも知れません
ギルは生まれの血筋があると思います
王家の血筋には、何かありそうなんです」
「王家のじゃと?
それは何じゃ?」
「正確には分かりませんが…
女神様は王家を滅ぼそうとしていました
ギルが狙われたのもそれが原因でしょう」
「ううむ
王家の血筋か…」
バルトフェルドは難しい顔をする。
当事者の国王が死んでいる以上、詳しい事は調べれないだろう。
しかし思い当たる事なら、一つだけあった。
「もしや…
帝国の王家の血か?」
「え?」
「いや
ワシもアルベルトから聞いた話なんじゃが…
確かハルバート様は帝国の王家…
皇帝の血を受け継いでいる可能性があると」
「皇帝のですか?
確かにそれなら…」
皇帝の子供となれば、奴隷制度を行っていた当事者の子供だ。
それが再び国を作ったとなれば、女神様も見逃せないだろう。
それに皇族の血筋には、高名な剣士や魔術師も多く居た。
その血が流れているのなら、ギルバートが力を持ったのも納得だろう。
「皇帝の血筋なら、確かにあり得ますね
それに女神様にも…」
「ああ
目を着けられても当然じゃろう」
「皇帝の弟や息子にも、高名な剣士が居ましたよね?」
「そうじゃな
それに魔導士も居った筈じゃ」
「それならば、ギルが魔力が高かった事も納得です」
「うむ」
「しかし…
国王様は誰のお子だったのでしょうか?」
「うむ
それは分からん
しかしアルベルトも、皇帝の遠戚に当たる筈じゃ
それに王妃様も…」
「なるほど
王妃様も遠戚に当たるのならば、その血が濃くなってもおかしく無いですね」
「ああ
だから女神様も狙っておったのじゃろう」
実際は狙われた理由には、禁術が使われた事もある。
しかしそれ以前に、産まれた時に殺す様に神託が下された事実もある。
あれが本当に、女神が行ったのかは疑問が残る。
しかし皇族の血が絡んでいるとなれば、あながち間違いでは無さそうだ。
「それで?
殿下の力は戻りそうなのか?」
「それは…」
さすがにアーネストでも、理由が分からないので無理だった。
こうした時に、使徒であるエルリックが居れば良かったのだが…。
エルリックは王都が襲撃された際に、どこかへ行ってしまった。
話す余裕もなく姿を消したので、どこに居るのかも分からなかった。
「ボクの方でも調べてみますが…
治せるかは分かりません」
「ううむ
困ったな」
このまま王都に残っても、魔物の襲撃は続くだろう。
被害を抑える為に、城壁の修復は続けている。
しかし肝心の住民や兵士が居ないので、守り続ける事は難しいだろう。
それにギルバートが、力を失っている事が問題である。
今は他には問題は起きて無い様子だが、何が起きるか分からない。
もしかしたら、このまま病に伏せる恐れもあるのだ。
早急に原因を究明して、治療をするべきだろう。
「マーリンにも…」
「分かり兼ねます」
「ううむ」
「ヘイゼル老師にも聞いてみましょう」
「そうじゃな
リュバンニに使いの者を出そう」
バルトフェルドは書類を書くと、マーリンにそれを渡した。
リュバンニまでは半日で着くから、翌日には返事が来るだろう。
それまでは様子を見て、休ませるしか無かった。
「エルリックが居れば…」
「ん?
エルリックというのは使徒の…」
「ええ
彼は女神様の使徒ですが、こちらに協力的です
しかし王都が襲撃されてから、どこに行ったのやら…」
「ううむ
居ない者を当てにする訳にはいかんじゃろう」
「そうです…ね」
「兎に角
殿下にはゆっくり休んでいただこう」
バルトフェルドは兵士に指示を出して、ギルバートを運ばせる事にした。
どうやら深く眠っていたらしく、立ち上がってもふらふらしていた。
「う、うう…」
「大丈夫か?」
「あ、ああ…
すまない、眠っていた」
「良いんだよ
それよりゆっくり休んでくれ」
「しかし国務が…」
「大丈夫だ
バルトフェルド様が代わりにやってくださる」
バルトフェルドは黙って頷くと、兵士達にギルバートを運ぶ様に指示を出した。
「殿下を寝室へお連れしろ」
「大丈夫
自分で…」
「まだふらついておるでは無いですか
おい
しっかり支えて差し上げろ」
「はい」
「すみません」
「いいえ
殿下はまだ、隊長は不安定なんです
今はゆっくりと休んでください」
「ああ
そうさせてもらうよ」
ギルバートは兵士に支えられながら、執務室を後にした。
バルトフェルドはそれを見送ってから、改めてアーネストの方を見た。
「さて
これからどうするか」
「そうですね
ボクは城壁に戻って、修復の指示を続けます」
「うむ
それではワシは…」
「魔物退治とか駄目ですよ
先ずは王城の修理が必要です
それに街の事もあります」
「ぬう…」
アーネストはバルトフェルドが逃げ出さない様に、先手を打って牽制した。
「しかし魔物が来たら…」
「ボクが指揮をします
バルトフェルド様はここで、国政を担ってください」
「むう…」
バルトフェルドは唸りながら、仕方無さそうに机に向かう。
街の整備や物資の補充、街の整備の為にする事は山ほどある。
それに新たな王都の住民を、募る為の書類も必要だった。
アーネストは頭を下げると、そのまま執務室を出て行く。
ギルバートの事は心配だったが、今はゆっくりと休ませる必要がある。
部屋に向かう事は止めて、そのまま城壁に向かう事にした。
時刻は夕刻に向かっていたが、外はまだまだ明るかった。
今の内に少しでも、城壁を直す必要があった。
それから1週間ほど経った。
王都の城壁は、順調に修復されて行く。
今は人の背丈ほどまで積み直されて、魔物の侵入も少なくなった。
「大分直りましたね」
「ああ
今日の分でゴブリンは侵入出来なくなるだろう」
「いや、さすがにそれは…」
ゴブリンは身長が低いが、跳躍したり肩車も出来るだろう。
それに直された城壁は、所々足を掛けれそうな場所もあった。
2m程度の高さでは、よじ登って潜入されてしまうだろう。
「油断は出来ませんよ
この状態でオーガが来たら…」
「それは勘弁して欲しいな
折角ここまで積んだのに、また崩されてしまうじゃないか」
一応アーネストが、強化の魔法を刻み込んではいる。
しかしオーガに殴られては、さすがにもたないだろう。
アーネストは城壁に、強化の呪文を刻んで行く。
その上に、兵士達が職人に指示されながら、城壁の石を積んで行く。
城壁の石は、かなりの部分が砕かれたり飛ばされていた。
だから足りない分は、崩れた家の石を拾って来ていた。
それでも形が合わない場所は、石を削って嵌め込んでいた。
その為作業に時間が掛かって、1週間経っても半分の高さまでしか直されていなかった。
「そういえば、殿下の調子はどうですか?」
「うーん
まだまだ駄目だな」
この1週間の間に、ヘイゼルも王都に来ていた。
しかしギルバートを診てもらっても、症状の緩和はされなかった。
相変わらず魔力は感じられず、気怠そうにしていた。
しかし病に罹る事は無く、寝たままで過ごしていた。
「身体は問題無さそうなんだが…」
「ヘイゼル様でも無理ですか?」
「ああ
分からないって言ってたな」
症状が分からない以上、適切な処置は出来なかった。
だから悪くなる事も無ければ、良くなる様子も無かった。
「殿下は大丈夫なんでしょうか?」
「さあな
悪くはならないみたいだから…
今は原因の究明をするしかない」
「我々の分かる症状なら良いんですがね」
「そうだな
それなら簡単に治せるだろうからな」
アーネストは雑談をしながら、城壁に呪文を刻み続ける。
しかし時々、思い出した様に王城の方を見る。
そこで眠っている、ギルバートの事が心配なのだろう。
王城の執務室では、バルトフェルドが忙しそうに書類を確認していた。
当座の食料は、リュバンニから運ばれて来ていた。
ザクソン砦も捜索されて、色々な物資が集められた。
一晩の内に全滅したので、色々な物が残されたままだったのだ。
物資に関しては、それで当面は問題無さそうだった。
しかし住民に関しては、他の町からは集まらなかった。
どこの町も魔物の被害が多くて、移民を送る様な余裕は無かった。
だからバルトフェルドは、どうやって王都を立て直すか頭を悩ませていた。
「どうしたものか…」
「こればっかりは、どうにもならんじゃろう」
「そうじゃなあ…」
最悪の場合、王都を他の街に変えて立て直すしか無いだろう。
人が集まらない以上、ここを棄てるしか無いのだ。
「王妃様に相談するか」
「そうじゃな
そろそろ考えねばならんな」
他の町に関しては、各地の貴族が統治出来ている。
後は国政を行う場所さえあれば、当面は王国の機能は維持出来るだろう。
後は魔物を退けながら、新たな国王を擁立するだけだ。
問題になるのは、その国王だろう。
「殿下の体調が万全なら…」
「致し方無かろう
今の殿下には、国政を執るだけの体力も無かろう」
「うむ
そうじゃな…」
このままバルトフェルドが、代行として行えるだろう。
しかしいずれは、誰かを国王に推さなければならないだろう。
ギルバートが駄目な以上、代わりになる者が必要だった。
今居る者の中では、二人の姫が候補に挙がっていた。
どちらかが婚約をすれば、その夫が国王の代行を務めれる。
そうして貴族達に認められれば、晴れて新国王になれるのだ。
「フランシスカ様はどうじゃ?」
「あれはまだ子供じゃぞ」
「それはそうじゃが、姫様の事もある」
「ううむ…」
バルトフェルドの息子である、フランシスカはマリアンヌ姫に懸想していた。
そして二人の様子を見る限り、姫の方も満更では無さそうだった。
このまま二人が婚約すれば、確かに継承権が得られる。
しかし問題は、当のフランシスカがまだまだ子供な事だった。
このまま実績を積めないでいれば、当然他の貴族から横槍が入るだろう。
「何とか実績を残さねばな」
「そうじゃな
一度魔物の討伐に向かわせるか?」
「馬鹿な
あいつはまだ子供で…」
「馬鹿はお前じゃろう
いつまでも子供扱いして無いで、しっかりと見てやれ」
「うぬ…
確かにそうなんだが…」
バルトフェルドは悩みながら、溜息を吐くのであった。
まだまだ続きます。
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