第370話
王都に戻って来たギルバート
アーネストはそんなギルバートに、どこで何をしていたのか尋ねる
ギルバートの口からは、ムルムルと一緒に居たと語られた
そして話は、ムルムルの攻め落としたザクソン砦の話しになる
そこでムルムルが、どうやって生まれたのかが語られた
先々代のザクソン伯爵は、あまり人柄がよろしく無かった様だ
帝国の住民を奴隷にして、使い潰していたのだ
そしてムルムルも、そんな奴隷の一人であった
そして使い潰されて殺されていたのだ
「ムルムルが…
そんな事があったのか…」
「しかしそれでも…
砦の住民を全部滅ぼすのは違うのでは無いか?」
「私もそう思いましたがね
ムルムルも女神様からの指示だって」
「そうやって王都も…」
バルトフェルドは、ザクソン砦を滅ぼした事には憤りを感じていた。
しかしギルバートは、何故か肯定的だった。
それは騎士達が、住民達を無碍に扱っていたからだろう。
事前に聞かされた時は、ギルバートも納得はしていなかった。
しかし実際に騎士が行う姿を見せられては、失望の方が大きかった。
「それは私も反対ですが…
実際に騎士達の行動は目に余る物がありました
過去にもそんな事があったと聞けば…」
「それはそうかも知れないが
何とか出来なかったのかのう?」
「それは無理でしょう
彼は人間に憤りを感じていましたし
何よりも今の私は、オーガを倒す力もありません」
「ううむ…」
ギルバートが反対していたとしても、止める力は無かったのだ。
だからギルバートは、そのまま砦を後にして来た。
ギルバートは悔しかったのだろうか、拳を握り締めていた。
「では、ムルムルは自身の復讐も兼ねて、砦を滅ぼしたと?」
「ああ
そして王都に関しては、既に女神様の指示は完遂したと言っていた
だからここにはもう、攻めて来る事は無いだろう」
「そうか…」
「しかしもう一人の魔王が居るじゃろう?
そ奴は来ないのか?」
バルトフェルドは、アモンの事を警戒していた。
しかしギルバートは、首を振って否定した。
「ムルムルの話では、アモンは私がムルムルと戦っている時に、戦意を失っていたそうです
そして何故王都に居るのかも、彼は覚えていなかった様です」
「それは本当か?」
「もしかして記憶を失っていたのも…」
「ああ
女神様がしたのか?
それとも狂暴化した影響なのか?
兎に角彼は、私が危険な状態なのを止めてくれた
そして気絶した私を、わざわざ運んでくれたんだ。
「それで魔王が殿下を運んで来たと…」
ギルバートが裏切ったと言う話は、魔王が運んで来たからという事が大きかった。
殺すつもりなら、気絶したギルバートを丁重に運ぶ必要が無いだろう。
しかしそれは、正気に戻って王都を襲撃していた事に、彼が疑問を感じたからだ。
それなら女神に指示されたという事も、怪しくなってくる。
本当に女神が、人間を滅ぼす様に指示を出しているのか?
それが疑問に思える出来事であった。
「アモンだったか?
その魔王が王都を襲ったのも、本当に女神様の指示なのか?」
「そうですね
これでますます怪しくなりましたね」
「しかしそうなると、誰が魔王に指示を出したんだ?」
「それは…」
「肝心の魔王達が覚えておらんのでは、それも分からんじゃろな」
魔王の話をしていて、ギルバートはふと何かを思い出した様にアーネストを見る。
「そういえば…
魔族って何なんだろうな」
「魔族か…」
「少し長くなるが…
良いか?」
「ああ」
アーネストはここで、魔族が載っている資料を取り出した。
「ボク達が今住んでいる、このアースシーには元々複数の人間族が居た
今は魔物に分類されている巨人も、元々は人間の仲間だったんだ」
「何じゃと?
巨人が人間じゃと?」
「ええ
大きさが違うだけで、彼等も人間とあまり違わなかったんです」
「人間族にはボク達人間と、先ほど話した巨人、それから魔族と天人族…」
「ちょっと待て
それはどこから出た話なんだ?」
「えーっと…
古代魔導王国での資料です」
「それは物語の話では無いのか?」
「いいえ
物語では無いんですよ
確かに古代魔導王国の話は、物語だと言われていますが…」
「それならば…」
「ですが真実な事もあります
それが五大人間族と亜人の事です」
アーネストには確信があるらしく、それが事実だと熱弁を振るった。
「人間と巨人、それに小型の妖精族
後は魔族と天人族です」
「巨人族は分かるが…
他の人間とは?」
「そうですね
今や妖精もですが、魔族も天人族も見られないでしょうからね
先ずは魔族から説明しましょうか」
「うむ
頼むぞ」
バルトフェルドが代表して、アーネストに説明をお願いした。
アーネストは資料を用意して、順に説明を始めた。
その間にギルバートは、疲れていたのか椅子にもたれたまま眠っていた。
兵士の一人が、その上に自分の羽織っていたマントを外して被せる。
ギルバートはそのまま、暫く眠っていた。
「五大人間族と言われるのは、元々はこの5種の人間がベースになっているからです」
「ん?
それはどういう事だ?」
「それはですね
例えば巨人族ですが…
今では氷の巨人と炎の巨人が有名ですよね」
「ああ
物語には他にも、雷の巨人が出るな」
「そうですね
それは滅びたそうですが、元は巨人から別れたんです」
「物語の話では無いのか?」
「ええ
実際に氷の巨人は居ましたし、魔導王国はその巨人に滅ぼされました」
「ううむ…」
「それで魔族ですが…
人間とも交わりを持ってます」
「それは?」
「半人の魔族です
例えばゴブリンやコボルト…」
「はあ?」
「何じゃと?」
「あくまで結果論ですが…
ゴブリンやコボルトといった魔物は、元々は人間と魔族との間に生み出されました
それが奴隷用に増やされて行き、結果として魔物として分類されて…」
「そうなると、あれは元々は人間だったと?」
「ええ
ですが、今では別物ですよ」
アーネストの説明に、執務室は静まり返った。
「別物と言っても、人間じゃったんじゃろ?」
「人間と魔族を掛け合わして、奴隷用に産み出された物ですよ」
「奴隷用に…」
「ええ
魔族も奴隷にされていましたから」
「な!!」
「昔の人間は、今よりも酷かったらしいですよ
多くの他の種族が、奴隷として生み出されたそうです」
マーリンもバルトフェルドも、言葉を失っていた。
アーネストは次に、妖精の資料を取り出す。
「次は妖精なんですが…」
「ちょっと待ってくれ」
「バルトフェルド様?」
バルトフェルドは頭を抱えると、ふらふらと部屋を出て行った。
「どうしたんだろ?」
「ショックじゃったんじゃろう
何せ今まで殺して来た魔物が、実は人間に近い存在じゃったんじゃ」
「いや
それを言うなら、人間はもっと危険で罪深いですよ
同族を奴隷にしたり、戦争を仕掛けて殺したり…」
「それはそうじゃが…」
「女神様が怒っているのはそれでですよ」
「じゃがな、魔物と思えばこそ殺しておったからな…」
アーネストは理解出来ず、首を捻るしか無かった。
「それで?
妖精じゃったかな?」
「あ、はい」
マーリンに促されて、アーネストは再び話し始める。
「所謂亜人と呼ばれる者達は、妖精と人間から産み出されたそうです」
「ん?
どういう事じゃ?」
「これは古代魔導王国でも研究されていた事ですが…
エルフが妖精と人間の元になっている様です」
「エルフ…
森の貴人か」
「はい
他にもドワーフやハーフリングもそうじゃないかって
ですがこれは、詳細は分からないんですよね」
アーネストは古代魔導王国時代の資料を広げて、丁寧に説明し始めた。
「それで妖精に関してですが…
古代魔導王国の頃から姿が見られなくなったと…
しかし亜人達はその頃から現れた事になっています」
「それではエルフが人間と妖精から生まれたと言うのは…」
「見た目と性質からですね
人間と妖精の両方の性質を持っていますからね」
エルフは妖精の様に、精霊と話す事が出来た。
そして人間の様に、木を使った道具を作る事が出来た。
「亜人の説明も必要ですか?」
「そうじゃな…」
アーネストは別の資料を出して、それを広げる。
「一般に亜人と呼ばれるのは、人間に近い容姿の生き物って事でよろしいですか?」
「ああ、そうじゃな
獣人や先ほど上がった、エルフやドワーフ、ハーフリングといったところじゃのう」
「それで合っていますね
それでは説明しますね」
アーネストは資料を指差す。
「最初は妖精族と人間が居たそうです
それから女神様が、巨人族と魔族、それから天人族を作られたそうです」
「その天人族とは?」
「それは後で説明します
今は先に、亜人が生まれた話をしますね」
「ううむ…」
マーリンは興味深々だったが、先ずは亜人の説明からされる事となった。
「亜人も女神様が作られた事になっていますが…
古代魔導王国でも詳しくは分かっていません
ただ人間の仲間の様な存在として、暫くは隣人として生活していました」
「エルフやドワーフもか?」
「ええ
森に住む半妖精がエルフで、洞窟に住むのがドワーフ
そして地面に穴を掘って住むのがハーフリングだったそうです」
「獣人は?」
「獣人のほとんどは、最初は人間と生活していたみたいですね
しかし人間によって奴隷にされて、やがて苦しい生活を続けていたみたいです」
「ううむ
奴隷か…」
「ええ
人間は最初に女神様に作られたと、他の亜人達を見下していたそうです
ここにも亜人は出来損ないとか書かれています」
資料には確かに、女神様が人間から作った出来損ないの人間と書かれていた。
「そんな事をすれば…」
「ええ
当然、女神様は怒られて、人間に注意をしました
しかし当時の人間は、女神様の事を侮っていたみたいです」
「そんな馬鹿な」
「いいえ
信仰心を失い、創造主ではあるが何も力を持たないと思っていたみたいです
結果としては、人間は魔族や他の亜人によって滅ぼされます」
そこには古代魔導王国が滅びる様が、絵に描かれていた。
「これは魔導王国時代に発見された、古代魔導王国時代の終わった頃の物語だそうです」
そこには亜人達が反抗して、古代魔導王国を滅ぼす姿が描かれていた。
亜人は武具で身を固めて、魔族は魔法を使っている姿が描かれている。
「魔族は魔力が人間より強かったので、魔法で戦ったそうです」
「古代魔導王国が、魔族の魔法で滅びたわけか」
「ええ
皮肉な事ですよね」
魔法で力を振るっていた人間が、もっと強力な魔法で滅ぼされる。
それは魔導王国にとっては、認められない様な屈辱であっただろう。
「古代魔導王国が滅びた後に、エルフやハーフリング達は人間の前から姿を隠しました
ドワーフと獣人達は身近に居た様ですが…」
それは後の、魔導王国の時代にも残されている。
しかし人間の身近に居た事が、彼等に再び悲劇を齎す。
人間は懲りずに、再び獣人やドワーフを奴隷にしようとしたのだ。
その事で古代魔導王国が、滅びたというのにだ。
「こうして獣人やドワーフは身近に残りました
しかし魔族や天人族は、そのまま何処かへ行ってしまいました
一説では天人族は、空の上の方に住んでるらしいです」
「空の上じゃと?」
「ええ
彼等は翼を持っていますので、それで空に羽ばたいて行ったと」
「それで天人族か」
「そうです」
アーネストは今度は、翼の生えた人間の資料を取り出した。
「天人族は、見た目は羽の生えた人間です」
「ふむ
過去にこの地には、この様な者達も居たのか」
「そうですね
今でも居るかも知れませんが…
少なくとも見える範囲には居ませんね」
「ううむ」
「彼等は魔法の扱いも上手でして、それで人間からは奴隷にされませんでした」
「ふむ
魔法が得意じゃったのか?」
「ええ
魔族と天人族に関しては、どちらも強力な魔力を持っていたそうです」
「魔族は先程説明した様に、魔物の元になった人間です」
「最初からゴブリンやコボルトみたいな者じゃったのか?」
「いえ
最初は人間とほとんど変わらなかったそうです
それが古代魔導王国に利用されて…」
「ん?
女神様が生み出したのでは?」
「そうですね
一部の魔物に関しては、古代魔導王国が原因みたいです
それが今でも残って、魔物となっているみたいです」
「何じゃと
それではゴブリンやコボルトは…」
「そうですね
人間が作った半人間です」
「なんと…」
これにはさすがに、マーリンも頭を抱えていた。
「昔の人間が酷かったと言うのは…」
「ええ
その辺も踏まえてですね
詳しくはどうしたかは分かりませんが…
もしかしたら女神様の真似をしようとしていたのかも知れませんね」
「エルフやドワーフを生み出した事か?」
「ええ
それを真似したんでしょう
結果として、彼等も新しい生命を生み出しました」
「何という事を…」
「それだけなら良かったんでしょうがね
彼等は自分達が遊んで暮らせる様に、奴隷として生み出したんです」
「それは…
女神様も怒るだろうな」
「ええ
結局はそれが、古代魔導王国を滅ぼす原因になりました」
「しかしそれは、今の状況にも似ているんですよね」
「しかしワシ等は…」
「そうですね
生き物を生み出したり、奴隷にする為に攫ったりしていませんね
しかし一部の人間は…」
「それは公爵や伯爵の様な?」
「ええ
女神様にとっては、許容出来ない事だったんでしょう
それで巨人を用意してまで、王都に攻め込ませたんです」
「なるほどな…」
アーネストが話し終えたところで、バルトフェルドが執務室に戻って来た。
顔色は優れない様子だったが、何とか気持ちを切り替えたのだろう。
バルトフェルドは、再び話を聞く為に部屋に戻った。
まだまだ続きます。
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