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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
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第369話

王太子であるギルバートが帰還した事は、たちまち王城中に広まった

多くの者が安堵し、これで王国の再建が始まると喜んでいた

そしてギルバートに縁のある者は、その帰還に心から喜んでいた

特にフィオーナとジェニファーは、涙を流しながら抱き合って喜んでいた

しかしセリアだけは、状況が理解出来ないのか困惑した顔をしていた

ギルバートは、国王の執務室で話をしていた

行方不明になった理由と、何をしていたのか説明する為だった

特にムルムルと居たという情報は、アーネスト達を混乱させていた

行方不明になる原因の一端の、王都が壊滅した原因を作った魔王だからだ


ギルバートが気絶していた期間での事だったので、先ずは兵士達が話を始める。

それはギルバートが王都を追放されて、意識を取り戻すまでの話だった。

彼等は来たの森に逃げ込み、朝が来るまでそこで野営をしていたのだ。

折しもアーネスト達が王都から逃げ出した頃に、北の森に居たのだ。


「そうか…

 思ったより近くに居たんだな」

「ワシはてっきり、東に逃げておると思ったわい」

「それはちょっと…」

「近くに魔物が集まっていましたからね」

「私達では…」


「王太子殿下が一緒だと聞いておったんでな

 それなら魔物も問題無いと思っておった」

「私は気を失っていましたからね…」

「ええ

 私達だけでは、オークでも厳しいですよ」

「そんな事は無いだろ

 狂暴化したコボルトも倒せていたんだ」

「殿下

 あれは運が良かったんですよ」

「そうですよ

 逃げるのに必死だったんですから」


北の森で魔物を殺したので、オーガが近付いて来たのだ。

それがそのまま王都に向かって、一気に南下して来た。

それが無ければ、王都はもう少しマシだっただろう。

結果として、より多くの住民が魔物に殺されてしまった。

今や王都の住民は、ほとんど居ない状況になっていた。


「逃げると言えば…

 ギルはどうやってムルムルから逃げて来れたんだ?」

「逃げたんじゃあ無い

 ムルムルは助けてくれたんだ」

「助ける?

 ムルムルはギルを狙っていたんだろ?」

「それなんだが…」


ギルバートは話し始めてから、表情を曇らせる。


「どうした?」

「うん

 アモンの様子がおかしかったよな」

「ああ

 ボク達の事を覚えていなかったよな」

「いや

 それもだが、戦っている途中で様子が変わったよな」

「様子?」


アーネストは直接対峙していなかったし、途中から魔力枯渇で気絶していた。

その為ギルバートが戦っていた、アモンの変化には気付いていなかった。


「ボクは途中で気絶してからね」

「気絶?

 どうしてだ?」


アーネストが居たのは城壁の上だった。

そこで気絶したなら、考えれるのは巨人の攻撃だった。


「アーネスト

 まさか巨人の攻撃で…」

「いや

 魔法の使い過ぎだ」

「そうか

 怪我はしていなんだな」

「ああ

 気絶してすぐに、街中の宿に運ばれていた

 だから怪我はしてなかったよ」

「なら良かった」


「それで?

 アモンがどうしたって?」

「ああ

 アモンは途中から正気を失っていて、獣の様に低い姿勢で突進して来ていた」

「獣の様に?

 まさかアモンは…」

「ああ

 獣人の血が濃い魔族だそうだ」

「魔族…」

「何じゃ?

 その魔族と言うのは?」


バルトフェルドを始めとして、ほとんどの者が魔族を知らなかった。

これは魔物の資料の中に、僅かながら情報が載っているだけであった。

だからギルバートも、ムルムルに聞くまでは詳細を知らなかった。


「昔ダーナで、ベヘモットと戦ったよな」

「ああ

 彼も魔王だったよな」

「そうなんだが

 彼が魔族らしいんだ」

「その魔族って何なんだ?」


「魔族はアースシーの人間族の一つです

 正確には一つだった…かな?」

「そうだな

 今では記録しか残っていないから、絶滅した事にはなっているけど…」


アーネストは何か言い掛けたが、ギルバートの方へ向き直った。


「それより、そろそろ昼食にしないか?

 ギルもお腹が空いてるだろ?」

「いや、私は…」

「殿下はちょっと…」

「食欲がわかないと食事もほとんど…」

「駄目じゃないか

 食べないと体調も治らないぞ?」

「うーん…」


一行は話を中断して、食堂に向かった。

そこでは炊き出しもしていて、大量の野菜のスープが用意されていた。

そしてアーネストは、ギルバートに強引にスープを飲ませようとした。


「あまり食欲は無いんだが」

「駄目だぞ

 無理してでも飲むんだ」

「はあ…」


ギルバートは溜息を吐きながら、スープを口に運ぶ。

それを横目にしながら、アーネストも食事をする。

食事と言っても、今は物資が乏しくなっている。

人口が少なくなったお陰で、なんとか足りてはいるが、依然食料は不足している。

王城の中とはいえ、食事は質素な物だった。


食事が終わったところで、再び執務室に移動した。

先程は王妃と姫も居たが、食後は別の用事で離席していた。

代わりにマーリンが来て、話を詳しく聞く事になった。


「さあ

 腹も膨れたところで、さっきの続きをするか」

「ああ

 魔族の事だったな」

「それなんだが…

 長くなりそうだ

 先にギルの話をしてくれ」

「良いのか?」

「ああ」


アーネストに促されて、ギルバートは話し始める。


「アモンは恐らくなんだが…

 獣人と魔族の混血なんだろう」

「獣人?

 それで獣の様な戦い方を?」

「ああ

 本来は魔法や剣技で戦う筈なんだ

 それが気が狂った様に、奇声を上げながら爪で襲い掛かって来ていた」


「うーん

 それだけで獣人とは…」

「ああ

 あくまでもムルムルの感想だ

 ムルムルの方が後から魔王になったので、そこまで詳しく無いんだって」

「ふうん…」


二人の話に、マーリンが質問してきた。


「獣人とは大陸の東に住む、あの獣人か?」

「ええ

 他の場所にも住んでいますが…

 今は東の平原の方が多いでしょうね」

「その獣人が何故、女神様の使徒に?」

「それは詳しくは分かりませんが…

 どうも人間に酷い目に遭わされた者達が、魔王に選ばれているみたいですね

 アモンも恐らくは…」

「そうだな

 獣人と魔族の混血だ

 相当な迫害を受けていただろうな」

「そうか…」


人間から迫害と聞いて、マーリンは言葉を詰まらせていた。

ただでさえ、帝国では同じ人間でも奴隷として迫害を受ける者達が居た。

それが獣人や魔族となれば、迫害も酷かっただろう。

下手をすれば、同じ魔族や獣人からも迫害されていたかも知れない。


「アモンの事は分かったが…

 それがどうしたんだ?」

「ああ

 アモンは人間を相当憎んでいた

 だからこそ、人間を殺す事に躊躇いが無かったんだろうな…」

「え?

 アモンが?」


アーネストの心象からすれば、アモンは紳士的な男だった。

それがこれだけ言われるという事は、ギルバートに相応の行動を取ったのだろう。


「ああ

 狂った様な奇声を上げて、誰彼構わず襲い掛かっていた

 ムルムルに対してもな」

「ムルムル?

 何でムルムルの話が…」

「あの戦場には、ムルムルも参加していた」

「何だって!」


これは戦場での生き残りが少なかったので、あまり知られていなかった。


「アモンが発狂した様な攻撃をして来た時、ムルムルも現れたんだ」

「何だってそんな…」

「それは…」

「彼はよく分からないと言っていましたね

 女神の指示で人間を殺していたみたいですが…」

「ええ

 殿下に言われた時にも、困った様な顔をしていました」

「それはまた…」


自分から参戦しておいて、その理由が分からないとは変な話であった。

しかしムルムルは、本当に理由についてはよく分かっていなかった。


「ムルムル自身、何でそこまで行動したのかよく分からないらしかった

 ただ…戦場を掻き回した事は後悔していたな」

「そんな馬鹿な話が…」

「紅き月」

「え?」

「アモンもムルムルも、月の影響があったんじゃ無いか?

 それで狂暴化して…」

「しかし彼等は魔王だろ?

 それが他の魔物みたいに狂暴化するなんて」

「ああ

 しかしそれしか納得の行く説明が無いんだ」


ギルバートの言葉に、アーネストも納得出来ないがそう思うしか無かった。


「しかし、魔王とやらまで狂暴化しておったのか?

 それでどうやって、殿下は助かったのじゃ?」

「それなんですが…

 あの時はムルムルとアモンがぶつかって…」

「はあ?

 魔王同士で戦ったという事か?」

「ええ

 それで激しい戦いになりました

 その時にアモンが苦しみ出して…」


当時の事は、ギルバートも朧気ながらにしか覚えていなかった。

ムルムルは確かに、街の人々を魔物に変えていた。

そして死者から集まる魔力を、死霊を生み出す力に変えていた。

しかしその魔力は、アモンと自分からも集められていた。


「私は気絶する前に、またしても負の感情に囚われていたらしい

 それが原因か分からないが…」


ギルバートは力を入れようとするが、力が強まる事は無かった。


「魔力による身体強化…

 いや、そもそも魔力が出せないんだ」

「何だって?」


アーネストは呪文を唱えると、幾つかの魔法を試す。

しかし段々と表情が曇って行き、最後の呪文を唱えたところで、黙って首を振る。


「ムルムルも同じ様に、魔法を使って確認していた

 それで私に魔力が感じられ無いと言っていた」

「そうだな

 今のギルからは、魔力が感じられ無い」

「そ、そんな…」

「魔力が無いとなれば、身体強化だけでは無かろう

 どうすれば良いんじゃ」


ギルバートの状態に、一行は困った様な顔をするしか無かった。

身体強化が使えないという事は、魔物と戦うにもかなり不利になる。

それに逃げ出す時も、身体強化が無いと不利になるだろう。


「原因は分からないが…

 恐らくは魔王との戦いが原因だろう

 治す方法が分かれば良いんだが」


ギルバートがアーネストの方を見るが、彼は首を振って分からないと告げた。

原因が予想出来ても、はっきりと確証が持てない。

そして対処法に関しても、思い当たる事が無いのだ。


「すまないがボクには、この現象に関する知識は無い」

「そうか…」


一同が黙っていると、バルトフェルドが質問をする。


「それで?

 殿下が意識を戻したのは、魔王のお陰だという事だが?」

「ああ

 そうですね

 ムルムルによって意識は戻りました

 それに関しては…」


ギルバートは同行していた兵士の方を見る。

兵士は頷いて、何が行われたのか話した。


「ムルムルという男は、殿下の様子を確認しました」

「そうして魔力が無いと言って、マジックポーションを飲ませる様に言いました」


マジックポーションを飲ませたところで、ギルバートは意識を取り戻した。

しかし意識が戻っても、ギルバートの魔力は回復しなかった。

それに関しては、ムルムルでも理由は分からないという話だった。


「そうか…

 魔力が無くて意識が…

 それなら魔力枯渇と同じ症状か…」

「アーネスト?」

「いや、何でも無い」


アーネストは気になる事がある様子だが、確証を持てない様だった。

だから首を振って、何でも無いと言っていた。


「兎に角、戻って来れて良かった」

「しかし殿下の話では、魔王と一緒に居たんですよね」

「ああ

 ザクソン砦の前まで一緒だった」

「え?」

「何だって!」

「それじゃあザクソン砦は…」

「ああ

 ムルムルが滅ぼしたんだ」


ギルバートも言葉に、バルトフェルドは言葉を失っていた。


「何でまた…」

「ギル?」

「ああ

 止める事は出来なかった

 いや、出来たとしても私は…」

「ギル?」


ギルバートは首を振った後、辛そうに話した。


「私達がムルムルと一緒に居た時に、エドワルド子爵に出会ったんだ」

「エドワルド子爵?」

「それは殿下を追放した貴族ですな

 しかし姿が見られないとは思っていたが…

 逃げ出していたとは」


バルトフェルドが王都を奪還に向かった時、王都には子爵の姿は見られなかった。

てっきり魔物に殺されていたと思っていたが、まさか王都の外に居るとは思わなかったのだ。


「それで子爵は?」

「ああ

 逃げ出した王都の住民を連れていたんだが…

 彼等を奴隷にして売り払おうと思っていたらしい

 それを知ってムルムルは…」

「魔王がですか?」

「ああ

 魔王がザクソン砦を滅ぼしたのにも、その辺が関係している」


ギルバートの言葉に、一同は驚いた顔をする。

ザクソン伯爵と言えば、公正名大な人物として王都でも知られていた。

そんな彼が、どうして奴隷の話しに関係して来るのか?


「ザクソン砦は、確かに有能な騎士が多く居たのだろう

 しかし彼等は、一般の住民を見下して嫌っていた」

「馬鹿な!

 騎士は住民を守る存在で…」

「事実として、子爵から解放された避難民達はザクソン砦に入った

 そこで騎士達に殺されて…」

「そんな…」

「信じられん

 ザクソン伯爵がそんな事をするなんて…」


「バルトフェルド様

 ザクソン伯爵ではございません」

「ええ

 騎士達が殺していました」

「私はザクソン伯爵も、それに関わっていると思っていますよ

 彼の祖父に当たる人が、どうやって砦を手に入れたのか…」

「え?

 それは帝国の兵士達から…」


バルトフェルドの言葉に、ギルバートは黙って首を振る。


「ムルムルは、元は帝国の魔術師だったそうです

 それがザクソン伯爵の祖父に、奴隷として囚われていたそうです

 そして砦を攻める時に利用されて…」

「え?

 そんな話は…」

「そうでしょうね

 彼に死霊魔法を使わせて、砦を攻め落としたところで殺したそうです

 死霊魔術は対面的にも問題があったようですからね」

「そりゃあ確かに死霊魔術は問題はあるけど…」

「そんな事があっただなんて」


「恐らくは記録も残っていないでしょう

 ですが当事者のムルムルとしては…」

「ちょっと待ってくだされ

 それじゃあムルムルとかいう魔王は何で…」

「そうだよ

 殺されているのなら、今の魔王は…」

「ああ

 殺されて死体を砦の外に棄てられたから、死霊になったんだ」

「まさかそんな…」

「死霊になって…

 それで魔王に?」


ムルムルの正体を聞いて、一同は驚いていた。

魔物の王で魔王と聞いていたが、まさか死霊だとは思っていなかったのだ。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。


すいません。

更新の直前で直す事にしました。

ようやく納得行く形になったので更新します。

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