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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
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第368話

アーネストは城壁の周りで見張りながら、帰って来た騎士からの報告を見ていた

ザクセン砦の訃報は聞いたが、バルトフェルドでは魔物の正体は分からなかったのだ

僅かながら痕跡は残されていたが、その意味が分からなかった

城壁は錆びた残骸しか残されておらず、街の近くには無数の穴が空いていた

しかしそれ以外には、目立った痕跡は残されていなかったのだ

騎士達の報告を見ながら、アーネストは書物の魔物を調べる

穴が空いていたのは、恐らくは死霊が出て来たのだろう

しかし死霊に関しては、金属を錆びさせる能力は持っていない

そんな力を発揮するなら、魔法でも使わなければ無理だろう


「どう思われますか?」

「うーん

 魔法を使ったと思うんだけど…」

「魔法ですか?

 魔物が使えるんですか?」


兵士の言葉に、アーネストは首を傾げる。


「魔物でも使えるよ

 むしろ魔物の方が、魔法に関しては適性が高いよ」

「え?

 そうなんですか?」

「ああ

 魔石を体内に持っているだろ?」

「ええ

 ですがあれは良きる為に必要だって…」


魔物は体内に魔石を持っている。

それは心臓の脇に埋まっていて、そこから魔力を体内に送るのだ。

これは人間にも似た様な器官が備わっており、そこに魔力を貯め込んでいる。

一般には魔石は、魔物の生命の源だと言われていた。

しかしその理由までは、ほとんどの者が知らなかった。


「魔石はね、魔物の力の源だと言われている

 でも、それだけじゃあ無いんだ」

「それは…」


「魔石の力を借りて、魔物は生きている

 しかしゴブリンはどうだ?」

「いや

 ゴブリンも魔石を持ってませんか?」

「それは狂暴化したゴブリンの一部だろ?

 全てのゴブリンが持っている訳じゃあ無い」

「それはそうですが…」


「ゴブリンが魔石を持っているのは、確かな理由がある」

「それは何ですか?」


アーネストは書物を差し出して、兵士達に説明した。


「人間にもあるんだけど…

 心臓の近くに、魔力を貯め込む小さな臓器があるんだ

 ここに魔力を貯め込んで、魔法を使う事が出来る」

「魔力を貯める臓器?」

「それでは魔物も?」

「ああ

 同様の器官があると思うんだ

 ここに記されているからね」


それは魔導王国が、魔物や人間の死体を切って、身体の仕組みを調べた物だった。


「ここに書かれている内容を読むと、魔物にも魔力を貯める器があるって

 それを魔力を持った物を食す事で、魔石を作り出すんだって」

「魔力を持つ物?」

「ああ

 特殊な植物や動物

 或いは…」

「人間や魔物?」


「そういう事だ

 だから人間には魔石は無いけど、人間を食ったりしたら?」

「魔石が出来る…」

「それじゃあ魔物を食っても?」


兵士がそれを聞いたのは、ワイルド・ボアの事があるからだ。

あれも魔物である以上、少なからず魔力はあるだろう。


「いや

 ワイルド・ボアは魔石を持っていない

 それに魔力も少ないから、そこまでは影響は無いだろう」

「良かった…」


「それに…

 魔石を食うぐらいじゃ無いと」

「え?」

「いや

 何でも無い」


書物の注意事項に、魔石を食した人間の事が書いてあった。

そこには魔力を過剰に摂取した事による、中毒死なんて事も書いてあった。

基本的には人間には、魔石を作れるほどの力は備わっていない。

しかし極一部の人間は、潜在的に魔力が高く、魔石との親和性がある。

そうした者は魔石を作り出し、より多くの魔力を取り込める。


アーネストには思い当たる節があるのだ。

自分もそうだし、ギルバートがそれなのだ。

しかし魔石が出来上がると、人間性に異常が出る場合が多いとも書かれている。

そう考えると、ギルバートが攻撃的になる暴走とは、魔石の影響があると思われた。


「魔石に関しては以上だが…」

「魔石か」

「それでは本当に魔法を…」

「ああ

 適切な訓練を積めば、優秀な魔法使いになれるだろう」


アーネストは書物を閉じながら、話を続ける。


「魔石があれば、強力な魔法を使える

 そして魔物は強くなるほど、魔石が必要になってくる」

「どういう事です?」


「巨人を見ただろう?

 あれがどれだけの食料を必要とするか…

 それに身体が大きいと、それだけ動くのにも力が必要だろう」

「まさか?」

「ああ

 ああいう魔物は、常時身体強化を使っている可能性が高い

 でないと、あんな大きい身体で動けないだろう」

「なるほど」

「それで魔石が必要なんだ…」


「恐らくはオーガ以上の魔物は、魔石が無いと生きて行けないだろうと思う」

「そうでしょうね

 身体からして大きいですもんね」


兵士達は納得したが、そこで新たな疑問が生じる。


「それで?

 どの魔物が魔法を?

「分からない」

「へ?」


「だから分からないんだ

 オーガとか頭悪そうだし

 今回の痕跡とは関係無さそうだろ?」

「え?

 そうなんですか?


アーネストは書類を手にして説明する。


「地面に無数の穴が空いていた

 これは死霊が出て来た穴だろう

 生きている者なら、地面に埋まっていて平気とは思えないからな」

「それでは死霊ですか?」

「ああ

 砦を襲ったのは、死霊で間違いは無いだろう

 問題は城壁を壊した魔法だ」


「それなら死霊が魔法を使って…」

「いや

 死霊だから使えないんじゃ無いのか?

 死霊が喋ると思うか?」

「そうですね

 死んでいるのなら、喋れそうにないですね」

「ああ

 骸骨か生ける死体か…

 どちらにせよ、喋るほどの知能があるとは思えない」


骸骨は舌も口も無いが、生ける死体には口も舌も残っている可能性はある。

しかし今まで見て来た死霊は、どれも知性がある様には見えなかった。

それが魔法を使うなんて、想像も出来ないだろう。


それに死霊が出て来たのならば、何者かが召喚した可能性が高かった。

死霊は基本的には、知性は失われている。

本能的に生者を襲う事はあるが、それ以外には行動する動機は無いのだ。

それが街を襲ったとなれば、背後に操った者が居る筈だった。


「穴から出て来た事からも…

 死霊を操る者が居たんだろう」

「先日の死霊術師?

 何かそういう魔王が居るって言ってましたよね」

「ああ

 恐らくそいつだろう」


王都を解放した後に、王都を襲った者の中に、死霊術師が居るという話が出ていた。

アモンだけではなく、もう一柱の魔王も関与していたのだ。

それでギルバートは敵わず、負けて気絶していたのだ。

アーネストはそれを聞いて、いつか意趣返しをしてやろうと思っていた。

それがザクセン砦を襲っていたのだ。

思ったよりも早く、魔王と戦う事になりそうだった。


「魔王がザクソン砦を襲った以上、ここも何時襲われるか…」

「それは無いだろう」


アーネストが話し込んでいる間に、10名ほどの旅人が入って来ていた。

城壁は監視していたが、旅人見て兵士も中に招き入れていたのだ。


「その声は…」

「何者だ?」

「何故襲って来ないと言えるんだ?」


「それは私が、少し前までムルムルに助けられていたからだ」

「何だと?」

「ムルムル?」

「ギル?」

「え?」


「私は深手を負っていてな

 暫く意識を失っていたんだ」

「殿下?

 よろしいので?」

「ああ

 アーネストが居るなら好都合だ」


戦闘に立っていた男が、被っていたフードを後ろに下ろす。

そこにはやつれていたが、見慣れた王太子の顔が見られた。


「ギル!

 生きていたのか」

「ああ

 おかげ様でな」

「殿下?」

「王太子殿下ですか?」


「ああ

 王太子、ギルバートだ」

「よくぞご無事で」

「良かった

 行方不明と聞いていましたから…」

「無事じゃあ無いんだが…」


ギルバートがフードを下ろした事で、周りのフードを被った男達も下ろす。

彼等は王都の兵士の生き残りで、ギルバートを護衛していた者達だった。

その中の一人が、喜びに沸く兵士達の前に出た。


「すまないが…

 殿下は憔悴しきっている

 出来れば休む場所は無いか?」

「それならば王城へ」

「そうですよ

 王城は一部崩れていますが、未だ健在です」


兵士達がそう言うと、フードを着けた兵士達は困った様な顔をした。


「悪いが…

 アルウィン公爵には会いたく無いのだが?

 公爵は殿下を殺そうとした張本人で…」

「公爵なら倒されました」

「今はバルトフェルド様がいらっしゃいます」

「何?

 バルトフェルド侯爵が?」


「詳しい事は王城で話しましょう」

「さあ

 どうぞ王城へ」


兵士達は作業を一旦停止して、王城に向かう事にした。


王城に到着すると、先ずは休める様に執務室に案内された。

私室でも良かったのだが、色々と話す必要があったからだ。

ギルバートが帰還したという事で、バルトフェルドは慌てて執務室に向かった。

その後ろには王妃と姫も居て、バルトフェルドの後を必死に着いて来ていた。


「王太子殿下!」

「バルトフェルド…

 声が大きいよ」


ギルバートは困った様な顔をして、バルトフェルドの方を見る。


「すまないが色々あってな

 少し休ませて欲しいんだ」

「ええ

 構いませんですよ

 座ったままでどうぞ」


バルトフェルドはいそいそと椅子を引っ張って来て、ギルバートの向かい側に腰を下ろす。


「ギルバート!」

「お兄様」

「お兄さん」


王妃と姫も部屋に入って来て、兵士が慌てて椅子を用意する。


「大丈夫なの?

 あなた顔も随分と痩せて…」

「無事だったの?」

「どこか痛くない?」

「まあまあ

 先ずは落ち着いて」


ギルバートは苦笑いを浮かべながら、三人が抱擁するに任せた。

椅子から立ち上がる気力が無いのか、ギルバートは座ったままだった。

しかし目立った外傷もなく、痩せこけているだけの様に見えた。


「先ずは無事で良かった」

「そうでも無いんですがね」

「え?」

「どこか具合が悪いの?」

「大丈夫?」


「まあ…

 問題は…少しだけありますが

 身体の方は無事です」

「身体の方は?」

「ええ

 実は魔力が無い状態でして…」

「へ?」

「どういう事だ?」


「先ずは順を追って話すから」


ギルバートはそう言って、みなが興奮するのを落ち着くまで待つ。

その間にマジックポーションも用意されたが、ギルバートはそれを首を振って拒否した。

どうやら単純に魔力不足では無い様子だった。


「先ずは…

 公爵の私兵に襲われたところからかな?」

「そうですね

 そこは我々が」


公爵の私兵に襲われた時、ギルバートはまだ意識が戻っていなかった。

いや、ムルムルに会うまでは、ギルバートは意識が戻る事も無かったのだ。


「公爵の私兵は、我々を王都の外へ連れ出しました」

「そこで殿下を亡き者にして、国王の座を奪うつもりだったのです」


この辺は兵士達も、バルトフェルドから話を聞いていた。

ドニスが侵入した事で、公爵側の動きは筒抜けだったのだ。

ドニスが調べたお陰で、王都から出たところまでは分かっていた。

問題はその後の事であった。


「公爵の兵士と戦い、私達は何とか勝てました」

「殿下に色々と教わっていたお陰です」


兵士達は訓練をしていたので、身体強化を使う事が出来た。

そのお陰で兵士に囲まれても、誰一人死ぬ事無く倒せたのだ。

しかし私兵達の生き残りは、ギルバートを殺した事にしたかった。

そこで殺して埋めたと、公爵には嘘の報告をしていた。


「私兵達は何人か殺して、何とか退けました」

「その後は奪った馬車に乗り込み、追っ手に気付かれない様に北に向かいました」

「北へ…」

「それでリュバンニには来なかったのか」

「ええ

 追手が来ていましたので、一旦北へ逃げたんです」


兵士達は暗闇の道を、北へ向かって逃走した。

しかしそれは、危険な選択であった。

後程、北からオーガが攻めて来たが、あれはこの逃走も原因の一端であった。

北に向かった後に、魔物の群れに出くわしてしまったのだ。


「私達は今度は東に向かい、そのまま魔物と戦いながら逃げました」

「魔物はオークとコボルトだったんですが…」

「数が多かったもので」


危険ではあるが、逃げる方が確実だったのだ。

そうして兵士は、北の森に逃げ込んでから東に向かう。

そこで野営をしている時に、ムルムルがやって来たのだ。


「殿下はお目覚めにならず…」

「気付け薬も効きませんでした」

「ですから私達は、殿下をお守りして待つしか無かったんです

 そうしなければ、どこに行っても無事ではありませんですから」


その時ギルバートは、国王を裏切り魔王を招いた張本人とされていた。

そうして追放された事で、逃げ場を失っていたのだ。

ここで意識を取り戻せば、公爵を倒して戻れる。

兵士達はそれを信じて、森の中で野営をしていたのだ。


「そこで私達は、朝まで森で過ごしていました」

「朝になってから移動しようとしていましたら、男が現れました」

「男?」

「ええ

 襤褸を纏った男です」

「それは…」


「ええ

 後で分かったんですが…

 彼は魔王です」

「ムルムルか」

「ええ!」

「襤褸を纏った男は、王都が襲われた戦場にも居ました

 間違いありません」


「彼は殿下を心配して、わざわざ私達の元に来たと言いました」

「それで?」

「何でそんな見るからに怪しい奴を…」

「仕方が無かったんですよ」

「そもそも私達は、一兵士でしかありません

 王都の戦場では戦ってませんし、王城内での警備しかしていませんでしたから」

「まあまあ

 それで?

 どうなったんだ?」


アーネストが間に入って取り成し、兵士達に続きを促した。


「まさか殿下にいきなり合わせられませんし…」

「病人が居るという事で話しました」

「それで医療の心得があるという事で…」

「診せたのか?」

「はい」


「何でそんな危険な事を?」

「だってしょうが無いでしょう?

 私達では目が醒めない理由は分からないんですよ」

「それに昔は救護所で働いていたって言ってたし」


兵士達は困っていたので、その男にギルバートの事を見せたのだ。

結果としては、それでギルバートは意識を取り戻したのだ。

ムルムルが医療の心得があるという話は本当だったのだ。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。


遅くなりましたが、何とかアイデアが纏まって来ました。

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