表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
366/800

第366話

襤褸を着た男は、ゆっくりと歩いていた

その視線の先には、ザクソンの街の城壁が見える

街はリュバンニより大きいが、住民の数では少なかった

この街は砦を中心として、そこに集まる隊商達の力で発展してきた

だから住む者より、砦を守る騎士達の方が人数は多かった

王国の東を守る、東の砦と呼ばれる場所がある

そこは東部守護騎士が集まる、騎士の街でもある

街の半分が砦となっていて、嘗ては帝国からの侵攻を防いでいた

今は帝国も滅びたので、東からの蛮族の侵攻を防ぐ砦となっていた


東部の守りの要とあって、ここでは武を重んじる傾向が高かった。

毎年武術大会を行い、優勝者は騎士に取り立てられる。

そうして多くの騎士を集めて、この街は発展していた。


領主であるザクソン伯爵も、元々は騎士であった。

彼の祖父に当たる人物が、命を懸けて砦を守った。

王国の記録には、そう記されている。

そうして名誉伯爵として、ザクソン家は伯爵の爵位を賜っていた。


「街の様子はどうじゃ?」

「昨日の避難民の件ですが…」

「家は用意してやれ

 それから先は、彼等次第じゃろう」

「しかし…

 良いんですか?」


文官が懸念するのは、騎士達が反発をするからだ。

この街は武を重んじている。

それは日常生活であっても同じであった。

何も功績の無い避難民が、いきなり街で家を貰えるのだ。

騎士達が不満に思うのも当然だろう。


それに、避難民は魔物から逃げて来ている。

騎士達としては、そんな腰抜け達が許せなかった。

戦わずして逃げる事が、守られる事が当然と思っている事が許されなかった。

彼等からすれば、戦えないのなら死ぬ事が当然と思っていた。

その辺が王国の中でも、この街が異様な雰囲気を持っている事を現わしていた。


「構わん

 王国の民である以上、保護するのは当然じゃ」

「しかし…

 騎士達が従うとは…」

「ワシは構わんと言ったぞ

 騎士達にも徹底させよ」

「は、はあ…」


文官は困った顔をして、手元の書類を眺める。

そこには既に、騎士からの苦情と陳述が書かれていた。

従わせろと言われたが、既に反発が起こっているのだ。

文官が何を言おうが、騎士達が従うとは思えなかった。


騎士は自らの武勇に誇りを持ち、それ故に強かった。

そして強いからこそ、弱者を嫌っていた。

そんな弱者が騎士にもならないのに、家を貰っていては不満だろう。


文官は不満そうな顔をしながら、騎士達に通達をしに向かった。

しかし案の状、騎士団からは不満が上がっていた。


「ふざけるな

 王都から逃げて来た腰抜け共に、家を与えるだと?」

「そうは言われましても、これは領主様の判断ですから」

「それを諌めるのが貴様らの仕事だろう」


騎士に恫喝されるが、文官は両手を挙げて肩を竦める。

恫喝されようが、領主からの命令なのだ。

文官としては、命令を伝えるしか無かった。


「私に不満を持たれましても、これは領主様の命令ですから」

「くそっ

 覚えていろ」


騎士達は不平を漏らしながらも、命令には従っていた。

相手が領主なので、逆らう事は出来ないのだ。


「ふう…」


文官は溜息を吐きながら、騎士団の本部を後にした。

それから夕刻になるまでは、特に何も起こらなかった。

騎士団も命令に従い、避難民には手を出さなかったのだ。

そうして辺りが薄暗くなってから、事が起こった。


「どうしても行くのか?」

「ああ

 この街だけは…

 どうしても許せない」


「何があったって言うんだ?」

「そうだな

 お前には話しても良いか」


ムルムルは溜息を吐きながら、話し始めた。


「これは今から、もう100年ぐらい昔になるな…」

「そんなに昔の…」

「まあ待て

 確かに大元はそうだが、今でも続いているんだ」


ムルムルはそう言うと、忌々しそうに城壁を見上げる。


「ここは元々は、帝国の砦だった」

「帝国の?

 それは本当か?」

「ええ

 ですからここの領主も、元は帝国の伯爵の家系です」


フードを被った男達は、頷いて肯定した。


「そうだ

 ザクセンは帝国の西の砦で、古くから魔物の襲撃を押さえていた

 だからこそ、ここの領主は武勇に優れて、多くの騎士を輩出していた」

「そんな領主に何の恨みが…」

「まあ、話を聞けよ」


ムルムルは呆れながら、フードを被った男に注意をする。

その男が一団の頭目らしく、他のフードを被った男達はその男に従っていた。


「帝国で魔物の被害が増えていた時に、ここの騎士団を率いていたのが、ここの領主になった男だ

 彼は帝国のある騎士の家系でね…」


ムルムルは当時を思い出す様に呟く。


「彼の指示に従って、ある魔術師が作戦を行ったんだ」

「ある作戦?」

「ああ

 砦を攻め落とす為に、死霊を使ったんだ」

「死霊ってまさか…」


「その魔術師は死霊を率いて、無事に砦を落とした

 それだけならば、彼は英雄の様な扱いだったろうね」

「それはそうだろうが…」

「ああ

 君もそう思うかい?

 死霊を使うなんて卑怯だとか…」

「いや

 そうは思わないが…」


気分の良い話では無いだろう。

それをフードを被った男達は、何とか口にしなかった。


「まあ、彼はそう思ったんだろうね

 私を殺して高らかに笑っていたよ

 邪悪な魔術師を殺したってね」

「そんな…」

「良いんだよ

 彼は最初からそれが目的で、私を利用したんだから」


ムルムルは砦を攻め落とす任務を受けて、頑張って砦を落とした。

しかし彼を邪悪な魔術師として、その騎士は彼を殺したのだ。

それは騎士にしては、卑怯な行いであっただろう。

その報いとして、この砦は魔物に襲われる事になる。


「私が殺された時に、死霊魔術の効果は残っていた

 結果として、私は死霊として生き返った

 それは当時のこの砦の歴史として、記録が残されている」

「そんな事が…」


「結果として、砦は大打撃を受けたが、私は逃げ延びる事が出来た

 それが私が復讐を誓う元になった出来事さ」

「それはまた…」


ムルムルの人間に対する怒りは、ここから来ていた。

彼は魔物と成っていて、今や魔王として女神の使徒になっている。

しかしその大元は、帝国の魔術師だったのだ。

同国の騎士に裏切られて、殺されて魔物に成り果てていたのだ。


「なあに

 それが無くても、ここは攻め落とされる予定だったんだ」

「何だって?」

「ここも人間の行いに問題があってね…」


ムルムルは魔法を使って、魔物に偵察させていた情報を示した。


「これを見てみろ」

「ん?」


ムルムルは呪文を唱えて、魔法で映像を流す。

そこには騎士達が、避難民を殺そうとしている姿が映された。


「な!

 これは…」

「こういうところだよ

 彼等は勇敢で無い者を、蔑み憎む傾向にある

 それは自分達が、選ばれた騎士だと思い込んでいるからだ」

「そんな…」

「まさかこんな事になるだなんて…」


実は騎士達は、領主の言葉に反感を覚えていた。

だから実力行使として、避難民の一部を捕らえていた。

そして人知れずに始末しようとしていた。

ムルムルはこの事を予想して、避難民の一部の者に魔法を掛けていた。


「だから言っただろ

 逃がしても無駄だと」

「しかし、あの場に居ては…」

「そうだな

 私が手を出さなくても、他の魔物が襲っていただろうね」


ムルムルは平然として呟く。

しかしフードを被った男達は、明らかに不快そうな様子だった。

助けたと思っていたのに、結局は無駄になったのだ。


「くそっ

 こんな事になるのなら…」

「言った筈だぞ

 避難民なんて、足枷にしかならない

 だから余程の事が無い限り、冷遇されるんだ」

「ぬう…」

「まあ、今回は逃げ込んだ場所も悪かったね

 可哀そうだけど…」

「くそっ」


「止せよ

 どうする気だ?」

「私が助けに…」

「どうやって?

 今お前が向かって行っても、返り討ちに遭うだけだぞ」

「しかし並みの兵士ならば…」

「そうですよ」

「いや

 彼は力を封じられているんだ

 そうはいかんだろ」


ムルムルは首を振って、行かない方が良いと示した。


「止めておけ

 今のお前には、私を押していた力は無いんだ

 生きているだけでもありがたく思いな」

「くっ」

「そんな…」

「しかし、我々では…」


他のフードを被った男達は、そこまで力を持っていないのだろう。

ムルムルの言葉に悔しそうに肩を震わせた。


「これから私は、魔物をここに誘き寄せます」

「どうしてもやるのか?」

「ええ

 これは私の…

 私達魔王のケジメです」

「そうか…」


「約束通り、あなた達は無事に逃がします

 今すぐにここから離れなさい」

「しかし…」

「良いから行きなさい

 ここは間もなく、魔物の群れに襲われます」

「それでは罪の無い者達まで…」

「罪が無い?

 どの口が言うのですか?

 女神様の再三の警告を無視して、選ばれた民だ等とのたまわって…」

「それは…」


ムルムルは溜息を吐く。


「はあ…

 反省する機会は与えたんですよ

 あなた達はまだ、そこまで誤っていませんから、私も見なかった事にします」

「そんな事を言われても…」

「良いから行きなさい

 でないとあなた達まで巻き込まれますよ」

「くっ…」


フードを被った男達は、諦めて足早に立ち去って行った。

それを見送ってから、ムルムルは魔力を地面に流す。

そこから黒い魔力が流れて、地面から骸骨の剣士が無数に現れた。


「さあ行け

 穢れし心を持つ者達を、滅ぼして来るのだ」


骸骨達は剣を構えると、顔の前で天に突きあげる。

そうして戦う意思を見せると、一気に街の城門に向かった。


「さあ

 虐殺の始まりです

 エビル・コラプション」


地面から黒い魔力の奔流が流れて、城門を覆い隠す。

その魔力の影響を受けて、城門は腐敗してグズグズに崩れて行った。

城門が崩れたのを見て、骸骨の剣士は街の中に入って行く。

しかし兵士達は、まだ魔物の接近には気が付いていなかった。


「何だ?」

「おい

 城門が…」

「え?」


暗闇の中で、気が付けば城門が無くなっていた。

そして城門が在った場所には、無数の骸骨の剣士が立っていた。


「え?

 何だ?

 あの白いのは…」


ガシャガシャと音を立てて、骸骨の剣士は入って来る。

そして手近な兵士に、いきなり切り付けた。


「ぐぶっは」

「おい!

 何だこいぐはっ」

「ひい!

 骸骨だと?」

「うわあああ」


兵士達は骸骨の剣士に気が付いたが、既に戦う意思は失われていた。

次々に切り掛かられて、その場で命を落として行った。

そして絶叫に気が付いて、住民達も驚いて家から出て来た。

兵士達も腕自慢の者が多いので、城壁で絶叫が上がる事が珍しかったのだ。


「何だ?」

「どうしたんだ?」

「あ、あれ…」

「きゃああああ!」


住民達も異変に気付き、悲鳴が響き渡る。

それに気が付いた、騎士達も集まり始めた。

しかし騎士が向かって行っても、骸骨剣士は倒せなかった。

それどころか騎士達も、魔物に切り殺されて行った。


「ぐわああああ」

「そんな…

 騎士達が敵わないだと?」

「お終いだ!」

「に、逃げろ」


住民達はパニックになり、魔物から逃げ出そうと必死になる。

しかし骸骨剣士は、無言でゆっくりと迫って来る。

それが却って不気味で、住民達は逃げ惑うしかなかった。

これがオーガの様な、見るからに恐ろしい魔物だったら違っただろう。

しかし骸骨という不気味な存在だったので、住民達はその場から離れようとしかしなかった。


城門から逃げ出せば、他に逃げ場もあっただろう。

しかし奥に逃げるばかりなので、やがては魔物に追い付かれる。

そうして魔物に追い付かれた者は、その場で切り殺された。


「どうしたのじゃ?」

「それが…」


伯爵は街の騒ぎに気が付き、文官達に調べさせようとした。

しかし騎士や兵士に聞かなかったので、詳細な情報が入って来なかった。


「何が起こっておる」

「それが情報が錯綜していまして…」

「何やら骸骨が出たとか」

「大方魔物が現れて、住民達が騒いで…」


しかし伯爵は、その言葉を聞き逃さなかった。

自分が最も恐れていた存在が、現れたと聞いたからだ。


「待て

 今何と言った?」

「え?

 魔物が現れて…」

「その前じゃ」

「へ?」

「骸骨ですか?」


伯爵はへたへたと力無く、椅子に崩れ落ちた。


「伯爵様?」

「骸骨じゃと?」

「ええ

 ですがそんな物が…」

「騎士団を集めよ」

「へ?」

「良いから早急に、騎士団を集めさせろ!」

「は、はい」


文官は伯爵に怒声を浴びせらて、慌てて執務室を飛び出す。

伯爵は頭を抱えながら、首を左右に振った。


「恐れていた事が…

 遂に来てしまった」


伯爵の予想は当たっており、魔物はゆっくりと砦に向かう。

その途中にも、殺された者達がゆっくりと立ち上がる。

そうして新たな魔物として、動く死体が住民達に襲い掛かった。


「うわあああ」

「死体が!

 死体があああ…」

「くそっ

 これでは切りが無いぞ」


骸骨剣士と動く死体が、ゆっくりと砦に迫って来る。

騎士団は住民を切り捨てて、砦の入り口を閉めた。


「ああ…

 砦の入り口が…」

「我等を見捨てる気か?」

「くそっ

 騎士団め」

「ぐわあああ」


住民達は、騎士団に見捨てられて絶望する。

既に逃げ場は無く、魔物がゆっくりと迫って来る。

そして魔物に噛み付かれたり、剣で切り殺されたりする。

そうして死んでいった者達が、次々と魔物として生き返る。

気が付けば魔物に囲まれて、砦はいよいよ窮地に立たされていた。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。


夕方にも更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ