第364話
リュバンニの城門に、貴族の私兵達が集まる
リュバンニのバルトフェルドの兵士だけではなく、他の貴族の私兵も集まっていた
子爵の兵士以外にも、王都の東側の町からも兵士は来ていた
彼等は王都の惨状を見て、すぐにリュバンニへ来ていた
こうしてリュバンニには、多くの兵士が集まっていた
リュバンニの城門から、兵士達が続々と出て行く
王都に向かって、魔物から奪還する為だ
しかし奪還出来ても安心できない
北側の城壁が、大きく壊れている為だ
早目に修復しなければ、また魔物がしんにゅうするだろう
「職人は同行しなくて良かったんですか?」
「うむ
オーガが居たという話だからな」
「オーガですか…
本当に我々だけで倒せるんですか?」
「それは問題無い
要は奴等に近付かせる事無く、足を切れば良いんだ」
ワイルド・ベアも居たと言う話だが、今も居るのかは不明だ。
今はただ、オーガを討伐する事を優先するだけであった。
「それ
王都の城門が見えて来たぞ」
「はい」
「気を引き締めて行こう」
「はい」
将軍と斥候を先頭にして、王都の西の城門に近付く。
そこからも魔物が居るという気配が伝わって来る。
何か大きな力を持つ者が、中に潜んで居る気配だ。
「静かに侵入しろ
そして城壁に登るんだ」
「はい」
「魔術師と弓兵も城壁へ
上から近付く魔物の動きを止めてくれ」
「はい」
斥候が城壁に登ると、そこにはゴブリンが待ち構えていた。
既に王都から人間は逃げ出し、魔物が占拠していたのだ。
「頼む
ゴブリンが居るぞ」
「数が多いな
このままでは…」
「魔術師に頼むか?」
「いや
オーガが来るまでは駄目だ
魔力は使わせるな」
魔術師の魔力を温存する為に、兵士達が決死の特攻を試みる。
技量では人間の方が上だが、数が多過ぎるのだ。
「城壁から叩き落せ
ゴブリンならそれで殺せる」
「あまり物音を立てるな
オーガに見付かるぞ」
兵士は指示に従い、戦う事より魔物を落とす事に集中する。
確かにゴブリンなら、城壁から落ちるだけで大きな痛手となるだろう。
下にも兵士が居るから、それで十分だった。
しかしゴブリンを30体ほど倒したところで、地面が振動するのを感じた。
「くそっ
見付かったか」
「魔術師達はまだか?」
「あと少しです」
弓兵は登り切り、既に配置を始めていた。
しかし魔術師は、体力の無さから遅れていた。
また、ゴブリンの数が多いのも足枷になっている。
既に50体近くを叩き落としたが、まだまだ100体近いゴブリンが城壁の上に居た。
「止むを得ん
斥候はオーガの位置を確認しろ」
「はい」
「オーガは一先ず、弓で牽制しろ」
「はい」
本当は魔法で、オーガを拘束したかった。
しかし魔術師達が準備をするまで、まだまだ時間が掛かるだろう。
それまでは危険だが、弓で牽制するしか無かった。
「騎兵は王都内に入り、左右に展開
オーガが接近するまで待機しろ」
「はい」
「歩兵はどうしますか?」
「城壁の上で待機しろ
どの道オーガが相手では危険だ
殺されに行くだけだ」
「はい」
「残りの歩兵は城壁外の確保だ
他の魔物を寄せ付けるな」
「はい」
城壁に登った兵士は、一先ずはゴブリンの掃討に注力する。
それが終わってから、そのまま弓兵や魔術師達の護衛に当たる。
後方に残された兵士は、外から魔物が来ない様に警戒する。
ゴブリンやコボルトの様な弱い魔物なら、そのまま掃討の任を果たす。
強い魔物なら、中の騎兵達に報せる役目も担っていた。
この作戦には大きな穴がある。
外から強力な魔物が来たら、中と外から挟まれて全滅してしまうだろう。
それに、中もオーガだけとは限らない。
何処かにまだ、ワイルド・ベアが潜んで居る可能性があるのだ。
「斥候は周囲を警戒しろ
我々が生き残れるかはお前達に掛かっている」
「はい」
今回の作戦の為に、現役を退いた兵士も参加している。
彼等は斥候の任を受けもっていたが、満足に身体を動かせない。
怪我や年が原因で引退したのだから、それは当然だろう。
しかし斥候の手が必要なので、可能な限り連れて来ていた。
彼等は足を引き摺ったりしながら、城壁の上へ登って行く。
そこから魔物の動静を確認する為だ。
「死んでも任務を果たせ」
「そうだぜ
どうせ死に損なった身だ
ここで果たせなくて生きている意味などあるか」
老いて満足に走れない老人や、腕を失った兵士も居る。
彼等は城壁に登ると、必死になって周囲の警戒を始めた。
「城壁から左手に2番
右手に4番の通りにオーガの姿」
「さらに左に1番と2番にオーガが来てるぞ」
「左2番
右4番の通りだな」
弓兵は弦を引き絞って、オーガが迫るのを待ち構える。
魔術師達はまだ、肩で息をしている。
魔法の準備にまで時間が必要だった。
「よく狙えよ」
「はい」
「撃て!」
「撃てえい!」
ビュン!ビュン!
矢は大気を切り裂いて、オーガの顔に目掛けて放たれた。
一部は弾かれたが、何本か顔に突き刺さり、片目にも突き刺さる。
しかしオーガに警戒されて、顔を覆う様にして迫って来る。
「くそっ
表皮が固くて弾かれる」
「構わん
牽制が目的だ、撃て」
「はい」
オーガの表皮は頑丈なので、矢が当たったぐらいでは傷は入らない。
それは魔鉱石の鏃でも変わらなかった。
最初の一撃は油断していたが、腕で弾かれていた。
そして最初の2体が、城門前の広場に到着した。
ゴガアアア
グガアアア
「ひ、ひいっ」
「怯むな
勝てない相手ではない
騎兵部隊、掛かれー!」
「おう!」
将軍の号令で、騎兵部隊が左右から突進する。
オーガは顔を覆っていたので、騎兵の突進に反応が遅れた。
左右から騎兵が迫り、腕や足を切り裂いて行く。
魔鉱石で作られた鎌は、頑丈な魔物の表皮も容易く切り裂いた。
グゴアアアア
「よし
一気に畳みかけろ」
「うおおおお」
「せりゃあああ」
騎兵達は鎌を振り回して、足に切り傷を与える。
堪らず膝を屈した魔物に、止めのポールアックスが振り下ろされる。
1体は首を切り裂かれて、もう1体も背中に斧が食い込む。
藻掻いているところに、止めの一撃が叩き込まれた。
「続いて3体が迫っています」
「魔術師達はどうだ?」
「よ、用意は良いです」
「よし
拘束の魔法を頼む」
「はい
騎兵のみなさんは一旦退避してください」
魔術師は騎兵に下がらせて、オーガが迫るに任せる。
そして開けた場所に出た瞬間を待って、魔法が同時に放たれた。
「マッド・グラップ」
「ソーン・バインド」
グガアアア
オーガは地面から生えた泥の腕に、足首をしっかりと掴まれる。
そして伸びて来た蔦が、オーガの腕や足を縛り付ける。
魔法で生み出された蔦に、魔物は拘束されていた。
「今だ
一気に屠れ!」
「おう!」
再び騎兵達が前に出て、オーガの腕や足を切り付ける。
後は倒れたところに、止めを刺すだけだった。
魔術師が加わるだけで、オーガとの戦闘は格段に楽になる。
そのままでは怪我人が出る戦闘も、軽傷程度で方が付いていた。
「次、左に2番と3番
それから右に3番と4番です」
「4体がほぼ同時に来ます
気を付けてください」
「ああ
オーガの死体を片付けて、騎兵は再び待機しろ」
「はい」
騎兵達は一旦馬から降りると、手早くオーガの遺骸を運んで行く。
城門の外では、兵士が馬車に遺骸を載せている。
そこまで運ぶと、再び馬に乗って左右に分かれる。
こうして繰り返す事で、夕刻前までに26体のオーガが討伐されていた。
「順調ですね」
「ああ
しかし油断は出来んな
問題は日が暮れてからだ」
城門の外には、いまのところゴブリンしか現れていない。
しかし日が暮れてからはどうなるか分からない。
日が暮れる前には、本隊を城門内に入れる必要があるだろう。
いつまでも外を警戒しながら、魔物と戦う訳にはいかなかった。
精神的に消耗するし、何よりも危険だからだ。
「ワイルド・ベアが出ませんね」
「ああ
外に出たのかも知れんな」
将軍は指示を出して、本隊を城内に入れた。
そして広場に天幕を張り、野営の準備を始めさせる。
オーガも夕刻前には、全て倒せたのか来なくなっていた。
このまま夜も来なければ、後は翌日に王都内を調査する必要がある。
まだ建物の陰に、魔物が潜んで居る可能性が高いのだ。
「斥候はそのまま、交代で見張ってくれ」
「はい」
「騎兵達は子爵の軍と交代して休憩だ」
「はい」
「やっと休める…」
「腹が減った」
「お前…
よくこの状況で食欲が湧くな」
「へへへへ」
「褒めて無いって」
騎兵達は馬から降りて、食事や休息を取る。
代わりに子爵の私兵である騎兵が、馬に乗って警戒に勤める。
城壁の上では、弓兵や魔術師達も天幕を張っている。
下に降りたのでは、魔物が迫った時に間に合わないからだ。
幸い王都の城壁は、上に広い見張り台も完備されていた。
そこに天幕を張れば、暗闇でもうっかり落ちる事は無いだろう。
城壁から警戒しつつ、解放軍は暫し寛いでいた。
オーガを討伐出来たので、暫くは安全だろう。
しかし他にも魔物は居るかも知れない。
油断は出来ないだろう。
「将軍
見張りはどうしますか?」
「うむ
半数は休息
残りは引き続き警戒してくれ」
「はい」
「後で交代させるから、待機中も上で休ませる様に」
「はい」
将軍は一通り指示を出すと、怪我人や物資の確認を行う。
今回は将軍の軍では無いし、子爵の私兵も混じっている。
連携が上手く取れないで、物資が行き渡っていない可能性もある。
その辺を加味して、将軍は物資のリストを調べた。
秋は日の時間も短くなってくる。
秋の気配もすぐ側まで近付いていた。
周囲はすぐに薄暗くなり、篝火が灯される。
天幕の近くには焚火も焚かれて、夜に備えて警戒が強められた。
「将軍
街の外に魔物が」
「こっちに向かって来そうか?」
「ええ
どうやらコボルトの様ですが…」
「狂暴化の影響か?」
「はい
しきりにこちらの様子を窺っています」
「うむ
斥候に警戒させて、必要なら弓兵も起こせ」
「はい」
すぐには襲って来ないだろうが、狂暴化しているのなら、無理してでも襲って来るだろう。
幸い城壁は高く、投石も効果は低いだろう。
しかし用心する必要はあるので、斥候には警戒を続けさせた。
「それに…
他の魔物を呼び寄せる可能性もあるか…」
「え?」
「いや
何でも無い」
将軍の独り言に、アレハンドラ子爵が反応する。
将軍は何でも無いと言って、首を振っていた。
しかしアレハンドラは、呟いた言葉を聞き逃していなかった。
彼は他の魔物を警戒して、街の北側を重点的に警戒した。
その甲斐あってか、夜半過ぎに報せが届いた。
「将軍」
「アレハンドラ子爵
どうかされたか?」
「豚頭が迫っている」
「オークか?
どれぐらい居るんだ?」
「まだ斥候だけの様だ
オーガが居なくなったので、こちらに様子を見に来たみたいだ」
「厄介な…」
オークもあまり賢くは無い。
しかしオーガが消えた事には気付いたみたいだし、その原因を探るぐらいはする様だ。
このまま近付かれては、夜陰に乗じて攻められるだろう。
何とか斥候を片付ける必要があった。
「斥候をどうにか出来そうか?」
「ああ
現在私の兵が、奴等を誘き寄せている」
「そうか
それなら上手く誘い込んで…」
「ああ
建物の陰から奇襲しようと思う」
「頼めるかな?」
「ああ
任せてくれ」
アレハンドラは、どちらかと言えば軽い性格だ。
しかしこの軍では、報告や相談が重要だと理解していた。
だから罠を仕掛ける前に、将軍に相談して来たのだ。
「それでは行って来る」
「ああ
気を付けてくれ」
将軍の言葉に、アレハンドラは笑顔で手を振って応える。
そうして馬に鐙を当てると、暗闇の中に消えていった。
暫くして、遠くで微かに物音が聞こえた。
どうやら子爵が仕掛けた様子で、少し経ってから戻って来た。
「上手く行ったぞ
豚頭を8体狩って来た」
「他には居なかったか?」
「大丈夫だ
十分に引き付けてから、確認して倒した」
子爵はオークの遺骸を運ぶと、死体を載せた馬車に載せた。
こうして1日目は、大した騒動も無く終わろうとしていた。
オーガは討伐出来たが、肝心のワイルド・ベアの姿が見えない。
本当に王都の外に、出ているのなら良いのだが。
将軍はそう思いながらも、仮眠をする為に天幕に入った。
王都の東側では、未だに魔物から逃げている者が居た。
必死に森を逃げては、魔物の姿に怯えていた。
彼等は火を焚く事も恐れて、木の実などをそのまま食べていた。
彼等に同行する兵士が居れば、状況は変わっていたかも知れない。
しかし兵士も戦える者も居なくて、ひたすら魔物から逃げていた。
人数は少しずつ減って行き、今では30名ほどに減っていた。
それでも彼等は、何とか森の中で生き延びていた。
こうして逃げ延びていたら、いずれ誰かが助けに来てくれる。
そう信じて待っているのだ。
「なあ
いつまで逃げれば…」
「しっ
魔物に見付かるだろう?」
「しかしな、リュバンニにでも逃げ込んでいれば…」
「それは無理だろう
西の公道で魔物に襲われたのを見ただろう?」
「…」
彼等は公道に出ようとした時に、他の避難民が魔物に襲われるのを見ていた。
それで自分達が助かったのだが、怖くなって森の奥へ逃げ込んでしまった。
そこから方角が分からなくなり、こうして森を彷徨っていたのだ。
「なあ
あれ…」
「魔物かも知れんぞ」
「しかし…」
彼等は森の中で、焚火の灯りを見付けた。
こんな場所に焚火があるのも不自然だが、彼等は疲れ切っていた。
疲労で思考が停止して、不用意に焚火に近付いていた。
もし人間なら、この窮地から救ってもらおうとおもったのだ。
こんな森の奥に、人間が焚火をする筈も無い事を忘れてしまっていた。
彼等は火に群がる虫の様に進んで、焚火の前に出て行くのだった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




