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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
358/800

第358話

アーネスト達は、夜通し馬車を駆ってリュバンニに辿り着いた

リュバンニではバルトフェルドが待っていて、街の外まで迎えに来てくれた

こうして一行は、無事に街の中に入れた

しかし、問題はこれからなのだ

ギルバートは依然行方不明だし、王都は魔物に狙われ続けている

何よりも、国王が亡くなった事が問題であった

バルトフェルドには、王都から王妃が避難するとしか伝わっていなかった

だからバルトフェルドには、国王が亡くなった事は伝わっていない

そして公爵が、ギルバートを罪人として追放して、王位を簒奪した事も知らなかった

そんなバルトフェルドに、現状を伝えて協力を仰がなければならない

アーネストは、慎重に言葉を選んでいた


「バルトフェルド様

 あなたは巨人の襲撃に関しては、どこまで聞いていますか?」

「ん?

 ワシが聞いたのは、巨人が王都に迫っている事だが?

 他に聞いたのは、その影響で魔物が増えているので、気を付けろと…」

「そうですか…」


アーネストは言葉を選びながら説明する。


「そもそもが、巨人が迫っていたのは王都を攻め滅ぼす為です」

「攻め滅ぼす?

 何でまた?」

「その事なんですが…

 元々は、女神様の指示らしいです」

「女神様の?

 それでは噂は…」

「噂?

 それは何ですか?」


バルトフェルドからは、妙な噂が出回っていた事が知らされた。

しかしそれは、正確な内容では無かった。


「うむ

 王都で悪しき事が行われて、女神様の怒りに触れたのだと…

 なあ、そんな事は無いよな?」

「ええ…

 少し違いますね」


アーネストは、王都だけでは無く、人間全体で選民思想が増えている事を警告した。

元々は、アルベルトがギルバートを使って禁術を行使した、それが発端である。

しかしそれを出せば、王家の正当性が失われる。

それはここで今、話すべき事では無かった。


「選民思想か…

 確かに、貴族を始めとして広まっておるな」

「ええ

 女神様はそれを、あまり快く思っておりません

 事実、過去には魔導王国や帝国が滅ぼされています」

「何?

 あれは民の反乱では…」

「そうですね

 帝国が滅びた原因は、民の反乱でしょう

 しかし、その裏には女神様も絡んでいます」


アーネストはエルリックの方を見る。

エルリックは頷いて、その内容を告げる。


「帝国が繁栄する裏で、多くの他種族を奴隷にしたり、殺していました

 多くの亜人種が苦しみ、女神様に救いを乞いました」

「それが滅びた原因だと?」

「そうですね

 結果としては、ハルバートの様に民を救う為に立ち上がった者が居ました

 それらが反乱を起こして、帝国は滅びた…」

「そうだ

 ワシも多くの仲間を募り…

 しかし、そこに女神様が介在していただと?」


女神信仰は、帝国の中では衰退していた。

他の多神教が布教されて、女神の力は失われたと思われていた。

そんな時に、西の王国が女神様のお告げがあったと立ち上がった。

しかし、それだけで女神の影響と言うには少々苦しかった。


「勿論、今のフランシス王国、彼の王国が女神様の啓示を受けたのは本当です

 あなた方も、結界の封印石の恩恵はあったでしょう?」

「結界か…

 確かに魔物は退けたな

 あれでフランシスは、諸外国に大きな顔をしていたからな」

「そうですね

 それに関しては、女神様も嫌な顔をしていましたね

 今思えば、あれも選民思想なんでしょうね」

「何でだ?」

「自国が神に選ばれた国だと、フランシスは調子に乗っています」

「ああ…」


フランシス王国は、今も女神に選ばれた王国と名乗っている。

しかしそれは、実は別の理由があった。

魔物を追いやるのに、大陸の端の方がやり易かったからだ。

それ以上の意図は無かったのだ。

しかしフランシスは、結界の封印石の事で優位に立とうとしていた。

その事に関しても、女神は憂いていたのだ。


「それで?

 帝国は分かったが、魔導王国とは?」

「帝国の前にあったとされる、魔導王国の事です」

「はあ?

 あれは物語の…」

「いいえ

 実際にあったのですよ

 小国では無く、本当に発展した大きな王国が…」


アーネストは1冊の書物を出して、バルトフェルドの前に置いた。

それはアーネストが翻訳した、魔導王国が帝国に攻められた時の記録であった。

バルトフェルドは手にすると、パラパラと捲って行った。

さすがに街の領主とあって、識字能力も高かった。

流し読みではあったが、大体の事には目を通したらしい。

バルトフェルドは頷くと、アーネストに書物を返した。


「ふう…

 事態は理解した

 しかし…」

「いえ

 王国が攻められたのも同じ理由です

 巨人が使われたのがその証拠です」

「だがな…

 如何に紅き月?

 あれが出たと言っても…

 本当に女神様のお告げなのか?」


その言葉に、アーネストも頷く。

確かに紅き月が昇り、巨人が攻めて来た。

しかしそれだけでは、女神が介在しているとは言い切れないのだ。


「その辺は同意です

 ですから彼が居る」


アーネストはエルリックに合図をして、エルリックも頷く。

それを見て、背後の騎士達が身構えるが、バルトフェルドが片手を挙げて制する。


「私は女神様のお告げを伝える、女神様の使徒、フェイト・スピナーと申します

 本来なら、私は女神様の代理として滅びを告げる者です」

「本来…なら?」

「ええ

 ですが女神様は、ここ数年は眠っておられました

 お告げも警告も出来ない筈なんです」

「なるほど

 しかし月は昇って巨人は来た

 これはどう思う?」

「そうなんですよね

 巨人も本来の役目通り、魔王に従って来ました」

「魔王?」


ここで再び、新たな言葉として挙がった魔王の説明がされる。


「なるほど

 魔物を従えているから魔王…」

「ええ

 女神様は魔物を産み出せますが、操る事は出来ません

 いや、出来るかも知れませんが、しないと言った方が正確なのかな?」

「ふむ

 しかし魔王が来たからと言って…」

「ええ

 本当に女神様の指示なのか…

 私も疑問に思っています」

「それで使徒なのに、こちらの側に居るのか」

「ええ

 女神様の真意が不明ですし…

 何よりも女神様が本当に目覚めて、人間を滅ぼそうとしているのか疑問です」


エルリックの立場が説明されたので、騎士達も身構えるのを止めていた。

少なくとも今は、味方でいると証明されたからだ。


「それで?

 巨人はどうなったのじゃ?

 王妃様がここへ来られたのも気になる」

「それに関してですが…」


ここが正念場だと、アーネストはお茶を飲んでから気持ちを引き締める。


「先の戦いで、陛下は亡くなられました」

「そうか…

 亡くなられ…何!!」

バン!


バルトフェルドの反応に、騎士達もビクリとする。

バルトフェルドはテーブルを叩き、冗談では済まないぞと睨み付ける。

アーネストも視線を正面から受けて、思わず唾を飲み込む。


「冗談でも嘘でもありません

 その事でマズい事態になりましたから…」

「ううむ…

 ハルが亡くなっただと?

 そんな…

 バカな事があって…」


バルトフェルドは状況を飲み込めず、ブツブツと呟く。

しかし問題は、その先にあるのだ。


「陛下が亡くなった事で、公爵が国王を僭称しております」

「はあ?

 国王?

 公爵?」


バルトフェルドは処理が追い着けず、目を瞬いて驚愕する。

何処の公爵か知らないが、何で国王を僭称すると呆れていた。


「王宮に詰めていた、遠戚のアルウィン公爵です」

「馬鹿な!

 あいつは単なる遠戚を名乗る味噌っカスの無能だぞ

 何だってあんな役立たずが?」


酷い言い様だったが、実際に彼は役立たずの無能であった。

彼のせいで王宮は混乱して、機能を停止している。

そのせいで、王都の被害は今も増している。


「殿下は?

 ギルバート殿はどうされた?」

「それなんですが…」


アーネストの悲痛な顔を見て、バルトフェルドは力無く椅子に崩れ落ちる。


「ま…さ…か…

 そんな…」

「いえ

 生きています

 生きている筈なんです

 しかしここに来てないとなると…」

「どういう事だ!」


バルトフェルドは、アーネストに掴み掛かる様に尋ねる。


「公爵はギルバートを、魔王と繋がっているとして追放にしました」

「魔王と?

 それは本当か?」

「事実はどうでも良いんですよ

 問題はそうする事で、全ての罪をギルバートに向けさせた

 そうして奴は、堂々と王を名乗っている」

「ぬうう…

 許せん!

 許せんぞ!」


バルトフェルドは立ち上がると、騎士達に指示を出した。


「直ちに触れを出し、王都の奪還に向かう

 国王を僭称する、愚か者に鉄槌を下すのじゃ!」

「はい!」

「お待ちください!」

「何じゃ!

 お前もそのつもりで来たのじゃろう」

「そうですが、話を最後まできいてください」

「う、ううむ…」


バルトフェルドは足を踏み鳴らし、苛立った様子でうろうろし始める。


「バル

 良いから座って話を聞いてちょうだい」

「しかしのう…」

「バルト!

 私の命令でも…聞けないの?」

「え!

 ジェーン

 な、な、なにを怒って、いるのかな?」


ジェニファーが凄むと、たちまちバルトフェルドの様子が変わった。

震え上がったと思うと、いそいそと椅子に座って縮こまった。


「え?」

「バルトフェルド様?」

「はあ?」

「良いから!

 早く話を聞こう

 な?

 な?」


バルトフェルドのあまりの様子に、アーネストだけでなく騎士達も驚く。

王妃だけは何か知っているのか、面白そうにニコニコしていた。


「アーネスト!」

「は、はひ」


ジェニファーのドスの利いた声に、アーネストは話を始める。


「王妃様と姫君はこちらに居ます

 それは確かに大義名分を掲げるには良いんですが…」

「ん?

 何か問題でも?」

「国王になれる者が居ません」

「ん?」


「王妃様では継承権がございません

 そして姫君も婚約されておらず…」

「ううむ…

 そういう事か」


「ギルが居れば…」

「確かに

 しかし殿下は…」

「ええ

 現在は行方不明です

 セリアの話では生きているとは思うんですが…」

「セリア?」

「あ、いえ

 何でも無いです」


バルトフェルドは気になったが、アーネストが隠す以上何か理由があるのだろう。

そう思って詳しくは聞く事はしなかった。


「しかし…

 それではどうする?」

「はい

 当面は兵力を集めながら、ドニスからの報告を待ちます」

「何?

 ドニスじゃと?

 あいつはまだ暗躍しておるのか?」

「え?」

「ドニスはギルバートの執事をしてたの

 今は王都に残って、ギルバートの居場所を探っているわ」


「そうか…

 あの怪盗紳士がな…」

「へ?

 怪盗紳士?」

「うん?

 知らんのか?

 怪盗紳士とはドニスの二つ名でな

 当時は聖なる十字架の…」

「バルト?」

「ひいっ!

 まだ何も話しておらんじゃろ」

「それ以上言うなら」

ゴキゴキ!


ジェニファーはニコニコしながら、細い指を不気味に鳴らす。


「バルトフェルド様?」

「な、何でも無い

 ワシは知らん

 何も話せん」


バルトフェルドは怯えた様に口を噤んだ。

ソワソワしながら、口元にある古傷をなぞっている。


「はあ…

 まあ良いですけど

 問題は今後の事ですね」

「あ、ああ

 殿下が見付かれば、問題無く王都に向かえる」

「しかし…

 それは王都が無事ならの話ですね」

「ん?」


「王都は今、巨人の襲撃で北側が壊滅しています」

「何じゃと!」

「城壁は破壊されて、王都の北側は瓦礫と化しています」

「何と…」


バルトフェルドは被害を知らなかったので、愕然としていた。

巨人が攻めたと聞いていたが、そこまでの被害が出ているとは思わなかったのだ。


「よくそれだけで済んだな」

「ええ

 何故かは知りませんが、魔王が途中で引き上げたんです」

「ん?

 勝ったのでは無いのか?」

「ええ

 内容としてはボロ負けです

 陛下と宰相も亡くなられて、ギルバートも危険な状況だったと…」

「そうか

 それで…」


「ええ

 気絶していたところを、魔王が丁寧に送り返してくれたと

 それで魔王と結託したなどと噂を…」

「気絶?

 それで抵抗する事も出来ずに追放されたのか?」

「そうみたいです」


「しかし…

 確かに敵方に丁重にされたのなら、疑惑を持たれるか」

「そうですね

 相手は紳士的なところもありましたが…

 それでも気絶したところを運ばれたとなると、やはり…」

「そうなると

 殿下が戻られても王位を取り戻すのは難しいぞ」

「何でです?」

「それはな、王位を狙って魔王を使ったと言われると、反論が難しいからじゃ」

「そんな事は…」


バルトフェルドは、静かに頭を振る。


「アーネストよ

 お前がどう思おうと、問題は民衆がどう思うかじゃ

 このまま悪しき噂が広まれば、公爵の言い分が正しいと言う事になるのう」

「そんな!」

「政治とはそういう物じゃ

 お前の方が詳しいじゃろう」


反論はしたかったが、確かにそうだった。

過去の事例を見ても、そうして滅びた国が幾つかある。

それを思えば、このまま王都の奪還は難しいだろう。

むしろ解放したつもりが、逆に簒奪したと言われ兼ねない。


「どうすれば…」

「それはな、結果を示す事じゃ

 正しい統治をして、民衆に認められる」

「うむ

 マーリンの言う通りじゃな」


マーリンはバルトフェルドの出来ない所を、支えてこの街を発展させて来た。

彼の言葉には説得力があった。


「兎も角

 今はドニスの報告待ちじゃな」

「そうですね」

「バルトフェルド

 ワシは他の町に話を通しておく

 このままでは、こちらが反逆者にされ兼ねん」

「うむ

 ジェーンやエカテリーナ様には悪いが、今は危険な状況じゃからな」


マーリンは食堂を出て、各地に触れを出す事にした。

リュバンニの正当性を掲げて、王都に協力させない為だ。

そうしなければ、リュバンニがこの騒動の原因ともされ兼ねない。

先に手を打つ必要があった。


この事も、公爵や子爵が無能であったのが良かった。

彼等がこれに気が付き、先に手を打っていれば違っただろう。

アーネストはリュバンニを基盤にして、反撃の準備を進めるのであった。

まだまだ続きます。

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