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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
357/800

第357話

アーネスト達は、無事に王城から脱出出来た

そのまま大通りを抜けて、西の城門の方へ向かう

城下は将軍の兵士が見回っているので、兵士に呼び止めれても問題は無かった

兵士も将軍から命令されていたので、アーネスト達を案内してくれたのだ

そのまま兵士に案内されて、アーネスト達は小さな宿屋の前に到着した

そこでは王妃が脱出する為に、騎兵と馬車が用意されていた

アーネスト達の姿を見て、将軍は嬉しそうに笑った

フィオーナ達の無事を心配して、ジェニファーがそろそろ爆発しそうだったのだ

ジェニファーは馬車から飛び出すと、二人の娘を抱き締める

気丈に振舞っていたフィオーナも、母の前では涙を流していた


「さあ

 積もる話はあると思いますが、急ぎましょう」

「そうじゃのう

 夜陰に乗じて逃げ出せば、さすがに追って来れんじゃろう」

「ん?

 老師まで逃げるんですか?」

「馬鹿もん

 ワシは魔法が使えん様になっとる

 今さらこんな爺に頼るつもりか?」

「いえ

 老師の頭なら、王都をどうにかするぐらい…」

「誰がするもんか!

 あんな鼻垂れ小僧の相手なんか御免じゃ」

「はははは

 それならリュバンニで、バルトフェルド様の手伝いをしてください

 奪還するんでしょう?」

「む?

 そうじゃのう…」


将軍はそう言っていたが、それも難しいだろう。

リュバンニにも魔物は向かっているし、王都も長くは無さそうだった。

将軍が何とか踏ん張っているが、それも長く続かないだろう。

クリサリスの王都も、これで見納めになるだろう。


「さあ

 早く馬車に乗ってください」

「将軍

 追加でこの者達も逃がしたいんですが」

「ん?

 使用人達か…」

「兵士も居ますので、馬車さえあれば…」

「分かりました」


将軍は兵士に合図して、馬車を2台用意させる。


「すみません

 馬車も壊されていましてね

 少し狭いでしょうが…」

「十分でございます」

「ありがとうございます」


使用人達は頭を下げて、将軍に感謝をしていた。


「さあ

 リュバンニへ向けて、行ってください」

「アーネスト様

 みなさんを頼みましたぞ」

「え?」


ここでドニスが、馬車に乗らずに身を離す。


「ドニス?」

「私は確かめる事がございます

 ここで一旦お別れです」

「いや、どうするつもりだ」

「殿下を…

 探してみます」

「いや、ギルはリュバンニに居るんだろ?」

「いえ

 恐らくいらっしゃらないでしょう」


ドニスは何かを確信しているのか、そう宣言した。


「へ?」

「ですから私は、このままここに残ります」

「いや、あなたは執事なんだろ?

 こんな危険な場所に…」

「行かせてやれ」


ヘイゼルががっしりと、アーネストの肩を掴んだ。


「老師?」

「あ奴なら大丈夫じゃ

 信じてやれ」

「しかし…」

「ええい

 行くぞ!

 出発じゃ!」

「はい」


ヘイゼルに怒鳴られて、御者は馬に鞭を当てる。

ヘイゼルはアーネストを、無理矢理馬車の中に引き込む。


「ほれ

 大人しく座っておれ」

「しかし、ドニスが…」

「大丈夫よ

 彼が何で、ギルバートの執事だったと思うの?」

「大丈夫よ

 信じてあげて」


馬車は城門を抜けて、暗い王都の外へと出て行く。

馬車の周りには、騎兵が2部隊取り囲んでいる。

彼等の腕ならば、オークまでの魔物にも太刀打ち出来る。

それにリュバンニなら、半日も掛からずに到着する筈だ。

一行は暗闇に不安を覚えつつも、黙って馬車に揺られて行く。

王都は闇に包まれて、その灯りも次第に遠ざかって行った。


「ああ…

 王都が…」


誰かが漏らした言葉に、みなが振り返って見る。

これで見納めになるかも知れない、そう思ってしっかりと胸に刻み込む。


「ハル…

 さようなら」


エカテリーナ王妃は、二人の娘の手を握りながら、闇に消えゆく王都を見詰めた。

その瞳には、涙が零れていた。


一方、王都に残されたドニスは、さっそく行動を起こしていた。

ここに残ったのは、ギルバートの生死を確認する為だ。

そのままリュバンニに着いて行っても良かった。

しかしそうすると、遺体がここにあるのか確認が出来ない。


「ダガー」

「あん?」

「怒ってるのか?」

「違えよ!」


将軍は不服そうな顔をして、ドニスを睨んでいる。

違うと言いながら、その実心配しているのだ。


「何で残った」

「言っただろ

 殿下の生死を確認する必要がある」

「それならリュバンニに…」


ドニスはその言葉に、頭を振って否定する。


「殿下がご無事なら、今頃リュバンニに動きがあるだろう

 お前なら、その辺も気付いているんだろ?」

「ぐうっ」

「それにな

 公爵の兵士が、殿下をこの先の森で殺したと言っていた」

「何だと!」

「落ち着け

 証拠は無いんだ」

「ふざけるな

 あんな奴の兵士に…」


「殿下は気絶していた」

「ぬぐっ」

「気絶したままなら…

 抵抗は出来んだろう?」

「そりゃそうだが…」


ドニスの指摘に、将軍は困った顔をする。

将軍もその事が気になっていた。

単に気絶したにしては、妙な点があるのだ。


「なあ

 本当に気絶しただけなのか?」

「さあ

 私は王城に居たのでね」

「役に立たねえな…」

シュバッ!


ドニスが素早く動いて、懐から小刀を抜き放つ。

そのまま将軍の喉元へ、瞬く間に突き付ける。


「戦場に出ていれば、こうして役目を果たせなかった

 そうじゃ無いか?」

「相変わらずだな…

 サボっちゃいなかったんだな」

「ふん

 お前こそ」


ドニスは小刀を仕舞いつつ、ゆっくりと兵舎の方へ向かう。


「どうするつもりだ?」

「ああ

 兵舎の一室を借りるぞ

 どうせ空きがあるんだろ?」

「おい!」


確かに兵士が亡くなっているので、空いた部屋はあった。

しかしどこが空いているかはドニスも知らない筈だ。


「おい!」

「はい」

「あいつを空いてる部屋に案内してやれ」

「え?

 良いんですか?」

「構わん

 案内してやれ」


ドニスは兵士に案内されながら、将軍に声を掛けた。


「明日は森を捜索する

 兵士を借りるぞ」

「おい!

 勝手に決めるな」

「それなら、私が一人で探すが?」


ドニスは振り返り、将軍の方を見た。


「いくらお前が凄腕でも…

 一人じゃ無理だろ」

「そう思うなら、貸してくれるな?」

「ぬう…」


将軍の返事も聞かずに、ドニスはそのまま兵舎に向かう。

兵士は困った顔をして、ドニスの背中と将軍を交互に見る。

将軍は溜息を吐きながら、兵士に行けと合図を送る。

それから騎兵に命じて、巡回に向かわせた。


「はあ…

 あいつがこんなに思い詰めるなんてな…」

「え?」

「良いから巡回して来い」

「は、はい」


将軍は月を見上げる。


今日は紅く輝いていないが、いずれまた、紅く輝くのだろうか?

その時、この王都は滅びるのだろうな…


将軍は北を向いて、魔物が入って来ないか確認に向かう。

兵士も向かっているが、彼等だけでは厳しいだろう。


「今夜も眠れそうに…無いな」


将軍はクリサリスの鎌を担ぐと、崩れた街の中へと消えていった。


リュバンニに向かうアーネスト達は、魔物の群れを避けながら進む。

セリアの精霊の加護では、移動しながらでは限度がある。

それを補う為に、アーネストが索敵用の魔法を使う。

魔物の大体の位置が分かれば、それを避けて進む事が出来るからだ。


「あ…

 っう!」

「もう

 無理はしないで」

「しかしな、魔物の居場所が分からないと危険だろ」

「だかっらって、さっきから無理して…」


アーネストは広範囲に魔力を広げる為に、かなり無理をしていた。

魔力をポーションで回復させながら、定期的に索敵を行っているのだ。

それで頭痛がして、その度に苦しんでいた。

フィオーナは痛みを知らないが、アーネストの苦しむ顔は見てられなかった。


「もう止めて」

「フィオーナ…」


「ヘイゼル様

 代わりに出来ませんの?」

「え?

 ワシ?」


ヘイゼルは矛先が向いて、驚いた顔をする。


「そりゃあ確かに、魔法の仕組みは分かるが…」

「フィオーナ

 無理は言わないで

 老師はもう…」

「でも、それではあなたが…」


「あのう…

 盛り上がっている所、申し訳ないんだけど

 魔力切れでは死なんぞ」

「そういう問題じゃないでしょう

 アーネストがこんなに苦しそうに…」

「えーっと…

 ワシがやろうとしたら、死に掛けると思うんじゃが…」

「ああ

 アーネスト

 こんなに苦しんで」


ヘイゼルは困った顔をして、ジェニファーの方を見る。

ジェニファーも溜息を吐いて、フィオーナを叱ろうとした。


「リュバンニが

 街が見えて来たぞ」

「え?」


騎兵の歓声が沸き、士気も上がった。

騎兵の歓声を聞いて、リュバンニの城門も開く。

リュバンニの城門からは、バルトフェルドを先頭にして騎士団が出て来る。


「エカテリーナ様

 ご無事でしたか」

「もう、バルトフェルドったら」


エカテリーナ王妃は、苦笑いを浮かべる。

騎士団が出て来た事で、周辺に潜んで居た魔物も逃げ出していた。

騎士団に護衛されながら、馬車はリュバンニの城門を抜けて行く。


「いやあ

 良かったです

 王都の城門が落ちたと聞いた時は、ワシも肝が冷えましたよ」

「バルトフェルド」

「はい?」

「声が大きいわよ」

「ぬう…」


「先ずは城へ案内してちょうだい

 細かい話はそれからよ」

「は、はあ…」


バルトフェルドは、まだ何か言いたそうにしていた。

国王の事もだが、王妃とジェニファーだけが来たのを不審に思っていたのだ。

しかし、王妃がこう言うとすれば、それは聞かれてはマズい事があるのだろう。

そう推察出来たので、バルトフェルドは黙る事にした。

そこで馬車の中を覗いて、アーネストが同情している事に目を付ける。


「おう

 君は殿下の友人の…」

「はい

 アーネストです」

「そうそう

 それで?

 ギルバート殿下は?」


バルトフェルドは何気無く聞いたのだろう。

しかし、馬車の中の空気は一気に変わった。


「やはり…」

「そんな!

 お兄さま…」

「はあ…

 バルトフェルド…」

「へ?

 どうされましたか?」

「お前!

 うるさいってカーテに言われたばっかだよな!」

「ひいっ!」


ジェニファーは馬車から身を乗り出すと、バルトフェルドに掴み掛かろうとする。


「ちょっと!

 ジェニファー?

 危ないって」

「ジェニファー様

 危険ですから」


さっきまで頭痛で、頭を抱えていたアーネストも立ちあがる。

慌てて数人掛かりで、馬車から落ちない様に引っ張り込む。


「どうどうどう…」

「危ないですよ」

「無茶しないでよ」

「ふう、ふう、ふう…

 バルトフェルド!」


ジェニファーはなおも、般若の形相でバルトフェルドを睨んでいた。

その騒動で、フィオーナ達も悲しんでいる暇は無くなった。

必死にジェニファーを宥めて、席に着かせようとする。


「どうしたって言うんじゃ?

 ワシ…何かマズい事言った?」

「バルトフェルド様

 今は黙っておきましょうね」

「うう…」


バルトフェルドは、反省して馬上で小さくなっていた。


「なあ」

「ああ

 あれってアルベルト様の…」

「あんなに恐ろしかったのか?」


「なあにかしら?

 ふふふふ…」

「ひいっ!」

「そこ

 不用意に刺激しない!」


キレているジェニファーは、兵士の言葉にも敏感になっていた。


何とか宥めながら、馬車はリュバンニの街中を抜けて行く。

時刻は早朝になり、ゆっくりと西から日が差し込んで来る。

それを横目に、馬車はリュバンニの砦である城に到着する。

馬車が停まると、中から次々と降りて来る。

アーネストとヘイゼルは、ジェニファーが暴れない様に押さえていた。


「いい事、後で覚えておきなさいよ」

「何で怒っておるんじゃ?」

「タイミングが悪いんですよ」


困惑しているバルトフェルドに、エルリックが答える。


「ん?

 其方は?」

「ああ

 私はエルリックと申しまして

 女神様の使徒として…」

「!!」

「こ奴!」

「エルリック!

 お前も空気を読め!」

「へ?」


バルトフェルドと騎士達は、武器を構えてエルリックを取り囲む。


「え?

 ええ?」

「阿呆か

 警戒するのも当たり前だろ

 使徒は敵と認識されているんだぞ」

「何で?

 私達は魔王とは違うぞ」

「そうじゃ無い

 女神様が人間を滅ぼそうとしているんだろ?」

「それは…

 まだ確定した訳じゃあ…」

「それでもだ

 それで王都が攻撃されたんだろ?」

「もしかして…

 私も仲間と思われている?」

「ああ

 だからこれ以上、話をややこしくしないでくれ」


アーネストが溜息を吐きながら、バルトフェルドに説明しようとする。

その前に、ヘイゼルが出て説得を試みた。


「ふおっふおっふおっ

 ワシに免じて、こいつも入れてやってくれ」

「しかし…

 いくらヘイゼル様の御言葉でも…」

「ワシが保証する」

「うーむ

 それなら…」


バルトフェルドが合図をして、騎士達は道を空ける。

しかし、変わらずエルリックには警戒をしていた。


「ええ?

 私は違うのに」

「仕方が無いじゃろう

 碌に説明をせん内に、お前が口を滑らすからじゃ」

「はあ…」


「さあ

 もうすぐ夜が明ける

 先ずはお茶でも出そうか」

「そうじゃな

 頼むぞ」


バルトフェルドとヘイゼルを先頭に、一同は食堂に向かった。

さすがに夜通しで馬車を走らせたのだ。

興奮していても疲れは出ている。

お茶を飲んで、先ずは頭をスッキリする事となった。


食堂には、マーリンとアンミラーゼも待ち構えていた。

どうやら早馬の報せを聞いて、寝ずにここで待っていた様だ。


「アンミラーゼ様

 マーリン殿

 こんな時間から?」

「ああ

 ここで待っておったんじゃ」

「エカテリーナ様が心配でしたからね」


食堂にはエカテリーナ王妃と、アーネストとヘイゼル、それからジェニファーが入った。

イーセリア達は、そのまま客間に案内された。

さすがに子供が夜更かしをするのは良くない

客間でゆっくり休む様に言われた。


兵士は宿舎に案内されて、そこで休む事になる。

使用人達も、空いている部屋に案内されて、そこで休む様に言われた。


「さて

 それでは王都で何が起こったのか?

 話していただけるかのう」


お茶で一息を入れてから、バルトフェルドか質問を始めた。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

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