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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
355/800

第355話

アーネスト達が離宮で話し合っている間に、ドニスは色々と動いていた

公爵の息が掛かって無さそうな者を集め、国王様への忠誠を確認する

すると公爵に叛意のある者が、まだまだ多く居る事が分かった

彼は王妃の事は隠して、リュバンニへ逃げる様に進言した

リュバンニで体制が整えば、王都の奪還も望めるからだ

ドニスは公爵に対して叛意がある者に、王太子や王妃の行方を知っているか確認した

しかし、誰も知る者は無く、代わりに行方不明になった者がいると知った

恐らくはその者が、ギルバートの追放に関わっているのだろう

それで用が済んだところで、消されたと推測された


「居なくなった者は?」

「兵士が3名と使用人が2名です」

「どちらも殿下が帰られた時に、看病に向かった者達です」

「そうか…

 色々ありがとうございます」


「いえ

 お役に立てず…」

「どうかお気を付けて」

「はい

 みなさまも気を付けてください」


ドニス達は怪しまれない様に、それぞれの部署に戻った。

王都を出るにしても、そのまま出て行ったのでは危険だ。

一旦集まって、兵士も仲間に入れる必要があった。

そこで夜になると、仕事が終わった者から食堂の裏に集まる事にした。

私兵はここには来ないし、使用人なら用事で出ていてもおかしくないからだ。


「後はそれまでに、アーネスト様と打ち合わせですね」


ドニスは自分の仕事を終わらせると、さっさと姿を消した。

元々が王太子付きの執事なので、王族以外の部署では直接の仕事は無いのだ。

公爵や子爵に見付からなければ、特に用事も言い渡されないだろう。

さっさと裏手に回り、離宮への通路を急ぐ。


「おや?

 これは…」


ドニスは違和感を感じて、素早く物陰に隠れた。

そのまま物陰を伝って、離宮の入り口へと向かった。

ドニスは執事だが、有能な故に王族の執事を任されていた。

だからこそ、離宮の空気が異常なのに気が付いた。


アーネストはエルリックの言葉に、確信を得ていた。

しかしその先を、アーネストは言葉には出来なかった。

アモン自身がサリオンと同様に、何者かに操られていたとしたら…。

それが出来る者は彼より上位の存在だけだった。

しかしそこで、エルリックが何かに気が付いた。


「誰です?」

「何だ?」

「大丈夫じゃ

 問題は無い」


ヘイゼルは気配に気が付き、離宮の入り口のドアを見る。


「そいつは敵では無い

 なあ、ドニス」

「ヘイゼル様ですか

 それに…みなさんお揃いで」


入って来たのがドニスで、アーネストも肩の力を抜く。

しかし、同時に違和感も感じていた。


「あれ?

 ここには入り難い様に…」

「そうじゃな

 並みの者ならな」

「え?」

「ヘイゼル様

 それはここでは…」

「はははは

 昔の武勇伝じゃからな

 はははは」

「勘弁してください」


ドニスは頭を掻きながら、室内に入って来る。


「それで?

 お嬢様方以外にもいらっしゃいますね」

「ええ

 こちらが女神様の使徒の…」

「!!」


ドニスは素早く身構えると、懐から小刀を取り出す。

その動きに、眠っていたセリアが起き上がった。


「ドニス」


セリアは起き上がると、ドニスに抱き着いた。


「こ、これ

 イーセリア様

 危のうございます」

「ドニス

 ドニス」


イーセリアは退屈していたのか、見知ったドニスを見て喜んでいた。

ドニスは溜息を吐きながら、小刀を懐に戻した。


「参りましたな…」

「ドニス

 そいつは敵では無い」

「しかし…

 そいつ等のせいで陛下や殿下が…」

「いや

 彼は止めに来ていたんだ

 彼には責任は無いよ」

「アーネスト…」


アーネストはエルリックを庇い、ドニスを説得しようとした。

しかし、ドニスもそれは頭では分かっているのだ。

だが、心までは許容出来ないでいた。


「しかし…」

「ドニス

 ワシからも頼む」


ヘイゼルにまで頭を下げられて、ドニスは困った様な顔をする。


「ドニス

 どうしたの?

 お腹が痛いの?」

「いえ、そうではないんですが…

 は、はははは…」


懐に小刀を仕舞ったので、お腹を押さえている様に見えたのだろう。

セリアの言葉に、ドニスはすっかり毒気を抜かれて苦笑いを浮かべる。


「焼き菓子でも用意しますね」

「焼き菓子?

 わーい」

「こら

 セリア」


フィオーナがセリアを叱るが、フィオーナも焼き菓子に気持ちが傾いていた。

セリアを抱き抱えると、一緒に椅子に座る。

それを見てから、ドニスは厨房に向かった。


「それで?

 何か進展は?」

「は、はい

 少々お待ちください」


ドニスは焼き菓子を用意すると、お茶の用意も始めた。

エルリックに淹れる時は、少しだけ顔を顰める。

しかし他の者と差別しないで、しっかりとお茶を淹れた。

その辺も彼は、有能な執事なのだ。


一同がお茶を飲み、一心地着いたところでドニスは話し始める。


「王城に入ってから、私は公爵に叛意がある者と話しました」

「それは…

 大丈夫なのか?」

「ええ

 人選はしっかりとしております

 問題は、彼等も王都から出たいと考えている事です」

「王都から…

 しかし危険だぞ」

「そうですよね

 王妃様と行動を共にするにしても、先ずはここを無事に出れなければ」


ドニスの言葉に、ヘイゼルがニヤリと笑う。


「それならば大丈夫じゃ」

「え?

 どうやって?」

「分かった

 セリアの力で…」

「それは無理じゃろう

 良くて数人までじゃ」

「ええ…

 良い考えだと思ったのに」


フィオーナの考えには、素早く駄目出しがされる。

いくら精霊が強力でも、範囲に限界があるのだ。

少人数なら兎も角、大人数では隠しきれないだろう。

それに通路に広がるから、通行する者にぶつかる恐れもある。

そう考えれば、精霊の加護で姿を隠すには無理があった。


「それならどうやって?」

「お前の魔法があるじゃろう

 眠りの雲でも出せば、通路どころかほとんどの者が眠らされる」

「え?

 いや、そうでしょうが…」

「ここから城門まで流せば、後は簡単に出れる

 問題は無かろう」

「それでは城中に混乱が生じるのでは?」


ヘイゼルはニヤリと笑う。

悪意のある嫌らしい笑みだ。


「混乱が起きてどうだと言うんじゃ

 あいつ等は邪魔なだけじゃろ?」

「それはそうですが…」

「それに混乱しておれば、追ってもすぐには掛からん」

「あ…」


「そもそも

 ワシはあの出来損ないの小僧に命令されるなんぞ気に食わん」

「気に食わんて…

 はははは…」

「奴等がどうなろうと、知ったこっちゃないわ」


ヘイゼルの言葉に、アーネストも苦笑いを浮かべながらも賛同する。

兵士達が眠ってしまえば、逃走の発見も遅れるだろう。

その上で、城内の混乱で公爵達を困らせる事は、痛快でしか無いだろう。


「老師も一緒に来られるんで?」

「そうじゃな

 ここにはもう、ハル坊も居らんしな…」


老師は寂しそうな笑みを浮かべる。


「でしたら手伝って…」

「何を言う

 ワシは魔法がほとんど使えんと言ったじゃろ」

「ですが…」

「触媒や魔道具は用意してやろう」


そう言って、ヘイゼルは離宮を出て行った。


「ドニス

 それで、どうやって脱出するんだ?」

「夜に厨房の裏に集まります

 そこで逃げる覚悟のある者だけ同行します」

「裏切りとか大丈夫か?」

「そうですね…

 そう信じたいです」


国王を敬愛し、公爵を毛嫌いしている者ばかりだ。

しかし、人間とは欲深い生き物だ。

この様な時にでも、己の欲から仲間を売る者は少なからず居るものだ。


「気を付けて行ってくれ」

「はい

 もしバレた時は、私達は棄てて逃げてください」

「そんな事…」

「駄目よ

 アーネスト

 あなたはお兄さまを探すんでしょ?」

「フィオーナ?」


てっきり、フィオーナならドニスを救出すると言うと思っていた。

しかしフィオーナは、領主の娘らしく盤面を見る目は持っていた。


「助けられる状況なら良いけど、危険は冒せないわ

 ドニスには悪いけど、もしもの時は…」

「ええ

 構いません

 私も足手纏いにはなりたくございませんから」


室内はシンと静まり返る。

ドニスの決意に、アーネストも頷いていた。


「ドニス」

「え?」

「はい

 これ持って行って」

「これは?」


セリアはドニスに、小さな何かの種を渡した。

セリアはニコニコ笑って、ドニスの手に種を乗せる。


「あげる」

「は、はあ…」

「持って行った方が良いぞ

 何かの役に立つ…と思う」

「そう…ですか

 ありがとうございます」

「うん

 大事に持っててね」


ドニスは種を、ハンカチに包んでポケットに仕舞う。

それから立ち上がると、一礼をして部屋を出ようとした。


「そうだ

 ドニス

 ギルバートについて何か聞いてないか?」

「殿下の事ですか?」

「ああ

 ギルを運んだ兵士が居るのなら、何か知っているんじゃないか?」

「そうですね…」


ドニスは少し考えてから頷く。


「それでは、その事も調べて参りましょう」

「頼む」

「ええ

 しかし、有益な情報が得られるかは…」

「分かっている

 むしろ君に、危険な事を頼むみたいで申し訳ない」

「いいえ

 殿下の事は、私も気になっていましたし」


ドニスはそう言うと、今度こそ離宮から出て行った。

ドニスが出て行った事で、改めてアーネストは室内を見回す。

残されている者は、アーネストとエルリック、フィオーナとイーセリアの4名だけだ。

これから夜までは、ここで息を潜めて隠れておく必要がある。


「フィオーナ

 君はどこまで知っている?」

「私?

 そうねえ…」


フィオーナはアーネスト達が、魔物と戦いに行った後の事を話し始める。


フィオーナとイーセリアは、ジェニファーと離宮で支度をしていた。

いざという時の為に、避難出来る様に支度をしていたのだ。

そこに王妃と、お供の騎士が尋ねて来た。

城壁で激しい音がして、大きな石が飛んで来ていたのだ。

その様子を見て、王妃はいよいよ危険だと判断していた。


「そうして私達は、王妃様と避難する事にしたの」

「城壁が破壊された頃となると…

 ボクが気絶して運ばれた後か」

「気絶って、一体何があったの?」

「魔力枯渇さ

 魔法を使い過ぎてね…」

「もう

 何でそんな危険な事をしたの」

「それは国王様やギルが危険で…」

「だからって、あなたが死んだら私…」

「いや、死ぬつもりなんか…」

「当たり前よ!

 うう…」


フィオーナが泣き出して、慌ててアーネストは駆け寄る。

そして肩を抱きながら、頭を撫でる。

セリアも真似をして、フィオーナの頭を撫でた。


「よしよし」

「すまない…

 だが、ギル達の方が危なかったんだ」


暫くして、フィオーナが泣き止んでからエルリックが質問する。


「折角逃げていたのに、わざわざ王城に戻ったのは何故なんだ?」

「それは…

 お兄さまの事が噂で広まったから」

「噂か…

 公爵が王位を奪う事を正当化する為に、広めた嘘の噂だな」

「ええ

 でも、その時は知らなかったのよ

 お兄さまは倒れて、魔王が運んで来たって…

 それで…それで…」

「ああ

 そう聞いている

 しかし…」


アーネストはエルリックの方を見る。

エルリックも噂は聞いていたが、それでも納得はしていなかった。


「何かが起こったんだ

 何かが…」


そうでなければ、アモンがギルバートを助ける理由は無い。

それに、あれだけ人間を憎んでいたアモンが、そこで巨人を引き上げさせていた。

そこがまた、納得出来ない事だった。


「どうして引いたんだ?

 国王であるハルバートは倒されていた

 それにギルバートも…」


気絶していたとなると、何かが起こっていた筈だ。

それなのに、アモンは止めを刺す事も無く、兵である巨人も引かせていた。

城壁は破壊されて、王都の中心にまで攻め込んでいたのに…だ。


「お兄さまは王城に運ばれて、そこで…

 何があったのか分からないけど、追放されたって」

「そうだな

 公爵が何をしたのか?

 ギルは気付いていたのか?」

「気が付いていたのなら、公爵に反撃なりするだろう

 恐らくは…」

「そうね

 お兄さまは居なくなった

 その時意識があったとは思えないわ

 それとも…」

「考えたくも無いが、拘束されていた可能性はあるな

 それを確認するには…」


ドニスが件の兵士を見付けて、詳しく聞いてくるしか無いのだ。

それを思うと、これ以上の話し合いは意味が無いと思えた。


「兎に角、今はドニスにその兵士を見付けてもらうしか無い

 しかし…生きているのか?」

「え?」

「いや、ギルの事じゃ無い

 その兵士の事だ

 いくら何でも、王太子を…」


フィオーナが怯えていたので、アーネストは話を濁そうとした。

しかしエルリックは、それすらも甘いと考えていた。


「アーネスト

 人間という物は、それほど甘くは無いぞ」

「分かっている

 分かっているが、確証も無いのにこれ以上、フィオーナを苦しめるな!」

「それは…」

「アーネスト」


「言いたくは無いが、覚悟はしておいた方が良いかも知れない

 ギルはもしかしたら…」

「生きてるよ」


ここでセリアが、身体を発光させながら答えた。

瞳は淡く緑色に輝き、髪も全身も金色に輝いていた。


「イーセリア!

 止しなさい!」

「お兄ちゃんは生きている

 でも、また闇の中に居る」

「無理をしてはいけません

 あなたはまだ、精霊女王の力を使いこなしてはいません」

「うん

 今はまだ無理」


セリアは悲しそうな顔をして、ゆっくり左手を挙げる。

そこに魔力が集まり、小さな人影が現れる」


「シルフ

 お願い」


人影は頷くと、そのまま姿を消した。

それと同時に、セリアもその場で崩れる。


「セリア!

 お兄さまは?

 お兄さまは無事なの」

「ふみゅう」

「駄目だ

 力の使い過ぎだ」

「そんな…」


セリアを抱き締めながら、フィオーナは力無く項垂れる。


「しかし、生きてはいるんだな…」


アーネストはその言葉に、縋る様に呟く。

何処に居て、無事なのか分からない。

しかし、セリアがハッキリと言っていたのだ。

ギルバートは生きていると。


アーネストはその言葉に、希望を見出そうとしていた。

まだまだ続きます。

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