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聖王伝  作者: 竜人
第十一章 聖なる王国の終わり
352/800

第352話

巨人は立ち去ったが、王都は深刻な被害を被っていた

王は亡くなり、王都の城壁も壊されていた

住民達も多くの被害を出し、騎士はほとんどが戦死していた

そうした状況で、王都は夜を迎えようとしていた

魔物が活発になる、夜が近付いていた

ギルバートはアモンに運ばれた事で、魔物と通じていると嫌疑を掛けられていた

それは王位を簒奪しようとする、公爵たちの奸計であった

しかしそれを否定する証拠も無く、肝心のギルバートも意識を失ったままであった

子爵達はそれを良い事に、ギルバートを断罪して王都から追放しようとする

そこへジョナサンが現れたが、彼もギルバートを庇う事が出来なかった


「親衛隊長殿

 あなたも魔物と関わっているんですか?」

「そんな馬鹿な事があるか!

 そもそも、殿下は魔物とは…」

「おかしいですね

 それで無くともあなた達は、魔物との戦闘から生き延びていますからね」

「それはしかりと訓練をして…」

「そんな言い訳が通用すると思いますか?

 殿下が怪しい以上、あなたも十分に怪しいんですよ」

「くっ…」


「殿下が魔物と通じている以上、王都に置くのは危険ですなあ」

「馬鹿な

 それとて嫌疑不十分だろ」

「それを判断するのは、今王都に残っておる我々です」

「貴族連中で結託したか」

「それこそ嫌疑不十分でしょう

 疑う証拠もございませんよ」

「くそっ」


子爵はニヤニヤと笑うと、ジョナサンに提案して来た。


「私も殿下が、魔物と通じているとは思いたくはない」

「それならば…」

「しかし証拠が、殿下が怪しいと告げています」

「だからそれは…」


「このまま追放では、殿下も危険でしょう

 どうですか?

 あなた方も殿下に同行されては?」

「貴様!」

「隊長殿

 傷口が開きます」


ジョナサンが掴みかかろうとするが、慌てて兵士が押え付ける。

ジョナサンは重症を負っていて、今も肩や腕に包帯をしているのだ。

このまま無理をすれば、傷口が開いてしまう。

兵士は押さえながら、ジョナサンに懇願した。


「隊長殿

 殿下を守ってくださいませんか?

 私達では、殿下をお守りできません」

「しかし…

 私も負傷しているのだよ?」

「それでもです

 私達が戦うよりはマシでしょう」


兵士に言われて、ジョナサンも考え込む。


「どうですか?

 殿下を逃がすという事にして、あなたもご一緒に逃げられては?」

「追放…という事だな」

「ええ

 さすがに嫌疑だけで、王太子を処刑には出来ません」

「追放も十分非道だろ」

「いいえ

 王太子の身を守る為だったとすれば、みなも納得するでしょう」

「魔物と関係しているとして、反逆者と見做されてもか?」

「ふふふふ

 それはあなた方の考え方次第でしょう?」

「くそっ!」


ジョナサンは相手が貴族なので、それ以上は言えなかった。

いくら騎士団の隊長でも、ジョナサンの身分は平民なのだ。

子爵相手には強く言えないのだ。


「早急に出て行く事をお勧めしますね」

「何!」

「間もなく…

 殿下が魔物と通じていたと発表致します

 そうなってからでは、満足にここから立ち去れないでしょう」

「そんな!

 住民達が信じると…」

「信じる信じないでは無いのですよ

 多くの者が亡くなりました

 その不満は何処へ向きますか?」

「それは…

 くそっ」


子爵が言う事も尤もだった。

真実がどうであれ、不満の矛先はギルバートに向くだろう。


「王国を存続させるには、これしか無いんでね」

「そんな事は無いだろう

 殿下を国王に…」

「そんな若造が、満足に国政を担えますか?」

「宰相が…」

「黙っていないでしょうね

 生きていればですが」

「な!」


ジョナサンはそれを聞いて、サルザートも亡くなっていると知る。

そうなれば、ギルバートを庇おうとする者はほとんど居ない事になる。


「分かりましたか?

 早く立ち去るんですね」

「ぐ…くうっ」

「隊長殿

 殿下は私達が…」


ジョナサンは負傷しているので、ギルバートを抱える事など出来ない。

それに意識が戻っていない以上、側で世話をする者が必要だ。


「王妃様は?

 それにジェニファー様も…」

「行方不明です

 開戦直後からいらっしゃいませんでね…

 殿下と共謀していたのか…」

「そんな事は…」

「それを判断するのは、あなたではありません」

「くそっ」


ジョナサンは兵士に手伝われて、ギルバートを馬車に乗せる。

気付け薬も不足しているので、そのまま馬車の中に寝かせるしかない。

食料や身の回りの品も、今さら取りには向かえなかった。


「ここでお別れとなりますが…

 そうですね

 私もそこまで非情ではありません」


子爵は合図をして、いくらかの金子と食料を用意する。


「要らん

 どうせそれを、強奪したとか触れ回るのだろう?」

「そこまでは…

 いや、それも面白いかな?」

「隊長殿

 いただいた方がよろしいのでは?

 どうせ持って行かなくても、いくらでも話は…」

「それはそうだろうが…」

「くくくく

 その兵士の言う通りですよ」

「畜生!

 ぬぐう…」


ジョナサンは怒りに任せて、馬車の壁を叩く。

しかし痛みに顔を顰めて、苦しみながら子爵を睨む。


「おい

 城門の外まで見送ってやれ

 外は魔物がうようよ居るだろうからな」

「はい」


子爵の私兵が、馬車を囲む様にして着いて来る。

城門の外に出るか見張る為だろう。


「くそ!

 これではまるで、罪人ではないか」

「実際そうでしょう

 私も隊長殿も、殿下同様罪人として始末されるんです」

「そうだ…な…」


馬車はそのまま進み、人気のない大通りを進んで行く。

通りのあちこちが、巨人の攻撃で破壊されている。

直接の被害が無くても、飛んで来た石材や飛来物で、建物は無残に破壊されている。

その間を、人目を避ける様に馬車は進む。

一緒に乗っているのは、ギルバートを信じている兵士とジョナサンのみだ。

兵士も遣り取りは見ていたので、納得して馬車に乗っていた。


彼等も王都には、未練は残っていないのだろう。

多くの者が家族や同僚、友や恋人を失っている。

それに、信頼出来る上司や敬愛する国王も亡くなった今、王都に残っても碌な事が無いだろう。

現に王位を簒奪する現場を、その目にしていたのだから。


兵士は小声で、外に漏れない様に質問する。


「このまま無事に、外に出れるんでしょうか?」

「そうだな

 魔物に襲わせる為に、数人殺して放置

 それとも確実に殺そうとするのか…」

「それでは」

「ああ

 城門を出たら、すぐに人気が無い所に向かうだろうな」


ジョナサンの予想通り、王都内では特に何事も起きなかった。

城門の番兵も、貴族の家紋が付いた馬車を王都から逃げ出す者だと判断する。

そのまま西の城門から出ると、そこには魔物の死骸が転がっていた。

ダガー将軍が、王都に入ろうとする魔物を倒していたのだ。

しかし死骸を処理する暇も無かったので、そのまま放置されていた。


「それでは、こちらに来ていただくか」

「私達はリュバンニに向かうんだ

 邪魔は…」

「手荒な真似はしたくない

 大人しく言う事を聞け」


私兵達に囲まれて、馬車は人気のない林へと移動させられる。

馬車の中では兵士達が武器に手を掛けて、いつでも切り掛かれる様に身構えていた。


ギルバートが城から連れ出されている頃、ダガー将軍は城内の廊下を歩いていた。

まだ状況が分かっておらず、国王に確認する為に登城したのだ。


「陛下からの要請が無い

 殿下も連絡が着かない

 何だか胸騒ぎがする」

「考え過ぎですよ

 きっと城壁が壊されたせいで、みんな忙しいんでしょう」


横に着いて歩く、副官が答える。

しかし副官も、城内の物々しい雰囲気を怪しんでいた。

何とも言えないピリピリとした緊張感が漂っている。

もしかしたらとも思ったが、迂闊には口を開けなかった。


会議場に入ると、公爵が真ん中で指揮をしていた。

その隣には子爵が立っていて、文官達に威張って命令をしている。

その光景に違和感を覚えて、将軍は声を荒らげた。


「これはどういう事だ!」

「ん?

 ダガー…貧乏平民風情が」

「国王に対して、その振る舞いは何だ!」

「国王?」


ダガーの恫喝に、子犬の様に子爵が噛み付く。

しかし将軍は、構わず公爵の方を睨む。


「陛下はどうなされた」

「戦死したよ」

「な…に?」


公爵の言葉に、将軍は一瞬眩暈を起こす。

敬愛する国王が、自分の知らぬ間に亡くなられていた。

しかも公爵が、国王だと名乗りを上げている。


「殿下は?

 ギルバート殿下はどうなされた!」

「殿下?

 ああ

 あの裏切り者か」

「う、裏切り者だと?」

「ああ

 あの小僧は我等を謀り、魔物と通じていた」

「ふざけるな!」


将軍は素早く抜刀すると、公爵に向けて踏み込む。

しかし周りの私兵達が、その前に立ちはだかる。


「おいおい

 国王に対して物騒だな」

「何が国王だ…」

「陛下が亡くなられて、王太子も追放された

 今ここで一番序列が高いのは、この私なのだよ」

「貴様…」


将軍は視線で殺せるのなら、そうしてやらんと視線に殺気を込める。


「王妃様も健在なのだぞ」

「それが?

 王妃には継承権は無い」

「ぐぬう」

「それに姫を立てようにも、姫にも直接の継承権は無いからな

 婚約者も決まっていないしな…」

「くっ…」


国王が正式に、遺言を作って置かなかった。

もしかしたら、王妃は何か聞いているかも知れない。

しかしギルバートは、目下裏切り者として追放されたらしい。

そうなると、次の継承権は姫の婚約者となる。

しかし姫は二人共まだ幼かった。

正式な婚約は、まだ発表されていなかったのだ。


王家に継ぐ者が居ない以上、次に継承権がある者は王家の係累に当たる。

しかしアルベルトは亡くなり、今は遠戚の公爵しか残されていない。

彼が継承権を笠に着るのは、当然の事と言えた。


「殿下はどちらに?」

「さあな?

 仲の良いバルトフェルドか?

 それともダーナ…

 いや、オウルアイの元へ向かったのか

 まあ、ワシには関係無いがな」

「くっ」

「そんな事よりも、他の城壁は無事なのであろうな?」


子爵はニヤニヤと笑いながら、将軍に質問する。

当然ながら、城壁は無事であった。

将軍が指揮して、騎兵で守っていたからだ。


「城壁は問題無い」

「問題ございませんだろ!」

「ぐっ…」


「北の城壁は、国王様諸共崩壊した」

「な!

 国王様が何故?」

「さあな?

 あの小僧が戦線を離れていた以上、指揮する者が居なかったんだろう」

「そんな…

 殿下が何故?」

「さあな

 戦線から離れていた上、戦いが終わってから…魔王だったか?

 そいつに連れて来られていたみたいだぞ」

「そんな…」


実際は違っていたのだが、公爵も又聞きでしか無かった。

そしてその話が、ギルバートが裏切っていたという事の裏付けとなった。


「それでは殿下は?」

「裏切りがバレたのでな

 早々に王城から逃げ出したよ

 行き先はまだ分からん」

「そんな…」


将軍は足元がふらつき、がくりと膝を着く。


「それでは…

 アーネストは?

 こんな緊急時に、アーネストは何処へ?」

「アーネスト?

 ああ、あの腰巾着か?」

「そう言えば見ませんな

 大方巨人が怖くて、どこかに逃げ出したんでしょう」

「そんなわけがあるか

 彼はワイルド・ベアにも、単身で挑むぐらいだぞ!」


「ワイルド・ベアねえ…

 しかし今回は、巨人だぞ」

「それに姿が見られない以上、逃げたとしか思えんがな

 それとも巨人に、踏み潰されたか?」

「それは良い

 はははは」

「くひゃひゃひゃひゃ」

「ぐぬう…」


将軍は怒りに拳を握り締めて、立ち上がって会議場を出ようとした。


「何処へ行く!」

「王太子とアーネストを探す」

「ならん!

 貴様は今から、この私の指揮下に入る」

「なん…だと?」

「ワシからの命令じゃ」

「国王の命だ

 逆らう事が出来ると思うな」

「な…

 くそっ」


子爵はニヤニヤ笑い、将軍に命令を下す。

今まで武力で活躍する将軍に、色々と思うところがあったのだろう。

それを顎で使えると思って、子爵は満面の笑みになっていた。


「王都の北側は、壊滅的な状況にある

 手の空いた兵を募り、早急に警備に当たれ」

「壊滅的とは?」

「良いからさっさと仕事に掛かれ!」

「くっ!」


将軍は何か言い返し掛けて、そのまま王城を後にした。

彼等には思うところがあるものの、王都の住民の為にも、今は魔物に備える必要があった。

すぐにでも兵士を集めて、北から侵入する魔物に備える必要があるのだ。


将軍が出て行ったのを見て、子爵は嫌らしい笑みを浮かべる。


「どうです?

 普段威張り散らしていた、あのダガーに命令を出せるんですよ」

「そうだな

 奴は頭が固いからな

 住民の為となれば、動かざるを得んだろ」


公爵も痛快だったと、満面の笑みで応える。

そして二人で、高らかに笑うのであった。

周りに居た文官達は、気まずくて困っていた。

そんな事よりも、さっさと王都を立て直す計画を練って欲しかった。

しかし、下手に意見をすれば、この二人ではまともに聞き届けられないだろう。


不敬罪だとか言われて、その場で切り殺されるかも知れない。

いや、それならまだマシだっただろう。

下手をすればお前がやれと言われて、王都の立て直しを丸投げされ兼ねない。

文官達は互いに目配せして、誰が意見を上奏するか牽制し合った。

結果として、その夜には何も指示は無かった。


そう、何もされなかったのだ。

まだまだ続きます。

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