第349話
アモンは巨人を嗾けて、王都の北の城壁を攻撃させた
しかし魔術師達が魔法で、巨人達の攻撃を食い止める
その隙に親衛隊が出て、巨人を攻撃し始めた
アーネストの策が当たり、何とか城壁は守られていたが、巨人も中々タフだった
足や腕に切り傷を負っても、未だに倒れていなかったのだ
アモンは正体不明の不快感に、胸を押さえていた
それは部下であるハイランドオークや、巨人が傷付くたびに胸を締め付ける様に苦しめる
まるで呪いでも掛かったかの様に、アモンの胸をギュッと締め付けるのだ
アモンは苛立ちながら、城壁の上に立つ人間を見上げた
人間…
あいつ等が現れたからだ
女神様は愛情を注いでくれなくなり
獣人族は辺境へと追いやられた
人間
全ては貴様らが悪い!
アモンの瞳は、憎しみで濁っていた。
ギルバート達を睨み付けて、ギリリと歯軋りをする。
その様子を見て、ギルバートはギョッとしていた。
「アーネスト」
「ん?」
「あ、あれ」
ギルバートは憎悪に爛々と紅く目を輝かせる、アモンの姿を指差した。
「アモンの様子がおかしい」
「確かに…」
巨人と同様に、アモンも目を紅く輝かせている。
そして顔の様子も、以前見た戦いに目を輝かせる笑顔ではなく、狂気に歪んだ笑みを浮かべている。
「どうしたんだ?」
「分からない
分からないが…非常に嫌な感じがする」
二人はアモンの様子に警戒しつつ、巨人との戦いを見守る。
魔術師の援護もあり、何とか時間は掛けたが、前方の3体は倒されていた。
途中で反撃に遭い、2名が馬ごと殴り潰されていた。
しかし損耗は、その程度済まされていた。
後方の2体に対して、親衛隊は身構えて様子を見る。
既に呪文は完成していて、いつでも落雷は落とせる。
その様な状況にしておいて、ギルバートはもう一度アモンに語り掛けた。
「アモン
残る巨人は2体だ
出来ればこれ以上、傷付けたくは無い」
「クカ?
クカカカカ…」
「え?」
不意に気温が、数度下がった様な感じがする。
戦場に冷気が走り、離れた城門前の広場に居る者まで、思わず身震いをしていた。
そしてアモンが纏う気配が変わり、どす黒い靄の様な気配がネットリと纏わり着く。
「ひうっ!」
「あひい!」
城壁に立っていた兵士の、数名が恐怖に蹲っていた。
魔術師も呪文が破棄されて、恐怖で震えていた。
「な、何だ?」
「気配が…変わった?」
「クヒヒヒヒ
コザカシキヒトノコ、ホロブベシ」
「いかん!」
「ギル!
くそっ!」
ギルバートは城壁を飛び下りると、震えて動けなくなった親衛隊の方へ向かった。
アーネストも状況を察して、素早く雷の呪文を唱え始める。
早くしなければ、巨人によって親衛隊が蹂躙される。
彼等は恐怖に飲まれて、身動きが取れなくなっているのだ。
「うおおお…
おああああ!」
「ごがあああ」
ゴガーン!
寸でのところで、ギルバートが巨人の拳を受け止める。
大剣を盾の様にして、巨人の一撃を受けたのだ。
「ぐっ、くうっ」
しかし受け止めたものの、身体は少しずつ押されている。
体重差で押し負けているのだ。
「で、殿下…」
「くぬう…」
何人かの騎士が、必死になって動こうと足掻く。
勇者の称号の力が、彼等に立ち向かう勇気を与えている。
「負ける…もんか!」
「殿下を
お守りしなければ!」
「うおおおお」
称号を持つ者を中心に、少しずつだが恐怖に打ち克つ。
そして1人、2人と動き始める。
「負けるな!
殿下をお守りしろ!」
「おう!」
遂に恐怖による拘束から、親衛隊は復帰する。
次々と前に出て、巨人に向かって駆け出した。
「良いぞ
サンダー!」
ズドーン!
アーネストが雷を落とし、巨人に一撃を加える。
「うおおおお」
ズドン!
「うりゃああ」
ザシュッ!
騎士達は息を吹き返して、巨人に切り掛かって行った。
「クカカカカ
マダアラガウカ、ヒトノコヨ」
「アモン
貴様の相手は私だ!」
「クヒッ
ヒャハハハハ
イイゼ、カカッテコイ
キサマラゼンブ、ミチヅレダ!」
アモンの叫びに呼応する様に、再び地響きが起こり、何かが迫る音が響く。
「ひっ」
「お、お終いだ」
「何もかも消え去るんだ…」
森の向こう側から、地鳴りの様な音が聞こえて来る。
土煙を上げながら、巨人の群れが迫っていた。
その数は数体では無く、20体以上はあると思われた。
「もう…
駄目だ…」
「諦めるな!」
アーネストは鎮静の香を撒きながら、声を上げて鼓舞をする。
既に戦況は決していたが、このまま負けるわけにはいかない。
少しでも巨人を倒して、住民を逃がさなければならないのだ。
「ギル!
ギル!」
「私に構うな
巨人をどうにかしてくれ」
「しかし」
「クハハハハ」
ガキン!
「くっ
アモンは押さえる
頼む!」
ギルバートはアモンの鋭く伸びた鉤爪を防ぎ、懸命に叫んでいた。
アーネストは魔術師達を引っ叩くと、指示を出す。
「雷だ!
巨人を何とか止めるんだ」
「無理です!
あんなの止められません」
「はははは…
終わりだ
何もかも終わるんだ」
「勝てっこないんだ…」
ほとんどの魔術師が、戦意を失ってしゃがみ込んでいた。
まだ数名が何とか踏ん張っているが、精々1発魔法が撃てるかどうかだ。
アーネストはポーションを咥えながら、覚悟を決めるしかないと思っていた。
城門の中でも、大きな騒ぎが起こっていた。
一部の兵士は怯えて、その場から逃走しようとしていた。
しかしどこに逃げても、今や城門は塞がっていた。
他の3方の城門にも、魔物の群れが集まっていたのだ。
「やはり…
無理なのかのう」
「陛下?」
国王は立ち上がると、侍従に持たせてあった剣を手にする。
戦場を離れてから30年近く、もう2度と持たないと思っていた剣だ。
「陛下
何を為さるおつもりで?」
「サルザート
ダガーに伝言じゃ
後を頼んだぞ」
「陛下!」
「これから先は、ワシの我儘じゃ」
国王は微笑むと、侍従に命じて馬を持って来させる。
そうして馬に飛び乗ると、大音声で騎士達に命じた。
「これからワシは、最期の戦いに挑む!
クリサリス聖教王国、国王の最期の戦いじゃ!」
「へ、陛下…」
「最期って…」
恐怖に怯えていた騎士達は、その声で震えが収まって行く。
「最期に華々しく、名誉ある死を迎えたい
そんな馬鹿は居るか?」
「はははは…」
「華々しくね…」
「そんな物…」
騎士のほとんどが、巨人の戦いを見て恐れていた。
とてもじゃ無いが、あんな化け物には向かって行けないと、そう思っていた。
「どうせ死ぬんじゃ
華々しく戦って散りたい
ワシはそう思うがのう」
「ゴクリ」
「どうせなら…」
「そうだな」
死んだ様な目をしていた、騎士達の目に火が灯る。
城門の外では、親衛隊が必死になって巨人と戦っている。
何とか2体は倒せたものの、後方から月煙が上がっているのが見える。
程なく増援が来て、城壁は呆気なく崩されるだろう。
そうすれば王国は、砂上の造り物の様に消え去る。
しかし親衛隊もギルバートも、未だ諦めずに戦っていた。
ギルバートに至っては、漆黒の鎧を着た魔王と切り結んでいる。
それは激しく壮絶な戦いで、巨人の一撃も霞そうだった。
「殿下も戦っている」
「親衛隊も居るぞ」
「まだ負けたわけじゃあ無い」
既に負けは目に見えているが、それを認める事が出来なかった。
愛する者が住む街を、守る為に騎士になったのだから。
だからこそ、今負けを認めるわけにはいかなかった。
挫け掛けた心に、国王の言葉が火を点す。
「クリサリスの騎士達よ!
共に最期に相応しい戦いをしようじゃ無いか」
「おおおおお…」
騎士達はいつの間にか、全員が立ち上がって鎌を天に掲げていた。
歓声が沸き上がり、力強く馬に飛び乗る。
「ワシからの最期の命令は…
ギルバートとアーネストを頼む
いつの日にか、この国を再び取り戻す為に…」
国王は言葉に詰まりながら、剣を高々と突き上げた。
「さあ
者共!
最期の戦いじゃ
着いて参れ!」
「うおおおおお」
ハルバート国王を先頭に、騎士団が戦場に躍り出る。
クリサリスの鎌を掲げて、騎士達は巨人に向かって突き進む。
既に親衛隊は、ほとんどが後続の巨人に打ち倒されていた。
魔術師達の魔法の援護が途絶えていては、巨人と戦うという事は難しいのだ。
大きな拳や蹴り足が、唸りを上げて戦場を飛び交う。
速度こそ遅いが、大きいので避けるのも難しいのだ。
「お前達!
これで良いのか?」
「無理なんですよ」
「所詮は人間なんですよ
巨人に勝つなんて…」
魔術師達は諦めて、無気力な瞳で戦場を見る。
しかし一人だけ、諦めないで呪文を唱えている。
アーネストはポーションを飲みながら、立て続けに雷を落としていた。
しかし魔力切れに近い状態で、無理矢理魔法を行使している。
その威力も減少して、少しの間痺れさせるのがやっとだった。
「お前等、それで良いのか?」
「だって…なあ」
「ああ」
「アーネストさんを見ろよ」
再び雷が落ちて、巨人の一撃を押さえる。
しかし遂に、アーネストは魔力切れで倒れた。
「アーネストさん
くそっ
オレがもっと魔法が使えれば…」
戦場ではギルバートがアモンと戦い、騎士達が巨人に向かっていた。
しかし巨人の一撃で、一気に数名の騎士が砕け散る。
その身体は激しい衝撃で打ち砕かれて、肉塊となって飛んで行く。
それでも恐れを忘れて、騎士達は巨人に立ち向かっていた。
巨人の数は、あれから3体しか減っていない。
一方で親衛隊は、既に半数が殺されている。
ジョナサンも鎌が折れた衝撃で、肩に傷を負っていた。
負傷者も多く出ていて、一部は城門の中に運び込まれていた。
「急げ!
負傷者の収容と手当てをするんだ」
「こっちはポーションが足りねえ」
「包帯が無いから、何か巻ける布を持って来てくれ」
手当てを受けている騎士達を見て、魔術師達はさらに怯えていた。
「ひいっ」
「もう無理だよ」
「怖気ずくな
アーネストさんを運んで」
魔術師は一人でも多くの巨人を倒せる様に、火球の呪文を唱える。
しかしその前に、国王が乗っている馬が力尽きた。
「そこを右へ回れ
後ろの者は巨人の攻撃に警戒して…ぬうおっ」
国王は馬が倒れて、その場に投げ出される。
国王を狙って、巨人の拳が振り被られた。
「陛下
くそっ、ファイヤーボール」
ゴウッ!
ボガン!
「がああああ」
巨人は顔面に火球を受けて、苦しそうに藻掻いた。
そして巨人が怯んだ隙に、騎士達が決死で救出に向かった。
「陛下!」
「来るな!
ここは危険じゃ!」
「ごあああああ」
顔面に火球を受けた巨人は、怒りで足を蹴り出す。
それは国王の肩を掠めて、救出に向かった騎士を蹴り飛ばした。
「ぐはっ」
「ぐぶしゃ」
「陛下!」
国王は肩を砕かれて、その場で蹲っていた。
騎士の一人は蹴り砕かれたが、残りの騎士が馬の背に何とか乗せる。
「急げ!
急げー!」
「はい」
騎士達は国王を守る様に、巨人を惹き付けながら戦っていた。
そして国王の苦悶の声は、アモンと戦うギルバートの耳にも届いていた。
「こ、国王様」
「ギャハハハハ
シネエ、シネシネシネシネ…」
「うるさい!」
グワコーン!
大剣を振り回すも、アモンは鉤爪で器用に弾く。
ギルバートは身体強化を使って、鋭い斬撃を上下左右から振り抜く。
しかしアモンは、それを上回る素早さで斬撃を潜り抜けて行く。
まるで素早い狼の様に、斬撃の隙間から鉤爪が振るわれる。
鉤爪を何とか弾くと、足を使って蹴ってみる。
そんな変則技を使っても、アモンはそれを躱していた。
「くそっ
まるで獣だ」
ギルバートの言う様に、アモンの動きはまるで獣の様だった。
しなやかに動く身体は、黒い獣の様に見えた。
「くそっ
どけ!
どけよ!」
「ギャハハハハ
シネ
ミンナシヌンダ」
「くそお
父上!」
ギルバートは必死に叫びながら、何とか国王の元へ向かおうとする。
しかしアモンの攻撃が激しくて、その場から離れる事も出来なかった。
「ぐがああああ」
「邪魔だ!」
ズドッ!
横から巨人も攻撃してくるので、隙を見せる暇も無い。
巨人は手首から先を切り飛ばされて、怒ってギルバートを踏もうとする。
しかしそれを躱しながら、ギルバートは再びアモンと向き合っていた。
「何故だ!
何故こんな事をする」
「ギャハハハハ」
「くっ
正気じゃ無いのか?」
ギルバートの想像通り、アモンは正気を失っていた。
しかし彼がどうしてそうなったのか、ギルバートには想像が付かなかった。
確実に言える事は、彼が以前に見た様な、紳士的な行動を取れない事は確かだった。
このままでは、本当に王都は落ちるだろう。
巨人は少しずつだが、城壁に近付いて来ていた。
「駄目だ
このままでは…」
「殿下
お逃げ下さい!」
「このままでは御身も…」
騎士達が割って入ろうとするが、アモンの一撃で殺されて行く。
「ギャハハハハ」
ザシュッ!
「ぐぶはっ」
「ぐげっ」
「止せ!
お前達では勝てない」
「ですが、せめて殿下が逃げ…ぐべっ」
「くそっ
くそおおお」
「そうさ
逃がさないよ
覇王の卵」
低く皺枯れた声が、不意にギルバートも近くで聞こえた。
「君達はここで死ぬのだ
この街の廃墟と共にね」
「何者だ!」
「ぐはははは
お前が知る必要は無い
間も無く死ぬんだからな」
混迷する戦場の中に、新たな闖入者が紛れ込んでいた。
まだまだ続きます。
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