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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
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第346話

エルリックの眼光のお陰で、会議で騒ぐ者は居なくなった

ギルバートは国王に、巨人の位置情報を提示した

その上で、先制攻撃を加えるべきだと主張した

このまま手を拱いていては、手遅れになるだろう

その前に少しでも、巨人の数を削っておきたかったのだ

ギルバートは親衛隊と、魔術師を加えた部隊の提案をした

この部隊で、先に森に居る巨人を倒そうと言うのだ

しかしこの案には、エルリックもアーネストも反対をする

敵が動かない以上、今は様子をみるべきだと言うのだ


「何故だ?」

「危険だ

 相手の力は未知数だし、迂闊に手を出すべきでは無い」

「そうだよ

 相手がアモンである以上、宣言した明後日までは攻撃は無い

 今の内に準備をするべきだ」


二人の反対にあい、ギルバートは拳を握って怒りを堪えていた。


「このまま相手が攻めて来るまで、我慢しろと?」

「ああ

 不用意に出て行って、怪我をする事も無いだろう」

「そうだぞ

 巨人は大人しくしているんだ

 反撃で暴れ出したら、それこそ事態は悪くなるだけだ」

「巨人が大人しいって、誰が保証するんだ

 今回はアモンも、攻めないとは言っていないぞ」

「いや

 巨人は大人しくしている筈だ

 月の影響が無ければ、巨人は元々大人しい種族だから」


アーネストの言葉に、会議室に居た全員が驚いた顔をする。


「巨人が大人しい?」

「そんな馬鹿な!」

「あんな者が大人しくしているだと?」


しかしアーネストは、首を振って間違いが無いと告げる。

その手には魔導王国の書物を、翻訳した本が握られていた。


「魔導王国が巨人に滅ぼされた

 これは物語としては有名だよね」

「ああ

 だからこそ、物語では無い本物が現れた以上、警戒が必要だろう

 魔導王国みたいに滅ぼされる前に…」

「その滅ぼされた原因が、魔導王国にあったとしても?」

「え?」

「そうだな

 あれは自業自得だろう」


エルリックもアーネストの言葉に賛同して、一つの寓話を語る。

それは一般に公開されている、魔導王国の衰退期の話とは違っていた。


「一般に話されている魔導王国の滅亡

 それは魔物に襲われたと聞いていると思う」

「ああ

 その中に、今回の様な巨人も含まれているんだよな」

「そうだ

 しかし巨人と言っても、それはフロストジャイアントと呼ばれる魔物だ

 こいつは凍土に住んでいて、凍てつく吹雪を吐き出すと言われている」

「フロストジャイアント?」

「氷の巨人か?」


貴族達はひそひそと、巨人について話し始める。

伝承では巨人としか記されていなかったので、そこは伝えられていないのだ。


「魔導王国は、ここから南に向かった砂漠のある場所に存在していた

 砂漠になる前は、緑に覆われた楽園だったんだがな…

 今では王国が滅びた際に、周辺を砂漠にして埋めてしまった

 だから砂漠には、今でも王国の遺跡が眠っている」

「でも、それは物語の話だろ?」

「いや

 私も実物は見ていないが、そこは文明が進んだ栄えた都市だったそうだ

 空を飛ぶ船や、鉄で出来た何台も馬車を繋げた様な乗り物もあったそうだ」

「空を飛ぶ船?」

「鉄の馬車?」


想像してみるが、今一思い浮かばなかった。

ただ、空を飛ぶ様な乗り物を作るぐらいだから、相当文明は進んでいたのだろう。

それが魔物に襲われて、数日で砂の底に沈んだのだ。

それは魔物に関しては、人間では敵わない事を示している。


「魔導王国は、進んだ文明を誇っていた

 女神様への信仰を忘れて、自らを神の子と僭称するぐらいにね」

「あ…」

「それで…滅ぼされた?」


「そうだな

 それもあったんだろうな

 だが、一番女神様を怒らせたのは、選民思想から来る迫害だった」

「迫害?」

「ああ

 彼等は自らを神の子と称して、他のエルフやドワーフ、獣人といった亜人を迫害していた

 亜人を捕まえては、奴隷やペットの様に扱い、多くの亜人を苦しめながら殺していた

 それを女神様が見咎めて、何度も改める様に注意をした」

「ああ

 帝国もそうだが、魔導王国もしていたんだな」


「そうだ

 魔導王国の民は、自身を神の子として、他の亜人を一方的に支配していた

 そうして改めなかった結果、女神様の怒りに触れたのだ」

「それが滅びた理由?」

「ああ

 女神は王国の行為に怒り、天を黒く染めて、月を紅く輝かせた

 これによって魔物は狂暴になり、人間を襲う様になった

 それまで無害だった魔物も、みな人間を襲ったのだ」


「話を聞く限り、王国の人間が悪かったんだよな?」

「そうだ

 だから女神様は怒り、王国を滅ぼす事にした

 その時魔物を率いたのが、今の魔王と呼ばれる者達だ」

「え?

 魔王って…」

「ああ

 数百年から千年近く生きている

 少なくとも、私はそう聞かされている」


魔王が思った以上に長生きなのを聞いて、ギルバートはふと思った。

魔王がそれほど長く生きているのなら、エルリックよりも女神には詳しいのでは?


「なあ

 魔王なら女神様が、本当に起きているのか知っているんじゃ無いのか?」

「ああ

 それを思って、ベヘモットやアモンを探していたんだ

 しかしベヘモットも、既に記憶を消されていた」

「記憶を消されてって、具体的にどうなんだ?」


「女神様への忠誠は残されている

 しかし私や他の使徒に関しては、記憶を消されている様子だった

 私もベヘモットに狙われたので、こちらに避難して来たのだ」

「それって逃げて来たって事か?」

「ああ

 不本意ながら、私では戦う事も出来ないからね」

「そうなると、アモンだけでは無いのか…」

「そうだな

 もしかしてだが、他の魔物はベヘモットの手の者なのかも知れない」


そう言われると、オーガやワイルド・ベアが現れた事にも納得が行く。

ベヘモットも王都を狙っているので、巨人以外の魔物が来ているのだ。


「それってヤバいんじゃあ…」

「そうだな

 アモンだけでも危険なのに、ベヘモットまで現れたら…

 ギルバートだけでは無理だろう」

「いや

 アーネストが居ても無理だぞ」

「そうだなあ…

 せめてもう一人、勇者に覚醒した者が居れば…」

「勇者ねえ…」


ギルバートとしては、その勇者という称号も理解出来ていなかった。

称号自体は、騎士や騎兵にも与えられた者は居た。

ギルバートが力を発揮しているのは、覇王の卵と呼ばれる血筋から来る物だった。

これは国王にも内緒にしていて、魔王や使徒ぐらいしか知らない筈だ。

あの場に居た者は、ダーナと共に滅びたからだ。


「エルリック

 勇者って称号の事か?」

「え?

 いや、そうじゃないけど…

 称号で勇者って出たのか?」

「ああ

 騎士や騎兵部隊で、勇者の称号を得た者が何人か居るけど…

 どうかしたか?」


「おかしい…

 勇者の称号ってそんなに簡単に授かるものでは…」


エルリックは怪訝に思いながら、称号の詳細を思い出そうとする。

しかしどう考えても、その称号が安易に得られるとは思えなかった。


「しかし、アーネストに鑑定してもらったが授かっていたぞ

 何か問題があるのか?」

「いや

 称号ならば、女神が勇気ある行動を行った者に授ける筈だ

 少なくとも、その者が勇敢な戦士であるという称賛に価して…」

「ん?

 変だなあ?」

「変だとは?」


「勇者の称号を授かった者は、一部のスキルが解放されていた

 そしてそのお陰で、身体強化を使える様になっていた」

「スキルの解放?

 スキルは使用して戦えば身に着く筈だが?

 少なくとも、強敵に使っていれば身に着く仕様なんだが?」

「え?

 それはスキルやジョブを得ないと無理なのでは?

 称号もジョブも無い者は、一様にスキルの修得は無いのだが?」


スキルを修得したというアナウンスは、単独では起こらない。

ほとんどの者がジョブの修得と共に解放されていた。

それを思うと、エルリックの話とは微妙に違っていた。


「妙だな

 スキルの修得条件が変わっている?」

「そんな事はどうでも良いだろ?

 今は巨人の対策だ

 スキルや戦士のジョブ、勇者の称号では駄目なのか?」

「それは…」


エルリックは困惑していた。

スキルやジョブの条件、称号の意味合いが変わっている。

今までの知識では、絶対だと保証が出来なかった。


「すまないが…

 私が知っている仕様と変わっている

 称号やジョブに意味があるのか?

 そこに関しては自信が無いんだ」

「うーん…

 どういう事なんだ?」


これにはさすがに、ギルバートも困惑していた。

エルリックに巨人の対策を聞こうと思ったのに、それが当てにならなくなっている。

これでは安心して、巨人に立ち向かえない。


「のう

 ギルバートや」

「は、はい」


これまで無言で聞いていた、国王が重い口を開いた。


「この際じゃ、危険な討伐は中止するしか無い」

「しかし…」

「下手に打って出て、そこで反撃を受けても危険じゃろう?」


国王としては、どうせ勝てる見込みが少ないのなら、少しでも王太子が生き残る道を選びたかった。

一国の王としては問題があるが、国が亡びる可能性があるのなら、手を拱いて見ている訳にはいかないのだ。

今は少しでも、王国が建て直せる状況を作るべきだ。

その為には、例え王都が滅びても王太子を逃すべきなのだ。


「お前に死なれては…

 この国も終わりじゃ」

「国王様?」

「陛下!

 それは…」


「親馬鹿と言われても構わない

 お前さえ生きておれば…

 王国の再興も可能であろう」

「それはどういう意味ですか!」

「そうですよ」

「王国が滅びるなどと…」


貴族達が殺気立った。

国王の言葉とはいえ、軽々しく受けれる物では無かった。


「しかしのう

 相手は魔導王国を滅ぼした巨人じゃろう?」

「いえ

 正確には、それは別の巨人ですから

 まだ敗けるとは…」

「しかしのう

 王としては最悪の場合も考えねばならぬ」

「国王様…」

「陛下

 それではあんまりですぞ」

「そうです

 まだ戦ってもいないではないですか」


貴族達は、縋る様な目で国王を見詰める。

しかし国王は、悲し気な顔をして頭を振った。


「残念じゃが、楽観は出来そうにも無い

 そうじゃろう?」


国王はエルリックを、鋭く睨んでいた。

エルリックは何とか希望を持たせようとしていた。

しかし言葉の端々から、巨人が圧倒的に強い事が示されていた。


「そう…ですが

 少数ならば、ギルバートとアーネストが協力すれば…」

「可能性はある

 しかし可能性があるだけじゃろう?

 本当に勝てそうなのか?」

「ぬぐっ…」


エルリックは何か言おうとするが、国王の瞳に覚悟の色を見た。

相手が覚悟を決めている以上、これ以上の議論は無駄であろう。


「そうですね

 少しでも生き残れる様、守る為の戦いをすべきですね」

「うむ」

「エルリック?

 国王様?」

「陛下!

 考え直していただけませんか?」

「そうですよ

 国民には何と仰るおつもりですか」


貴族も頭を下げて、必死に懇願する。

国王の一言で、自身だけでなく家族の運命も決まってしまう。

必死にもなるだろう。


「ならん

 …というか無理じゃろう?

 相手は女神様なのじゃぞ」

「それは…」

「しかし!」

「国民には、明日にでもワシから話そう」


国王は既に、覚悟を決めていた。


「ギルバートよ」

「は、はい」

「明後日の決戦じゃが…

 すまぬが前線を任せたい」

「国王様

 それでは…」

「親衛隊と共に、北の城門で巨人を少しでも討伐してくれ」

「はい」


ギルバートは、国王が諦めていないと思った。

だから喜んで、その使命を受け入れようとしていた。

しかし続く言葉は、ギルバートには到底受け入れられない物だった。


「じゃが…

 アーネストが危険と判断した際は、すぐさま撤退せよ」

「へ?」

「アーネストよ、頼めるか?」

「はい

 身命に変えましても」

「うむ」


「国王様!」

「これは王命じゃ!」

「しかし!」


「撤退する際には、イーセリアも連れて行くが良い

 お前とあの子が生き残れば…

 国を再興する機会もあろう」

「そんな…」

「今はこれ以上話す事も無い

 部屋に下がっておりなさい」

「しかし、国王様!」

「ジョナサン!」

「はい」


ジョナサンはギルバートの側に近付き、優しく諭す様に呟く。


「さあ、殿下

 部屋に戻りましょう」

「しかし…」

「これは王族の宿命

 そして賢明な判断なのです

 さあ」

「国王様」


ジョナサンは親衛隊を呼ぶと、一緒にギルバートを引っ張って行く。

ギルバートも必死に訴えようとするが、国王は首を振って拒否をする。


「さあ

 今は部屋に戻ろう

 何も負けると決まった訳じゃあ無いんんだ」


アーネストも傍らに来て、ギルバートを説得した。

ギルバートは尚も、何か言いたそうにしていた。

しかし聞き入れられそうに無く、悔しそうに会議場を出て行った。


ギルバートが出て行ったところで、国王はエルリックの方を見た。


「もしもの時は、お主の出来得る限りで良い

 手助けしてやってくれんか?」

「ええ

 元よりそのつもりです」

「うむ

 頼むぞ」


国王は貴族達の方へ向くと、改めて頭を下げて頼んだ。


「すまぬが、最早王国の命運は決しておる

 勇気ある者は、ワシと戦ってくれぬか?」

「陛下…」

「ですが…」


「無論、無理にとは言わん

 従いたく無い者は、早急に荷物を纏めて出て行くが良い

 誰もそれを責めんじゃろう」


国王の言葉に、貴族達もどうすべきか迷う。

誇りを持って生きてきたのだ、ここで引く事は出来ない。

貴族として産まれた以上は、国民の為に命を賭して戦うべきなのだろう。

しかし、残される家族の事もあった。

誰もが即決が出来ず、項垂れるしか無かった。


「無理強いはせんが、出来れば明日の内に決めてくれ

 ワシは残った者達と、最後の一兵まで戦うつもりじゃ

 ハハハハ」


国王は豪快に笑うと、みなに部屋を出る様に促した。

会議場には、エルリックとサルザートだけが残った。


「あれで良かったのかい?」

「ん?

 そうじゃのう…

 他に手があるのなら、教えて欲しいもんじゃ」

「それは…まあ…

 はあ…」


エルリックは溜息を吐くと、懐からグラスと葡萄酒を取り出す。


「成る様にしか成らんか」


エルリックはグラスに酒を注ぐと、二人に手渡した。

三人でグラスを打ち鳴らすと、決意を込めて飲み干すのだった。

まだまだ続きます。

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