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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
343/800

第343話

アーネストは騎士団と共に、北に広がる森に分け入っていた

馬や馬車は森の外に残して、兵士達が見張っている

その間に、森に入ってワイルド・ベアを探して討伐するのだ

森は高く伸びた針葉樹が覆い、中は鬱蒼として薄暗かった

時刻はまだ、日没までは時間があった

しかし木々の陰が邪魔をして、視界を不自由にしていた

アーネストは呪文を唱えると、魔力を薄く広げて周囲を探る

魔力が当たった魔物や魔獣は、その魔力から位置や数を確認出来る

こうして索敵の魔法を使って、アーネストは魔獣の居場所を探し当てていた

周囲には魔物は居なくて、ワイルド・ベアだけが2体そこに居た


「居ますね」

「おお

 見つかりましたか」

「ええ

 ここから北西に、ワイルド・ベアが2体居ます」

「ゴブリンは?」

「他の魔物は居ませんか」


「運が良いのか…

 ゴブリンは付近には居ません」

「よし

 それならばさっそく」


騎士達は徒歩で、魔獣に見付からない様に風下に向かった。

魔獣に見付からない様に進んで、視認出来る距離まで近付いた。

そしてバレない様に声を出さずに、手信号で合図を送る。

4部隊48名を、二手に分けて魔獣に近付く。

そしてクリサリスの鎌を握ると、突撃の合図を待った。


本来なら森なので、クリサリスの鎌やポールアックスと言った長柄の武器は不向きである。

しかしショートソードでは、魔獣の懐に踏み込む事になる。

それは魔獣の鋭い爪と、強力な牙の猛攻に晒される事となる。

木々があって振り回し難いが、長柄の武器で立ち向かう方が安全なのだ。


隊長が合図を送り、騎士達が一斉に駆け出す。


「うおおおお」

「いくぞおおお」

グガウ?


魔獣は人間の接近に気付くが、そこは灌木が生い茂っている。

木に生えた果実を狙って、魔獣は食事をしていたのだ。


「掛かれー!」

「腕と足を狙え」


騎士は一気に迫ると、振るわれる腕の外から、長柄の武器を叩き込んだ。

騎士の人数もあって、戦闘は一方的な物になった。

腕や足を切り裂かれた魔獣は、蹲って藻掻く。

しかし斧が振り下ろされて、容赦なく頭部を打ち砕いた。

騎士達は歓声を上げて、咆哮を受ける前に圧勝した事を喜んでいた。

少なくとも一人を除いて…。


「う、うわああああ…」

「な、何だ?」


騎士達が振り返ると、そこには信じられ無い光景が広がっていた。

声を上げた騎士は、その魔獣の口の中に納まっていた。

口からはみ出した下半身が、苦し気にバタバタと藻掻いている。

そかししっかりと牙に押さえられて、その身体は逃げ出す事が出来なかった。


「こ、これは…」

「そんな馬鹿な!」


それはオーガに近い巨体の蛇だった。


「サーペント

 大型の蛇の魔獣です」

「蛇の?」

「くそっ!

 すぐに助けて…」

「動かないで!」


アーネストは救出に向かおうとする騎士を、素早く牽制した。

騎士はアーネストの声に、動きかけた身体を何とか押し留めた。

相手がどんな魔獣か分からないので、ここではアーネストの発言が絶対だ。

騎士が動きかけた際に、蛇も一瞬だが素早く反応する。

騎士を口に咥えたまま、素早く距離を取る。


「何でだ!」

「駄目です

 相手は蛇の魔獣なんですよ、下手に動くと逃げられます」

「しかし…」

「仲間が食われかけているんだぞ!」


「こいつは動く者に反応します

 そして逃げられると…」

「はっ!」

「くそっ!」


蛇は緑色の鱗に、毒々しい紫の斑模様が混じっている。

素早く動かれては、如何に巨体といえどこの森の中では見失ってしまう。

そうすれば次の犠牲者が現れるまで、姿を見付けるのは至難の業だろう。


「それに…

 足元をよく見てください」

「足元?」

「うげえっ!」


サーペントの足元には、似た様な模様の蛇の小さな物が蠢いていた。


「レッサーサーペント

 サーペントの子供です」

「子供…」

「おい!

 それでも腕ぐらいの太さだぞ」


人の背丈ぐらいの長さの蛇が、数匹蠢いている光景は悍ましかった。

それらは鎌首を擡げて、騎士達の動きを警戒をしている。

下手に動けば、こいつ等も逃げ出すだろう。

そうすればいずれは大きくなり、この巨大な蛇が量産される事になる。

だから動いてはいけないのだ。


「くそっ!

 どうすれば」

「仲間が食われかけているんだぞ?」

「どの道手遅れでしょう

 見てください

 既に毒が回っています」

「ど、毒?」

「ぐうっ」


よく見てみると、既に騎士はぐったりとしていて、ピクピクと痙攣していた。

その腕や足も、鎧の隙間から肌の色が変色しているのが見えた。

鎧の上から食い込んだ牙が、騎士の身体に毒を流し込んだのだ。


「と、言う事は…」

「ええ

 そこの小さな蛇にも、恐らく毒が…」

「厄介な…」


「しかしどうすれば?」

「ボクが魔法を掛けます

 その後で総攻撃を」

「分かった」


「心臓がどこにあるか分かり難いので、尻尾と頭を狙ってください」

「尻尾?」

「胴じゃ無くてか?」

「ええ

 あの大きさですよ

 巻きつかれたらどうなるのか…」

「あ…」

「う、ぐうっ」


騎士達はアーネストの言わんとする事を想像して、怖気で身体を震わせる。

あの大きさだ、家だって巻きつかれたら壊されるだろう。


「雷よ!

 汝のあるがままの姿を晒し、我が敵を打ち倒し給え

 大気の魔力を糧に、神々しき必殺の一撃を与え給え」


アーネストが詠唱を始めると、アーネストが掲げた杖に魔力が集まる。

アーネストの詠唱を理解したのか、大蛇は鎌首を擡げて警戒をする。

その周りの蛇も、同様に鎌首を擡げて、シャーシャーと警戒音を発した。

魔力は魔獣の上に手中して、エネルギーを貯め込んで発光し始めた。


「サンダー!」

ズドーン!

バリバリ…!


雷光が閃き、激しい轟音が轟く。

騎士達は思わず、目を逸らして耳を塞ぐ。

すぐ側で雷が落ちたのだ、それはそうなって当然だろう。


「ぐうっ」

「こいつは…」

「今です!

 一気に殲滅してください」

「あ、ああ!」

「行くぞ!」


騎士達は眩しさに目を瞬かせて、視界の回復をさせながら前へ出る。

手にしたクリサリスの鎌を振り上げると、先ずは周りで痺れている小型の蛇を切り裂いて行く。

小型と言っても、人を締め上げるのに十分な大きさだ。

先に倒さなければ、回復されたら厄介だろう。


「アーネストさん

 今のは…」

「ああ

 サンダーと言う、サンダーレインの魔法の下位に当たる魔法だ」

「下位?」

「あの威力で?」


「魔法と言うのは、そのイメージと込める魔力で変わって来る

 例えば今のは、過剰なぐらいに魔力を詰め込んで、広範囲に広がる様に落としたんだ」

「え?

 何でですか?」

「落とすなら収束して、一撃に威力を上げた方が…」

「駄目だろ

 言っただろ、イメージだって」


アーネストはサーペントを指差しながら説明する。


「サーペントを麻痺させるだけなら、確かに収束させた方が良いだろう

 しかし周りには、その子供が居るんだぞ」

「あ!」


気付いた魔術師は、うんうんと頷いた。

確かに雷は広がり、周囲に居たレッサーサーペントも巻き込んでいた。

そうする事で、レッサーサーペントの動きも封じていたのだ。


「なるほど…」

「しかし、下位の魔法にしては…」

「言っただろう?

 魔力を相当量詰め込んで、一気に放出したんだ」

「それが分からないんですが…」


アーネストは溜息を吐きながら、魔術師達に説明をする。


「普通に無詠唱や呪文を唱えるだけなら、魔法はそれほど変わらない

 精々集中して、威力を上げた効果をイメージ出来れば…

 使った魔力の分だけ威力が上がる程度さ」

「いえ、それでも十分では?」

「そうですよ

 そんなテクニックを使えるのは、ギルマスかアーネストさんぐらいでしょう」


騎士達はうんうんと頷きながら答える。

しかしアーネストは、首を振って否定をした。


「その上を出すのが、この魔術師用の魔石を使った杖だ」

「え?」

「杖ですか?」


アーネスト達が話している間にも、騎士達は魔獣に肉薄して、鎌や斧を巨体に叩き込んで行く。

大蛇はまだ痺れていて、動けないでいる。

この調子で攻撃出来れば、騎士達は問題無く魔獣を討伐出来そうだ。

アーネストは視界の隅で確認しながら話を続ける。


「杖は魔力の集積をするから、魔法を扱い易くなる

 それは分かるな?」

「はい」

「ええ

 ですがアーネストさんほどの魔導士となれば、必要無いのでは?」


「だから駄目なんだよ…

 さっき言っただろ?

 魔力を集中させて、威力を上げたって」

「あ!」

「そういう事か」


普段の通りなら、アーネストも無詠唱でサンダー程度なら使える。

しかしそれでは、単に雷を落とした程度だろう。

あれほどの威力の落雷は起こせない。

そこで詠唱を加えて、杖に余分な魔力を加える。

効果はイメージで底上げをして、特大の落雷を起こしたのだ。


「なるほど…」

「イメージと杖に魔力を集中させる」

「その為に詠唱も必要なのか」


アーネストの教えを聞いて、魔術師達は新たな魔法の可能性に喜ぶ。

しかし、そこは一般の魔術師である。

アーネストは最後に、注意点を加えておく。


「ただし!

 自信の魔力量には注意だ

 魔力が無くなればどうなるか?

 君達もよく知っているだろ」

「はははは…」

「特訓で死ぬほど思い知らされましたよ」


魔力の保有量を上げる為に、彼等も討伐に行かない日には特訓をしている。

兵舎の特別訓練場で、魔力を絞り出して使い切る特訓だ。

その度に魔力切れで、ぐったりと倒れていた。

その代わりに、自分の魔力が日に日に増えて行く事を実感していた。


「自分の魔力量を想定して、それに合わせて状況に合った魔法の運営に努める

 これが魔術師の役割だと思うんだ」

「そうですね

 自分に合った使い方をしなければ、魔力切れで倒れてしまいますもんね」

「アーネストさんも城壁では、倒れそうになったと聞きましたよ」

「う…

 あれは現状が危険だったからだ」

「それだけギリギリの局面も想定して、無駄な魔力は使えないんですね」

「ああ」


そういえば、あれほどの威力を見せても、アーネストにはまだ余裕がありそうだった。

実は先日の魔力切れで、さらに魔力量が上がった事もある。

しかしそれを除いても、アーネストは今後の事を考えて、余裕を持たせていた。

先程の魔法は、一点に雷を落とす魔法だ。

先日の魔法とは威力も範囲も違う魔法なのだ。


「さあ

 騎士達の戦闘も終わったみたいだな」

「え?

 ああ…」


話し込んでいる間に、騎士達は大蛇を討伐していた。

動かなくなった大蛇から、仲間の遺体を引き摺り出している。

騎士は予想通り、毒で既に事切れていた。


「くそっ」

「しかし、飲み込まれる前で良かった。


飲み込まれていたら、攻撃した際に仲間の遺体も傷付いていただろう。


「おい!

 見てみろ」

「うげっ!

 皮鎧が溶けかけている」

「そこじゃない!

 ここを見てみろ」


毒の効果なのか?

皮鎧には穴が空いていて、その周りは溶けていた。

しかし問題は、その穴が空いた場所にあった。


「ここなんか補強してるんだぜ」

「ああ…

 急所を覆う鉄板に、穴が空いているぞ」


蛇の鋭い牙は、鉄板で補強した箇所も軽々と貫いていた。

そこからも毒が流し込まれていて、これでは助からないのも当然であった。

もし、早目に引き摺り出されていても、全身に毒が回っていただろう。

つまり咥えられたら、それで助からなくなるのだ。

アーネストが手遅れと言った意味が、今さらながらによく分かった。


騎士達は仲間の遺体を抱えると、そのまま帰ろうとしていた。

他にもワイルド・ベアの遺骸も抱えられていたが、大蛇はどうするのか相談が始まった。


「どうする?」

「しかし…

 これを抱えて抜けるのは…」


森の出口までには、少し距離がある。

魔法の使用で結構な轟音が鳴っている。

このままでは、他の魔物が近寄って来るだろう。

騎士は小さな蛇を抱えると、大蛇を運ぶのは諦める事にした。


「駄目ですよ

 こいつの肉は美味なんですから」

「え?」

「こいつ…食うんですか?」

「ええ

 書物には相当な美味だと…」


騎士達は顔を引き攣らせて、アーネストを見ていた。


「仲間を食ってたんですよ?」

「それに腹を裂けば、何の死骸や骨が詰まっているやら…」


騎士を食おうとしていたぐらいだ。

行方不明の隊商や、魔物を食っていても不思議では無いだろう。

そんな魔獣の肉を食うと聞いて、さすがに騎士達も困惑していた。


「何言っているんですか?

 ワイルド・ボアも美味い美味いって食べてたじゃないですか」

「い、いやあ…

 あれは人肉は食っていないだろう?」

「それに蛇の肉だぞ」

「蛇だから旨いんですよ

 蛇…

 食べた事が無いんですか」

「いや、野営で食った事はある」

「うん

 確かに美味いが…」

「ああ…」


騎士達は明らかに、食べる事には反対していた。

しかし持ち帰る理由は他にもあった。


「それに鱗や皮、魔石も素材になりますよ?」

「ああ

 そうだな…」


騎士達は諦めて、数人掛かりで運ぶことにした。

アーネストは危険が無い様に、周囲に索敵の魔法を使う。

結構な音がした割りには、周りには魔物の存在は感知できなかった。

実はこの大蛇も、索敵の魔法を潜り抜けていた。

しかしこんな大物が、そうそう立て続けには出ないだろう。

アーネストは安心だと判断して、森の外へ向かう事にした。


「索敵には、まだまだ工夫が必要だな…」

「え?」

「いや、何でも無い」


アーネストは森の外へ向かいながら、索敵に工夫が必要だと感じていた。

元々は索敵では無く、魔力を感じ取る為の魔法なのだ。

それを応用して、索敵に使っていたのだ。

今後は生命力を感知する、本格的な索敵魔法が必要になるだろう。

アーネストはそう考えながら、森の外へと向かった。

まだまだ続きます。

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