表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
342/800

第342話

兵士はギルバートに、ロナルドが遭遇した事件を話し始めた

それはロナルドが騎士団に、選ばれる試験を受けた時の話だった

当時のロナルドは、若手の騎兵の中でも頼れるリーダーであった

ちょうどギルバートが帰還した時期で、選民思想者が大勢捕まった時の事だ

騎士団の中でも、多くの貴族が摘発されて捕まっていた

貴族は産まれた家の威光を笠にして、騎士団でも好き勝手していた

それは王都の騎士団でも同じで、多くの貴族の子弟が騎士団で要職に就いていた

そうした者達が、選民思想者として不祥事で捕まった

それで空席が出来てしまい、騎兵から騎士団へ昇格試験が行われた

ロナルドもそこに居て、昇格試験を受けていた


「ロナルドさんはあの通り、頭も相当切れます」

「ああ」

「そこで筆記に関しては、あの人は首席でした」

「へえ…

 凄いな」

「ええ

 凄いですよ

 相当努力していたんでしょうね

 平民から騎士団に入るのも凄いんですが、首席ですからね」


ギルバートはよく分かっていなかったが、平民が騎士になるにはハードルが高いのだ。

訓練する時間も少ないし、訓練する場所もなかなか無い。

貴族は家に広い庭があるし、騎士を専属の教師として、勉強や訓練を見させれる。

ギルバートも訓練は、ダーナの兵士の訓練場に潜り込んでいた。

平民の子供では、そんな事はそうそう出来ないのだ。

家の手伝いをしているし、訓練場では振るう訓練用の武器が無いからだ。


「え?

 訓練用の武器が無い?」

「ええ

 木剣ならその辺の木を加工出来ますが…

 素振り用の鉄製の武器となると、なかなか買えません」

「そうか…」


ダーナでは訓練を推奨していて、平民の子供でも気軽に使える様に、余分に用意されていた。

ギルバートはそれを知らなかったので、自前の鉄製の剣を所持していた。

しかし平民では、それも買って来なければならないのだ。


「ロナルドさんは成人する前に、訓練場で訓練を受けれました

 それは家に余裕があったのかも知れませんが、羨ましい事です」

「君は?」

「私です?

 私は先程も言いましたが、商家の三男ですよ

 訓練は兵士になってからです」

「そうか…」


彼は3年前に兵士になったが、まだまだ新人扱いであった。

それは成人してから訓練していたので、経験が浅いからだ。


「それで、ロナルドさんの話ですが…」

「ああ」


兵士は再び話し始める。


「ロナルドさんが首席で受かったところでしたか?」

「ああ」


「ロナルドさんが筆記で、貴族の子弟より優秀な成績で受かりました」

「え?」

「そうなると、貴族の子弟からは妬まれますよね?」

「まさか…」

「ええ

 当然粛清されました」

「馬鹿な!

 そんな事が許されて…」

「当然首謀者は、しっかりと更迭されました

 選民思想者ですから当然ですね」


話しは思ったよりも、不穏な無い様になってきた。

選民思想者の貴族の子弟が、妬みで騎士見習いを粛正する。

そんな醜聞は、ギルバートは聞いた事が無かった。

恐らくは国王が、内々に処理したのだろう。


「主犯は処分されましたが、その背後に居た者は免れました

 リュナン隊長とか…」

「待て!

 リュナンもその貴族なのか?」

「ええ

 証拠は上がりませんでしたが…

 恐らくあの人も、選民思想者でしょう

 ワイルド・ベアとの騒動は見たでしょう?」

「あ、ああ…」


リュナンが選民思想者ならば、確かにあの行動にも納得が行く。

自身が優秀だと思い込んでいるので、あんな無茶な事が出来たのだ。

貴族の間には、選民思想は根深い問題なのだろう。


「では…

 リュナンの元で副隊長をしていたのは?」

「ええ

 難い相手を自身の足元に置いて、奴隷の様に扱う

 貴族らしい遣り方です」

「貴族らしいって…」

「あ!

 すいません

 殿下の前では不適切な表現ですね」

「いや、その意味が知りたい」

「え?」


「意味と申されましても…

 貴族が気に食わない者を、権力でもって好き勝手に扱う

 貴族間では割とよくある事でしょう?」

「いや、聞いた事が無いぞ?」

「そうですか?

 確かに最近はあまり聞きませんが…

 以前はよくありましたよ?」


以前とは恐らく、ギルバートが帰還する前の事だろう。

確かに選民思想が蔓延り、ガモン商会が好き勝手にしていた。

それをアーネストが証拠を出して、国王が処分をしたのだ。

貴族も何人か巻き込まれて、一緒に断罪されていた。


「ガモン商会の…」

「ああ

 そうか

 ガモンが居なくなったから…

 確かにそうですね」


やはり選民思想はの筆頭は、ガモン商会だと認知されていた。

それが居なくなったので、選民思想も大分下火になっていた。

しかしそれでも、選民思想はなかなか無くならない。

それが女神の逆鱗に触れると言うのに、未だに無くなっていないのだ。


「それで?

 リュナンはロナルドを副隊長にしていたのは?」

「それは自分より優秀なのを認めたく無かったのでしょう

 副隊長なら、手柄は隊長の物に出来ますし」

「な…」


「それに…

 訓練を許可しなければ、訓練も出来ませんよね?

 少なくとも人目が付く場所では、自由な行動は取れないでしょう」

「そんな…」

「そういった経緯で、ロナルドさんは飼い殺しにされていました

 それに何度か、数人の騎士に訓練と言う名目で、武器も持たずに一方的に…」

「え?」


それは訓練では無く、一方的な虐待であった。

皮鎧を着ける事も許されず、鉄製の訓練用の武器で一方的に嬲られる。

騎士団の者は嫌がったが、無理矢理やらされていたらしい。

貴族の子弟達は、喜んで行っていたらしいが。


「そんな事が許されるのか?」

「いえ

 当然バレてからは、行われなくなりました

 しかしロナルドさんは負傷して…

 今では以前の様には槍が振るえなくなりました」

「それは…そうなるだろうな」


ギルバートは想像して、とても恐ろしいと思った。

武器も防具も持たずに、数人に囲まれて暴行を受ける。

身体強化で耐えれても、精神的に相当堪えるだろう。

しかも当時は、身体強化はまだ普及していなかった。

だからロナルドは、負傷してしまったのだ。


「リュナン隊長はそれを見ながら、酒を飲んでいたそうです」

「くっ

 外道め…」

「まあ、ワイルド・ベアに殺されたんですよね?

 当然の報いです」


兵士は清々したと、にこやかに笑っていた。

彼も暴行の現場は見ていたので、大いに不満を持っていた。

しかし一般の兵士では、騎士団の事には口出しを出来ない。

誰かが勇気を持って、事を報告して糾弾したのだろう。

その誰かに、ギルバートも称賛を送りたいと思った。


「しかし…

 そんな不祥事を起こしたのに、何でリュナンは更迭されなかったんだ?」

「さあ?

 貴族の子弟ですからね

 謹慎か注意ぐらいで済んだんじゃないですか?」

「その程度か?」

「ええ

 その程度で済むんですよ

 それが貴族や王族の力です」

「ううむ…」


「殿下の人柄は、ここ数日で理解しているつもりです

 くれぐれも真似はしないでくださいね」

「するか!」

「はははは

 それに怒れる殿下ですから、私達も着いて行きたいと思うんですよ

 これからも変わらないでくださいね」

「お、おう…」


ギルバートは照れながら、書類を纏めるふりをする。

気恥ずかしくて、兵士の方を見れなかったのだ。


「しかし…

 貴族の行いか」

「え?」


「いや

 身に積まされる話だなと思って」

「そうですよね

 未だに隠れて、権力を笠に好き勝手する者が居ます

 ですから貴族に不満を持つ者や、恨みを持つ者も居るでしょう」

「そうだな…」

「そういった者を取り締まる時、警備隊でも苦しい思いをしています」

「ああ

 無くして行かないとな」


彼は所属が、警備兵であるから実情を知っている。

そうした経験から、騎士にはなりたくないと思っているのだ。


「だが…

 指揮をするのは、必ずしも前線とは限らないぞ」

「え?」


ギルバートは書類を手に、簡単に説明をする。


「こうした準備や配置を決めるのも、重要な仕事だ」

「殿下…

 仕事を丸投げしようとしてません?」

「い、いや!

 そうじゃあないぞ」

「本当ですか?」


兵士はジト目で、ギルバートの方を見る。

ギルバートは慌てて首を振った。

彼に指揮を任せたいと思うのは、決してサボりたいからでは無かった。

いや、少なくともそういう考えからでは無かった。

仕事が楽になるというのは、非常に魅力的だと気付いたが。


「いや、明日からな…」

「え?」

「明日から騎士団を率いて、巨人の動向を見ようと思っているんだ」

「殿下!」

「いや、そろそろ巨人も近付いている

 可能なら、何体かサンプルに討伐しておきたいんだ」

「そんな危険な事を…」


「国王様には話しているぞ

 具体的な話は、今夜にでもしようと思っていた

 しかし…魔獣の出現がな…」

「ああ…」


今は何とか維持できているが、このまま魔獣が増えては危険だ。

それに、何時、何処から現れるかが確認出来ていない。

どこかから移動しているのか?

それとも産み出されているのか?

兎に角このままでは、安心して外に出れないのだ。


「今までの仕事ぶりを見てな

 君に暫くの指揮を任せようと…」

「いや、私は兵士ですよ?

 それもまだまだ新人で…」

「それでも、今は指揮を執れる様になっているよな」


ギルバートと話し合いをしていると言っても、彼の案も取り入れられている事もある。

そう考えれば、暫くなら任せられそうだった。


「心配しなくても良い

 騎士団からも補佐できる者を呼ぶし、君だけでやれとは言っていない」

「それは助かりますが…

 出来るのか?」

「急がなくても良い

 まだ騎士団が戻っていないし、時間はある」

「はあ…」


兵士は困惑しながら、書類に手が着かなくなっていた。

手元の書類を見ながら、ブツブツと呟いている。

どうやら手元の書類を見て、自分がどう出来るか考えているのだろう。


いきなり彼に任せるのは、ギルバートも少し心配だった。

しかしここ数日、彼は騎士や騎兵、冒険者達とも面識があった。

その上でギルバートが見ていても、的確な判断が出来そうだった。

そう考えると、誰か補佐が居れば、彼でも出来そうだと考えていたのだ。


それから二人は、黙々と書類を整理していた。

今回の討伐では、不確定な要素が多かった。

魔物が狂暴化して、人間を執拗に狙って来る。

それに加えて、突然現れる魔物も居るのだ。


「どうするべきか…」


巨人の討伐は、やらなければならない仕事だ。

少しでも王都に攻め入る魔物の数を、少なくしなければならない。

それに巨人の事も分からないので、遺骸を回収するのも重要なのだ。

職工ギルドで解体して、その生態や弱点を探る必要もあるのだ。


しかし、討伐に出ている間は指揮を任せるしかない。

アーネストも連れて行くので、指揮や情報の確認に不安が出る。

そして不確定な要素が増えた為に、彼に任せる事に不安が残っている。

しかし討伐をしなければならないの確かだ。

その辺も考えて、アーネストが戻って来たら相談をしなければならない。


ロナルド達が帰って来てから、既に1刻が経とうとしていた。

既に騎士団が出発してから、2刻半過ぎようとしている。


「そろそろ戦っている頃か?」

「え?

 ああ、騎士団の皆さんですか?

 そうですね…」


討伐の対象は、ワイルド・ベア2体だけである。

しかし問題は、近くにゴブリンの目撃情報があった。

ゴブリンをワイルド・ベアが倒していれば、討伐は楽になるだろう。

しかしゴブリンが健在していれば、討伐途中で乱入される危険性がある。

それを見越して、魔術師が同行していた。


「発見されたのは、ワイルド・ベアが2体でしたね」

「ああ

 隊商の護衛の冒険者が、足跡を見付けたらしい

 森の中を調べて、2体居るのを確認したって報告が上がっている」

「2体なら問題は無いでしょう?」

「ああ

 2体だけならな」


問題はゴブリンも、その森の中で発見されている。

数は20体ほどで、それだけなら大した問題では無いだろう。

魔術師が魔獣か魔物を拘束して、どちらか一方から討伐すれば良い。

魔物がそれだけなら…。


アーネストが同行した理由は、フォレスト・ウルフにあった。

同じ様に他の魔物が、突然現れたら危険なのだ。

アーネストが広範囲に使える、強力な魔法が必要になるだろう。

同行している魔術師では、そこまでの魔法はほとんど使えないのだ。


「向こうでも魔物が現れなければ良いのだが…」

「フォレスト・ウルフですか?」

「いや

 何が現れるかは分からない

 場合によっては、もっと強力な魔物が現れるかも知れない」

「強力な魔物?

 それは…」

「確証が無いからな

 ゴブリンが少しぐらい増えても、戦況に変わりが無いだろう

 しかし今までに見た事が無い魔物や、ワイルド・ベアが増えていれば…」

「それは…」


兵士は未知の魔物の存在を聞き、ゴクリと唾を飲んだ。

そもそも現状でも、ランクFまでの魔物しか見た事が無かった。

今回問題となっている、ワイルド・ベアですらランクFの魔物なのだ。

そして巨人に関しては、単体でもランクDに近いランクEの魔物になる。

しかし未だに、ランクEの魔物とは戦った事が無かった。


「一体…

 どんな魔物が居るんですか?」

「さあ?

 私も詳しくは知らないんだ

 しかしアーネストが知っているから、書物の通りなら何とかなる…筈だ」


しかしランクEと言う事は、上にはもっと魔物や魔獣が存在するのだ。

ギルバートがフランドールやヘンディーと協力して、何とか討伐出来た魔獣。

あの白い大熊の魔獣でも、推定でランクDの魔獣であった。

その上の魔物となれば、ギルバートでも想像が付かなかった。


「大丈夫だろうか…」


ギルバートは一抹の不安を感じながらも、騎士団の帰還を待つのだった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ