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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
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第341話

騎士団は負傷者が、馬車で回収されるのを待っていた

冒険者が魔獣に襲われて、負傷者を多数出していたからだ

このまま放置していれば、血の臭いに誘われて、魔物か魔獣が現れるだろう

冒険者達を守る為にも、ここで警戒するしか無かった

そうして馬車が来るまで、騎士団は警戒を続けた

冒険者達と魔獣の遺骸を回収すると、馬車は王都に向かって走り出した

騎士達の同行していた馬車も、一緒に帰還する

その前後に騎士団が着いて、魔物に襲われない様に警戒した

しかしそれ以降は、魔物も魔獣も現れなかった

まるで先ほどのが最後だと言わんばかりに、道中は何事も起こらなかった


「無事に着きましたね…」

「ええ

 先ほどのがまるで嘘の様です」


冒険者達は、まるで何事も無かった様に帰還出来て、すっかり安心していた。


「さあ、殿下が心配しているでしょう

 報告に向かいますよ」

「はい」


ロナルドは冒険者のリーダーと共に、ギルバートに報告に向かった。

負傷した冒険者達は、そのまま馬車で運ばれて行く。

適切な処置をして、宿屋や家に送り届ける為だ。

騎士達も馬から降りると、そのまま広場で待機をしていた。


「殿下

 ただ今戻りました」

「ああ

 無事で良かったよ」


ギルバートはロナルドに声を掛けると、その後ろに立つ冒険者にも声を掛けた。


「大変だったな」

「いえ

 我々が判断を誤っただけで…」

「いや

 責められるべきは私だ

 まさかフォレスト・ウルフが現れるとは…」


ぎるばも想定していなかったので、それも間違いであった。

しかしギルバートは、冒険者が落ち込まない様に配慮をしていた。

これはアーネストからの助言で、当のアーネストは再び討伐に出ていた。

騎士達が帰還する少し前に、念の為に魔物の討伐に向かったのだ。

予想外の魔獣が現れた事で、警戒が必要だと思ったからだ。


「それで?

 先ずは報告を聞きたいんだが?」

「はい」


冒険者は地図を開きながら、魔物との戦闘を説明する。

それはゴブリンの戦闘と、フォレスト・ウルフに遭遇した経緯だ。


「なるほど…」

「ですからオレ達は、魔物の死体の処理をしていたんです」

「うん

 それは良い判断だったと思う

 コボルトも問題無く倒せていたし…」

「ええ

 そこまでは被害も無く、順調だったんです」

「そうなると、問題はフォレスト・ウルフがどこから来たかだな」

「はい」


ギルバートは再度地図を見るが、どう見てもフォレスト・ウルフの報告は上がっていない。

先日見付かった群れも、翌日には討伐していたのだ。


「うーむ

 どこから来たんだ?」

「分かりません

「そうだよな

 急に湧いて出たか…

 或いは北から逃げて来たか」

「ですが北からでしたら、先に来たの方で目撃されますよね?」

「いや

 相手は魔獣だから、人の通らない様な道を通った可能性もある

 すぐには結論は出せないな」


ギルバートは冒険者の報告を記すと、彼等に休息する様に告げた。

明日も討伐の予定はあったが、怪我をしているのなら仕方が無い。

ギルドマスターにも、そのつもりで待機する様に伝えるつもりだ。

冒険者が天幕を出てから、次は騎士団の報告になる。


「次は私達の番ですね」

「ああ

 その様子だと、上手く討伐出来たみたいだね」

「はい

 負傷も軽傷で、問題無く倒せました」

「うん」


ギルバートは満足気に頷くと、具体的な報告を聞いた。


「なるほど

 ゴブリンの群れを襲わせて、食事中に…」

「ええ

 運が良かったんです

 偶々ゴブリンを狙いに行きまして…」


ロナルドの報告を聞きながら、相変わらずオーガの殺意が高いと思った。

ゴブリンに気付いていなければ、騎士達を襲っていたかも知れない。

しかしいい具合にゴブリンが居た事で、結果として楽に倒す事が出来た。

ギルバートは報告を聞きながら、記録を取って行く。


「うーん

 狂暴化か

 確かに影響があるかもな」

「ええ

 その後のフォレスト・ウルフの時も、魔獣は逃げようとしませんでした

 あれが月の影響じゃ無いかと…」

「君達が居てくれて良かったよ

 そのままでは冒険者が、全滅していたかも知れない」

「いえ

 偶々通り掛かっただけです」

「それでもだよ

 君達のおかげで、失われるかも知れなかった命が救われた

 ありがとう」

「殿下…」


しかしギルバートは、ロナルドの報告を聞きながら厄介だと思っていた。

何よりも追い払えない事と、逃げようとしても執拗に追われる事だろう。

狂暴化している為に、人間を執拗に狙って来るからだ。

現に隊商が幾つか、被害に遭って全滅している。

しかし当面の課題は、フォレスト・ウルフがどこから現れたかだ。


「狂暴化も問題だが…

 フォレスト・ウルフがどこから来たのかが気になるな」

「殿下?」

「引き続き聞き込みをしてみるが、油断は出来ないな」


北や東で見掛けていない以上、隊商や旅をする者が通らないルートを通ったのか?

それにしては数が多過ぎる。

これではまるで、王都の付近で突然湧いた様なものだ。

それは今後も、魔物が突然増える可能性があるという事だ。


「そういえば…

 先日のワイルド・ベアの事もあるな」

「え?」

「あれも実は…

 どこから紛れ込んだかが不明なんだ

 まるで突然湧いた様に、突如王都の付近で現れている」

「それは…

 何者かがそこに、魔獣を連れて来たって事ですか?」

「或いは魔獣や魔物を、生み出す何かがあるか…」

「ええ!!」


ギルバートの突飛な発想に、ロナルドは驚いていた。

しかしそう考えると、確かに辻褄が合う。

ここ数日で増えた魔物は、どこから来たのか不明な物が多かった。

それが移動したのではなく、近場で湧き出しているのなら…。

恐ろしい事だが、状況がそれを示唆していた。


「まだまだ不明な点が多い

 この事は国王様にも相談するが、くれぐれも内密にな」

「は、はい

 こんな恐ろしい話、とてもじゃありませんが軽々しく口に出来ません」


下手に他人の口に上がれば、たちまちパニックに陥るだろう。

王都の周囲で危険な魔物や魔獣が湧きだしている。

隊商や住民達は、他の街に逃げ出すだろう。


「今日は時間も遅い

 騎士団は解散してくれ」

「殿下…」

「ん?」


ロナルドは恐る恐るといった感じで、ギルバートに質問した。


「そのう…

 騎士団の処遇は?」

「ああ

 当面は降格扱いだが、実質は騎士団として引き続き働いてもらう」

「それでは!」

「だが、不祥事があったのは確かだ」

「はい…」


「やらかした本人が亡くなっているから、君達に責任を問うのは違うだろう

 しかし魔獣を街に入れようとしたという事実は、しっかりと反省して欲しい」

「そう…ですよね」


リュナンが亡くなっているので、団員に責任を問うつもりは無い。

しかし大事にならなかったとはいえ、魔獣を街に入れかけていたのだ。

その事実は重いだろう。


「当面は騎兵部隊として、君達の実力を見極めるつもりだ」

「はい」

「それで問題が起きなければ、騎士団に復帰してもらう

 王都周辺の警備の騎士団は、依然不足しているからね」

「はい」


何度か徴兵して、兵士は少なからず増えている。

しかし訓練が追い着かなむて、騎士団への補充は遅れている。

ただでさえ負傷が出る度に、補充要員が取られているのだから当然だ。

騎士団自体を増やすには、まだまだ時間が掛かる。

そこで騎士団が降格していると、その分欠員が出る。

彼等が責任を取って降格している分、他に皺寄せが出ているのだ。


「暫くは宿舎で待機して、訓練に集中する事」

「はい」


「なあに

 討伐任務で結果を出せば、すぐに復帰できるさ」

「そうなれば良いのですが…」


ロナルドは自信が無さそうに、俯いていた。


「何も問題を起こさなければ、これ以上の降格は無い

 だからくれぐれも、問題は起こさないでくれよ」

「はい」

「それでは今日は、これで任務を終了とする

 解散してくれ」

「はい」


ロナルドは天幕を出ると、騎士達の元へ向かった。

幸い負傷者は軽傷である。

このまま宿舎に戻って、手当てをすれば問題は無いだろう。


「隊長

 どうなりました?」

「うん

 君達の働きは褒められたよ」

「おお…」

「偶然とはいえ、冒険者を救えたからね」


騎士団とは忘れがちだが、本来は国民を守る為に存在する。

例え冒険者でも、彼等はクリサリス聖教王国の国民である。

彼等を守り、救う事も騎士団の本来の仕事である。


「私達の仕事は、国民を危険から守る事にある」

「はい」

「最近では魔物の討伐ばかりで、本来の目的が忘れがちではある

しかし国民を守る事こそ、騎士団の義務なんだ」

「はい」


魔物の討伐なら、本来は兵士が行うべき仕事である。

しかし騎士団が戦闘のプロでもあるので、騎士団も協力を要請されている。

単純な戦力では、騎士団の方が騎兵よりも上なのだ。


それに、騎士団自身の訓練にもなる。

魔物との戦闘は、普段の訓練や盗賊の討伐では得られない経験を得られる。

それに称号やジョブを授かれば、手っ取り早くスキルや技能を得る事が出来る。

現に今日の討伐でも、数名が戦士の称号を得ている。

騎士が授かる称号なので、兵士のそれとは若干違っていた。


騎士が戦士として認められた場合は、身体強化とチャージのスキルが得られる。

これは騎乗している際のスキルで、突進の勢いに補正が掛かる。

騎士達はこれで、突進した際の攻撃力を上げられる


他にも敵対する者の視線を集める、挑発というスキルもある。

こちらは敵視を集めて、自分の方に敵を集める事が出来る。

味方が不利な時に、敵の注視を集めて攪乱や攻撃を防ぐ事が出来る。

しかし魔物が強力な場合は、下手に使えば自身が危険になる。

使いどころが難しいスキルになる。


「殿下からは、今日の任務は終了したと仰られた

 これから宿舎に帰る訳だが…」


ロナルドは新しく称号を得た騎士を見る。


「どうだ?

 新しいスキルの訓練をしておくか?」

「はい」

「オレ達も良いですか?」

「それは構わないが…

 今日はもう、休んでも良いんだぞ?」


しかし騎士達は、さらなる訓練を望んでいた。

先日のワイルド・ベアとの戦いで、自分達がまだまだだと痛感したからだ。

もっと鍛えて自信を身に着けなくては、あの魔獣には勝てないだろう。

リベンジを果たす為にも、訓練に励みたかったのだ。


「お願いします

 オレ達もスキルに磨きを掛けたいんです」

「そうですよ

 このままでは、あの魔物が現れた時には…」


数人の騎士が、思い出して震えが来るのを堪える。

あの咆哮に耐えられたのは、称号持ちでも数名しか居なかった。

次に現れた時に、このままではまた咆哮にやられるだろう。


「分かりました

 では訓練場に向かいましょう」

「はい」


騎士団は馬の轡を握ると、そのまま訓練場に向かった。

スキルの訓練をするのならば、馬も必要だからだ。

騎士団が訓練場に向かうのを、ギルバートは天幕から見ていた。


「うん

 恐れを知って鍛えるのなら、より強くなれるだろうな」

「殿下?」

「いや、何でも無い」


ギルバートは天幕の入り口から離れて、再び机に向かって座る。

騎士団がもたらした報告を、書類に纏める必要があるのだ。

このまま兵士に丸投げにしても良いのだが、それではまた兵士に小言を言われるだろう。

それに逃げていては、いつまでも書類を書く練習にならない。

王太子として国を継ぐ為には、書類を書ける事も必要なのだ。


「殿下…」

「ん?」

「ここが間違っています

 それとここは、書き間違いです」

「ぐぬう…」


さっそく兵士に注意をされる。

書類は冒険者達の報告で、一部の表現の間違いや、書き間違えた文字に添削がされている。


「しっかりしてください

 国王様も文字の間違いが多い様ですが、もう少しましですよ」

「分かっている」

「分かっていても、こう誤字が多いと…」

「ぐぬう…」


誤字や書き間違いが多いので、識字率の高い兵士が、この天幕に寄越されていた。

ギルバートの監視と、書類のミスを訂正させる為だ。

兵士は商家の出らしくて、ギルバートの間違いを容赦なく指摘して行く。

今日も既に、かなりの数が訂正されていた。

その為間に合わない時には、兵士も書類の作成を手伝っていた。

彼は書類を作るのも早くて、隊の中でも内務を専門に扱っていた。

その能力は高く、どちらかと言うとロナルドに似た能力の持ち主だった。


「なあ」

「はい?」

「お前は内務だけで満足なのか?」

「え?」


「いつもこんな仕事を手伝せて…」

「そうですね

 殿下のお守と勉強の手伝い

 若輩者の私には手に余るしごとです」

「って、容赦ないな」

「はははは

 でも、殿下には感謝しています」

「へ?

 何で?」


「私は商家の出で、三男坊でした

 実家は継げなかったので、こうして徴兵で兵士にになりました」

「うん」

「ですが私には、戦う才能はありません」

「そうか?

 こうして書類を整理してれば、戦略とか兵士の配置とか…

 色々と学べると思うんだが?」


「兵士の配置…

 それは思い至りませんでした」

「こうして書類を見ていると、何処へ誰を向かわせるべきか

 色々考える必要があるだろ?」


最近ではアーネストが手伝ってくれているが、居ない時は彼と色々相談している。

そうした状況で、彼も最近では的確な判断をする様になっていた。


「どうだろう?」

「いえ

 やはり私には無理でしょう」

「そうか?

 ロナルドもどちらかと言えば、内務に特化した騎士だぞ?」

「ロナルドさんと一緒にしないでください

 あの人は騎士団の中では、それほど強くはありません

 しかし槍の扱いでは、騎兵でも敵いませんですよ」

「え?

 自信が無いって…」

「それはあの人が、実力があるのに自信が無いだけです

 あの事件が無ければ…」


兵士はポツリポツリと、ロナルドが遭ったという事件について話しを始めた。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

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