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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
340/800

第340話

オーガはすっかり油断して、ゴブリンの死体を貪り食う

ガリゴリと音を立てて、オーガは魔物の肉を骨ごと噛み砕く

魔物は満面の笑みを浮かべて、一心不乱に死肉を食らう

その様は異様で、見ていた騎士達も怖気を感じていた

しかし恐怖に負けない様に、しっかりと武器を握り締める

そして隊長の合図に合わせて、一斉に駆け出して行った

魔物はその肉を、美味いとは感じていなかった

彼等にとっての御馳走は、柔らかい人間の女や子供の肉だった

それに比べると、ゴブリンの肉は筋張って不味かった

しかし腹は満たされるので、満足そうに唸り声を上げていた


ゴガガガガ

グガアアア


魔物が吠え声を上げて、死肉を貪る。

その背後から、騎士達は一斉に駆け出して行った。


「うわああああ」

「しいいねえええ」


騎士達は隙だらけの魔物に近付くと、一気に獲物を振り回した。

オーガの腕や足に、振り下ろされて鎌が突き刺さる。

そして深手を与えながら、攻撃の範囲から離れる。


「一気に倒そうと思うな

 攻撃を受ける方が危険だ」

「はい」

「第3隊

 左腕に気を付けろ」

「はい」


ロナルドは森の近くから、全体を見ながら指示を出す。

彼の指示が部下達の命を守る為、その目は真剣に戦場を見渡す。


「第6隊

 魔物の左後方へ回れ

 そのままでは正面から狙われるぞ」

「はい」


ロナルドは騎士に細かく指示を出し、確実に削って行く。

無理に攻めさせず、安全を確認してから魔物に向かわせる。

時間は掛かるが、堅実な攻め方に味方の被害は抑えられる。


「行けるぞ」

「こっちの被害はほとんど無い」


「遊撃隊は第1隊の補助に

 第7隊はもう少し下がってくれ」

「はい」

「了解です」


魔物を確実に追い込み、1体ずつ倒して行く。

気が付けば残りは1体になり、止めが刺された。


「怪我人は居ないか?」

「軽傷が3名です」

「しかしポーションと包帯で十分です」

「よし

 上手く戦えたな」


ロナルドは喜び、力強く拳を握った。

それを遠巻きに見ながら、騎士達は申し訳無さそうな顔をしていた。


「ん?

 どうしたんだ?」

「いえ…」

「実は自分達は…」


騎士達は気まずそうにしながら、ポツリポツリと呟いた。


「副隊長を馬鹿にしていました」

「隊長に比べると、鎌を振り回すのも下手くそで…」

「正直、信用していませんでした」


しかし騎士達の言葉を、ロナルドは一笑に付した。


「それはそうだろ

 私は戦闘向きじゃあ無い

 自慢じゃ無いが、鎌を振り回せば味方を切ってしまうだろう」

「それは…」

「はははは…」


ロナルドの言葉に、それは無いだろうと苦笑いを浮かべる。

しかし当の本人は、本気で騎士など向いていないと思っていた。

しかしそれは、ロナルドが思っているだけだった。

実際にロナルドは、指揮をして戦わせる才能を持っていた。

前に出て戦うより、後方から指示を出す方が強かったのだ。

その事が今日の戦闘で、部下達にもハッキリと伝わった。


「殿下の言う通りです」

「隊長はしっかりと隊長をしています」

「そうですよ

 今の戦いも、隊長の的確な指示があったから、こうして怪我も無く終わったんです」

「もっと自信を、持ってください」

「お前達…」


騎士達は改めて、ロナルドが隊長に相応しいと認めていた。

そしてこの事が、彼等の信用を得る事になった。


「さあ

 馬車を呼びに向かいましょう」

「早く片付けないと、また魔物が現れますよ」

「ああ

 誰か場所を呼んでくれ」

「はい」


騎士の一人が、途中で待機させている馬車へと向かった。

魔物の遺骸を回収して、素材を確保する為だ。

その間に、各自でゴブリンの死骸を調べる。

ほとんどが食われていたが、中には上半身が残っているものもあった。

そこから魔石を回収する為だ。


「騎士団ではゴブリンやコボルトの、魔石の回収は命じられていない

 小遣いが欲しい者は回収しても良いぞ」

「やった」

「今夜の酒代に回すか」


リュナンの時には、そんな事は許されていなかった。

ゴブリンやコボルトの死体は放置して、魔石を回収する事など無かったのだ。

しかしロナルドは、それを不満に思っている事を知っていた。

それなので、部下達に回収する権利を与えたのだ。


騎士達は嬉々として、ゴブリンの遺骸を調べ始めた。

魔石が回収出来れば、酒代ぐらいにはなるからだ。


騎士達が魔石を回収している間に、馬車が到着した。

兵士が中から降りて来て、テキパキとオーガの遺骸を回収する。

ゴブリンの遺骸は使い道が無いので、そのまま放置されていた。

魔石も取られているので、素材にする価値も無かったのだ。


「これで死骸は全て、積み込み終わりました」

「ご苦労様

 そろそろ帰還するか」

「はい」

「こちらも死体の処理は終わりました」


騎士達は簡単な穴を掘り、ずだ襤褸になったゴブリンの死体を埋葬していた。

そのままでも害は無いだろうが、念の為に死霊になっても害が無い様に埋めたのだ。

本当は燃やした方が確実なのだが、ロナルドがそれを止めていた。

下手に煙が上がると、魔物が気付く恐れがあるからだ。


「これなら他の魔物に、餌を与える事も無いでしょう」

「え?

 そこまで考えてたんですか?」

「ええ

 ですから魔物の遺骸は、適宜回収するべきなんです

 リュナン隊長にも進言してたんですがね…」

「あの人は倒す事が目的でしたから…

 魔物の死体には興味が無かったんですよね」


片付けを終わった騎士達は、それぞれの馬に乗り込む。

帰りはオーガの遺骸も乗せているので、馬車を警護しながらの帰還になる。

思ったよりも早かったので、このペースなら日が暮れるまでには帰れそうだった。

しかしもう一度出るには、時間的には難しいだろう。

今日の討伐は終わりとみて、一行はゆっくりと帰還していた。


「この先で冒険者達が、コボルトを狩っている筈です」

「迂回しますか?」

「いや、問題は無いだろう

 向こうもコボルトぐらいなら、既に討伐しているんじゃ無いか?」


冒険者が向かう予定だった場所の方が、騎士団が向かった場所より近かった。

しかし近道をするのなら、こちらの公道を外れた方が早かった。

騎士団は公道を外れると、そのまま森を回り込む様に進んだ。


「何か声がしませんか?」

「そう言えば…」


暫く進むと、コボルトの居そうな場所を通り過ぎた。

その先から、何かが騒いでいる様な声が聞こえる。

冒険者が戦っているにしては、時間が掛かっている様子だった。


「馬車を2隊で護衛して

 後は着いて来てくれ」

「隊長?」

「早く!

 急いで!」


ロナルドは急に命令すると、急いで駆け出していた。

馬に鐙を当てると、早掛けで森の端を突っ切る。

そこには開けた場所で、狼と戦う冒険者の姿が見えた。


「急いで第3隊から8隊で救援に向かって」

「はい」


騎士達も気付いて、急いで広場に駆け込む。

そこにはフォレスト・ウルフの群れが居て、冒険者に襲い掛かっていた。

冒険者達も善戦しているが、数が多くて苦戦している。

中には怪我をした者も居て、それを庇う様に戦っていた。


「加勢するぞ」

「おお!

 騎士団だ

 騎士団が救援に来てくれたぞ」

「もう駄目かと思った」


騎士団の姿を見て、冒険者の挫かれかけた士気が回復する。

崩れかけていた戦端を盛り返して、少しずつ押し返し始めた。

しかし魔獣の群れは、そのまま逃げ出さずに狂った様に襲い掛かって来る。


「くそっ

 させるか!」

ザシュッ!

キャイン


冒険者達は、仲間を庇いながら必死に抵抗する。

その背後から援護する様に、騎士団が魔獣に向かって突っ込んで行った。


「この野良犬共が!」

ズバッ!

ギャン


「我らの前でさせるか」

ズガッ!

キャイン


騎士達が鎌を振り回して、群がるフォレスト・ウルフを切り飛ばす。

しかし後から次々と、魔獣は数が増えていた。


「くそっ

 切りが無いな」

「一体何匹居るんだ?」


冒険者の周りにも、既に30体以上の死体が転がっている。

しかし目の前には、さらに50体近くの魔獣が現れていた。


「これは一体…?」

「分かりません

 コボルトを退治して、帰還しようとしてたんです」

「そしたらこいつ等が、急に向こうから現れて…」


そちらには魔物も、魔獣の報告も知らされていなかった。

魔獣がどこから来たのか、誰にも分かっていなかったのだ。


「兎に角数を減らすしか無い

 第5、第6隊は冒険者の保護を

 他の隊は囲む様に陣形を組んで」

「はい」


ロナルドは冒険者を中心にして、半円を描く様に陣形を整える。

そうする事で、魔物に急襲される隙を少なくする為だ。


「なるべく正面に集中して、魔獣に隙を与えないで」

「はい」

「無理に切り込もうとしないで

 突出したら危険だ」


騎士達を受けの配置にして、少しでも隙を作らない様にする。

そういしないと、魔獣の数が多いので危険なのだ。


「隊長

 応急の手当ては終わりました」

「分かった

 怪我人は下がらせて、戦える者は仲間を守って」

「分かりました」


ロナルドは怪我人を冒険者達に任せて、残りの2隊を左右に走らせる。

そこから回り込んで、一気に魔物に突っ込ませる事にした。


「危険だが左右に向かってくれ」

「後ろから回り込むんですね」

「ああ

 そうでもしないと、このままでは全滅だろう」

「分かりました」


さすがにそれは、大袈裟だろう。

しかし騎士団は無事でも、このままでは冒険者の命が危なかった。

中には深手を負った者も居るので、早目に治療が必要だ。

ロナルドは短期決戦を考えて、2部隊が回り込むタイミングに合わせる。


「今だ!

 蹴散らせ!」

「おう!」


騎士団は一斉に駆け出し、魔獣に向かって鎌を振り翳す。

魔獣も距離を取ろうとするが、背後からも騎士が迫っている。

挟み込む様にして、一気に半数近くの魔獣に切り付けて行く。


「うおおおお」

「せりゃあああ」

キャイン

ギャワン


複数の魔獣が、振るわれた鎌に切り裂かれる。

後ろからも騎士が迫るので、魔獣はすっかり動揺していた。

そのまま切り込んで行き、残りの打ち漏らしにも向かって行く。


キャインキャイン

「逃がすか」

ギャワン


後の戦いは一方的だった。

魔獣が素早いと言っても、馬に乗った騎士が鎌を振り回すのだ。

リーチも速度も負けてはいなかった。

そのまま一気に詰め寄って、次々と切り倒して行った。

そうして半刻ほどで、魔獣のほとんどが倒されていた。


グルルル…

「逃げませんね」

「ええ

 もはや数匹しか残っていないのに」


魔獣は数が減っても、逃げ出そうとはしなかった。

そのまま踏み止まると、隙を窺って身構えていた。

まるで殺さなければ、自分達が死ぬと思っている様だった。


「もしかして…

 これが月の影響ですか?」

「月の影響?」

「あの狂暴化するってやつですか?」


「そういえば、あの日も魔獣は必要以上に向かって来ていましたね」

「え?」

「あの熊の魔獣ですよ

 変だとは思いませんでしたか?」

「そういえば…」


フォレスト・ウルフにしても、このまま逃げるのが普通だろう。

なんせ数頭しか残っていないのだ。

このまま留まって居ても、全滅するだけだ。


「頑丈な王都の城門を前にして、わざわざ門に攻撃を加えていた

 まるでそうする事で、人間を少しでも倒そうとしている様に…」

「そういえばそうですよ

 何で魔獣が王都の門を?」

「それにこいつらも

 逃げようと思えば逃げれるのに…」


魔獣が執拗に狙っているので、ロナルドは仕方なく指示を出した。


「止むを得ません

 最後の1体までも倒しましょう」

「は、はい」


騎士は気乗りしなかったが、このままでは危険は去らない。

数騎で囲む様にして、狼に止めを刺した。


「死体はどうしますか?」

「そうだな…」


ロナルドは冒険者の方を見て、騎士の一人に合図をした。


「すまないが…

 怪我人を乗せる馬車と、素材回収用の馬車を呼んでくれ」

「はい」


騎士に伝令を任せると、ロナルドは改めて冒険者の方を向いた。


「さて

 これは一体、どういう事なんだ?」

「それが…」


冒険者達は、口を揃えて状況の説明をする。

それは先程と同じで、急に現れた魔獣に襲われたというものだった。


「うーん

 そうすると、君達は急に、魔獣の群れに襲われた…と?」

「ええ

 原因は分かりません」

「ただ…」

「ただ?」


「考えられるのは、数刻前に倒したコボルトです

 死体は魔石を取った後、そこに埋めましたが」


見ると開けた場所の隅に、新しく出来た土の山があった。

どうやらここに、倒したコボルトの死体を埋めたらしい。

しかし血の臭いがしたとはいえ、魔獣がそれだけで襲い掛かるものだろうか

ロナルドは首を捻りながら、現場の状況を観察した。


「そうすると…

 血の臭いに誘き寄せられたと?」

「ええ

 そうとしか考えれません」

「そうですよ

 他に襲われる様な原因は…」

「ううむ」


冒険者達の言う事が正しければ、コボルトを殺した血の臭いだろう。

それにしては、魔獣の数は異様だった。

まるでこの近くで、魔獣が繁殖している様だ。

しかしそんな報告は、今のところ届いてはいなかった。

ギルバートから渡された地図にも、周辺に魔獣が現れた事は記されていなかった。


「これは殿下に報告する必要があるな」

「そうですね

 私からも伝えておきます」

「ああ

 頼んだよ」


ロナルドはその後、暫く待機していた。

冒険者達が負傷している以上、このまま放置するわけにはいかなかったからだ。

他の魔物が来たら、それこそ危険だろう。

負傷者を回収するまでは、ここで見張っているしか無いのだ


魔獣や魔物が現れない様に祈りながら、騎士団は周囲を警戒していた。

まだまだ続きます。

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