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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
338/800

第338話

アーネストは魔術師達を、城壁の上に登らせた

そこからなら、魔獣を狙い撃てるからだ

しかし当てずっぽう撃っても、ただの魔力の無駄遣いだ

これから騎士が来ても、魔力切れでは話にならないのだ

アーネストは覚悟を決めて、自分も城壁に登った

眼下を覗き見ると、暗がりに火矢の明かりが見える

その中に黒く蠢く、無数の魔獣の姿が見える

ワイルド・ベアは数体が、城門に力任せに爪を打ち付けていた

いくら頑丈に作っていても、魔獣の膂力は強力であった

何度も振るわれる爪に、少しずつ表面が抉られて行く


ゴガアアア

ガキン!


「マズいな…」

「ああ

 少しずつだが壊されている」

「良し!」


アーネストは頷くと、マジックバックから杖を取り出した。

そして杖を構えると、長い呪文を詠唱し始めた。


「アーネスト?」


ギルバートが呼び掛けるも、アーネストはそれを無視している。

それだけ集中力の要る、強力な魔法を用意しているのだ。

周囲に風が流れて、気温が少しだけ下がった様な気がする。


複雑な古の言語を唱えつつ、アーネストは杖に魔力を込める。

杖はその先の魔石を輝かせて、周囲の魔力を一点に集約する。

多くの魔力が集められて、城壁の上に歪みが生じる。


「ギル

 ボクが気絶しそうになったら、落ちない様に支えてくれ」

「はあ?!」

「行くぞ!」


魔力が展開されて、魔獣達の頭上に放たれる。

そこには魔力の塊があり、雷を無数に纏っていた。

雷は煌めきながら迸り、無数の輝く蛇が集まっている様だった。


「ボルテック・サンダー」

ズドン!

バリバリバリ!


放たれた雷の塊は、地面に到達すると同時に、無数の雷の蛇を周囲に放った。

それは轟音を上げながら、周囲の魔獣達を飲み込んで行った。

魔獣は苦悶の声を上げる間も無く、雷に貫かれて倒れる。

この魔法だけで、魔獣の半数近くが動けなくなっていた。


「す、凄い…」

「はははは…

 想像以上の威力だ

 制御を考えない…と…」

「おっと!」


アーネストが意識を失い、その場で倒れそうになる。

ギルバートは支えると、すぐに兵士達に連れて行く様に指示した。


「安全な場所へ」

「はい」


「殿下

 騎士団が来ました」

「おお

 待ちかねたぞ」


ギルバートは下方を見て、ほとんどの魔獣が満足に動けないのを確認した。

魔獣は雷に打たれて、痺れているのだ。


「城門を開け

 一気に魔獣を殲滅するのだ」

「はい」

「開門!」

「開門!」


番兵が指示に従い、城門の開門を始める。

巻き上げ機の留め具が外されて、城門がゆっくりと開き始める。

魔獣はそれに気が付き、起き上がろうとする。

しかし雷に打たれた身体は、痺れて思う様に動かなかった。


「殿下!」

「ジョナサン

 魔獣はワイルド・ベアが12体

 魔法で動きが鈍っている」

「はい」

「一気に蹴散らせ」

「はい」


親衛隊は広場に入ると、そのまま速度を落とさずに、真っ直ぐに城門へ向かった。


「突撃―!」

「おう!」


親衛隊は、一気に城門を駆け抜けて行く。

その腕にはクリサリスの鎌が握られて、走り抜け様に魔獣に振り下ろされて行く。

既に大勢は決していて、後は魔獣に止めを刺すだけである。


「あ!

 危ない」

「ソーン・バインド」


動ける魔獣が居ても、魔術師達が拘束の魔法を放つ。

そこへ騎士が近づき、一気に止めを刺して行く。


そうして半刻ほどで、全ての魔獣は倒されていた。

親衛隊の被害は無く、城門の外側が傷付いただけであった。


「ふう…

 何とかなったな」

「ええ

 魔獣の遺骸は?」

「うーん

 このまま置いておくのはマズいんだが…」


しかし外は、既に真っ暗になっていた。

紅く輝く月が昇っていたが、それでも城門の外は暗い。

ここで魔物でも現れれば、二次被害が出るだろう。


「止むを得んだろう

 明日の朝に回収しよう」

「はい」


番兵達は巻き上げ機を動かして、再び城門を閉めた。

城門が再び閉じられた事を確認して、ギルバートは王城に戻る事にした。

念の為に番兵には、城壁から見張る様に命じた。

魔獣が死霊化しては危険だからだ。


「ギル

 ボクは先に帰るぞ」

「ああ

 魔力切れだな?」

「ああ

 さすがに足元がおぼつか無いよ」

「あれだけの魔法だからな」


アーネストはふらつきながら、騎士に支えられて帰って行く。

ギルバートも親衛隊に片付けを任せて、その場を後にする事にした。

早く戻らなければ、国王が心配しているだろう。


「事後報告は明日にでもしてくれ」

「はい」

「殿下

 王城までお供します」

「ん?

 ああ、頼んだ」


ギルバートはジョナサンと騎士を護衛にして、王城に向かった。

ギルバートが王城に戻ると、執事のドニスが待っていた。

国王が報告を聞きたくて、ドニスを待機させていたのだ。

ギルバートはドニスと共に、国王の執務室に向かった。


「ただいま帰還しました」

「おお

 無事であったか」


国王は立ち上がると、嬉しそうにギルバートを抱き締める。

時間が掛かったので、ギルバートが戦っていないか心配していたのだ。


「ええ

 親衛隊に任せましたので」

「しかし魔獣は多く居たのだろう?

 無事に倒せたのか?」

「それは…」


ギルバートは室内を見回すと、文官とドニスを見た。

ギルバートの意図を理解して、国王は目配せをする。


「おほん

 重要な話がある

 一旦退室してくれ」

「え?」

「人払いですね

 お声が掛かるまで出ておきましょう」


ドニスが示し合わせて、文官を連れて出る。

人が居なくなったのを見て、ギルバートは話し始める。


「魔獣にはアーネストが魔法をぶつけて、動きを封じました」

「その魔法が問題か?」

「ええ

 威力が高い雷の魔法でした」


国王はギルバートの意図を理解していたので、魔法が危険だと察知していた。

並みの魔法ならば、わざわざ文官を部屋から出す必要が無い。

聞かれたく無いという事は、それだけ危険な魔法が使われたという事だ。


「ワシは魔法に詳しく無いからのう

 そこは聞くまでも無い」

「ええ

 私も実は、よく分かっておりません」


ギルバートは肩を竦める。


「しかしあれは…

 あまり知られない方が良いでしょう」

「箝口令を敷くか?」

「いえ

 それには及びません

 どうせ兵士や親衛隊も、魔法には詳しくありませんから」

「ん?

 口外しても問題無さそうか?」


「そうですね

 むしろ魔法で撃退したと聞こえたら、国民の士気も上がるでしょう」

「うむ

 そういう事ならば、その様にしておこう」

「ただし

 詳細はよく分からないという事で

 あまり具体的ですと、何とかその魔法を使えないか調べる者も出るでしょう。

「そうじゃな

 そこは伏せた方が良かろう」


国王は代替え案として、アーネストが強力な魔法を使い、魔獣の足止めをしたとした。

何の魔法とかは伏せて、結果の一部のみを記す事にしたのだ。


「詳しく聞かれたら、知らぬという事で誤魔化そう」

「そうですね

 どうしてもと言うなら、アーネストに詳しく講義してもらう事にしましょう」

「それは聞いてみても、理解出来そうに無いな」


国王は苦笑いを浮かべて、その案を承諾した。


「して、多量の遺骸はどうした?

 この時間では、ギルドの者も居ないだろう」

「そうなんですよね

 外はすっかり暗くなってましたし

 今はそのまま置いています」

「大丈夫なのか?

 そのう…死霊とか…」


国王の質問に、ギルバートも首を振って答える。


「危険ですが、無理をすると…」

「そうじゃなあ

 兵士や騎士に被害が出るか」

「ええ

 明日の朝一番に、回収をさせます」


ギルバートはその他の書類も出して、序でに討伐の報告をすます。

その頃には、文官も呼び戻されて、書類の中身を確認していた。

一通り確認した頃には、既に夜も遅くなっていた。


「むう?

 もうこんな時間か」

「あ!

 しまった、食事が…」


ギルバートは報告に夢中になっていて、食事もしていない事を思い出した。


「殿下

 私が先に、用意をさせておきます

 先ずは風呂にでも入ってください」

「そうだな

 頼むぞ」


ギルバートはドニスに任せて、慌てて執務室を出て行った。

国王と宰相は、困った様な顔をして顔を見合わせた。


「やれやれ

 騒々しいのう」

「ふう…

 しかし、無事に済んで良かったです

 一時はどうなるかと…」


夜間の暗がりに、危険な魔獣が城門を壊そうとしている。

その上咆哮で、兵士や騎士が使い物にならなくなる。

そんな危険な状況なので、ギルバートが出る可能性が高かった。

何とか討伐出来て、本当に良かったと思う。


「陛下

 騎士団の事はどうされます?」

「うむ

 ギルバートの言う通りじゃな

 この際、その副隊長に任せるしか無かろう」

「はい

 それではその様に、手配致します」


「こちらの城門の被害は?」

「それは明日の調査次第じゃな

 早急に修理が必要じゃな」

「素材の回収はどうされます?」

「そっちも明日の報告次第じゃ

 先ずは明るくなってから、外の状況を確認せねばな」


国王は残りの問題の処理をしながら、このまま終わってくれと願っていた。

しかし、実際の心境としては、死霊が本当に出るなどとは考えていなかった。

無理も無いだろう。

国王が現役の頃には、死霊の伝承はあっても、実際に見た者は居なかった。

ましては、その被害に遭う事など無かったのだ。


それに、国王が長く戦場を去っている事もあった。

今でも現役であれば、危険を感じて行動していただろう。

しかし国王として、長く安全な王宮の中に居た為に勘が鈍っていた。


翌日の早朝に、王宮は再び騒然とする事になる。

早朝から王城の城門に、番兵が駆け付けたのだ。


「魔物の遺骸が消えたじゃと?」

「はい

 血痕は残っておりますが、死体は一つ残らず無くなっておりました」


「見張りはどうしたのじゃ?

 その為に残っておったのでは無いのか?」

「ええ

 見張りも警戒はしておりましたが、気が付いた時にはもう…」

「無くなっていたと?」

「はい」


見張りは城壁から、下の遺骸を見ていた。

しかしずっと一点を見ている訳にもいかず、城壁を巡回しながら見ていた。

いや、正確には明かりが照らしている場所を見ていた。


最初に異変を感じたのは、朝日が昇り始めた時だった。

複数体あった筈の遺骸が、明かりに照らされた場所にしか無くなっていたのだ。

慌てて下に降りて、通用口から外に出た。

しかしその頃には、他の見えていた遺骸も消えていた。

それが最初から無かったのか、それとも今盗まれたのかは分からなかった。

確実な事は、遺骸は消えてしまっていたのだ。


「ううむ

 聞いてみても分からんな

 本当に見ておったのか?」

「はい

 少なくとも、松明や篝火に照らされた場所では、朝までは遺骸が見えておりました

 まさかその遺骸まで、下に降りるまでに消えてしまうとは…」


番兵が城壁を下りるまでに、何者かが遺骸を持ち去っていた。

その姿も確認出来なかったので、何者が持って行ったのかも分からなかった。


「一体何者が?」

「さあ?

 私達も見えませんでした」


結局魔物の遺骸は見付からず、そのまま城門の周辺では警戒が続けられた。


「どう思う?」

「そうだなあ…

 魔王の可能性が高いな」

「魔王?

 どの魔王だ?」

「それは死霊を使う、東の魔王だろう?」

「ヌルヌルとか言う奴か?」

「ムルムルだな」


ギルバートは書類を見ながら、アーネストと話していた。

話題は今朝の、魔物の遺骸を盗んだ者についてだ。

正体が分からず、魔王が候補に挙がっていた。


「遺骸の腕や足も消えていたんだろ?」

「ああ

 兵士の話ではそうだな」

「そうなれば、その遺骸を使って死霊を作り出すつもりじゃ無いのか?」

「腕や足が切られているのにか?」


ギルバートは地図に印を書いてから、アーネストの方を向いた。


「それなら腕や足を持って行く必要が無いんじゃあ…」

「いや

 切れた腕や足も修復して、死霊にするつもりかも」

「魔獣のゾンビか?」

「或いはそれ以上の死霊かも」


ギルバートは想像が出来ず、頭を振った。


「そんな死骸を使って、一体何をするつもりなのか…」

「案外強力な魔物になるかも」

「死霊なのにか?」


ギルバートの印象では、死霊は一度死んでいるから、魔法か火で焼くしか無かった。

その代わり、生き返った魔物は動きが遅かった。

ワイルド・ベアは突進や爪の振り回しが強い。

それが遅くなると、ワイルド・ベアの持ち味が活かせないのでは?


「死霊って…

 動きが遅いよな」

「うーん…

 大体そうだな」

「それならワイルド・ベアを使うのは、却って弱くならないか?」

「そうかなあ?」


アーネストは書類を受け取ると、今日の討伐目標を確認する。

一応死霊を警戒して、東の城門の近くは避けていた。

魔物と戦闘中に遭遇しては、騎兵や騎士が危険に晒されるからだ。


「騎士が帰還したら、次はこっちだな」

「そうだな

 ここは東の城門に近い

 魔物の遺骸がどうなったのか分からない以上、そこには向かわない方が良いな」


騎兵達には南に向かってもらう事になっている。

このまま数日は、東の方では戦わない様に考えていた。


「しかし…

 遺骸をどうするつもりなのか…」

「そうだな

 本当に魔王が持って行ったのか、本人しか分からないだろう」

「ああ」


あれだけの数を持ち去ったのだ。

恐らくは人間では無いだろう。

しかし魔物や魔獣にしては、痕跡が残されていなかった。

だからこそ、魔王が持って行ったと考えるのが妥当だった。

まだまだ続きます。

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