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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
334/800

第334話

騎士団の隊長は、部下達の支度が整うのを待っていた

軽傷とはいえ、魔獣の攻撃を防いだ際に、傷を負っている者もいた

それに隊長も、連戦で鎌の柄が曲がってしまっていた

馬車に乗せていた予備は、まだ手に馴染んでいない

このまま無事に、王都に帰還出来ればと思っていた

夕闇が迫る公道を、騎士達は馬で駆けて行く

後方の馬車が荷物を載せているので、進行は遅くなっていた

普段なら2時間ほどの行程が、3時間近く掛かっていた

もうすぐ王都の城門が見えるところで、街の灯りが見え始める

既に8の月に入っているので、少しずつだが日の陰る時間も早くなっていた。


「王都が見えて来たぞ」

「油断するな!

 周囲を警戒しろ」


隊長は警告を発しながら、周囲に鋭く目を向ける。

野鳥の鳴き声も聞こえず、周囲が静まり返っていた。

僅かな異変だが、長年の勘が危険を報せている。


「隊長

 魔物です」

「魔物に囲まれています」

「慌てるな!

 馬車を優先して逃がすんだ」


王都の城門までは、後少しの距離だ。

このまま数人の騎士で先導して、馬車を城門の中に逃がす必要があった。

城壁でも異変に気付いて、兵士達が城壁に駆け上がって行くのが遠目に見える。

このまま城壁まで逃げて、そこで反撃するのが良いだろう」


「魔物は何だ?」

「オークです」

「その数…

 おおよそ20体ほどです」


「よし

 一旦城壁まで逃げるぞ

 そこで反転して、一気に殲滅する」

「はい」


騎士達は馬車を守る様に走り、城門へと向かって行く。

魔物も状況を理解して、何とか城壁までに追い付こうと懸命に走る。

しかし騎士達は馬に乗っているので、追い縋る事は出来なかった。


「開門!

 開門!」

「分かった

 待ってろよ

 開門!」


城壁の番兵が気付いて、下の兵士達に合図を送る。

城門が開かれると、馬車が次々と中に入って行く。

馬車が入り切ったのを見て、再び城門が閉じて行く。

それを見ながら、騎士達はクリサリスの鎌を引き抜いた。


「さあ

 本日最後の戦いだ

 気合を入れて行くぞ!」

「おう!」


騎士団は鎌を構えると、一気に魔物に向けて駆け出した。


「うおおおお」

ガキーン!


しかしオーク達は、金属製の大楯を構えていた。


「な、何だと?」

「こいつ等斧と盾を持っていやがる」

「散開して反撃に備えろ」


隊長の言葉に、騎士達は散開して攻撃範囲から逃れる。

魔物がポールアックスを持っているので、長柄の有利さが崩されているのだ。


「くそっ

 こんな時に厄介な」

「躱しながら切り抜けるぞ」


騎士達は互いに声を掛け合って、魔物の周りを回り込んで攻撃する。

大楯で防がれるが、隙を突けたら鎧を着ていないので、一撃で屠れるだろう。

しかし鎧を着ていない分、魔物も小回りが利いていた。

馬での攪乱にもすぐに慣れて、なかなか隙を突く機会が見られなかった。


「こいつ等…

 戦い慣れている?」

「くそう

 せめて身体強化が使えたら…」


騎士達は連戦の疲れで、ほとんどの者が魔力の底を着いていた。

だから攻撃も、馬の突進の勢いを使ったものになったいた。


グギャハハハ


魔物は騎士達の疲労に気が付き、嫌らしい笑いを浮かべている。

ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて、疲れて隙を見せるのを待っているのだ。


「くぬおっ」

「舐めるな!」

「焦るな!

 焦れば奴等の思う壺だぞ」

「しかし…」


アーネスト達は城壁に登り、そこから外を眺める。

下では武装したオークが、騎士達の攻撃を巧みに防いでいた。


「くそっ

 盾持ちのオークか」

「なかなか手強そうですね」

「ああ

 ここから魔法で支えるぞ」

「はい」


魔術師達は呪文を唱えて、魔物の群れを拘束しようとした。


「マッド・グラップ」

グガア…グガウ

「なっ!」


地面から伸びる土塊が、魔物の足をしっかりと掴んだ。

しかし魔物は、力任せにそれを砕いてしまった。


「マッド・グラップが効かないのか?

 それなら…ソーン・バインド」

グガウウ…


今度はしっかりと縛り付けたが、まごまごしていると周りの魔物が蔦を切ろうとする。

それを防ぎながら攻撃するのはなかなか難しかった。


だが、魔物の数が少なかった事もあり、騎士達は何とか魔物を倒して行く。

そのうち番兵も弓を取り出して、城壁に近い魔物に射掛けた。

矢はほとんどが弾かれるが、中には魔物に当たる事がある。

時間は掛かるが、今はこういう小さな支援でもするしか無かった。


「くそっ

 矢が当たればな」

「矢か…」


アーネストは少ない魔力を振り絞って、マジックアローの呪文を唱える。


「ボクが魔物に打撃を与えます

 みなさんはそのうちに魔物の目を狙ってください」

「アーネスト殿?」

「マジックアロー」


アーネストは見当違いな方向に、魔法の矢を放った。

番兵達が驚く中、矢は器用に曲線を描きながら、魔物の死角から突き刺さった。


グゴア

ブギイイ

「今だ

 狙え!」


一斉に矢が放たれて、魔物が油断したところに降り注いだ。

頭や顔に突き刺さり、魔物は苦悶の声を上げて転がった。


「今だ

 兵士達が作ってくれた隙を逃すな」

「はい」


騎士は一気に詰め寄って、クリサリスの鎌を振り回した。

魔物は盾を構える暇も無く、一気に切り殺されて行った。

弓矢の援護があったから、魔物が盾を構えられない状況を作れた。

それが結果として、騎士達に勝利を与えた。


「アーネスト殿

 あの魔法の矢は?」

「ああ

 魔法は魔石に向かい易いので、予め曲がる様に狙って、魔物の死角に放ったんです

 魔物が上手く引っ掛かって良かった」

「あんなに曲がるんだ…」

「私達も出来るのかな?」


魔術師達は、アーネストが使った曲射を感心して見ていた。

曲がる事を想定したからこそ、あそこまで的外れな方向に放てたのだ。

彼等が真似しても、上手く曲げれる保証は無かった。

偏にこれは、色々試してみたアーネストの経験の賜物だろう。


「他には魔物は居ませんか?」

「ああ

 こいつ等で全てだ

 城門を開門してくれ」

「分かった

 ちょっと待ってくれ」


番兵達が装置を動かし、城門が開かれる。

騎士達は連戦に疲れて、疲弊した顔で戻って来た。


「お疲れ様です」

「ああ

 魔物の回収を頼む」

「はい」

「我々は殿下の元へ、報告に向かう」


騎士達は番兵に後片付けを任せると、北の城門に向かった。

時刻が時刻なので、ギルバートが残っているのかは微妙だった。

しかし危険な任務だったので、残っている可能性が高いだろう。

そういうところは、ギルバートは責任感が強かったのだ。

後はもう少し、書類仕事等にも責任を持って欲しいと、騎士達は思っていた。


「殿下」

「無事に帰って来たか」


予想通りに、天幕には灯りがついており、ギルバートは中で待っていた。


「はい

 騎士団並びに魔術師一同、無事に帰還致しました」

「うん

 大きな怪我も無さそうで良かった」


ギルバートは怪我人が居ない事も確認して、安堵の溜息を吐いていた。

オーガとワイルド・ベアが一緒という危険な任務だ。

正直なところ、重傷者が数人は出ると思っていた。

それが軽傷こそ居るが、誰一人欠けていないのだ。

心底良かったと思っていた。


「ん?

 どうしたんだ?」

「いえ…

 それが…」


ギルバートはオーガとワイルド・ベアを討伐した割に、騎士達の表情が固いのを不審に思った。


「実はワイルド・ベアは無事に討伐出来たんですが…」

「凄いじゃ無いか

 それで?

 魔物は?

 オーガは何体居て、ワイルド・ベアは?」


ギルバートは興奮しながら、書類を取り出す。

報告を書き留める為にギルバートは、羽ペンを手にして詰め寄る。

しかし騎士達の様子は、とても魔獣を倒した様には見えなかった。


「一体…?」

「実は盾持ちの魔物が出まして…」

「オークが大楯を手にして現れました」

「何だと!」

「殿下は報告を受けておりませんよね?」

「ああ

 付近にオークが居たとは聞いていないぞ」


ギルバートは驚いて、改めて地図を持ち出して来た。

そこには近辺にオークの発見は記されていない。

それに盾持ちのオークならば、いやが上にも目立っただろう。


「盾持ち…

 例の武装したオークか?」

「いや

 今回は大楯とポールアックスのみだ

 重く嵩張る鎧は着けなかったんだろう」

「そうか、鎧を着けなかった分、動きは素早くなるだろうな」

「ああ

 却って動きが良くて、騎士達も苦戦していた」

「あれは疲弊していたので…」

「それでもだ!

 万全でも苦戦していただろう?」

「ぬうっく…」


隊長は言い返したかったが、魔術師の魔法に助けられていたのだ。

それを言い訳は出来なかった。


「しかし…

 王都の近くにまで?」

「ああ

 城門の近くで待ち伏せていた様だ

 そう考えれば、最初から王都の周りに潜伏していた可能性がある」

「潜伏か…

 知性は?

 まさかハイランド・オークでは無いよな」

「そうだな

 知性はそんなに高そうじゃ無かったな

 いや、むしろ下卑た笑いをしていたから、賢くは無さそうだった」


アーネストの言葉を聞いて、ギルバートは考え込む。


「ハイランド・オークでは無い

 そして頭は悪そうな割には、しっかり装備をしている」

「誰かが後ろで指揮しているな」

「アーネストもそう思うか」

「ああ

 でないとあんな武器は持てないだろう」


鍛冶の知識や技術も持たないのに、ポールアックスや大楯を持っている。

それだけで何者かが手を貸しているのは明白だ。

そして武器の質を考えると、人間より高位の存在だろう。


「使徒…

 或いは魔王?」

「東の魔王では無いだろうな

 使うなら死霊にするだろうし」

「そうだろうな

 フランドールみたいに死霊にするだろうな」


東の魔王が黒幕なら、魔物を死霊に変えて送っただろう。

それが武器だけを与えて送り込む様な無意味な事はしないだろう。

こんな事をするのはむしろ…。


「ベヘモット?

 いや、アモンか?」

「そうだな

 下手な小細工をしない辺りは、アモンの仕業と思うな

 それなら武器だけ与えたのにも納得が行く」


武闘派のアモンなら、細工をするよりは力任せで押し切ろうとするだろう。

まさに今回の様に。


「そうなると、この前のオークもやはり…」

「そうだろうな

 ハイランド・オークでは無かったが、オークを使っていたしな」

「そうなると、この先も武装したオークが…」

「襲って来るだろうな」


アモンが絡んでいる以上、オークが攻めて来るのは仕方が無い。

しかし巨人の事があるのに、さらにオークまで攻めて来ては、王都の守りが手薄になってしまう。


「巨人もアモンの仕業なのか?」

「さあな

 しかしアモンなら、先に宣誓をして来るだろう?

 あいつも馬鹿だからな」

「そうだよな

 あいつは馬鹿だからな…

 しかしそれならば…」


オークが攻めて来る事も宣誓されていなかった。

不意を突く様に、突如として攻め込んで来たのだ。

このやり方は、アモンのやり方にしてはおかしかった。


「妙だよな

 アモンが攻めて来るのなら、予め宣誓を行う

 そうだよな」

「ああ

 奴らしからぬ襲撃だ

 これはどうやら、一枚嚙んでいる者が居るな」

「それが巨人を率いる者?」

「ああ

 恐らくはもう一人の魔王だろう

 それもアモンやベヘモットと違って、本気で人間を滅ぼそうとしている…」

「人間を滅ぼす…」

「そんな者が居るんですか?」

「ああ

 確証が無い故に、この事は内密にする様に

 国王様からも箝口令が出ている」


騎士団にも噂は届いているので、隊長は慎重に言葉を選んで尋ねる。


「それではやはり、女神様は人間を滅ぼそうと…」

「いや

 まだ女神様が関わっているかは不明だ

 しかし女神様の指示だと、動いている魔王は居る」

「では、やはり…」

「早計に判断するな

 あくまでそう主張する者が居るだけだ

 本当に女神様が指示しているとは…」


ギルバートはそう言いながらも、自身の言葉に説得力が無いのを知っていた。

現に月は紅く輝き、魔物は力を増している。

これが女神の仕業で無いのなら、一体誰の仕業と言うのだ?


「兎に角、魔物の報告を行ってくれ

 先ずはオーガとワイルド・ベアからだ」

「はい」


気になる事は多いが、今は目の前の事から片付ける必要があった。

魔物の討伐の確認と、他の魔物が居ないかの確認だ。

少しでも多く狩らなければ、王都に魔物を近付ける事になる。

今日の魔物の発見場所も、王都に大分近い場所だったのだ。


「オーガは6体

 ワイルド・ベアは4体でした」

「報告より多いな

 して討伐の結果は?」

「全て討伐しまして、負傷者は軽傷者のみです」

「うん

 ここまでは上々だな」


無茶な討伐とは思っていたが、結果としては無事に討伐出来ていた。

怪我人もこの時点では、6名が軽傷と少なかった。

この時点までだが…。


「その後王都に帰還を目指していたんですが…」

「王都の間近でオークの襲撃に遭いまして」

「オークか

 武装したオークは何体居たんだ?」

「数は全部で19体でした」

「うーん

 それにしては…」

「ええ

 魔力切れもありました

 騎士団はその前の戦闘で、ほとんど力を使い果たしていたんです」


騎士達は軽傷者が4名で、重傷者が2名出ていた。

これで軽傷者が10名に、重傷者が2名となっていた。

やはりワイルド・ベアとの戦闘は、騎士団にはまだ早かったのだ。

しかし今回の戦闘のおかげで、彼等も称号を得ていた。

全く無意味では無かった。


「ワイルド・ベアとの戦闘で、力を使い果たしていなければ…」

「まあ、それも含めての討伐任務なんだ

 今回は運が悪かったんだよ」

「しかし…」

「幸い大きな怪我では無いんだ

 この程度で済んで良かったよ」


ギルバートはそう言いながら、書類に被害報告も書き加えて行く。

そこには隊長の愛用だった、折れ曲がったクリサリスの鎌も入っていた。

あの時アーネストの魔法が無ければ、被害はもっと大きかっただろう。

隊長はそう思いながらも、それを口にする事は出来なかった。

まだまだ続きます。

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