第333話
騎士達は身構えると、ゆっくりと森を囲む様に展開する
森にはオーガと、オーガよりも狂暴な魔獣、ワイルド・ベアが潜んで居る
迂闊に踏み込む事が出来ないので、騎士達は警戒しながら森の様子を確認する
魔物はこちらに気付いていない様子で、中から出て来る様子は無かった
隊長はどうするべきか、アーネストの方に振り向いた
アーネストも攻め難く、どうするか思案していた
気付かれる前に、先制攻撃を加えたかった
しかし騎士達は、馬に乗っているので森の中では戦い難い
そして魔法で攻撃するにも、これだけ木が生い茂っていては視界が悪過ぎた
魔物を攻撃する為には、森から誘き出すしか無いのだ
「どうしますか?」
「うーん
誘き出すか?」
「そうですね
先制攻撃出来ないのが残念ですが、それしか無さそうですね」
隊長も同意見で、誘き出すしか無いと判断していた。
問題はどうやって誘き出すかだ。
誘き出した時に、美味い具合に魔法を当てれれば良いだろう。
それを考えれば、魔術師達には魔法の用意をしてもらう必要があった。
「サンダー・レインやファイヤーボールは危険だ
森が燃えてしまうだろう」
この森は小さくて、灌木も生い茂っていた。
こんな所に火が点けば、瞬く間に燃え広がるだろう。
火事の危険性を考えれば、ここは他の魔法が有用だろう。
「拘束の魔法を用意してくれ」
「はい」
魔術師達に指示を出してから、アーネストは呪文を唱え始めた。
それは簡易的に破棄された、短い詠唱だった。
それでも使い慣れた魔法なので、魔法は問題無く発動する。
そして詠唱を加えた事で、効果を大幅に引き上げる事が出来た。
「おお…」
「あんな数を一度に…」
アーネストの頭上には、50本近い魔法の矢が浮かんでいた。
マジックアローは単純な魔力の塊なので、森を燃やす心配は無かった。
そして使い慣れた魔法なので、50本ぐらいでは問題無く使えるのだ。
アーネストは狙いを森の中の魔物に絞り、ゆっくりと狙いを付けた。
そして途中の障害物に当たる事を前提に、威力を上げて引き絞った。
「マジックアロー!」
シュバババ…!
無数の矢が一気に解き放たれた。
矢は唸りを上げて突き進み、次々と木々を貫く。
そしてその半数近くが、森の中のオーガに突き刺さった。
グガアアアア
ゴガアアアア
咆哮が響き渡り、地鳴りの様な足音が聞こえる。
そして魔物達は、不埒者の姿を求めて森から飛び出した。
「今だ!」
「スネア―」
グガ?
ズゴン!
ゴガッ!
先頭の体が、足元に空いた穴に足を引っ掛ける。
もんどりうった魔物に引っ掛かり、3体目のオーガも転げた。
「ソーン・バインド」
次に蔦が伸びて来て、3体の魔物の身体を拘束する。
それを見て、騎士達も一気に前進する。
倒れて動けない内に、一気に止めを刺すつもりなのだ。
「今の内だ
後方からも来ているぞ」
「おう」
「うりゃあああ」
ズシャッ!
グゴア…
「てりゃあ」
ズガッ!
グゴアアア…
一気に3体の喉笛を掻き切り、騎兵達は素早く後退する。
そのまま前に出ていれば、魔法に巻き込まれたり魔物に攻撃されるからだ。
グガアアアア
ゴガアアアア
再び魔物が飛び出し、咆哮を上げながら迫って来る。
それを見ながら、魔術師達は魔法を放つ。
「マッド・グラップ」
グゴア?
1体が急に左足首を、土の塊に捕まれた。
巨体が急制動を掛けられて、膝の辺りで鈍い音がした。
ゴギン!
グゴアアア
グガガガ…
1体が左の膝から倒れ込み、そこにもう1体が引っ掛かって転げる。
「ソーン・バインド」
再び蔦が伸びて来て、2体の魔物を拘束した。
最期の体も飛び出すが、さすがに転倒した仲間には気が付いた。
オーガは慌てて左側に避けようとするが、そこで再び魔法が放たれた。
「マッド・グラップ」
グゴガアア
ドスン!
最後のオーガも、足首を掴まれて転倒した。
「上手いなあ」
「ええ
前々から考えていたんですよ
ソーン・バインド」
残りの3体も蔦に絡み付かれて、身動きが取れなくなる。
そうして倒れているところを、騎士達が鎌で刈り取って行く。
始まって10分ほどで、オーガは全て倒された。
しかし問題は、その奥に居るワイルド・ベアであった。
オーガが騒いだので、ワイルド・ベアもこちらに気付いていた。
ガルルル
ゴガアアア
突然咆哮が響いて、アーネスト遺骸の魔術師達は震え上がった。
騎士の中の数名が恐慌を来たし、絶叫して武器を振り回す。
数名掛かりで押さえている間も、咆哮で震える者や、怯えて馬に張り付く者も居た。
「これが魔獣の咆哮…」
「思ったより酷いな…」
アーネストは溜息を吐くと、呪文を唱えながら枝を出した。
それは金木犀の枝で、辺りに柔らかな芳香が漂う。
「風よ
穏やかなる風の精霊よ
我が呼び掛けに応えて、清浄なる風を招き給え
ピュア・ウインドウ」
穏やかな風が吹いて、辺りに金木犀の香りが漂う。
風は騎士達の間を吹き抜けて、挫け掛けていた心に活力を与えた。
身体がポカポカと暖まると同時に、震えていた心が落ち着きを取り戻す。
「これは?」
「簡単な風の呪いと、心を落ち着ける香の複合魔術です
旅の呪い師に教わりました」
香は効果を見せて、ほとんどの者が立ち直った。
しかし一人は重症の状態で、顔を青くして震えていた。
「こいつはすぐには立ち直れそうに無いな」
さすがに放って置けないので、彼は後方に下げさせた。
その隙に部隊を立て直し、魔獣の接近に備える。
魔獣は咆哮を上げながら、森の奥から駆けて来る。
しかし呪いが効いたのか、騎士達はもう震えていなかった。
「来るぞ!」
「そこから2体出て来る
事前に話した通り、立ち止まらずに回避しろ」
「はい」
ゴガアアアア
グガルルル
2体は爪を振り上げながら、森の灌木の陰から飛び出す。
巨体を浮かせながら、森の外へ飛び出して来た。
「デ、デカい…」
「こんなのに…勝てるのか?」
間近で見た騎士は、その魔獣の威容に飲まれていた。
中には折角恐慌から立ち直れたのに、再び恐怖に捕らわれる者もいた。
「怯むな!
所詮は大きな熊だ
騎士がこれぐらいの事で恐れるな!」
「は、はい!」
隊長の怒号が響き渡り、飲まれていた騎士達を正気に戻す。
ゴガアアア
「くっ!
させるかああ」
シュザッ!
騎士は攻撃を避けながら、必死に反撃を試みる。
しかし毛皮が頑丈で、思う様な傷を負わせられない。
騎士は痺れる腕で、魔獣の隙を窺っていた。
単に薙ぎ払うのでは無く、渾身の一撃を加える為に。
「これが魔獣…」
「ええ
身体が大きくなっただけではありません
筋力も増えてますし、何よりも身体も頑丈です」
「ああ
さっきの一撃を受けても、傷一つ見えないからな」
騎士が鎌で切り付けても、毛皮には小さな切り傷しか出来ていなかった。
魔鉱石で作られたクリサリスの鎌だ。
頑丈さもさる事ながら、切れ味も増している筈だ。
それなのに、小さな傷しか負わせなかったのだ。
「すりゃあああ」
シュバッ!
グガアアア
騎士が今度は、渾身の一撃を決めた。
しかし傷は浅く、腕に傷を付けるのがやっとだった。
「ぐうっ
か、固い」
騎士は後ろに下がり、痺れた腕を摩る。
ただ強力な一撃を加えても、魔獣の表皮を切り裂くのは困難だった。
「みなさん
これから魔法で拘束します
その隙に身体強化で、強力な一撃を加えてください」
「強力なって…」
「あんなに固いのに?」
騎士達は困惑するが、アーネストは魔術師達に指示を出した。
「拘束の魔法の用意を」
「はい」
「騎士団はクリサリスの鎌で、魔獣を総攻撃だ」
「しかし…」
「そのままでは駄目だ
単に切り付けるんじゃあ無い
鎌の特性を使うんだ」
隊長は指示を出し、自らも鎌を持って前進した。
「…拘束する力を
ソーン・バインド」」
「我等に大地の加護を
マッド・グラップ」
土塊が足を押さえて、蔦が立ち上がらない様に腕を縛り付ける。
2体の魔獣は、拘束を振り解こうと激しく藻掻いた。
グガアアアア
ゴガアアアア
「今だ!
喰らえええええ」
ズバッ!
隊長は鎌を斜めに構えて、刃を引っ掛ける様に振り抜く。
力を込めて振り抜くので、魔獣の腕を大きく切り裂いた。
「た、隊長…」
「さすがです」
「お前等!
ぼうっとしてないで続け!」
「はい」
「てりゃああああ」
「うわああああ」
シュバッ!
ズサッ!
グゴガアアア
騎士達は隊長の真似をして、鎌を力強く振り抜く。
魔獣の腕や脚に、次々と傷が刻まれて行く。
魔物に対しては、こんな大振りは出来はしないだろう。
身動きが取れない四足の魔獣だからこそ、この一撃は効果的に加えられた。
「止めだああああ」
ズドム!
ゴガッ!
ブシュウウ…!
グガアア…
魔獣の脳天に、跳躍した騎士が止めの一撃を振り下ろす。
鈍い頭骨が砕ける音がして、魔獣の頭部から血が吹き上がった。
魔獣はピクピクと身体を振るわせて、そのまま絶命した。
「まだだ
もう1体居るぞ」
「はい」
騎士達は直ちに、もう一体の魔獣の方へ向かった。
残りの1体も鎌で切り裂くと、魔獣は激しく切り付けられて倒された。
「はあ、はあ…」
「倒せたぞ…」
騎士達は肩で息をして、魔獣の遺骸を見詰めていた。
強力な魔獣を倒した事で、騎士達は満足していた。
達成感を感じて、周囲の警戒を怠ってしまったのだ。
隊長も感無量で、魔獣の遺骸を見下ろしていた。
グガアアア
「しまった!
まだ2体が残っていた」
しかし隊長が気が付いた時には、既に魔獣は近くまで迫っていた。
足音が地響きの様に迫り、木々が薙ぎ倒される音が聞こえた。
「構えろ
構えるんだ!」
「大気を切り裂く雷よ
汝が力を持って、悪しき存在を打ち倒し給え
サンダーボルト」
ドゴーン!
魔獣が飛び出すと同時に、激しい閃光と爆音が炸裂した。
光は激しく迸り、2体の魔獣の胸を貫いた。
ブシュウウ!
ジュワアア!
魔物は断末魔の声も上げれず、その場に崩れ落ちた。
その胸には黒い焦げ痕が残り、背中まで黒く焼け焦げていた。
「な…」
「これは…」
ドサッ!
倒れた音に気が付き、隊長が慌てて馬を下りた。
「アーネスト殿
アーネスト殿!」
「大丈夫
急な魔力切れで、意識が閉ざされかけただけです」
アーネストはふらふらと起き上がると、腰からポーションを取り出した。
そしてポーションを飲み干すと、ホッと一息着いた。
「あれは…
今のは何なんですか?」
「雷の魔法です
彼等の使っていた魔法の、上位に当たる魔法です」
「雷の魔法?」
隊長は振り返って、魔獣の死骸を見詰める。
魔獣はピクリとも動かず、一撃で絶命した事が分かった。
「こんな強力な物が…
魔法で?」
「強力過ぎますからね
この魔法は内密にお願いします」
「あ、ああ…」
隊長は呆然としながら、魔獣の死骸を見詰めていた。
「そんな強力な魔法があるのなら、何で使わなかったんですか?」
「それはですね、強過ぎるんですよ」
アーネストは溜息を吐きながら、ポツポツと語った。
「強力な魔法故に、消費する魔力は膨大です
だからこんな様ですよ
はははは…」
「確かに強力ですよね」
「私達では使いこなせるか…」
「それに…
威力が大き過ぎましてね
魔法は魔石に引き寄せられます
見てください」
「え?」
「もしかして…」
騎士達は魔物の胸を切り裂くと、その心臓を探り当てた。
しかしそこにある筈の魔石は、黒く焦げた炭の欠片になっていた。
「これがもう一つの理由です
貴重な魔石がパアですよ」
「これほどとは…」
隊長は魔石の残骸を見て、改めて魔法の恐ろしさを思い知った。
確かにこんなに強力なら、迂闊に人の目には触れさせられなかった。
「魔術師達が共同で放った
そういう事にするか」
「ええ
それでお願いします
君達もそれで良いな?」
「は、はい」
魔術師達は魔法の威力に飲まれて、慌てて首を縦に振った。
「しかし…
何でこんな魔法を?」
「騎士団のみなさんで、魔獣を倒せれば良かったんですがね
さすがに消耗が激しかったですから」
「う、ううむ…」
「確実に倒さなければ、被害が出ていたでしょう?」
「それはそうだが、アーネスト殿も危険では?」
「ですが、ギルに約束しましたからね
みなさんを守ると…」
「アーネスト殿…」
「さあ
遺骸を回収して、王都に帰還しましょう
急がないと夕暮れが近づいていますよ」
「あ、うむ」
隊長は馬車を呼んで、直ちに以外の回収を命じた。
今回はオーガ6体にワイルド・ベアが4体も討伐出来た。
連れて来た馬車は満載になり、魔術師達が座る場所も無くなりそうだった。
「しかし雷を打ち出すとは…」
「そうですね
身体強化も掛けておかないと、弾みで吹っ飛ばされてしまいますよ
はははは」
「笑い事ではありませんよ
そもそも使った事も無い様な魔法を、ぶっつけ本番で使うなんて…」
「でも、結果として上手く倒せたでしょう?」
「いや、倒せてなかったらどうする気だったんです!」
雷の魔法は、魔石に向かって突き進む。
その特性を知っていたので、アーネストは必ず当たると思っていた。
問題は外れる事では無く、倒しきれなかった場合だろう。
騎士達は消耗していたので、場合によっては反撃で壊滅していたかも知れないのだ。
尤も、それでもアーネストは勝つために魔法を使っていただろう。
例え魔力切れになろうとも、ポーションを飲みながら、魔法を連発していたに違いない。
「こんな無茶は、もうしないでください」
「はははは
そう願いたいね」
アーネストは笑っていたが、隊長は真剣な顔をしていた。
「殿下に報告しますよ
無茶をしていたと…」
「あ!
それはいかんぞ
君達が無茶した事も伝わるんだから」
「それでもです
あなたを失う事の方が、王国には大きな打撃なんですから」
隊長な真剣な顔を見て、アーネストは肩を竦める。
「分かったよ
今後は自重する」
「お願いしますよ」
隊長は馬に乗りながら、アーネストの顔を見詰めていた。
急いで帰還しなければ、辺りには夕闇が迫っていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
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