表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
328/800

第328話

東の帝国跡に現れた魔王は、兵士の補充の為に、王国の町を襲った

それは偶然通り掛かった、アーネスト達によって発見された

国王は対抗策を求めるものの、具体的な策は見付からなかった

そもそも死霊という物が、日常的に見られる物では無かったからだ

魔王の兵士に対抗するには、死霊についてもっと知らなければならなかった

死霊魔術は禁術な為に、魔導王国が滅びた際に失われていた

帝国では禁術に指定されて、書物も焼き払われていたのだ

しかしギルバートは、アルベルトの書斎で禁術の記された書物を発見していた

それはエルリックが回収していたが、アーネストは大いに興味を示していた

ギルバートは、友が禁忌の魔法に興味を示す事を、危ういと感じていた


「その…

 エルリックが持っているのなら、奴に頼めんのか?」

「国王様…」

「陛下

 それは危険ですぞ」


「しかし、その死霊とやらを見なければ、どいう対策が有効か…」

「国王様

 それで呼び出された死霊が、魔王が呼び出す死霊と同じとは限りませんよ」

「それは…確かにそうじゃな」


国王もギルバートの言葉に、納得して頷いた。

確かに同じか分からないし、禁術である以上、やはり危険である。

それならば使わない方が良いだろう。


「そうじゃな

 この話は忘れよう」

「ええ」

「そんな…」

「アーネスト!」


ギルバートはしつこく求めるアーネストに、肩を掴んで叱った。


「禁忌の魔法というぐらいだ、どんな結果になるか分からないんだぞ」

「しかし…

 使ってみないと分からないだろう?」

「駄目だ!

 先人が封じたぐらいだ

 そんな危険な魔法は、封印されたままが一番だ」

「そんな…」


「お前は、私が魔物と戦うのが危険だと言ったな」

「それとこれとは…」

「そういう問題じゃない

 お前は自分から、危険な魔法に近付こうとしている」

「危険かどうかは…」

「危険だ!

 少なくとも、私が一人で巨人に立ち向かうぐらいな!」

「うおっほん」

「あ!

 いや、そんな事はしませんよ

 今のは例えで…」

「分かっておるなら良い」


「兎に角

 お前は危険な魔法の魅力に取り憑かれかけている

 禁術の事は忘れろ!」

「ぐう…」


ギルバートはもう一度、今度は胸倉を掴んでアーネストを睨み付けた。

アーネストは視線を逸らそうとしたが、ギルバートの腕力には敵わなかった。


「良いな!」

「わ、分かったよ…

 もう言わないよ」

「うん

 なら良し」


ギルバートは胸倉から手を放すと、優しく肩を叩いた。


「お前が間違った道を進んだら…

 私は…

 そうなりたくないからな」

「ギル…」


ギルバートの哀しそうな顔を見て、アーネストは改めて反省した。

確かに禁忌という言葉には魅力を感じる。

誰も知らない強力な魔法を、自分で試してみたい。

しかしその事で、友や周りの人達を悲しませる事になるのなら…。

それはやはり、間違った事なのだろう。


「ん、ん…

 もう良いか?」

「あ…」

「はい

 ボクが間違っていました」

「うむ」


国王はサルザートから、書類の写しを受け取った。

それを机の上に置きながら、もう一度確認する。


「改めて

 今出来る事はこれだけじゃ

 問題は無いな」


そこには先ほど話していた事が書かれている。


「先ずは襲われた町の事は伏せて、公道も南は制限する

 それによって国民の動揺を押さえ、巨人の対策に集中する」

「そうですね

 そこはゆずれませんな」

「口惜しいですが、仕方が無いです」


「次に魔術師に通達して、死霊の襲撃に備える

 これは王都以外の、周辺の小さな町だけで良いか?」

「そうですね

 いくら魔王でも、大きな町は狙わないでしょう

 何をしているかバレますからね」


「それと同時に、対抗策として銀製の武器を用意させる

 これは教会の協力も必要じゃな」

「はい

 資料が正しければ、死霊に対抗するには必要かと」

「後は効果があるかじゃのう」

「そればっかりは、試してみるしかありませんね」


これに関しては、実は銀製の武器で無くとも良かった。

必要なのは神聖魔力を宿す事で、東の勇者はそれで戦っていた。

しかし情報が無かったので、より効果があると言われる銀製の武器が選ばれていた。

帝国との蟠りが無ければ、この時点で状況も変わっていただろう。

何せ魔王は、手傷を負って潜伏していたからだ。


「他には何かあるか?」

「そうですね

 神聖魔法に関して、知る者が居ないか調査が必要でしょう

 例えばそれなりに年を召された、教会の関係者とか…」

「うむ

 それも調べてみよう」


国王も承認して、サルザートが書類に書き加える。

それを手にして、サルザートは文官に手渡す。

先程の指示と被るところもあるが、これを正式な指示として改めて出す為だ。


「これを国王様の命令として行え」

「はい」


文官は書類を受け取ると、執務室を出て行った。


「エルリックが現れましたら、知らせてください」

「ん?

 奴が現れるとしたら、お前達の元では無いのか?」

「恐らくそうでしょうが、念の為です」

「うむ

 すぐに報せよう」


エルリックには、聞きたい事がいくつかある。

死霊魔術に関しては、危険なので情報だけでも聞きたいところだ。

そして神聖魔法に関しては、出来れば関連する書物も欲しいところだ。

アーネストが使えるとは思えないが、誰か使える者が居れば、大いに力になるだろう。

それも考えて、エルリックには確認をしたかった。


後は魔王に関してだが、こちらはあまり当てに出来そうに無い。

そもそもがエルリックは、フェイト・スピナーという人間を見張る使徒に当たる。

魔王は別の使徒になり、あんまり交流が無さそうだからだ。

現に魔王が暗躍しているのを、エルリックは気付いていなかった。


「これで話し合いは終わりじゃが…」


時刻は話し合いをしている内に、すっかり夜になっていた。

日もとっぷりと暮れて、夕食を取るには良い時間だった。


「どうじゃ?

 久しぶりに夕食を…」

「すいません

 城門で兵士達を放ったらかしにしています

 一度確認をしてきませんと」

「そうか…」


国王はガックリと肩を落として、代わりにアーネストの方を見た。


「そうですね

 私は手が空いております

 陛下のおすすめの一杯を頂けるのなら」

「はははは

 ちゃっかりしておるのう」

「アーネスト」


ギルバートはアーネストが、図々しく要求していると思って注意した。

しかし、国王もアーネストの驚いた顔をしていた。


「はあ…

 これは社交辞令だぞ」

「そうじゃぞ

 お前も少しは覚えなければならんな」

「え?」

「殿下

 国王様もお待ちになるでしょう

 時間がございましたら、一度食堂に顔を出してください」


サルザートも困った様な顔をして、ギルバートに食堂に来る様に言った。

これは一緒に食事を取るだけでは無く、社交辞令を覚えろという事だった。

アーネストは慣れているので、同席させようと言うのだ。


「分かりました

 早急に片付けて、同席させていただきます」

「うむ

 待っておるぞ」


国王はニコリと笑って、アーネストと食堂に向かった。

ギルバートは面倒な事になったと、肩を竦めてから城門へ向かった。

討伐の確認が終わっていれば良いなと思いながら。


ギルバートが城門に着くと、既に天幕には誰も居なかった。

門番の兵士に聞くと、既に片付けも終わった後だった。


「今日はコボルトやゴブリンだけでしたからね」

「後はワイルド・ボアと珍しい牛の魔物も居ましたね」

「牛の魔物?」

「ええ

 そいつはあまり暴れないので、縄で縛って連れ帰っていましたよ」


牛の魔物は気になったが、報告の確認が先だった。

ギルバートは天幕に入ると、さっそく明かりの魔道具を使う。

それはコボルトの魔石を使った、ランタンの様な魔道具だった。

魔石に魔力を流すと、魔石が輝いて周囲を明るくする。


構造は簡単なので、安価に手に入る魔道具だった。

しかし金貨1枚なので、一般の住民達では買えない代物だ。

それを明かりにして、ギルバートは地図と書類を確認する。

暫く書類を確認していると、今日の担当の兵士が戻って来た。

彼はギルバートに報告していなかったので、姿を探してここまで来たのだ。


「殿下」

「おお

 すまなかったな」

「いえ

 殿下こそ被害を確認に行かれて、大変だったでしょう」

「ああ

 大変だったな…」


ギルバートは滅びた町を思い出し、溜息を吐いていた。


「全滅ですって?」

「ああ

 女性や子供だけでなく、兵士もみんなやられていた」

「そんな…」


被害を聞いて、兵士は愕然としていた。

まさか兵士までも、みんなやられているとは思わなかったのだ。


「何が起こったんです?」

「まだ調査中だ」

「疫病か何かですか?」

「いや、そうでは無い

 そうでは無いが…」


ギルバートは決められた事を思い出して、情報の全ては話さなかった。


「この事に関しては、現在も調査中だ

 そして理由が分からない以上、伏せておく事にする」

「え?」

「公道は魔物が出るから封鎖する

 そして町には、危険だから近付かない様に」

「何でですか?

 事実を隠すおつもりですか?」


「別に隠すわけじゃあ無い

 巨人の脅威が迫っている今、無用に国民に心配を掛けたくない」

「あ…」

「そういう訳でな、町の事は秘密になる

 国王様からも箝口令が敷かれる

 誰にも話していないな」

「え?

 はい」


兵士は慌てて、誰に何を話したかを答えた。


「部隊長には殿下が、町に異変があって向かったと伝えています」

「具体的には?」

「分からないと答えています」

「なら大丈夫か…」


「念の為に、部隊長にも伝えておいてくれ

 詳細が分からないので、混乱を避ける為に箝口令が敷かれると」

「分かりました

 伝えておきます」

「頼んだぞ」


町の事はこれで良いとして、問題は他にもあった。


「牛の魔物が現れたって?」

「え?

 はい」

「どんな魔物だ?」


「そうですね…

 大きな牛?」

「はあ?」

「牛もまあまあ大きいんですが、そいつは熊ぐらいの大きさの牛です」

「危なく無いのか?」

「今のところは…」


兵士は牛の魔物を、そのまま柵のある牧草の生えた場所に移したそうだ。

詳細が分からない為に、当面は様子見になるらしい。


「肉も期待出来そうですが、何よりも乳が採れそうです

 ほとんどが雌なので、飼育出来るか期待されています」

「何頭居たんだ?」

「雄が1頭と雌が5頭です」

「全部で6頭か…」


今すぐにでも見に行きたかったが、先に国王との約束がある。

ギルバートは書類に目を通し終わると、他にも問題は無いか確認した。


「他には?

 何も無かったのか?」

「そうですね

 相変わらず狂暴化した魔物がいますが、何とか討伐出来ています」

「怪我人は?」

「ゴブリンやコボルトですからね

 さすがに軽傷しか負ってませんよ」

「そうか

 それなら良かった」


「魔石は取れているのか?」

「そうですね

 全体に狂暴化していますので、ぼちぼちと…

 ですが質が悪いので、あまり良い品には加工出来ないと…」

「そうだな

 それでも手に入る量が増えるんだ

 君達の小遣いぐらにはなるだろう?」

「え?

 はははは

 そうですね」


ギルバートは国王の許可を得て、ゴブリンやコボルトの魔石は、兵士の報酬に当てていた。

これによって臨時収入が入ると、兵士の士気も上がっていた。

1個当たり銅貨5枚から銀貨1枚程度だが、十分な小遣いになるだろう。

兵士は喜んで、酒代や装備の為に魔物を狩っていた。


「さて

 私はこれから、国王様と会わないといけない」

「分かりました

 明日も8時の集合で良かったですか?」

「ああ

 それで問題は無いよ」

「それではおやすみなさい」


兵士は敬礼をすると、天幕から去って行った。

ギルバートは書類を纏めると、ランタンの魔石に手を振れた。

こうしてもう一度魔力を流すと、魔石の放つ光が消えて行く。

すっかり暗くなった事を確認して、ギルバートはランタンを机に戻した。


「さあ

 王城に戻るか」


ギルバートが天幕を出ると、いつの間にか護衛の騎士が来ていた。


「あ…」

「殿下

 せめて一言、声を掛けてください」

「すまない」


騎士はギルバートが、王城を出たところで帰還している事を聞いた。

それから護衛をする為に、王城の中を走り回って探したのだ。

やっと城門の番兵に聞いて、街中に出たと聞いたのは、つい先ほどだった。

それから走って、ここまで来ていたのだ。


「それでは王城に?」

「ああ

 国王様と約束があるからな」

「畏まりました」


騎士はギルバート後ろを、黙って付き従う。

走って来たのだが、肩で息をする様な醜態は晒さない。

身体強化を使って、そんな事にはならない様に注意しているのだ。

そして、本来なら数人で警護するのだが、一人でも十分に守れる技量も持っていた。


彼は親衛隊では無いのだが、ギルバートが率いるオーガ討伐に参加していた。

そこで心酔して、機会があれば護衛を買って出ていたのだ。


「カルダモン

 他の護衛はどうした?」

「はい

 今日は私が護衛でしたので、他の者は別件の仕事をしています」

「という事は、またお前は…」

「いえ

 今回は私が文句を言ったわけでは!

 むしろ王都から出ないのなら、問題は無いだろうと」

「その割には、私が外に出る時に居なかったな」

「え?

 代わりの騎士が居ませんでしたか?」

「誰も居なかったぞ?」


用事があって外れる場合は、必ず交代の騎士が来る。

しかしギルバートが町を出た時には、天幕の周りには誰も居なかった。

だからギルバートは、そのまま南の城門に向かったのだ。

それを聞いて、カルダモンはギリギリと歯軋りをしていた。


「おのれ、あいつ等…

 殿下の護衛をサボって…」

「ほどほどにな

 私も気軽に動けて楽だったからな」

「気軽にって…

 気軽にお一人で、王都から出ないでください」

「はははは

 代わりに騎士が一人、同行していたからな」

「聞きましたよ

 アランの奴め、羨ましい…」

「ん?」

「な、何でもございません」


ギルバートが何か言ったかと振り向いたので、カルダモンは慌てて首を振った。

小声でぼやいたので、聞こえるとは思っていなかったのだ。


「何か言って…」

「はははは

 何でもございませんんぞ…」

「そうか?」

「ふう…」


ギルバートは気になったものの、時間の無駄と判断した。

国王が待っているので、食堂に急がないといけない。

ギルバートはカルダモンを後に従えて、食堂に向かった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ