第321話
翌日になって、王都の北の城門には魔術師達が集まっていた
その中にはアーネストの姿もあって、魔術師達の纏め役になっていた
彼以外には6名の魔術師が居て、いずれもベテランの魔術師という触れ込みだった
雷の魔法は使った事は無いが、コボルトやオーガの討伐に参加している
彼等は拘束の魔法で、魔物の動きを止める事が出来るのだ
魔術師達は不安げな顔をして、停めてある馬車に乗り込んだ
彼等は身体強化でも使わなければ、馬にも乗れないのだ
魔術師が逃げるには、馬車で逃げるしか無いのだ
しかし戦場では、すぐには馬車まで逃げれないだろう
同行する騎士に守ってもらうしか無いのだ
「今日は初日だから、騎士団に同行してオーガを狩ってもらう
大型の魔物の討伐をする予行演習にもなる
頑張って討伐してくれ」
「はい…」
魔術師達は気の乗らない返事をしていた。
討伐に参加はするが、あまり気乗りはしていなかったのだ。
「明日は分からないが、同じメンバーは次は兵士達に着いてもらう」
「え?
それは危険では?」
「大丈夫だ
その時には騎士も何人か同行させる
彼等が護衛してくれる」
「それは助かりますが…
大丈夫なんですか?」
「そうだな…
でも、アーネストも居るんだろ?」
「それはそうなんですが
アーネストさんも魔術師なんですよ
大丈夫でしょうか?」
「何とかなるだろ?」
騎士団も集まって、討伐に向かう準備が出来た。
ギルバートは地図を見ながら、昨日の発見場所を調べる。
そこから王都までの行程を見て、大体の場所を想定する。
「騎士団は魔術師達と一緒に、北東の林に向かってくれ
昨日兵士がオーガに追い掛けられていた
この周辺に居る筈だ」
「はい」
「私も同行するから、安心して戦ってくれ」
「アーネストさんが居れば安心ですね」
「そうですね
魔法での援護をお願いします」
騎士団達は北に向けて、公道を駆けて行く。
魔術師と兵士が乗った馬車が、その後を追い掛けて行く。
次にギルドマスターは、兵士達の方に向かった。
「今日は騎兵に来てもらっているのか
それなら北西にコボルトの群れが居る
こっちを頼むぞ」
「はい」
騎兵達が公道に出て行く間に、冒険者達も集まって来る。
こちらは自分達で集まっているので、討伐の依頼の場所に向かう事になる。
彼等はギルバートに、ゴブリンとコボルトの群れの場所を聞く。
ギルバートは北西に騎兵が向かったので、それ以外の場所を教えた。
「こことここだな
それからここにもゴブリンが目撃されている」
「そこでしたら、西の城門の方が近いですね」
冒険者達は、東の城門に向かって移動した。
ギルバートは地図を睨みながら、騎士や兵士が帰還するのを待つ事になる。
その間に、隊商からの魔物の発見報告も届く。
その報告を聞きながら、ギルバートは地図に印を付けて行く。
「ここは動いていないな」
「しかしオーガですから
騎士団が戻って来たら、こちらに向かっていただきますね」
「そうだな
問題は…」
2ヶ所に居たゴブリンが1ヶ所に集まっていた。
これによって、ゴブリンの数は50体近くに増えていた。
そして王都に向かって来ているあたりは、狂暴化している可能性があった。
「ゴブリンが狂暴化している可能性がある
騎兵だけでは厳しいだろうな」
「しかし、今日動かせる兵士は居ませんよ?
歩兵では却って足手纏いでしょう?」
「そうだな…」
ゴブリンは南の平原に現れていた。
隊商の報告から、王都まではまだ1日は掛かるだろう。
「もう1日は余裕がある
明日に向かってもらおう」
ギルバートが北の城門で悩んでいる間に、騎士達は順調に進んでいた。
しかし思ったよりも近くにオーガは迫っていた。
ズシーン!
ズシーン!
地面が揺れる音が響く。
「オーガが近いぞ」
「騎士は散開して戦闘に備えろ
魔術師は馬車から降りて魔法の準備を」
「はい」
「心得ました」
騎士は散開して、魔物が向かって来る事に備える。
そして魔術師達は馬車から降りて、呪文を唱え始めた。
アーネストも馬車から降りると、呪文を唱え始める。
魔物がこのまま突っ込んで来たら、さすがに危険だからだ。
「魔物の姿が見えたぞ
アーネスト殿」
「任せろ
ソーン・バインド」
2体迫って来るオーガの内、左のオーガが蔦に絡み付かれる。
オーガは暴れたが、蔦は強力に巻き付いて動きを止めた。
「くっ
左は任せるぞ」
「はい」
アーネストは魔法の維持に集中した。
その間に騎士達は、右のオーガの周りに集まった。
騎士達はオーガの周りを回って、攻撃を避け続ける。
「今の内にまほうを!」
「雷よ!魔物を討ち払い給え
サンダーレイン」
バシュッ!
ズドーン!
グガアアア
上空に集まった雲から、雷が落とされる。
雷はオーガの頭に落ちて、そのまま身体を突き抜ける。
魔物は白目を剥いて、地面に倒れた。
口からは黒い煙が出ていて、雷の凄まじさを示していた。
「もう一撃じゃ!」
魔術師の掛け声に、雷がもう一度落ちる。
蔦に絡まれたオーガの、頭に向けて稲妻が閃く。
ズドーン!
ゴアアアア
こちらも口から煙を吐くが、なんとか踏み止まっていた。
グ…ガ…
「今の…内に…」
「はい」
騎士達はオーガに向かうと、腕や脚に切り付けた。
そうしてオーガが倒れたところで、首筋に止めの一撃が入った。
「やった
倒せたぞ」
「はあ、はあ
倒せたな」
「さすがはアーネストさんです
私達の手でオーガを倒す事が出来ました」
アーネストの指示のおかげで魔物が倒せたと、魔術師達は喜んでいた。
しかしアーネストは、魔法の維持で魔力を多量に使っていた。
さすがに魔力切れは無かったが、集中力が切れてフラフラしていた。
「何とかなりましたね」
「ええ
見事な判断でした」
「それに拘束の魔法も」
「おかげで安心して戦えました」
アーネストは魔術師達に支えられながら、馬車に戻った。
そして兵士達は、オーガの遺骸を馬車に積み込んだ。
みなが準備が出来たところで、一行は王都へ向かって出発した。
王都に帰還したところで、アーネストは起こされた。
馬車の中で少しでも寝たので、幾分か気分は楽になっていた。
「アーネスト
お疲れ様」
「ああ
さすがに疲れたよ」
「ん?」
ギルバートはアーネストの様子を見て、魔術師達に尋ねてみた。
「どうしたんだ?」
「それが…」
「オーガは2体でして、その内の1体に拘束の魔法を掛けたんです
しかし拘束に魔力を使われて…」
「魔物が狂暴になっていましたから」
魔物が狂暴になった分、拘束に使われる魔力も多くなったのだ。
魔力を多く使った分、アーネストは消耗していた。
「なるほど
狂暴な魔物には、それだけ拘束に魔力が必要なのか」
「ええ」
アーネストの消耗を見て、ギルバートは悩んでいた。
このまま次の討伐に同行しては、回復出来ないかも知れない。
「アーネスト」
「休めとか言うなよ
ポーションがあれば回復出来る」
「しかし…」
「良いから、お前は安心して命令しろ
ボクが魔物を討伐してやるから」
「…」
ギルバートは溜息を吐きながら、アーネストに地図を見せた。
「ここにオーガが3体居る
しかし狂暴化はしていないから」
「だがオーガなんだろ
行くよ」
「しかし…」
「安心しろ
明日には問題無い様にするから」
「分かった」
アーネストは騎士達に行き先を告げて、自分も馬車に乗り込んだ。
「アーネストさん
大丈夫なんですか?」
「ああ
平気だから気にするな」
「何でしたら私達だけで…」
「さっきみたいに狂暴化していたらどうする?」
「それは…」
「良いから行くぞ」
騎士達は再び、魔物を討伐に向かった。
ギルバートは友が無茶をしないか、心配しながら見送った。
そのころ騎兵達は、コボルトの群れの近くに来ていた。
騎兵達は、魔物が何処に潜んで居るのか、周囲を探索していた。
「ここは見通しが悪い
周囲には低いとはいえ、灌木が生い茂っているからな」
「斥候が魔物を見付けるまで、周囲を警戒しつつ進むぞ」
騎兵達は北西の平原に向かい、周囲の灌木を調べながら進んだ。
3つ目の灌木に斥候が近づき、急いで戻って来た。
「向こうの灌木の先に、魔物が集まっています」
「数は?
どれぐらい集まっている?」
「大体ですが32体を確認しました」
「報告より少し増えているな」
報告よりは増えているが、それでも騎兵達が頑張れば何とか倒せそうだった。
問題は最近、魔物が狂暴化している事だ。
「大丈夫ですか?」
「何とかするしか無いだろ
このままでは、明日にでも王都に来るかもしれん」
騎兵達は一度集まると、奇襲に備えて準備をした。
「一気に攻め込んで倒すぞ」
「作戦は?」
「そんな物は無い
一気に突っ込んで、そのまま抜けるだけだ」
「大丈夫かな…」
しかし隠れる様な場所も無い為に、奇襲で突進するしか無かった。
騎兵達は灌木に近付くと、長柄の武器を構えた。
ポールアックスや槍が主だが、中には両刃のポールアックスを持つ者も居た。
少し重たいが、その分振り回しの威力が大きかった。
「行くぞ」
「おう」
騎兵達は一斉に駆け出して、灌木を左右から回り込む。
そして魔物が気付いて身構える前に、魔物のすぐ前に迫った。
ガルルル
「食らえ!」
ブンブン!
ザシュ!
ズバッ!
ギャワン
キャイン
両刃のポールアックスが、一度に2体の魔物を切り裂く。
その間にも、他の者も槍で突いたりポールアックスで切り裂く。
一度の奇襲で、一気に26体の魔物が殺されていた。
「一気に切り崩せ!」
「おう」
予定を変更して、その場で残りの魔物に向かって行った。
魔物は反撃をしてきたが、ほとんどが長柄の武器の前に阻まれた。
騎兵達は押し返して、残りの魔物も倒した。
「話の通りに、魔物が逃げないな」
「ええ
そのまま反撃して来ましたね」
「おかげで殲滅できましたね」
魔物の遺骸は手足を切って、首を刎ねられた。
このままにしておくと、死霊に成り兼ねないからだ。
そうして処理をした後、魔石があるかも確認された。
「あれ?
こっちも魔石がありますよ」
「こっちもだ」
魔物の遺骸を調べてみると、全ての魔物が魔石を持っていた。
「もしかしてですが…
狂暴化した魔物は、全部魔石を持っているんですかね?」
「そうだな
その可能性は高いな」
コボルトは、数体に1体ぐらいしか魔石を持っていなかった。
それがほとんど全てのコボルトが、魔石を持っていたのだ。
それを考えると、コボルトが魔石を持っているのは異常だった。
「これは報告する必要があるな」
騎兵達はそのまま、王都に向かって引着換えした。
帰りには魔物は居なかったので、昼過ぎには王都に戻れた。
「殿下
報告がございます」
「何だ?」
ギルバートは城門近くの天幕で、報告を待っていた。
さっそく騎兵達が討伐した箇所は、印が着けられていた。
「我々が向かったコボルトですが…」
騎兵達の報告を受けながら、ギルバートは書類に書き込んで行く。
しかし魔物が魔石を持っている事を聞いて、その手が止まった。
「ほとんどのコボルトが、魔石を持っていたのか?」
「はい」
「それは…
狂暴化の影響なのか?」
「恐らくそうだと思います
あそこに集まっていたコボルトは、狂暴化していましたので」
「そうか…」
ギルバートは地図を見ながら考えていた。
もしその話が本当なら、ゴブリンも魔石を持っている事になる。
そしてこの時間なら、まだ南の平原に向かう事が出来た。
「すまないが、これから南の平原に向かえるか?」
「南の平原ですか?
そこで何があるんですか?」
「ゴブリンが狂暴化しているんだが、50体ぐらい居るんだ」
「50体もですか?
それは少し厳しいですね」
「しかしここのゴブリンを倒せれば、魔石を持っているかも確認出来る
どうだろう?
頼めるか?」
「殿下の頼みとあれば、我々も頑張ってみます」
騎兵達は敬礼をして、南の城門へ向かった。
これから地図の場所に向かえば、何とか夕暮れまでには到着出来るだろう。
騎兵達は南の城門を出て、一気に南の平原に向かった。
城門を出てから、2時間ほどで平原が見えて来る。
そしてそこには、報告通りに魔物が集まっていた。
「魔物が居たぞ」
「このまま一気に殲滅しましょう」
「そうだな
しかし狂暴化しているから、くれぐれも気を付けろよ」
「はい」
「行くぞ」
「おう」
騎兵達は駆け出して、一気に魔物に迫った。
そして武器を振るうと、次々と魔物に切り付けた。
「うりゃああ」
ザシュ!
ギャヒー
「食らえや」
ズガッ!
グギャア
魔物は狂暴かしていたが、騎兵達は上手く馬を操り、魔物の攻撃を躱した。
そして長柄の武器のリーチを生かして、魔物を一方的に攻撃した。
最初に奇襲で数を減らせたので、騎兵達の方が有利だったのだ。
「最後の1体だ!」
ズガッ!
ギャピッ
「こっちも倒したぞ」
開始から20分ほどで、一気に魔物は倒された。
魔物に気付かれる前に突っ込んだので、そのまま一気に攻めれたのだ。
「はあ、はあ…」
「さすがに、疲れましたね」
「ああ」
騎兵達は馬を降りると、周囲を警戒しながら魔物の死体に近付く。
そして胸を切り裂くと、魔石があるか確認した。
「ありました」
「こっちもです」
「やはりそうか…
殿下に報告せねば」
騎兵達は魔石を回収すると、そのまま王都へと向かった。
急いで戻れば、城門が閉まるまでに帰還出来る。
その為に、騎兵達は公道を急いで駆け抜けた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
すいません。
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