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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
318/800

第318話

アーネストを呼びに行かせてから、既に1時間が経とうとしていた

その間に、ギルバートはエルリックに質問をしていた

何故、ダーナで分れた後に、すぐに王都に来なかったのか?

それに足してエルリックは、用事があって竜の背骨山脈から離れられなかったと言った

そこに何があるかまでは、彼は話さなかった

アーネストは離宮には居なかったらしく、兵士はあちこちを探して回った

そうしてアーネストを発見した頃には、既に1時間近くが経っていた

兵士は急ぐ様に促して、彼を国王の執務室に引っ張って来た

アーネストはギルドに用事があったのだが、国王の急務と言う事で仕方なく付き従った。


「遅かったな?」

「何処に行っていったんだ?」

「ギルドで魔導書の説明をしていたんだ

 しかし…」


アーネストは部屋の中に、エルリックが居るのを発見した。


「それで?

 こいつが原因ですか?」

「こいつとは失礼だな

 仮にも女神の使徒で…」

「そうは言っても、肝心な時に役に立っていないじゃないか」

「それは…」

「アルフリート王子の件もだが、ダーナの崩壊も知らなかっただろう」

「女神からの神託が無かったんだ

 そうで無ければ、私も行動していたさ」

「どうだか…」


エルリックは言い訳をしていたが、アーネストは胡乱気な目で見ていた。


「そもそも、何しに来たんだ?」

「女神からの神託が降された

 ロマノフ王朝の時と同じだ」

「はあ?

 巨人が来るのか?」

「ああ

 既に北のフィン聖教国の跡地を出ている

 このまま南下すれば、1月後ぐらいにはここに着くだろう」

「そんなに早くか?

 何で早く報せなかった?」

「私も忙しいのだよ」


エルリックは事の経緯を話す。

それは戴冠式の夜に見た、月の紅い輝きから語られ始めた。


「そもそもが、戴冠式の日に月が紅く輝いていただろう」

「そういえばそんな話があったな」

「あれが女神の神託の一つさ

 人間共に神罰を降す為に、魔物の活性を始めた合図だ」

「神罰?

 それに魔物の活性だと?」

「ああ

 あの紅い輝きを長時間見ると、魔物は狂暴化するのさ」

「それは知らなかった」

「ロマノフ王朝の時には、月が怪しく輝いたとしか書かれていないからな

 私も意味を知るまでに時間が掛かった」


「それで?

 魔物が狂暴化するから、巨人も南下しているのか?」

「さあ?

 そこまでは分からない」

「分からないって…」

「分からないんだが、分かる事もある

 巨人が実際に南下している事と、誰かがファクトリーを起動させやがった」

「ファクトリー?」


そこまで言ったところで、エルリックは慌てて口を押えた。


「おい?

 どういう事だ?」

「いや

 今のは関係無い

 気にするな」

「関係無くは無いだろう

 それに何を慌てているんだ」

「いや、別に…

 はははは…」


エルリックは誤魔化そうとしていたが、顔は引き攣っていた。


「何を隠しているんだ?」

「これは…

 今はまだ言えない

 それに確証も無いんだ」

「それなら、他に言える事は?」

「そうだな

 話せる事は全て話して欲しいな」


エルリックは困った顔をして、ぼそぼそと話し始めた。


「制約があるからな

 あまり細かくは話せないんだ

 却って混乱を招くかも?」

「良いから話せよ」

「うーん…」


「ファクトリーというのは、簡単に言えば魔物を産みだす場所だ」

「魔物を産みだす?」

「それはどんな魔物でも産みだせるのか?」

「ああ

 どんな魔物でもだ

 だが、コストが掛かる大型の魔物を産みだすには、相応の時間と材料が必要だ」

「材料って?」

「魔物の死体と多量の魔力だ

 それと時間さえ揃えば、どんな魔物でも産みだせるだろう」


「それって危険じゃあ無いか?」

「ああ

 危険んだ

 だから制限はあるし、今まで動かされていなかった

 それがどうやら動いているらしい」

「そうか…」

「いや

 そもそも、何でそれを知っている?」

「見て来たんだ

 この近くにあるファクトリーを…」


「それが動いているとして

 どういう問題が起きる?」

「先ずはオーガが増えている」

「ここ数日増えているのはそれが原因か」

「ああ

 そしてオーガを素材にして、巨人が産み出されていた」

「はあ?」

「巨人は北から来ているって…」

「ああ

 北から産み出されて、こっちに向かって来ているんだ」


エルリックの言葉に、一同は戦慄を覚えた。

産み出されているという事は、増え続けているのだ。

1体でも厄介そうな巨人が、今も産み出されているのだ。


「どうにか止めれないのか?」

「多分…

 一定数産み出したら止まると思う

 無尽蔵に産み出せるわけでは無いからな」

「それにしても、当分は増えるわけだよな?」

「多分」


「はあ…

 やっぱり役立たずじゃないか

 もっと役に立つ情報は無いのか?」

「それなら

 アーネスト

 君は魔導書を解析したのか?」

「ああ

 一通りは翻訳したけど?」

「それでは雷の魔法は使えるか?」


エルリックに聞かれて、アーネストは使えそうな魔法を思い出した。


「ライトニング・アローなら、ある程度の魔術師は使えるが?」

「それでは駄目だ

 もっと効果的なのは、サンダーレインやプラズマ・ボルトだ」

「それは効率が悪い

 使うとなれば、数人掛かりで1発しか撃てないぞ」

「それでも構わない

 巨人にはその魔法が有効なんだ」

「拘束の魔法では駄目なのか?」


ギルバートが質問したが、エルリックは首を振った。


「相手が大き過ぎる

 すぐに引き千切られたりして効果が無いよ」

「そんな…」


「雷の魔法なら、巨人を一時的に麻痺させれる

 そうすれば、攻撃の機会が増える筈だ」

「それこそ効かないんじゃ無いのか?

 炎や氷では駄目なのか?」

「巨人は頭のほとんどを、身体を動かす事に使っている

 だから頭に雷を落とせば、一時的に麻痺するんだ」

「え?

 だから頭が悪いのか?」

「そういう事だ」


予想外な巨人の弱点を聞いて、ギルバートは呆れていた。

大きくて力強いが、その身体を動かすのに頭のほとんどを使っている。

だから知能が低いとは、皮肉な事だろう。


「それじゃあ、雷の魔法が使えれば…」

「しかし、使える者はそんなに居ないんだ

 何よりも魔力が足りていない」

「そこは数人で詠唱する等工夫をするしか無い」


巨人に弱点があると知れたのは、大きな成果だった。

これで一方的にやられる事は無いだろう。


「しかし、本当に女神様は神託を降ろしたのか?」

「さあ

 じつのところ、私はまだ半信半疑だ

 他の使徒に連絡が取れないので、確認も出来ないしな」

「エルリックは直接受けていないのか?」

「私か?

 今回も何も聞かされていない

 ただ、調べてみてここが狙われていると知ったから、慌てて来たんだ」

「そうか…」


「イーセリアが心配だからな」

「ああ

 セリアなら裏の離宮に居るぞ」

「そうだな

 しかし会う事は出来ない」


エルリックは哀しそうに俯いた。


「なあ

 こっそり会うのは良いんじゃないか?

 女神様も約束を破ったんだろう?」

「そうなんだが…

 今私が使徒から外されたら、色々とマズいだろう?」


エルリックはそう言って、自分が情報を得られなくなる事を懸念した。

しかしアーネストは、そんな彼の事を笑い飛ばした。


「どうせ大した情報は得られ無いんだ

 あまり変わらんだろう?」

「そんな…

 結構失礼だぞ」

「いや

 私もそう思うぞ」

「ぐぬう…」


二人に遣り込められて、エルリックは悔しそうな顔をする。

そこへ今まで黙っていた、国王が質問をした。


「それで?

 ワシ等はどうすれば良いのじゃ?」

「そうですね

 巨人はアーネスト君が主体で戦うしか無いでしょう

 ギルバート君だけでは無理でしょう」

「ギルバートは出来れば出したく無いのじゃが…」

「そんな事を言っている場合ですか?

 この王国の危機なんですよ?」


「しかしじゃな、それは世界規模なんじゃろ?」

「それは…

 確かにどこまで魔物が増えるのかは…」

「月が影響を与えるのなら、他の国も狙われておるのじゃろう」

「恐らくは…」


「他の使徒が連絡を取れないのは、他の国を攻めているんじゃ無いのか?」

「在り得ると思う

 特に魔王は、どこかの国を滅ぼす様に指示を受けているでしょう」

「それならば」

「ええ

 周辺の国でも魔物は大量に発生しているでしょう

 しかし一番に危険なのは、巨人が向かっているこの国です」


ギルバートの質問に、エルリックは冷静に答えた。

しかし内容を考えれば、決して安心出来る物では無かった。


「巨人か…

 城門も役に立ちそうに無いな」

「しかし城門からなら、近付く巨人を狙い易い」

「それも北から真っ直ぐ来ればだがな」


ギルバート達が話し合いを始めたところで、エルリックは席を立った。


「行くのか?」

「ええ

 他にも回れそうな国があれば、警告を出そうと思います」

「それは女神様に逆らう事になるんじゃ無いのか?」


「そうですね

 今のところ影響は無いので、もしかしたらこれも想定内の事なのかも知れません」

「エルリックが警告して回る事も、その神託に含まれているのか?」

「かも知れませんね」


「アーネストに確認は?」

「女神の事ですか?

 今はそれどころではありませんよ」

「そうか…」

「ギル?」

「いや、今は良さそうだ」

「そうか」


エルリックは部屋をでようとして、一旦振り返った。


「そういえば…

 婚約したそうですね?」

「ん?

 あ…いや…」

「お主の妹のイーセリアとじゃ」


国王はニヤニヤと笑っていた。


「私はイーセリアには、ちょっかいを出すなと言いましたよね」

「あ、ああ…」

「既に一緒に朝を迎えていたらしいぞ」


アーネストが追撃を加えた。


「な…」

「おい!」

「き、貴様…」


エルリックは肩を震わせて、血の涙を流す。


「ま、まだ何もしていないぞ」

「何も?

 一緒に朝を迎えておきながら、何もしなかったと?」

「ああ」

「イーセリアはそんなに魅力が無いって事か!」


エルリックは何処から出したのか、剣を振り翳していた。

ギルバートはそれを両手で受け止めて、必死に堪える。


「ど、どっちなんだよ」

「無論手を出すなど論外だ!」

「それなら何もしてないんだから、文句は無いだろう」

「イーセリアに興味が無いのか!」

「いや

 出した方が良かったのか?」

「ダメだー!」

「おい!」


二人の様子を見て、国王と宰相はハラハラしながら見守っていた。

しかしアーネストは、腹を抱えて笑っていた。

エルリックが本気で怒っていても、あと一歩で押さえていると見抜いていたからだ。


「ギルは本気で好きだから、セリアがベッドに潜り込んでも、我慢して手を出さなかったんだ」

「それは本当か?」

「ああ

 何ならセリアに確認するか?」


エルリックは暫く肩で息をしていたが、やがて唐突に剣を仕舞った。

そしてギルバートを睨むと、一言だけ告げて消えた。


「その言葉を信じるからこそ、イーセリアを預けておく

 良いな!

 イーセリアを泣かせたり、手を出したりしたら容赦しないからな!」

「だからそんな事はしないって

 そもそも結婚したら…あ!」


ギルバートが答える前に、既にエルリックの姿は消えていた。


「ぷっ

 くくくく…」

「アーネスト

 何て事をするんじゃ

 ワシは肝が冷えたぞ」

「そうですぞ

 いくら彼が間が抜けていても、あれは怒りますぞ」

「いや

 あれは彼なりの気遣いでしょう

 ギルは理解していないみたいですけど」


ギルバートはエルリックが去った事で、安堵の溜息を吐いていた。


「へ?

 どういう…」

「分からなくて良いんだよ

 セリアを大事にしてれば、それで良いんだ」

「それは大事にするさ

 私の大切な…ん?」


みながギルバートを見ながら、ニヤニヤとしていた。

ギルバートは慌てて両手を振りながら、話題を変えようとした。


「そんな事より、巨人をどうするかだ

 今は時間が惜しいんだろう?」

「そうだな

 騎士団や親衛隊を使うにしても、少しでも有効な武器を作らないとな」

「それもだが、アーネストは魔術師ギルドにも行かないと

 雷の魔法を使える様にしないとな」

「ああ

 そっちも重要か」


エルリックの話では、巨人が来るまでにあと月ぐらいだと言っていた。

それまでに武器や魔法を使える者を揃えないといけない。

巨人がどれぐらい来るのか分からないが、悠長に構えている暇は無いのだ。


「私は城門に戻る

 まだまだ魔物の被害が心配だからな」

「そうだな

 そっちは任せる」


「ワシはサルザートと書類を作って、ギルドに指示を出しておく

 細かい擦り合わせはアーネストに任せるぞ」

「そうですね

 私が向かった方が良いでしょう」


各自でする事が決まって、それぞれ動き始めた。

アーネストは魔術師ギルドに向かい、ギルバートは北の城門に向かった。


ギルバートが戻ると、そこには騎士団と冒険者が戻っていた。

既に日は傾き始めていて、討伐に向かった者達も帰還を始めていた。


「殿下

 こちらは討伐終わりました」

「こっちも2体逃がしましたが、後は倒しました」


ギルバートは報告を聞きながら、死傷者の確認をした。


「こっちがオーガ3体とオーク5体か

 全滅で良いのか?」

「はい

 その場に居た魔物は全て倒しました

 先にオークは襲われていたので、ほとんどが死んでいましたが」

「なるほど…

 負傷者は?」

「軽傷が5名と重傷が1名です」

「死者は出なかったんだな」

「はい」


「こっちは…

 オークが9体にコボルト?

 コボルトも出たのか?」

「ええ

 オークと戦闘中に乱入してきて、おかげでオークを2体逃がしました」

「しかしこっちのコボルトの群れも倒せたんだ

 結果としては良かったと思うぞ」

「はい」


「負傷者は?」

「軽傷は2名ですが、重傷者が5名出ました」

「うーむ

 骨折と裂傷か

 しかし何とか治せそうな程度で良かった」

「はい

 コボルトの乱入に慌てずに、何とか立て直せましたので」


ギルバートは腕や脚を失う様な重傷が無かった事を喜んでいた。

今は討伐の失敗よりも、負傷で戦える者が減る事の方が致命的なのだ。

ギルバートは報告を書類に纏めながら、兵士が帰還するのを待っていた。

まだまだ続きます。

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