表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
317/800

第317話

戴冠式が終わってから、2週間が経とうとしていた

王宮内では相変わらず、魔物の報告が届いていた

少しづつ討伐は進んでいたが、新たに北から来る魔物の報告は続いていた

それは少しづつだが、王都に向かって南下していた

王城内では騎士が忙しく動き回り、討伐の指揮を執っていた

北からの魔物が集中する中、東と南は魔物の数は少なかった

南や東は国境の砦にだけ兵士を残し、後は周辺の魔物の討伐に向かっていた

こうする事で、冒険者や兵士を北に向ける事が出来た

ここまでしなければ、他の町でも魔物の被害が出ていただろう


「それでは北の砦は?」

「止む無く撤退致しました」

「うーむ…」


国王は報告を聞きながら、難しい顔をしていた。

本来は北から来る他国の軍を見張る為に、砦に兵士を配置していた。

しかしそれも、魔物に囲まれては生存の危機となる。

撤退は止むを得ない事だと言えた。

しかしそうなると、北からの備えがどうしても薄くなる。


「どうした物か…」

「しかしその分、王都の兵士の数にも余裕が出来ました

 ここから巻き返して行きましょう」

「そう…じゃな」


サルザートの前向きな発言に、国王は頷くしか無かった。

ここで不安を見せれば、他の貴族や文官達が動揺するだろう。

ここは国王らしく、堂々として安心させるしか無かった。


「よし

 帰還した兵士達を十分に休ませて、代わりに守備隊の兵士を動かす

 ただし兵士達には十分な休息を与えよ」

「はい」


サルザートは書類をまとめさせると、直ちに指示を出させた。

それから討伐報告を読み上げる。


「以上が先ほどまでの報告になります」

「うむ

 これで6割か…」

「ええ

 しかし確実に削っています」

「ああ

 そうで無ければ困る」


国王としても、ここまで後退させたのだから、結果が出なければ困る。

少しでも侵攻する魔物の群れを、討伐しなければならないのだ。


「ギルバートはどうしておる?」

「はい

 前線は出ないで、北の城門で指揮を執っております」

「戦況は?」

「現在は2組の冒険者を向かわせたそうです

 その前の結果は、こちらの騎兵と…」


サルザートは書類を手渡して、現状の前線を示した。


「こちら側はダガー将軍が受け持っております」

「うむ

 親衛隊は?」

「ジョナサンを指揮官にして、現在は半数がこちらのオーガの討伐に…」

「ギルバートの元を離れておるのか?」

「ええ

 ここにオーガが出ましたので、止むを得ず」

「むう…

 王太子の護衛は大丈夫なのか?」

「はい

 それは半数が残っていますので」

「分かった」


親衛隊はオーガの討伐実績も有る。

だから急に現れたオーガに対しては、増援として討伐に出ていた。

兵士や騎兵では、まだオーガの討伐は危険なのだ。


「将軍が率いております騎士ならば、オーガも倒せましょう

 しかし一般の兵士や冒険者では…」

「分かっておる

 ワシもそこまでは要求しておらん」


しかしながら、内心は冒険者や騎士でどうにかならないものかと、内心では歯噛みしていた。

このまま兵士を討伐に出し続けては、いずれはいざという時に兵士が足りなくなるのでは?

国王はそういう思いに駆られていた。


「魔物が南下する理由は分からないのか?」

「ええ

 何せ北は、元々が国がございませんから」


クリサリスの北は、平原の先は北西に向けて半島になっている。

そこは極寒の凍土になっており、魔導王国時代には国もあったという。

しかし巨人族が進攻して、その王国は滅ぼされたと言われている。

今では凍土の中に、嘗ての王国の跡が残されているだけだ。


「あの凍土の中では、普通は生き物が暮らせるとは思えません

 もし住む者が居るとすれば、それは伝説の巨人族でしょうな」

「巨人か…

 まさかな?」

「それはありますまい

 オーガは確かに巨人ですが、伝説に出て来る巨人は5mですぞ

 とてもそんなには大きくは…」

「そうじゃよな

 そんな巨大な者が現れれば…」


国王は想像して、思わず震えていた。

王都の城壁でも、高さは4mぐらいである。

5mの大きさとなれば、城壁でも胸の辺りになるだろう。

その高さから大きな腕を振るわれては、頑丈な城壁とて容易く打ち壊されるであろう。


「巨人とやらが来ては、さすがに人間の力では太刀打ち出来まい」

「そうですな

 魔導王国でも、巨人は危険な存在と記されております

 何でも魔導士数人掛かりで何とか倒したとか」

「魔導士か

 アーネストでも…」

「無茶でしょう

 いくら彼が現代の魔法に精通していても、魔導王国時代でも危険な代物ですぞ

 とてもじゃ無いですが、太刀打ちは出来ないでしょう」

「そうじゃな」


国王は首を振ってから、雑念を頭から押し出した。

そんな伝説の化け物を想像しても、現状の脅威は変わらないだろう。

今は少しでも、この状況を打開するしか無い。


「西のフランシス王国は充てには出来まい

 そうなれば東の…」


国王が発言の途中に、突然執務室のドアが叩かれた。


ドンドン!

「何じゃ?

 騒々しい」

「何事か起こったのか?」

「はい

 それが変な男が現れまし…」

「お邪魔するよ」

「おい!

 こら!」


兵士が話している途中で、その男は部屋に入って来た。

細身な身体に似合わず、押え付けようとする兵士を軽々と振り払った。

そして真っ赤な帽子を恭しく脱ぐと、胸の前に当てて礼をした。


「お久しぶり…

 ではないですかね」

「貴様!

 エルリックか?」

「え?

 こいつが?

 しかし…」


「すいません、陛下

 この男が突然謁見の間に現れまして…」

「よい

 お前達では押さえる事は出来ん」

「は、はあ…」


「して、エルリックよ

 此度は何用で現れた?」


国王は鋭い視線を、エルリックと呼んだ男に投げ掛けた。

男は悪びれる様子も無く、部屋の中を見回した。


「そうですね

 それよりも前に、ギルバート君は?

 王都から出たとは聞いていませんが?」

「ギルバートか?

 今は城門で、魔物討伐の指揮を任せておる

 必要なら呼ぼうか?」

「ええ

 出来ればアーネスト君も呼んでください」

「分かった

 おい」

「はい」


国王は事態を飲み込めず、狼狽えている兵士に声を掛けた。


「至急ギルバートとアーネストを呼んで参れ」

「はい

 しかし殿下は分かりますが、アーネスト郷は…」

「あ奴は離宮に居る筈じゃ

 急げ」

「はい」


兵士は慌てて返事をすると、ドアを閉めるのも忘れて駆け出した。


「陛下

 何もそんな…」

「どうやら急ぐ用事らしいからのう」

「ええ

 出来るだけ早い方がよろしいでしょう」


エルリックは頷いてから、空いている席に腰を下ろした。

そんなエルリックの態度に、宰相は不満そうな顔をしていた。

一国の王に対して、何と不遜な態度だろう。

しかしそれも、止むを得ない事なのだ。

何せ彼は、女神によって選ばれた使徒、フェイト・スピナーの一人なのだから。


北の城門では、ギルバートが声を上げて指示を出していた。

今日も魔物の討伐に向けて、冒険者や兵士が出ているからだ。

ギルバートは地図を睨みながら、帰って来た兵士達に指示を出していた。

今日はこれから、もう一件の討伐に向かう必要があった。


「補給は任せて、今の内に昼食と休憩を取っておけ

 魔力が切れそうな者は、今の内にポーションも飲んでおけ」

「はい」

「そこ!

 ポーションが割れるから大事に扱え」

「はい」

「換えの武器と矢は用意したか?」

「はい」


次々と指示を出し、馬や馬車の用意も支持する。

折角討伐するのだから、素材が有用な物は回収する必要もあった。


「怪我人の交代は?」

「人数が足りません」

「ポーションでどうにかならないか?」

「それでも1人足りません」

「くそっ

 このまま行かせるしか無いか」

「大丈夫です

 私が二人分…」

「無茶はするなよ

 無理だと思ったら、すぐに引き返せ」

「はい」


一通りの指示が終わって、兵士達は馬に乗り込む。

そして長柄の武器を手にして、意気良く城門を出て行く。


「行くぞ!」

「おう!」

「オークなんぞ蹴散らすぞ」

「おう!」


兵士達が出て行ったところで、広場は静かになった。

そこへ馬に乗った兵士が、大通りを駆けて来た。


「おや?

 王城で何か起こったか?」

「そうですね

 早馬とか珍しいですね」


普通は大通りには、住民達が多く通行している。

そこを早馬が走るとなると、余程の事である。

馬は予想通り、ギルバートの元へ向かって来た。

よく見ると、並走してもう1頭馬が用意されていた。


「国王様が呼んでいるのか?」

「はい

 急ぎ陛下の執務室にお越しください」

「分かった

 お前達、後は任せるぞ」

「はい」


後の指示を任せて、ギルバートは馬に飛び乗った。

ハレクシャーと比べると、小柄で大人しい馬だった。

しかし鞭を当てると、勢いよく王城に向かって駆け出した。


「道を空けろ

 殿下が王城に戻られるぞ」


兵士が先行して、大通りを歩く住民達に声を掛ける。

住民達は慌てて道を空けるが、珍しい出来事に驚き、その後ろ姿を見送っていた。


「はあっ

 馬を頼んだぞ」


ギルバートは王城の城門に着くと、そのまま馬を飛び降りた。

馬は兵士達に任せて、一路執務室へと急ぐ。

国王からこれだけ急がされたのだ、相応の理由がある筈だ。

案の定執務室に近付くと、中から大声で揉めている声が聞こえた。


「そんな!

 それでは…」

「しかし既に決定した事で…」


中から言い争う声がして、聞き慣れた声もしていた。


「ん?

 あの声は?」


ギルバートが執務室のドアを開けると、そこにはエルリックの襟首を掴む国王の姿があった。


「どうされたんですか?」

「どうもこうもあるか!

 これでは王国は滅びる」

「え?」

「それを防ぎたくて来たんです」

「防ぎたいだと?

 それなら何でこんなことを…」


国王は激昂していて、まともに話しになりそうに無かった。

そこでギルバートは、宰相の方を向いた。

サルザートは困った顔をしながら答えた。


「巨人です」

「巨人?」

「ええ

 巨人が攻めて来ます」


巨人と言われても、ギルバートには意味が分からなかった。


「北から魔物が来ていますよね

 それぐらいはご存知ですよね」

「ええ

 急に魔物が増えまして…」

「それが女神様の指示だとしたら?」

「え?」


エルリックは説明を始めた。


「2週間前に、月が紅く輝いた事は?」

「2週間前?

 戴冠式の日ですか?」

「ええ

 あの夜に月が紅く輝きました

 あれは女神様の…

 女神からの神託です」

「え?」


「月が紅く輝くのは、女神からの指示です

 滅ぼせという…」

「滅ぼせって!」

「ええ

 信託が下ったのです」


しかしギルバートは納得出来なかった。

女神の神託が当てにならないと言い出したのは、他ならぬエルリック自身だからだ。


「女神の神託は、当てにならないんじゃ無かったのか?」

「そうだな

 これまでみたいに、他の使徒が言っているだけならそう思っただろう

 しかし今回は、月にまで影響を及ぼしている

 これが出来るのは女神だけの筈だ」

「本当に女神様だけなのか?」


ギルバートは尚も食い下がった。

しかしエルリックの返答は、非情な物であった。


「アレが出た以上は、魔物が活性している筈です

 そして7日経つ度に、月は再び赤く輝く」

「7日ですか?」

「ええ

 先週も輝いていた筈です

 もっとも、曇っていれば分かりませんが」

「そうですね

 先週は雨が降っていた筈です」


月がどうなっていたのかは、雨で月が隠れていたので分からない。

しかしエルリックの話が本当なら、今夜も月が紅く輝く筈だった。


「それと巨人に何の関係があるんです」

「そこなんだよ

 アーネスト君はまだかな?」

「アーネスト?」

「彼に確認したい事があるんだが…」

「一体何なんですか?」


ギルバートが分かる事ならと思ったが、予想外の質問が帰って来た。


「彼がどれぐらいの魔法を使えるのか

 それを知りたかったのです」

「アーネストの魔法ですか?」

「ええ

 巨人に使える魔法が無ければ、この国は滅びるだけでしょう」

「そんな…」


「ギルバート

 君がいくら強くても、さすがに同時に数体の巨人は倒せない」

「じゃから、そもそもギルバートでは…」

「1体、2体なら倒せる筈です

 何せランクEとはいえ、本来はランクFでもおかしく無い魔物ですから」

「ランクF?

 相手は巨人なんですよね?」

「ああ

 大きい人間だから巨人

 しかし頭も弱いし、動きもそんなに早くは無い

 問題はタフなところかな」


エルリックは何でも無いと言わんばかりに笑ってみせた。

しかし巨人と聞けば、ギルバートでも警戒してしまう。


「大きい人間と言えば、頭も賢いのでは?」

「いや

 大きくした事で弊害が出たんだって

 実際に使えるのは人間の子供とそう変わらない程度だって話だ

 それが動きが緩慢な為に、役に立たないんだ」

「そもそも巨人て何なんですか?」


ギルバートは堪らず質問した。


「そうだねえ

 魔導王国時代現れた、巨人の伝説は知っているかい?」

「北の半島に栄えた王国を、たった7晩で滅ぼしたという話ですか?

 まさかその…」

「その巨人はフロスト・ジャイアント

 今向かって来ている巨人の上位種になる」

「なんだ…」


違うと思って、ギルバートは安心した。

しかしエルリックは首を振った。


「その戦には参戦してませんが、巨人はそれぐらい強いです

 まあ、私も戦った事は無いんですがね」

「それなら…」

「少なくともオーガよりは強い

 だから騎士団だけでは無理なんですよ

 魔法の援護が必要なんです」

「だからアーネストが…」

「ええ

 必要です」


そこでアーネストが来るまで、一旦話し合いは中断した。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ