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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
315/800

第315話

いよいよギルバートの、戴冠式が行われる日が来た

この日はアルフリートの誕生日でもあるので、王都は祝日となっていた

市場には住民達が集まり、すっかりお祭り騒ぎになっていた

そして王宮の中でも、祝賀ムードで盛り上がっていた

ホールでは準備が整い、いよいよ謁見の間で戴冠式が行われる

謁見の間に入ると、既に戴冠式の準備は出来ている

王城に駐留する貴族と、周辺の街の貴族も集まっていた

この日の為に、バルトフェルドもリュバンニから来ていた

さすがにオウルアイは来れなかったが、ボルのキルギス男爵も登城していた

そうして貴族が見守る中で、ギルバートはゆっくりと謁見の間に入った


「よくぞ参った

 ギルバートよ」

「はい」


「本日は我がクリサリス聖教王国の、王太子の戴冠式を行う」


国王が宣言して、楽師達が高らかにファンファーレを奏でる。

ギルバートはゆっくりと前に出て、国王の前へと進み出る。

そこでサルザートが国王の横に立ち、用意された王冠を差し出した。

それは赤い布の上に置かれた、金に輝く簡素な王冠だった。


「我が国は建国して40年も経たない

 じゃから王太子の王冠も新たに作った物になる」


国王はそう言いながら、金で出来た環の様な王冠を手にした。

そこには中央に紅玉が填め込まれて、その中にクリサリスの紋章が刻まれていた。

そしてそれを恭しく掲げると、ゆっくりとギルバートに近付いた。


「これからのクリサリスの命運は、お前の肩に掛かっている」

「はい」

「国民の笑顔が絶えない、住み易い国を作って行ってくれ」

「肝に銘じて励みます」

「うむ」


国王は満足気に頷くと、ギルバートの頭に王冠を載せた。

ギルバートは臣下の礼をした後に、立ち上がって踵を返した。

そして貴族達を見回した後に、大声で高らかに宣言した。


「私は今までに、アルベルト殿の子として育って参りました

 これは私を暗殺しようとする者が居たからです」


この話は、ギルバートがアルベルトの元に居た事を、正当化する為に作られた話であった。

国民のほとんどが、この話を信じていた。


「ですから私は、アルフリートの名を棄ててギルバートとして育ちました

 そしてこれからも、この名を引き継いで生きて行こうと思っています」


ギルバートはアルフリートの名を棄てて、これからもギルバートとして生きて行く。

ギルバート・クリサリスとして王太子となり、これからも生きて行くのだ。

それをこの場の決意として、ギルバートは王冠を受け止めた。


「うむ

 ギルバート・クリサリスよ

 其方を王太子と認めよう

 みなの者も良いな」

「はい」

「これにて戴冠式を終了する

 新たなる王太子に祝福を!」

「うおおおお」


謁見の間は歓声に沸き、貴族達は拍手で歓迎した。

そして祝砲のファイヤーボールが宙に打ち上げられて、王都の住民達も喜びに包まれた。

ギルバートが謁見の間の入り口を振り返ると、そこにはアーネストが入って来ていた。

祝福の魔法を魔術師達に任せて、自分の役割を果たす為だ。


「続いてこれより、新たなる子爵の叙爵を行う

 アーネスト・オストブルク

 前に進み出よ」

「はい」


アーネストは国王に呼ばれて、謁見の間を進み行く。

そしてギルバートの隣に立つと、そのまま跪いた。

臣下の礼を取ると、静かに俯いたままで待つ。


「アーネストよ

 其方はこれまでも、数々の功績を築き上げた

 その功績を称えて、ここに子爵の位を授ける」

「はあ」


宰相が宝剣を用意すると、それを国王に手渡す。

アーネストが頭を下げると、その頭上と肩に剣の腹を当てて、騎士の誓いを宣誓させる。


「私アーネストは、ハルバート陛下に忠誠を誓い、王国の発展に寄与致します

 ここに誓い、宣誓致します」

「うむ

 これからも励めむ様に」

「はい」


アーネストは応えると、そのまま数歩後ろに下がる。

そして立ち上がると、振り返って貴族達を見た。

ここで歓声が沸いて、アーネストの貴族の仲間入りを歓迎した。


「アーネストの領地に関しては、後程サルザートより報せる

 先ずは新たなる王太子の即位を祝して、歓迎の宴を」

「うわああああ」


歓声が上がって、貴族達は祝賀会場へと向かう。

ホールでは料理が用意されていて、葡萄酒も用意されていた。

貴族達は祝杯を挙げて、すっかり出来上がっていた。

そしてお互いの近況や取引の話をする為に、あちこちで顔合わせをしていた。


「それではアーネスト卿はまだ領地を…」

「そうですね

 正式な辞令が来ない以上は…」


アーネストは新たな貴族の仲間入りとして、さっそく若い貴族に囲まれていた。

そして新年の祝賀会と同様に、葡萄酒を波々と注がれていた。

アーネストはまた酔わされると警戒していたので、何とかそれを躱して行く。

しかし人数が多いので、どうしても飲まされる量は増えていた。


「はあ…

 あいつ、また酔わされているな」

「はははは

 しょうがないでしょう」


ギルバートの隣には、バルトフェルドが座っていた。

そのバルトフェルドも、既に顔は真っ赤になっていた。

反対側にはノフカのサランドール子爵が座っている。

彼は酒に強いので、バルトフェルド程は酔っていなかった。


「殿下は飲まれませんので?」

「私は…」

「またイーセリア様が来られては困りますかな?」

「うぐ…」

「はははは

 そういえばそうですな」

「その事は…」


宴が盛り上がっているのを見て、国王が会場に入って来た。

そして声を上げると、みなの注目を集めた。


「みなの者、盛り上がっておるな」

「おお

 陛下」

「そのお方は?」


国王の隣には、着飾った少女が立っていた。


「こちらの少女が、ギルバートの婚約者であるイーセリアである」

「な…」

「おお

 あれが王太子殿下の婚約者の…」


国王はここで、ギルバートの婚約を発表するつもりであった。

正式なお披露目は後日であるが、先ずは貴族の間で紹介しておこうという判断であった。


「婚約のお披露目は、後程盛大に行う

 先ずは王太子には、目出度い事があると知らしめておこうと思ってな」

「はははは

 これは目出度い」

「なあ

 殿下」

「ぐぬう

 聞いてませんぞ」


セリアは国王の元を離れると、そのままトテトテとギルバートの元へ走って行った。

ギルバートの周りには、娘を紹介しようと貴族が集まっていた。

しかしバルトフェルドが居たので、遠慮して周りから様子を窺っていたのだ。

セリアはそんな貴族達の間を抜けて、ギルバートの隣のバルトフェルドの上に座った。


「ふはははは

 可愛いお嬢さんじゃあないですか」

「んにゅ?」

「どうしてセリアがここに?」

「殿下

 これは国王の采配ですぞ」

「そうそう

 こうしてイーセリア様の事を知らしめれば、他の貴族が出過ぎた事をしませんですよ」

「出過ぎた事?」


「ええ

 例えば娘を紹介するとか」

「婚約を得る為に、寝所に忍ばせて既成事実を作ろうとか

 そんな馬鹿な考えを起こす者も居りますでな」

「既成事実って…」

「まあ、イーセリア様が先にしましたがね」

「ぐう…」


「既成事実ってなあに?」

「ぶふおっ」

「くはははは

 これは困りましたな」


困惑するギルバートを見ながら、バルトフェルド達は笑っていた。

そしてギルバートに婚約者が居ると知って、今度はアーネストの方に視線が集まった。

年配の貴族も、娘を紹介しようとギルバートの周りから移動を始めた。

それを見ながら、国王はニヤニヤと笑っていた。


「そうそう

 もう一つ報告があるな」


国王がそう声を上げてから、入り口の方を振り返った。

そこにはジェニファーと、着飾ったフィオーナが立っていた。


「げ!」

「フィオーナ?」


「先ほどのイーセリアもそうじゃが、もう一人のアルベルトの娘じゃ」

「アルベルト様の?」

「美しい…」

「あんなお嬢様が居たとは」


貴族達はフィオーナの姿を見て、色めき立っていた。

フィオーナはアルベルトの遺児だが、ダーナは既にオウルアイ郷が治めている。

しかしアルベルトは国王の従弟でもある。

だから爵位は無くとも、王族との繋がりを得られる機会でもあった。

少なくとも、単なる子爵であるアーネストよりは魅力的な存在であった。

それを見越して、国王はこの場に呼んでいたのだ。


「これは良い機会だ」

「うちの息子を紹介出来れば…」

「いや、ワシの孫を紹介して…」


貴族達がそんな事を考えていると、国王はゆっくりとアーネストを手招きした。


「はあ…

 当然その流れですよね」

「え?」

「アーネスト君?」


アーネストはトボトボと国王の元へ向かう。

それに合わせて、ジェニファーとフィオーナも国王の隣に向かった。


「ハル

 これはどういう事かしら?」

「うむ

 良い機会じゃからな

 変な虫が着く前に処理したいんじゃ」

「はあ…

 聞いて無いわよ」


「国王様?

 どういう事ですか?」

「ここで発表するつもりなんだよ」

「え?」


「はははは

 こちらのフィオーナじゃが、ギルバートの婚約と同時に婚約の発表を行う」

「え?」

「まさか?」


貴族達は予想をしたが、違っていてくれと思った。

自分達との繋がりを得ようとしたのに、両方ともそれが出来ないと悟ったのだ。


「こちらの二人も、婚約を控えておる」

「ああ…」

「そんな…」


娘や息子を紹介しようと思っていた貴族達が、その場に力無く崩れる。


「はははは

 こりゃ目出度い」

「そうですな」


「バルトフェルド様は良いですよ

 ワシ等は繋がりを得ようと必死なんですよ」

「何で、よりによってアーネストと…」

「フィオーナ様

 そんな…」


そんな貴族達の姿を見て、痛快そうに国王は笑った。


「ぬはははは

 見ろ

 欲に目が眩んだ報いじゃ」

「陛下

 人が悪いですよ」


そんな国王の姿を見て、サルザートは苦言を呈する。

しかし国王は、上機嫌で高笑いをしていた。


「はあ

 これじゃあ貴族連中も、収まりが着きませんよ」

「殿下

 大丈夫ですぞ」

「そうですよ

 酒があればすぐに忘れる」

「そんな簡単な物ですか?」


しかし、ギルバートの心配は杞憂に終わった。

貴族達は自棄食いをして、お酒に逃げたのだ。

結果として、その場は酔っぱらって終わらせる事が出来た。

貴族達も、王族の目出度い式を壊す様な無粋な者は居なかったのだ。


ただし、全員が納得しているわけでは無かった。

選民思想者はほとんど居なくなっていたが、まだ少数の貴族の中に残っていた。

そして、今回の慶事に自分が選ばれていないと、新たな選民思想者も生まれていた。

彼等からすれば、自分達より恵まれている者が居る事は許されなかった。

妬みと不満の感情を募らせつつ、黙って堪えていたのだ。


戴冠式も無事に終わり、祝賀のパーティーも夜更けには終わった。

アーネストはフィオーナを離宮に送り、ギルバートも眠っているセリアを抱き抱えていた。


「やれやれ

 すっかり眠ってしまったな」

「ふははは

 眠っている様子は天使の様じゃのう」

「天使?」

「うむ

 女神の遣わされる御使いじゃ」

「それはフェイト・スピナーとは違うんですか?」


ギルバートは女神の使いと聞いて、すぐさまフェイト・スピナーを思い浮かべた。

しかし国王が思い描いた物は、それとは異なる物だった。


「天使というのはな

 女神様が遣わす天から舞い降りる使者じゃ

 それは美しい女人と、愛らしい少女の姿をしているそうじゃ」

「へえ…」

「帝国時代にはほとんど無くなっておったがな

 魔導王国時代には、そういった天からの御使いの絵が多く描かれておった」

「見たかったですね」

「うむ」


国王はクリサリス家に伝わる、天使の詩を語った。


「女神より遣わされし、無垢なる天の御使いよ

 そは天を覆う死の使いにして、新たなる命の象徴よ

 汝が腕が手にするは、国の繁栄か

 それとも愚かな者が待つ、滅びの刻か」


国王は古い詩を口遊むと、優しい顔をして二人を見た。


「天使が現れるのは、国を富ませて繁栄させる時か…

 あるいは愚かな国王によって、国が亡びる時

 この詩はそういった意味を込めておる」

「それは魔導王国の事ですか?」

「そうかも知れんな」


「ワシはお前達が、この国を繫栄させると信じておる

 頼んだぞ」

「はい」


国王はそう言うと、席を立ち上がった。


「少し酔った様じゃ

 今宵は早目に寝ようと思う」

「はい

 おやすみなさいませ」

「うむ

 お前も早く休みなさい」


国王は優しく微笑むと、ホールの出口に向かった。

そして一旦振り返ると、茶目っ気を出してウインクをした。


「そのままイーセリアを寝所に連れ込むで無いぞ」

「しませんよ!」

「ハル

 いい加減になさい」

「はははは」


国王は上機嫌でホールを後にした。


ギルバートもそろそろお開きにしようと、席を立ち上がった。

そしてセリアを運ぼうとすると、ジェニファーから待ったが掛かった。


「ギル

 いえ、殿下

 セリアは私が運びますわ」

「え?

 でも…」

「お二人はまだ、正式な婚姻関係ではございません

 それが抱き抱えて運ぶのは…」

「あ…

 もう妹とか言い訳にならないのか」

「ええ」


せめて起きていれば、手を繋いで離宮まで送れただろう。

しかし、さすがに抱き抱えて運ぶのは問題があったのだ。

ギルバートはジェニファーにセリアを任せて、離宮に連れ帰ってもらった。


セリアも9歳になっているので、大分大きくなっていた。

騎士や使用人に抱えてもらう事も考えたが、年頃の娘はそういうのは駄目らしい。

結局ジェニファーは、背中に負ぶって帰る事にした。

それでも重そうにしていたが、ギルバートは口出し出来なかった。


「年頃の娘って大変なんだな」

「殿下もそのうち、思い知りますよ」

「そうそう

 あんな可愛い婚約者が出来たんですから」

「止めてくれよ」


ギルバートはバルトフェルド達に揶揄われながら、彼等を客室まで送った。

そうして一段落落ち着いたところで、ふと夜空を見上げていた。

そこには綺麗な星空と、紅く美しい月が浮かんでいた。

まだまだ続きます。

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