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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
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第314話

翌日には大斧が出来上がったと、国王から連絡が入った

ギルバートは王宮に向かうと、さっそく謁見の間に向かった

謁見の間には既に、職人が武器を用意して待っていた

それはオークの物より短くされて、柄も若干細くしてあった

しかし素材は魔鉱石を使っているので、鉄よりは丈夫に作られていた

ギルバートが入ったところで、武器の試し打ちが行われた

騎士が前に出て、斧を両手に持って振り回す

轟音が出て大きな刃が振り回された

しかし柄は撓るが、騎士の全力にも耐えた


ギルバートは前に出ると、自分の大剣を引き抜いた。


「試して良いかな?」

「それは強度ですか?」

「ああ

 その武器がどのくらい強度があるかだな」

「分かりました」


騎士とギルバートは、謁見の間の中央で向かい合った。

そして互いに向き合おうと、武器で打ち合いを始めた。

中央で向かい合ったままで、騎士は巧みに斧を振り回す。

普段からクリサリスの鎌を使っているので、長柄の武器の扱いには長けているのだ。

それに対するギルバートも、親衛隊との訓練で慣れていた。


ガキン!

「くっ

 柄を集中的に狙うとは」

「長柄の武器の利点は、武器の射程が長い事にある

 しかし懐に入られれば、躱された後が隙だらけになるんだ」

「そんな欠点が…

 ぬうっ」

ガキーン!


再びギルバートの強烈な斬撃が振るわれる。

一方で騎士は、大振りを避けられて斧の柄で防戦するのがやっとだった。


暫く打ち合った後に、ギルバートは大剣を仕舞って終わりにした。

そして大斧を受け取ると、柄に傷が無いか確かめた。


「これで終わりにしよう」

「はあ、はあ

 さすが、です、はあ」

「柄には傷は?」


受け取って眺めてみるが、目立った外傷は無かった。

柄も魔鉱石にしてあるので、そう簡単には傷は付かなかった。

しかしそうすると、どうしても全体の重さは相当な物になる。


「傷は付いていないが…」

「そうでしょう」


職人は自信満々で頷いていた。


「しかしこれを扱うには、相応の膂力が必要だろうな」

「そこは修練を積んでいただくしか

 そもそもこの様な武器は、自重も威力を上げる為に必要です」

「そうだな

 長柄を生かした攻撃のリーチと、重さを生かした威力が魅力だからな」

「そうなのか?」


ギルバートと職人の話を聞いて、国王は改めて武器の利点に関心を持った。


「長柄の武器の特徴ですね

 クリサリスの鎌も、元々は馬上から強力な一撃を与える為の武器でしょう?」

「いや

 単純に農作業の鎌を使って、ワシが活躍したからじゃ」

「はあ?」


国王は顔を赤らめながら、事の経緯を話した。


「あれはこの王国が建国されて間もなくの事じゃ

 ワシは攻め込んだ帝国の兵士を討伐する為に、東の平原に向かったのじゃ」

「東の山脈から向かって来た帝国兵ですよね」

「ああ

 奴等は馬に乗って、短期間で無理矢理攻め込んで来たんじゃ

 しかし食料も乏しくてな、近隣の農村を襲っていた」

「そこに国王様が向かわれたのですよね」

「ああ」


「当時は500名ほどしか兵は居らんでな

 バルトフェルドも別の帝国兵に当たっておった

 ワシはアルベルトと共に、小さな農村の救出に向かっておった」


それは建国時の国王の活躍を示した話の、前日譚に当たる話だった。

国王は農村に到着すると、さっそく略奪に勤しむ帝国兵に向かって行った。

しかしその時に、運悪く剣が折れてしまった。

そこで国王は、武器になる様な物を探して戦いを継続した。


「ワシは剣が折れてしまってのう

 慌てて武器になりそうな物を探してみた

 その時目に付いたのが、農民が振り回しておった大鎌じゃった」

「え?」

「ワシは農民から鎌を受け取り、そのまま振り回して数人を切り倒した

 それを見たアルベルトが、これは武器に良いと考えたのじゃ

 それが詩人がまことしやかに話したのが、有名な女神の神託の話じゃ」

「じゃあ…

 実際は目に付いた物を振り回していたと?」

「ああ」


クリサリスの建国を歌った詩の中に、女神の豊穣を祈願して鎌を捧げたという物がある。

それがクリサリスのシンボルとなり、国旗の十字の脇に添えられる紋章の基になった。

よくある話だが、女神から豊穣を約束された事から、祝福された大鎌を授かった事になっている。

しかし現実は、偶然手にした農民の大鎌が武器になっただけだった。


「それでは馬上で使うとか、距離を開けて戦えるとか…」

「それは後付けの理由じゃな

 実際に使ってみてから、これは便利じゃと気が付いたしのう」


年若い貴族は驚いていたが、年配の貴族は苦笑いを浮かべていた。

彼等はその話を知っていたのだ。


「それでは長柄の武器を作らなかったのは?」

「単純に必要が無かったからのう

 暫くは小競り合いしか無かったし、魔物が来るまでは平和じゃった」

「あ…」


使う必要が無かったので、兵器の開発は進められていなかったのだ。

だからこの武器は、兵器を開発する職人にとっても僥倖だった。


「殿下

 これはワシ等にとっても大きな発見です

 工房では、今も大金槌を開発中です」

「そうなのか?」

「ええ

 柄の長い武器となれば、鎌か槍しか作っておりませんでした

 しかしワシ等はこれを発見した

 これは新しい武器の発想に大きく繋がりますぞ」


職人は興奮して捲くし立てた。

彼等からすれば、こんな武器らしい発想の武器は初めてだったのだ。

この武器を発展させて、更なる使い易い武器を開発できる。

職人達が興奮するのも仕方が無い事だった。


「予想外ですね

 てっきりもっとこう…」

「はははは

 そう簡単に思い付く様でしたら、ワシ等はもっと強力な武器を作っております

 そもそも、斧を武器にするという発想も無かったですから」


職人達からすれば、金槌を武器にするという発想も最近思い付いたぐらいだ。

それだけ争い事から、クリサリス聖教王国は離れていたのだ。


「それで?

 武器としてはどうじゃ?」

「そうですね

 先ほども話しましたが、先ずはリーチがあるので有利です」

「うむ」

「また、重たい分威力はあります

 城門の破壊された痕を見れば、一目瞭然です」

「城門の事は報告を読んだが、あれを壊せるとはな…」

「ええ

 破城槌を使っても、そう簡単には壊せない筈でした

 今後は魔鉱石での補強を考えてください」

「うむ

 魔物に壊されては適わんからな」


国王は宰相に目配せをして、指示を出させる事にした。


「他には何かあるか?」

「そうですね

 やはり重たいので、それなりの訓練は必要ですね」

「そうか…

 歩兵には?」

「向かないでしょう

 使わせるのなら、騎兵に持たせるべきですね」

「そうか」


「大金槌も作っているという話でしたが、そっちの方が重たいでしょうね」

「そうなんですよ

 今のままでは、使える者は限られるでしょう」

「でしょうね

 軽くすれば強度や破壊力に影響が出そうですし」

「そこなんですよね」


職人の悩みを聞いて、国王は提案をしてみた。


「その大金槌は、使える者のみの武器に出来んか?

 扱える者からすれば、強力な武器になるじゃろう」

「ですが、そうなると騎兵には持たせられませんよ?」

「何でじゃ?」

「そんな重たい物を持たせたら、馬が潰れますよ」

「あ…」


国王は騎兵に持たせようと思っていたが、そもそもが無理があった。

大斧でも重くて危険なのに、それより重たい大金槌では馬の動きも遅くなるだろう。

そして思いっきり振り回したら、馬への負担は相当な物になる筈だ。


「騎兵には使えんか?」

「そうですね

 使うのなら歩兵に持たせて、それこそ砦や城壁を破壊するのに使うべきです」

「攻城兵器か…

 それが妥当かのう…」


「騎兵に持たせるのなら、むしろ軽い長柄の武器を作るべきでしょう

 大斧ほどでは無いにせよ、槍や鎌に近い武器を作る方がよろしいのでは?」

「そうじゃなあ

 むしろクリサリスの鎌で十分なのでは?」

「そうですね

 騎兵用にも作る方が良いかも知れません」


クリサリスの鎌は、王国を象徴する武器となっていた。

その為に、今までは騎士のみの武器となっていた。

しかし騎兵にも持たせれるのなら、大きく戦力を上げられそうだった。

騎兵は剣と盾ぐらいしか身に着けていなかったからだ。


「しかし、そうなると騎士から不満が出るのでは?」


貴族の一人が、そう発言をした。


「うむ

 それは在り得るか」

「そうですよ

 今までは騎士の象徴だったのですよ

 せめて違う武器にしなければ」

「しかし大斧では重たいからのう」


ここで問題が元に戻り、結局は新しい武器の開発が要望された。

職人は武器の開発を頼まれて、難しい顔をして帰って行った。

簡単に考えろと言われても、これまでは必要が無くて考えてもいなかったのだ。

そんなに簡単には思い付かないだろう。

ギルバートも謁見の間を出ると、そのままアーネストの元へ向かった。


アーネストは昨日の魔力切れで、今日は朝から寝床で横になっていた。

朝食の支度はフィオーナが来て、甲斐甲斐しく用意していた。

そして二人でゆっくりしているところへ、ギルバートは来てしまった。


「アーネスト」

「ギ、ギル!」

「お兄様!」


アーネストはベッドから跳ね起きて、フィオーナは慌てて立ち上がった。


「あ…

 お邪魔だったか?」

「そう思うなら来るなよ」

「お、お邪魔だなんてそんな

 何も無いわよ」


アーネストはベッドに腰掛けて、不満そうにしている。

そしてフィオーナは、慌てて部屋を後にした。

心なしか顔が赤くなっていたが、恥ずかしくて部屋を出て行った。


「それで?」

「ああ

 今日の謁見の間での話なんだが…」


ギルバートは新しい武器の話と、騎兵に持たせる武器の話をした。

それを聞いたアーネストは、本棚から1冊の本を取り出した。


「そうだよな

 クリサリスは長年平和だったからな」

「ああ

 今回の大斧も、職人からすれば素晴らしい武器だったらしい」

「それなんだがな…」


アーネストは書物を開くと、1点を指差して見せた。


「これは?

 え?」

「ポールアックス

 帝国が魔導王国と戦った時に、戦士団が使っていた武器だそうだ」

「戦士団?」

「今で言うところの冒険者みたいな物かな?

 戦いを専門にした戦士達の集まりだ

 傭兵とも呼ばれて、金で戦いをする専門の者達だ」

「へえ…

 戦いを専門にしていたのか」


「ああ

 そして彼等が好んで使ったのが、小型の盾と剣

 それから攻城等に使われたポールアックスだ」

「あの大斧とそっくりだな」

「ああ

 奇しくもこれを元にしたのか、あのオークはこれを装備していた」

「そう考えると、やはり最初から王都を狙って…」

「ああ

 間違い無いだろう」


アーネストが開いた本には、帝国の文字ではあるが読みにくい文法で書かれていた。

ちょうど魔導王国を滅ぼした時期の本で、魔導王国の文字と混ざっていたからだ。

挿絵に戦う男達が描かれていたが、そこに長柄の大斧が描かれていた。

それは魔導王国の都市を、帝国兵が奪った話が書かれていた。


「そうなると、そんなに昔からあった武器なのか?」

「ああ

 ポールアームなんて呼ばれていて、斧や金槌をモチーフにした武器が作られていた

 だから当時には、そういった武器が使われていた」

「他にもあるのか?」

「ああ

 槍に似た武器や、クリサリスの鎌に似た武器もあるぞ」


アーネストはページを捲ると、他の武器が載っている箇所を示した。


「へえ…

 それじゃあこれを作れば」

「そうだな

 騎兵向きな武器も作れるかもな」

「それじゃあさっそく…」

「まてまて

 この本は貴重な資料なんだ

 こっちの羊皮紙に写すから」


アーネストは呪文を唱えて、絵を書き写す魔法を発動した。

書物に描かれた絵が、浮かび上がって羊皮紙に写される。

アーネストは何枚か選んで写すと、それをギルバートに渡した。


「ほら

 これをギルドに持って行ってみな」

「ああ

 ありがとう」

「もう邪魔しに来るなよ」

「分かったよ」


ギルバートは片手を挙げて感謝を示すと、アーネストの私室を後にした。

廊下を歩いていると、途中でフィオーナとすれ違った。


「フィオーナ

 すまなかったな」

「もう!

 そんなんじゃ無いって」

「はははは

 もう邪魔はしないから」

「べ、別にお兄様が居ても問題無いんだから」


怒って脹れるフィオーナを後にして、ギルバートはギルドに向かった。


職工ギルドでは先ほどの職人が、ギルドマスターと話し合いをしていた。

なかなか思う様なアイデアが浮かばなくて、それを相談していたのだ。


「失礼するよ」

「殿下」


ギルバートはギルドに入ると、奥の酒場で話をしている職人を見付けた。

ギルバートはさっそく羊皮紙を取り出し、二人の前にそれを置いた。


「これは?」

「帝国が魔導王国を攻めていた頃の資料だそうです

 アーネストに写しを作ってもらいました」

「へえ…」

「これは大斧では?」

「そうなんですよ

 ポールアックスって言うらしいですよ」

「ポールアックス…」


ギルバートは長柄の武器が、ポールアームと呼ばれていた事を説明した。

その上で他の武器も示して、帝国が使っていた事を説明した。


「そう言った経緯で、既に帝国では使われていました」

「なるほど

 これが作れれば、騎兵達の武器として使えますね」

「ああ

 どうだい?

 作れそうか?」


職人は羊皮紙を手に取ると、暫く眺めていた。


「うーむ

 難しいですな」

「ダメそうか?」

「ですが…

 挑戦してみたいです

 ギルドマスター?」

「ああ

 他の作業は任せておけ

 お前はそいつを使える様に作るんだ」

「はい」


職人は頷いて、さっそく奥の工房に向かって走って行った。


「殿下

 完成したら王城へ?」

「ああ

 報告してくれ」

「分かりました」


ギルバートは新たな武器の制作を依頼して、職工ギルドを後にした。

まだまだ続きます。

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