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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
312/800

第312話

魔物の勢いが活気付き、左翼から崩れようとしていた

そこに現れたのは、魔術師達を連れたアーネストであった

彼は魔術師達に指示を出して、直ちに戦況の立て直しを図った

魔術師達の拘束の魔法が足止めをして、魔物の動きを封じる

その間に騎士達が攻め込んで、魔物を倒していった

魔術師達の参戦が、窮地に陥った騎士達を救った

逆に魔物達は、左翼から崩されたので余力が無くなっていた

後方にはまだ魔物が居るが、前線に出た指揮官は無防備になっていた

それを好機と見て、ジョナサンが単騎で切り込んだ

しかし勇者と名乗っただけあって、魔物の腕はなかなかであった


「ぬりゃあああ」

ガキーン!

「キカヌワ!」


既に数合に渡って、二人は切り結んでいた。

オークは動きが遅くなるので、いつの間にか大楯を手放していた。

それでもジョナサンの鎌が鋭いので、防ぐのが精一杯だった。


「やるな」

「ソチラコソ

 ニンゲン

 オデトウヂアエタノハオマエガハジメテダ」


魔物は大斧を構えると、そのままジョナサンを睨み付けた。

暫く打ち合っていたので、さすがに後続の魔物も入って来た。

ジョナサンは一騎打ちを諦めて、再び後方に下がった。


「マデ

 オデトダタガエ」

「悪いな

 私は殿下の守護が仕事だ」


ジョナサンは後方に下がると、再び親衛隊に攻めさせた。

アミドルは怒りに鼻を鳴らしたが、さすがに疲労が残っていた。

他のオークに戦端の維持を任せて、彼も後ろに下がった。


「大丈夫だったか?」

「ええ

 さすがに緊張しましたが、何とか押さえれました」

「助かったよ

 その間に親衛隊も休息出来た」


ジョナサンが一騎打ちをしたので、その間に親衛隊も一息付けたのだ。

革袋から水を口に含み、呼吸を整える。

これだけでも戦意を立て直すには十分だった。


「魔物が戻って来たぞ

 再び押し返すんだ」

「おう」


親衛隊が魔物と打ち合いを始めると、アーネストが前に出て来た。

彼はギルバートの隣に来ると、確認の為に質問した。


「ギル

 今のはハイランド・オークでは無いのか?」

「ああ

 違うみたいだ」

「違うのか?

 それにしては…」

「そうだな

 話も出来るみたいだが、オークの勇者らしい」

「勇者…」


その言葉に引っ掛かりを覚えて、アーネストは表情を曇らせる。


「それは称号なのか?」

「え?」

「単に勇者と名乗っているのか?

 それとも女神様から称号を授かっているのか?」

「あ…」


アーネストが言わんとする事が分かって、ギルバートの顔色も変わった。

しかし思い返してみても、スキルを使った様子は無かった。


「ジョナサン」

「そうですね

 スキルらしき攻撃はありませんでした

 どれも普通の攻撃でしたね」

「だそうだが?」

「そうか…」


アーネストは何かを思案するかの様に、黙って熟考していた。


「魔物はスキルを使えないのか?

 それとも名だけの勇者か?」

「どっちだろうが構わないさ

 今は倒す事が重要だ」

「そうだな

 武装しているから手強いな」


魔術師達の支援が入ってからは楽になったが、馬や騎士に負傷が見られている。

このまま無理をしていれば、いずれは犠牲者が出るだろう。


「このまま支援の魔法を使うから、騎兵や冒険者にも協力してもらおう」

「どうするんだ?」

「一旦下がらせてくれ

 君達は拘束して前進を押さえるんだ」

「はい」


魔術師達は呪文を唱えて、次々と魔物を捕らえる。


「スネア―」

「ソーン・バインド」

「アース・グラップ」


前に出ようとした魔物の足元に、不意に窪みが出来て転倒する。

蔦や地面が隆起して、側面から回り込もうとした魔物の足を縛り付ける。

そうする間に、アーネストは長い詠唱を経て呪文の結句を唱える。


「スリープ・クラウド」


アーネストが掌を翳すと、その方向に白い靄の様な塊が出始めた。

それは風や地形を無視して、魔物の群れに向けて移動して行く。

靄に包まれた魔物は、勇者アミドル以外はみな倒れて行く。

そしてアミドルも片膝を着いて、必死に頭を振って堪えようとしていた。


「これは?」

「魔法の眠りを誘う雲だ

 吸い込めば眠らされるから気を付けろ」

「気を付けろって…

 戦場全体に広がってるが?」

「間もなく収まるさ

 勇者とやら以外は眠った筈だ

 今の内に一気に片付けるんだ」


アーネストはふらつきながら、何とか掌を動かして行く。

それに合わせて靄も動いて、魔物を次々と包んで行った。


「よし

 眠っている魔物に止めを刺すんだ」

「はい」

「冒険者や騎兵達も協力してくれ」

「はい」

「おう」


遠くの魔物は騎兵が向かい、近場は冒険者達が向かって行った。

ほとんどの魔物が眠っているので、容易く近付いて首筋に刃を突き刺せた。

無抵抗の者を殺すのには抵抗があったが、王都を襲って来た魔物だ。

冒険者達も心を鬼にして、次々と仕留めて行った。


「あいつだけは耐えていますね」

「ああ

 危険だから近付くな」


「ここは私が行きましょう」

「頼んだぞ」


先程も打ち合っていたジョナサンが、単騎でアミドルに近付いた。

アミドルは憎しみの籠った眼で、ジョナサンを見上げていた。


「グヌウ

 ヒキョウダゾ」

「どう謗られようが構わない

 私は仲間と王都の民を守る役目がある

 せめて私の手で倒す事で許して欲しい」

「クッ

 セイセイドウドウドダダガエ」

「そうも言ってられないからな

 お前も指揮官なら、無傷で勝つ事の重要性は分かるだろう?」


ジョナサンは素早く鎌で斧を打ち払い、返す刃で首を刎ねた。

アミドルの首は地面に落ちた後も、恨めし気にジョナサンを睨んでいた。


「ゴボガ…」

「許せ

 貴様とは別の形で戦いたかった」


ジョナサンは胸の前で手を合わせて、無念そうな首に黙祷した。


魔法の雲は、城門の外の魔物も眠らせていた。

しかし何体かは、眠りに抵抗して堪えていた。


グガガガ…

「こいつ、堪えているぞ」

「早目に倒せ

 怯んでいる今がチャンスだ」

「せりゃあああ」

ザシュッ!


最期の1体を倒す頃には、アーネストは消耗して倒れかけていた。


「うう…」

「大丈夫か?」

「ああ

 単なる魔力切れだ

 休めば治る」

「殿下

 アーネスト殿は私達が看ます」

「頼んだぞ」


ギルバートはアーネストを魔術師達に預けると、そのまま城門の外へ向かった。

そこには眠ったまま殺された魔物が倒れていて、改めて魔法の恐ろしさを示していた。


「恐ろしい魔法だな」

「そうですね

 ほとんどの魔物が眠らされていましたからね」

「使える者がアーネスト以外しか居ないがな」

「それでも有用でしょう?」

「いや

 あの様子ではそうそう使えないぞ」


一度使っただけで、あれほど消耗するのだ。

使いどころを間違えれば危険だろう。

むしろ普通の戦場では、混戦でそんな余裕は無い筈だ。


「場所や条件が重ならないと、使いどころが難しいだろうな」

「何でです?」

「それは戦っている時に、不意に眠くなったらどうする?」

「え?

 魔物に対して…」

「いや

 あれは靄に包まれたら、敵味方関係無いぞ」

「あ…」


「それに範囲が狭いのもあるだろう

 今回は城門前に密集していた

 普通はそうならないだろう?」

「そうですね

 確かに使い難そうですね」


ギルバートはあの魔法を、以前にも見ていた。

その時アーネストは、使う魔力の割に使い勝手が悪いと言っていた。

確かにあれだけ消耗するのなら、今回の様に条件が良くなければ使えないだろう。


「魔物は全て倒したな?」

「ええ

 起き上がって来る者は居ないでしょう」


ジョナサンは寂しそうに、アミドルの頭を見ていた。


「それなら、全ての魔物の首を刎ねておけ

 死霊になる可能性があるからな」

「え?」

「以前に似た事があった

 急がないと、魔王が近くに潜んで居ては危険だ」

「は、はい」


「聞いたか?

 全ての魔物の首を刎ねるんだ

 死霊にならない様にするぞ」

「はい」

「全部ですか?」

「ああ

 酷いが仕方が無い」

「はい」


騎兵達も馬から降りて、冒険者達と協力して首を刎ねた。

それから遺骸を集めて、広場に並べて置いた。


「全て首を刎ねました」

「よし

 これで魔王が何かしても、死霊にはならないだろう」


「殿下

 本当にそんな事が?」

「ああ

 ダーナに住んでいた頃にな

 殺した魔物が死霊になったり

 集まった死霊がより強力な死霊に化けたりしてな」

「そんな事が…」

「大変だったぞ

 巨大な真っ黒な骸骨が暴れ回ってな、多くの犠牲者が出た」

ゴクリ!


その話を聞いて、さしものジョナサンも唾を飲み込んだ。

確かにそんな化け物が現れては、ここは大混乱になっただろう。

そして多くの者が犠牲になっていた筈だった。


「魔物の素材と装備は、一旦職工ギルドに預けるぞ」

「鎧は使えそうですね」

「しかしサイズが違うだろう?

 参考にして騎士団にも採用するか?」

「いえ

 動き難そうですから、我々は皮鎧で十分です」


親衛隊は、動き易さを重視して皮鎧を愛用している。

鉄を使っているのは胴と肩当ぐらいだった。

しかし兵士や冒険者は、魔物の鎧を羨ましそうに見ていた。


「こんな鎧が欲しいのか?」

「はい」

「これならオーガに襲われても、多少は耐えられそうです」

「そうか?

 逆に動きが遅くなるぞ」

「あ…」


ギルバートの言葉に、改めて兵士達は思い出した。

確かにオークは動けていたが、自分達が着たら遅くなるだろう。

それに身体強化を使わなければ、満足に剣も振れそうに無かった。


「向いてませんね…」

「そうだな

 どうしても着たいのなら、身体強化を常に使えないとな」

「はい」


冒険者達も、悔しそうに防具と盾を見ていた。

確かに重過ぎて、実用的では無かった。


「どちらかと言えば、城門や重要拠点を守る兵士向けだな」

「そうですね」

「でも、この斧は使えますよ」

「ふむ」


長柄の斧は、確かに便利そうだった。

これなら加工すれば、兵士や冒険者でも使えそうだった。


「そうだな

 一応装備は、職人達にも提案しておこう

 ただし使うからには、それなりに動けないとな」

「はい」


話しをしていると、戦闘が終わった事を聞いて、職人達が集まって来た。


「殿下

 この度は王都を守っていただき、ありがとうございました」

「いや

 たまたま騎士団が出ていたのと、私が親衛隊を集めていただけだ

 それよりも…」


ギルバートは壊れかけた城門を見る。

こちら側から見ると、まだまだ大丈夫そうに見えた。

しかし改めて外から見ると、斧で派手に壊されている。

これを直すには、相当な時間が掛かるだろう。


「直せそうか?」

「ええ

 しかし時間が掛かりますぞ」

「そうだな

 必要な資材は足りそうか?」

「何とか」


さすがは王都のギルドだけあって、修理自体は問題は無そうだった。

しかし同じ城門では、また壊される可能性が出て来るだろう。

ここは補強をして、以前より頑丈にする必要がありそうだ。


「鉄を使って、今より頑丈に出来るか?」

「はい

 しかし重くなりますぞ?」

「そこは巻き上げ式にして、重りで稼働する様にしてくれ」

「分かりました」


「必要経費は計上して報告してくれ」

「はい

 王城に申請すればよろしいですか?」

「そうだな

 サルザート様に伝えてくれ」

「はい」


職人達はさっそく二手に分かれて、遺骸の回収と城門の点検に向かった。

ギルバートは遺骸を集める方の職人に近付き、オークの装備が作れるか確認をした。

特に斧は、今までではクリサリスの鎌を主流にしていた。

しかしこの斧なら、騎士以外で装備するのも良さそうだった。


「長柄の斧ですか」

「ああ

 兵士や冒険者達が、使えるか気にしていた」

「そうですな

 この発想はございませんでしたな

 他にも作れそうです」

「そうか

 それなら試作が出来たら、王城に報告をしてくれ」

「はい

 楽しみにお待ちください」


職人は眼を輝かせて、長柄の斧を手にしていた。

他にも作れると言っていたので、何かアイデアが浮かんだのだろう。

いずれは大型の魔物に対する、有効な武器が作られそうだ。


ギルバートは一通り回ると、安心して王城に戻る事にした。

討伐が完了した報告は届いているだろうが、国王は心配して待っているだろう。

報告を済ませる為にも、急ぎ王宮に向かう必要があった。


王城に入ると、さっそくドニスが出迎えてくれた。


「殿下

 国王様がお待ちです」

「分かった

 親衛隊は同行した方が良いか?」

「そうですね

 謁見の間までは必要ですが、その後は休憩を取られた方が…」


ドニスの視線の先には、負傷したり泥だらけになった者が数名居た。

ギルバートは頷くと、ジョナサンに指示を出した。


「私は国王様に謁見を行ってくる

 同行はジョナサンだけで良いだろう」

「そうですな

 みなはここで解散だ

 各自休息してくれ

 ただし何時でも招集に応じれる様に」

「はい」


親衛隊は解散して、各自の部屋に戻って行った。

それを見送ってから、ギルバートはドニスに案内を頼んだ。


「さあ、行こうか」

「はい

 ではこちらに」

「ん?

 謁見の間は向こうだろ?」

「その前に、お召し物が汚れております」

「あ…」


気が付くと、ギルバートの服もあちこち汚れていた。

一旦私室に戻ると、着替えてから謁見の間に向かう事になった。

ギルバートが支度をしている間に、ジョナサンも武装を解いて来た。

謁見の間に入るのに、武器を携帯するわけにはいかないからだ。


そうして準備を整えると、改めて二人は謁見の間に向かった。

まだまだ続きます。

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