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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
311/800

第311話

歩兵達は次々と矢を番えては、魔物に向かって放った

予備の弓なので、調整は出来ていない

それでも数回撃てば、多少は癖は理解出来た

腕の良い者は慣れてきて、オークに当てる事が出来た

しかし鎧を身に着けているので、ほとんどが弾かれていた

投石は最初の数発は当たったが、ほとんどが大楯で弾かれてしまった

そしてオークは城門に近付くと、長柄の斧で城門に打ち掛かった

さしもの城門も、オークの全力では堪えられそうに無かった

打ち掛かられる度に、軋んで表面には傷が入っていく


オークは膂力を振り絞って打ち付けるので、その隙に矢が射掛けられた。

しかし鎧に弾かれて、なかなか突き刺さる事は無かった。


「くそっ」

「どんどん射掛けろ

 城門を守るんだ」

「破らせるんじゃ無いぞ」


「我々はもしもに備えて、ここで魔物を迎え撃つ」

「おう!」


騎兵達は馬の向きを変えると、突入するであろう魔物に備えた。


「オレ達も覚悟を決めるか」

「ああ

 まさか王都の城門が破られようとは…」


冒険者達も武器を持って身構えると、魔物の突入に備えた。

さすがに城門もたわんできて、ひびが入り始めていた。


「くそお

 これ以上はもたないぞ」

「良いから撃つんだ

 少しでも数を減らせ!」


上から矢を射掛けるが、どうしても思わしくなかった。

部分鎧とはいえ、やはり金属製の鎧は強力なのだ。

動きが遅くなる為に騎士ぐらいしか着る事は無いが、オークの膂力では関係無いのだ。

重たい金属鎧なのに、平然と走る事が出来ていた。


ドン!

バキバキバキ!


「もう…」

「もたないか…」

「構えろ!」


「門がもたないぞ」

「壊されるよりはマシだ

 このまま開門するぞ」


警備兵達は止むを得ず、城門を開ける事にした。

壊されてからでは、作り直すまでが危険だからだ。


「開門する」

「騎兵部隊は備えてくれ」

「分かった」


騎兵部隊が身構えているところに、後方から声が掛かった。


「そこをどけ!」

「ここは親衛隊が受け持つ」

「城門前を空けろ!」


「親衛隊?」

「王宮からの応援が間に合ったぞ」


騎兵達は左右に広がり、城門前を空けた。

そこへ馬に乗った親衛隊が駆け付ける。


その半刻ほど前だが、王宮ではギルバートが親衛隊と打ち合わせをしていた。

数日後に控えた式典の配置について、親衛隊と相談していたのだ。

ギルバートが入る場所と、国王の周りに配置する騎士を決める。

それから有事に備えて、どこに集まるかも相談していた。

そこへ伝令の兵士が走る足音が聞こえたのだ。


「伝令!

 伝令!」


兵士は兜を被ったまま、王宮内を走って行く。

その先には騎士団の控えの間があるが、今日は数人しか待機していなかった。

本隊は魔物の討伐に、東の平原に出ていたからだ。

そこに兵士が入って来て、武装したオークの群れが現れた事を告げた。


「大変です

 オークです

 オークの群れが…」

「何だ?

 それは騎兵部隊が向かったただろう?」

「それが

 オークの群れは武装していて…」

「何だと?」

「詳しく話せ」


騎士達に促されて、兵士は事情を説明し始めた。


「オークは依頼通りに100体近く居たんですが

 そいつ等は武装していました」

「武装って?」

「棍棒とかじゃ無いよな?」


騎士達は兵士が怯えていたので、和ませようと軽口を叩いた。

しかし兵士は、真剣な表情で訴えた。


「部分鎧ですが、金属製の鎧を着こんでいました」

「な?」

「金属鎧だと?

 豚がか?」

「はい

 頭には兜も被っていました」

「まさか面当ても着けていないよな?」

「さすがにそこまでは…

 しかし頭部への矢は防がれるでしょう」


たかが豚の魔物と侮っていたのが、まさかの武装をしていたのだ。

騎士団は当惑して、どうすべきか悩んでいた。

主力が出払っているので、戦える者も少ないのだ。


そこへ騒ぎを聞きつけて、ギルバート達が入って来た。


「どうしたんだ?

 騒々しいな?」

「殿下」

「それがそのう…」

「武装したオークが現れたんです」

「武装?」


兵士は繰り返して説明をする。


「部分鎧ですが、金属製の鎧を身に着けて、頭には兜も被っていました」

「殿下

 どう思われますか?」


騎士は半信半疑なので、魔物との戦闘に長けたギルバートに質問した。

しかしギルバートは、その魔物に思い当たる物があった。


「まさか…

 ハイランド・オーク?」

「ハイランド・オーク?」


「その魔物達は、普通のオークとは違っていなかったか?

 そのう…知性がある様な感じが…」

「まさか?

 相手は豚の魔物ですよ?」

「それは…

 遠目に見ただけですので分かりません」

「そうか…」


「しかし大楯を身に着けて、大きな斧も持っていました

 それがゆっくりと行進しているんです」

「大きな…

 長柄の斧か?」

「え?

 はい」

「そうなると、クリサリスの鎌でも危険だな」

「ええ

 接近戦では不利でしょうな」

「ですから急ぎ戻って、城門では弓を射掛けさせています」

「しかし兜を被っているんだろ?

 効果は低いのでは?」

「それはそのう…」


兵士は魔術師を呼びに行っている事は知らなかった。

しかしこのまま手を拱いていては、城門も危ういだろう。

事実こうしている間にも、城門は破られようとしていた。


「ジョナサン

 親衛隊に支度をさせてくれ」

「討伐に向かうんですか?」

「ああ

 現状で一番頼りになるのは、親衛隊しか居ないだろう」

「分かりました」


直ちに踵を返して、ジョナサンは親衛隊の元へ向かった。

式典の準備とはいえ、一応鎧は着こんでいた。

後は武器と馬を取りに向かえば、支度はすぐに出来た。


「殿下?

 行かれるんですか?」

「ああ

 私は後方で指揮をする

 魔物の正体が気になるからな」

「ハイランド・オークとか言う奴ですか?」

「ああ

 ハイランド・オークはオークの上位種らしくてな

 知性がある分、普通のオークよりも厄介なんだ」

「知性が?

 あの力任せの魔物にですか?」

「ああ

 なまじ力があるから、知性まで伴うと厄介なんだ」


「それでは我々は?」

「国王様と宰相殿に報せてくれ

 それと魔術師ギルドにも連絡を」

「そうか

 魔術師の支援があれば…」

「ああ

 大分マシになるだろう」


ギルドには兵士が向かう事になり、騎士達も報告に向かった。

ギルバートも私室に向かうと、愛用の大剣とショートソードを身に着けた。

厩舎に向かうと、既に親衛隊が騎乗して待機していた。


「急ぐぞ

 城門に向かうんだ」

「はい」


騎士団は馬を駆って、大通りを駆け抜けて行った。

先に騎兵が駆け抜けていたので、住民達は何事か起こったのだと察していた。

だから騎馬の進行の邪魔にならない様に、既に道の両脇に下がっていた。


「急げ!

 城門が破られる前に向かうぞ」

「はい」


こうしてギルバートは親衛隊を連れて、城門に急行したのだ。

その数は総勢50名で、魔物の数よりは少なかった。

しかし魔物が、単なる武装しただけのオークなら何とかなるだろう。

問題があるとすれば、ハイランド・オークだった場合だ。


「見えたぞ

 城門はまだ破られていない」

「しかし時間は無さそうです」


「冒険者と騎兵が居るな

 そこをどけ!」

「ここは親衛隊が受け持つ」

「城門前を空けろ!」


「親衛隊?」

「王宮からの応援が間に合ったぞ」


騎兵達は左右に分かれて、親衛隊が入って来る場所を空けた。

冒険者達も下がって、後ろから見守っていた。


ギギギギ…!


城門が軋みを上げながら、ゆっくりと開かれる。

そこへ先頭で斧を振るっていたオークが躍り込んで来た。


ブギー

「させるか!」


親衛隊の一人が、その振るわれた斧を鎌の柄で受け止める。

そこに後方から、鋭い矢が飛来する。


ブギャー


後方を振り返ると、冒険者の一人が弓を構えていた。

どうやら彼が、後方からオークを射抜いたのだ。

オークは片目に矢を受けて、苦しそうに頭を抱えた。


「食らえ!」

ズザシュ!

ブグア…


クリサリスの鎌は、鋭く魔物の首筋を切り裂いた。

切り裂いた親衛隊は、素早く後方に下がった。

そのまま前に居ては、後続の魔物の的になるからだ。


「殿下

 これがハイランド・オークですか?」

「いや

 奴等は喋れる筈だ

 こいつは武装したオークだろう」


しかし、魔物はそれだけでは無さそうだった。

ハイランド・オークほどでは無いが、明らかに意思を持って行動していた。

それが証拠に、2体目は警戒しながら城門を押し開けた。

そして複数人が固まって、大楯を構えながら入って来た。


「ハイランド・オークでは無いが…

 知恵は回る様だな」

「そうですね

 囲まれない様に警戒しています」


おまけに先ほどの様子を見ていたのか、矢に対しても警戒をしていた。

数名の冒険者が弓を構えていたが、なかなか放つ機会が見出せなかった。


「少数で当たるな

 必ず囲まれない様に動くんだ」

「はい」


グフフフフ

ブゴブゴ


オークは鼻を鳴らしたり、喉をくぐもらせる様な笑いを漏らしていた。

長柄の大斧を構えて、全面には大楯を構えている。

要所には金属のプレートに覆われているので、迂闊に矢を射ても効果は無いだろう。

そのままじりじりと、城門の中に入って来る。


「くそっ

 迂闊には攻撃出来ないか」


ギルバートが見守る間にも、オークの侵入は続く。

既に10体目のオークが、城門を潜ろうとしていた。


ドシュッ!

ブギー


城門の上から、一人の兵士が矢を射掛けた。

それは魔物の隙を突いて、見事に左肩に突き刺さった。


「上手い」

「しかしプレートの隙間でも、革が張られています

 傷は浅いですよ」


魔物は矢を射られた事で、恐慌をきたして前に進み出た。

それを合図にして、魔物が一斉に前に出た。

大楯を構えながら、斧を振り回して来る。

親衛隊はそれを、鎌や馬の蹄を使って牽制した。


「押されるな

 そのまま切り倒すんだ」

「おう」


あちこちで激しい金属音がして、斧と鎌が打ち付け合っていた。

魔物は騎士の隙を突こうとするが、鎌の方が振り回す速さは速かった。

魔物は鎌の攻撃を防ごうと、結局大楯も動かす事になる。

その隙を突く形で、冒険者や兵士が矢を射掛ける。

威力こそ低かったが、矢の攻撃は魔物の注意を反らせる事が出来た。


「何とかなりそうか?」

「ええ

 矢が上手い具合に牽制をしています」

「しかし…

 魔物は100体は居るんですよね」

「ああ

 聞いた話ではそうだな」


今はこちらが有利だが、このまま戦闘が続けば厳しいだろう。

いくら親衛隊が腕利きでも、倍ぐらいの数の魔物ではもたないだろう。

疲労が溜まる前に、どうにか魔物の戦意を挫きたかった。


ブギー

「1体倒したぞ」

「こちらもだ」

グゴア…


少しづつだが、振るわれる鎌の前に魔物が倒れる。

矢を数本受けた魔物が、倒れて動けなくなる。

金属製の鎧なので、深手を負えば身動きが取れなくなるのだ。

そういった魔物は、止めを刺さずに後回しにされた。


少しづつだが、広場に入って来た魔物は倒されて行く。

そうして20体以上倒した頃に、飾り兜を被った魔物が入って来た。


ゴアアアア

「ひっ」

「こいつは他とは違うぞ」


その魔物は、他のオークとは雰囲気が違っていた。

何よりも目付きが違っていて、その瞳は濁ってはいなかった。

何と言えば良いだろう?

まるで知性が宿っている様な眼差しをしていた。


「ハイランド・オーク!」

「あれがそうですか?」

「ああ

 間違い無いだろう

 ハイランド・オークが指揮官をしていたんだ」


これまでのオークと違っていたのは、ハイランド・オークが指揮を執っていたからだ。

だから金属製の鎧に身を包み、大楯で身を守っていたのだ。


「ハイランド・オークが何でここに居るんだ

 これは魔王の指示なのか?」

「マオウ?

 オデシラナイ」


明らかに知性がある証拠に、その魔物は喋っていた。

しかしハイランド・オークにしては、少し様子が違っていた。


「貴様はアモンの僕では無いのか?」

「アモン

 オデシラナイ」

「貴様はハイランド・オークでは無いのか?」

「グフフフ

 オデハミナミノオークのユウシャ、アミドル

 ハイランド・オーク、ワレラノイダイナシドウシャ」

「何?

 貴様はハイランド・オークでは無いのか?」

「ハイランド・オークサマハイダイ

 オデヨリエライ

 オデヨリツオイ」


「どいう事でしょう」

「どうやらこいつ等は、ハイランド・オークに指導された兵士達の様だ」

「オークの兵士ですか?」

「ああ

 そしてあいつは、オークの勇者に当たる者なんだろう」


思ったよりも手強いが、この魔物もハイランド・オークでは無い様だ。

しかし戦術ぐらいは指導されている様子で、油断なく戦場を見回していた。


「オマエラ、アッチヲセメロ

 コッチヨリハタタカエル」

グガアアア

ブギャアア


オークの勇者、アミドルの指揮によってオークの勢いが増す。

彼は左翼の方が薄いと判断して、そちらから攻める様に指示したのだ。


「マズいぞ

 左翼を下がらせろ

 このままでは突破されるぞ」

「騎兵では危険だ

 弓は左翼に集中するんだ」


騎兵はクリサリスの鎌を持っていないので、接近されては危険だった。

魔物に接近されない為にも、遠距離からの支援が必要だった。

魔物の圧が左翼に集中して、左翼の騎士達は次第に押され始めた。

じりじりと後退して、数名が傷を負って下がり始めた。


このままでは戦端が崩れると思われた時、不意に後方から声が響いた。


「ソーン・バインド」


魔力が流れるのを感じて、ギルバートは左翼を見た。

そこには蔦が伸びていて、魔物を2体縛り上げていた。


「グヌウ、コシャクナ」

ブボウ

ブギイ


「間に合った様だな」


声の方を振り返ると、そこにはアーネストと数名の魔術師が立っていた。

どうやらギルドに連絡が行って、駆け付けてくれたのだ。


「さあ

 豚共に反撃するぞ」


アーネストはニヤリと笑うと、新しい杖を掲げて呪文を唱え始めた。

まだまだ続きます。

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