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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
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第308話

ギルバートが冒険者ギルドに入ると、そこには多くの冒険者が集まっていた

前日にランクを発表すると伝えていたので、王都に住むほとんどの冒険者が来ている

中には泊りで出ている者も居るので、全員では無いが結構な人数が来ている

大体100名近くは集まっているだろう

カウンターの前には、人だかりが出来ていた

冒険者が順番に呼ばれて、ランクを伝えられていた

中には不服の者も居て、その度に激しい怒号が響き渡る

しかし警備兵が近くに立っていて、そういった冒険者を取り押さえていた


「ふざけるな

 何でオレがランクGなんだ」

「ですから、ケーニッヒさんは依頼の未達成が多過ぎるんですよ

 それでは依頼を任せる事が出来ません」

「だから言っただろう

 お前はいつも受けるだけ受けて、達成出来ないんだから」

「ふざけるな

 達成した依頼もあるだろう」

「それは鉱石採掘や薬草の採取で…」


「揉めているな」

「揉めていますね」


ランクが低いと、討伐の依頼は受けられない。

だから冒険者としても、なるべく上のランクになりたいのだろう。

しかし依頼の失敗が多いのでは、依頼する側でも心配になる。


「あー…

 ランクは公正な判断で決められている

 不満ならしっかりと依頼を達成しなさい」

「何だと

 オレ様を誰だと…殿下?」


ギルバートは息巻く冒険者の肩に手を置き、宥めようとした。

冒険者は喚きながら振り返ったが、相手が誰か気が付いて慌てる。


「殿下だ」

「何でこんな場所に」

「こんな場所では無いでしょう

 殿下、いらっしゃいませ」


冒険者達は驚いて、カウンターの前を空けた。

ギルバートはカウンターの前に近付くと、全体を見回した。


「冒険者諸君

 色々と思うところはあると思う」


ギルバートが発言を始めると、みなが黙って一斉に見詰める。


「しかし依頼する側からすれば、しっかりと討伐出来る者が必要なんだ」

「そうですよね

 それで私達も、多少は厳しく判断させてもらってます」

「しかしよう

 こんなランクじゃあ、薬草の採取ぐらいしか出来ねえよ」

「ランクGなら、ゴブリンの討伐は受けられますよ」


ランクGならば、ギリギリでゴブリンや野生動物の狩猟の依頼も受けられる。

しかしゴブリンの討伐となれば、複数人で受ける必要があった。


「でもよう

 ゴブリンでもパーティーで受ける必要があるんだろ?」

「それは当然ですよ

 魔物や魔獣の討伐は、パーティーでの受理が必要です」

「それなら、オレは受けられねえよ」

「何でです?」

「今のオレは、組むパーティーのメンバーが居ねえ」

「それは自業自得でしょう?」


どうやら彼は、相当に信用が無いらしい。

パーティーに入れてもらえないので、討伐依頼を受けられないのだ。


「どうして組めないんだ?」

「それはそのう…」

「依頼の放棄、失敗

 それから無断でパーティー内でのアイテムの使用や売却…」

「おい!」

「さらには分配金の着服の届けもあります」

「おいおい!」


「最後のは違います

 金額が少なかったのは魔物を逃がしたせいで…」

「それでも勝手に、自分の分配金を多めにしましたよね?」

「それは正当な金額を…」

「失敗の原因なのに?」


「問題は山積みだな」

「ええ

 ですからランクFの腕はあっても、我がギルドでは認められません

 他の街でやり直すか、反省していただかないと」

「そうだな

 これではパーティーを組みたくは無いだろう」

「そうなんですよ

 他のパーティー方からは、ランクHにしろとも…」

「そんな!

 それでは本当に討伐も出来ないじゃ無いか」


冒険者は必死になって言うが、むしろランクHで当然だろう。


「妥当な罰だと思うんだが?」

「そんな…」

「そうですよね

 不満ならランクHに降格して、暫く真面目に働いてもらう事になりますが?」

「それだけは勘弁してくれ」


冒険者は土下座をして、受付嬢に懇願した。


「という事なんですが…

 殿下?

 どう致しましょうか?」

「うむ

 ここは最初が肝心だから、しっかりと対処してくれ」

「はい

 では、ケーニッヒさんはランクHという事で」

「ちょ!おま!」

「しっかりとやり直すんだな」


ギルバートは冒険者の肩を優しく叩くと、その場を後にした。


「さあ

 不満があるのなら聞きますが?

 今回は多少は甘めに見ている方もいます

 何せ生活が懸かっていますからね」

「でも、それでも不満を言う様でしたら、こちらもそれなりに考えさせてもらいますよ

 これらの審査は公正に行われていますからね」


後ろではカウンターで、受付嬢が声を上げている。

さすがの冒険者達でも、先ほどの遣り取りを見れば理解は出来ただろう。

後続は黙って、ランクの報告を受けていた。

今回はランクFより下ばかりなので、一様に銅製のプレートを受け取っていた。

そこには本人の名前と、現在のランクが刻まれている。


「後は順調そうだな」

「そうなれば良いんですが…」


ギルバートは安心していたが、ジョナサンはそうでも無かった。

彼は冒険者という物を知っているので、これでもまだ揉めると知っていた。


「まだ揉めるのか?」

「でしょうね

 彼等は懲りるという事を理解してませんから」


酒場で暴れて拘留されて、数日経ったら同じ酒場で騒いでいる。

それが冒険者という物なのだ。


「それで?

 暫く見ますか?」

「そうだな

 まだ時間があるし、序でに兵舎にも顔を出しておくか」

「分かりました」


冒険者も気になったが、兵士にもランク付けが行われる予定だ。

ギルバートは親衛隊を連れて、兵舎の本部である王城の兵舎に向かった。


王城に戻ると、さっそくランクを発表された兵士達が居た。

彼等は物珍しそうに、首から下げたプレートを見ていた。

それは鉄製のプレートで、名前と所属、それから現在のランクが刻まれている。


「見ろよ

 オレは今回で、王城の警備に配属されたぜ」

「それは羨ましいが、私は王都の門番に推挙されて、ランクはFになったぞ」

「え?

 それは羨ましいな」

「これで今度から、コボルトや魔獣の討伐に参加出来るぞ」


彼は王城の門番だったが、それなりに討伐任務で活躍していた。

王城での警備だけでは無く、実際に魔物の討伐も果たしていたのだ。

その腕を買われて、城門の警備にも選ばれたのだろう。

王都の城門となると、勤勉さだけではなく、相応の腕も必要なのだ。


「お前もランクを上げたいのなら、訓練で実績を残すんだな」

「訓練か…

 そういえば参加していなかったな」

「訓練を真面目にしていれば、討伐にも参加させてもらえる

 頑張って討伐を繰り返すんだな」


訓練は勤務中に受けれるが、討伐は非番の日に受ける事になる。

わざわざ休みの日に働く事になるので、兵士の間では人気が無いのだ。

しかし討伐に参加すれば、新しい装備や食材をもらえる事がある。

ある程度の腕を持つ者は、進んで討伐に参加していた。


「どうやら順調に配っているみたいだな」

「ええ

 さすがに兵士では、不満を言って揉める者は居ないでしょう」


実際には兵士にも、不満を言う者は少なからず居た。

しかし規律が厳しい部署では、処罰や減俸の対象に成り兼ねないのだ。

それでも不満を言う者は、やはりそれなりの素行が悪い者達だった。

だからこの際に、そういった者達は処分されていた。


今回のランク付けで降格になったり、犯罪を暴かれた者もいた。

そうして拘留されて、兵士の職を解かれた者は、罰として辺境に向かう事になる。

オウルアイの街の兵士や、職の無い移民として連れて行かれるのだ。

勿論、問題のある者はリストアップされているので、簡単には兵士には採用されないだろう。

運が悪ければ、冒険者登録も出来ないかも知れない。


ギルバートは一応兵舎を覗いて、そんなに騒いで無いのを確認した。

そして時間が余っているので、そのまま塔に向かった。

アーネストと離宮に向かう為だ。


「アーネスト」

ドンドンドン!


返事が無い。


「アーネストくーん

 遊びましょう」

ドンドンドン!

「ぷっ、くくくく…」


ジョナサンが後ろで、腹を抱えて笑いを堪えていた。

ドアが激しく押し開けられて、怒った顔のアーネストが立っていた。


「何なんだよ

 まだ昼過ぎじゃないだろ」

「いや?

 もう昼過ぎになるぞ」

カーン!コローン!


言ってるそばから、1時の時報の鐘が鳴った。


「お前…

 また本に夢中になって…」

「違う

 魔術師ギルドからの仕事だ

 翻訳は粗方終わっている」

「本当か?」

「ん!」


疑うギルバートに、アーネストは1枚の書類を突き出した。

そこには魔術師のランク付けについて書かれていた。


「何々

 魔術師のランク付けを決めたくて?

 それでこいつを書いているのか?」

「そうだ

 とは言ってもな、魔術師は結局戦闘向けでは無いだろう?

 だから独自のランク付けになるんだ」

「そうだろうな

 使える魔法や回数で変わるだろうしな」

「ああ

 だから悩んでいたんだ」


アーネストは不満そうに呟いてから、書類を懐に仕舞った。


「それで?

 もう行くのか?」

「ああ

 取り敢えずはする事も無いし

 それとも先に、食事を取りに行くか?」

「そうだな

 先に食事にするか」


アーネストは朝食も取らずにいたらしくて、空腹になっていた。

ギルバートは少し前に食事をしたので、軽めの物を取る事にした。

二人で食堂に向かうと、使用人に食事の準備を頼んだ。


ギルバートにはパンとスープが用意されて、アーネストにはさらにサラダも用意された。

二人は食事を取りながら、離宮での話し合いを考えていた。


「それで?

 ジェニファー様は何と言っているんだ?」

「フィオーナの件なんだが…

 本気なら責任を取れと」

「責任って…」


アーネストはフランドールの件があったので、正直なところなやんでいた。

フィオーナからは嫌われている気がして、気が引けていたのだ。

だからそれなりの成功を納めて、改めて挨拶に行こうと思っていたのだ。


「母上…

 ジェニファー様からすれば、フィオーナの気持ちは置いておいて

 先ずはお前がどうしたいのか確認したいんだろうな」

「ボクの気持ちは?」

「それはバレているだろ?」

「バレているって…」


アーネストは不満そうな顔をしていた。

しかしギルバートは気が付いていたので、ニヤリと笑った。


「フランドール殿の事はあったが、以前からフィオーナを目で追っていただろう?」

「う…」

「それに…

 母上は気が付いているぞ」

「しかしだな」

「まあ、フィオーナの気持ちは分からんがな」

「そこなんだよ…」


アーネストも一番の懸念はそこで、ガックリと肩を落とす。


「だがな、少なくとも嫌ってはいないぞ

 心配もしてたし」

「だがなあ

 フランドール殿を殺したと思われているんだぞ?」

「大丈夫だろう?

 フランドール殿に対しては、あくまで憧れだろう?

 それに魔物と化してダーナを滅ぼした張本人だ」

「それはそうだろうが…」


アーネストは納得をしていなかった。

しかし当面の問題は、アーネストがフィオーナをどう思っているかだ。


「今の問題は、お前がどう思っていて、どうするかじゃないのか?」

「それは…」

「焦って考えるよりは、先ずは素直に話してみろ」


ギルバートはそう言うと、お茶を手にして飲み干した。

昼間は酒を出さないので、二人共お茶が用意されていた。


「何もすぐに婚約しろとは言ってないだろ

 その点は私よりも楽だと思うが?」

「お前の場合は、女心に疎過ぎるだろう」


アーネストは遣り返すと、フンと鼻白んだ。


「そんな事を言うなよ

 私も困惑しているんだ」

「よく言うよ

 セリアはずっとお前を思っていたぞ

 少なくともダーナを発つ頃には、恋心を抱いていたぞ」

「そうなのか?」

「はあ…」


アーネストは溜息を吐きながら頭を抱える。


「知らぬは本人だけだな」

「それはお前も同じだろう」


ギルバートはそう言って返すが、どっちもどっちだった。


「殿下

 そろそろ向かわれますか?」

「お前達はどうするんだ?」

「私達は殿下が離宮にいらしゃる間に、交代で食事に入らせていただきます」

「そうか

 それならば…」


二人は席を立ってから、離宮に向かう回廊へ向かった。

そこは見張りも少なく、裏口へと続いている。

長い回廊を回り込んで、二人は裏庭へと出て行った。


離宮の前に着くと、そこでは庭園で花の世話をする、セリアとフィオーナの姿が見えた。

アーネストはフィオーナの姿を見て、緊張で固まってしまった。


「ほら、行くぞ」

「ん?

 ああ…」


ギルバートはアーネストの背中を叩くと、離宮の入り口を開けた。

そこでは食事の後片付けをする、メイドとジェニファーの姿が見えた。


「は…ジェニファー様

 アーネストを連れて参りました」

「ご苦労様です

 アーネスト殿、こちらへ」

「はい」


ジェニファーに促されて、アーネストは食堂の席に移動した。

ギルバートも隣の席に腰を下ろして、話し合いが始まる。

メイドは気を利かせて、お茶を用意してから退出した。

ジェニファーはお茶を勧めると、自分も口元に運んだ。


「それでは、アーネスト殿のお考えを聞きましょうか」

「はい」


アーネストは頷くと、静かに語り始めた。

緊張で声は裏返り、口の中はからからになっていた。


「フ、フィオーナの事なんですが…」

「待ちなさい!」


ジェニファーはジョナサン達を睨むと、入り口へと目配せをした。

そこにはセリアとフィオーナが、こっそりと中の様子を窺っていた。


「二人も入らせなさい

 その方が早いでしょう」

「うえひゃ?」

「大丈夫だ

 どうせハッキリさせとかないといけないだろう?」

「それにしたって

 ボクはまだ、心の準備が…」

「アーネスト

 あんたまだそんな事を言って逃げるの?」


話しが聞こえたのか、フィオーナが入って来た。

そして怒っているのか、アーネストを鋭く睨むのだった。

まだまだ続きます。

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