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聖王伝  作者: 竜人
第十章 王国の危機
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第307話

アーネストは火を器用に動かすと、指を鳴らして消してみせた

ギルバートは驚きながら、その様子を見ていた

既存の魔法では、火球や火の矢の魔法でもなければ飛ばす事も出来なかった

それを考えれば、この魔法が別の物だとは理解出来た

しかしギルバートからすれば、違いはよく分かっていなかった

アーネストは他にも呪文を唱えると、水の玉を作ってみせた

これも自由に動かせて、宙を舞っていた

他にも風の魔法もあったが、こちらは目で見る事が出来なかった

だから実演するには向いていなかった


「なるほど

 全然別物の魔法って事なんだな」

「ああ

 そういう事だ」


「それで?

 何で重要なんだ?」

「な!」


アーネストは思わずズッコケていた。


「あのなあ

 話を聞いていたか?」

「ああ

 マナか?

 後は呪文も出来る事も違う…」

「はあ…

 消費魔力も抑えれるし、今の魔法で出来ない事も出来るんだ」

「そうなのか?」

「ああ

 だから重要なんだ」


「今の魔法は、属性に関係なく、イメージと魔力さえあれば魔法は使える

 しかし出来る事は、魔法の呪文がある物だけなんんだ」

「うーん

 よく分からないんだが」

「魔法として呪文が用意されている物しか無いんだよ

 例えば魔力を矢にするマジックアローはある

 しかし氷の矢を飛ばしたくても、呪文が見付からない限りは出来ないんだ」

「ああ!

 なるほど」

「やっと分かったか」


「そうすると

 その昔の魔法なら、その辺も自由に出来るのか?」

「ああ

 必要なのは、呪文の原理を理解して、必要な呪文を唱えれる事だ」

「ん?」

「呪文の意味を理解して、必要な呪文を唱える必要があるんだ

 だから先ずは、翻訳して意味を理解する必要があるんだ」

「え?

 結局出来ないのか?」

「まだ出来ないだ!

 そのうち解明して、何でも出来る様にしてやる」

「はあ…

 期待しないで待っているよ」


確かに便利だが、まだまだ出来る事は少なかった。

魔導書の呪文の原理を理解して、法則を解き明かす必要があった。

そうしなければ、魔導書に書かれた魔法しか使えないのだ。

それでは既存の魔導書と変わりはしないのだ。


「まあ、これが本当に解明出来たら、誰でも使える可能性があるんだ」

「それは素晴らしいが、本当に出来るのか?」

「ボクを誰だと思っているんだ?

 天才魔導士だぞ」


アーネストは胸を張ってみせた。


「分かった、分かった

 しかし中級の魔導書とか言ってたけど、大した事は書かれていないんだな」

「え?」

「ん?」


アーネストは本棚から、もう一冊の本を取り出した。


「中級の魔導書はこっちだぞ」

「え?

 その本は?」

「こっちは魔導王国の魔法の教本だぞ」

「…」


アーネストは中級の魔導書を開くと、それを説明し始めた。


「こっちには確かに強力な魔法が載っている」

「何だ

 それならそっちを翻訳すれば…」

「もう終わっている」

「え?」


「お前がオウルアイの街に行っている間に、こっちは翻訳は終わっているよ」

「なら、何でそっちの翻訳を?」

「それは中級の魔導書は、あんまり役に立たないからだ」

「どういう事だ?」


「こっちの魔法は、確かに強力な魔法が沢山載っている

 しかし魔力を沢山消費するから、個人では扱い難いんだ」

「個人では?」

「ああ

 例えば建物数個分の炎の竜巻を出す呪文がある

 しかし詠唱する呪文も長いし、消費する魔力は一人で賄える量では無いんだ」

「そんな物をどうやって使うんだ?」


「使うとしたら、複数人で呪文を唱えるしか無いな

 ボクが唱えても、ギリギリだろうよ」

「そんな使い勝手が悪いのか?」

「ああ

 尤も、魔導王国や帝国の魔導士は、個人で何発も使えた様だけどな」

「帝国の?

 それじゃあ…」

「ああ

 今の魔術師は弱体化しているんだ

 魔導王国時代では、ボクみたいのがザラに居た様だね」

「そうなのか…」


「もし魔王が本気になったら、そんな魔法を使って来ると思うんだ」

「勝てるのか?」

「今のままでは無理だろう

 だからもっと強化する必要があるんだ

 その為にも、この魔導書の解明が必要なんだ」

「そうか…」


「因みに、その魔導書のやり方で炎の竜巻を作れるのか?」

「そうだな

 たぶん出来るよ

 それも4分の1ぐらいの魔力で出来るだろう」

「そんなにか?」

「ああ

 ただでたらめに魔力を集めて、無理矢理炎を巻き上げるんじゃあ無い

 最初から火と風をマナで作り出すんだ

 消費する魔力も違ってくるさ」

「そうか…」


ギルバートはアーネストの説明を聞いて、魔導書の翻訳が重要だと理解した。


「分かった

 それじゃあ、これ以上は邪魔を出来ないな」

「ああ

 分かったなら、とっとと帰ってくれ」

「ああ

 そうするよ」


ギルバートは立ち上がりかけた。

そこで一つだけ気になっている事を尋ねた。


「そういえば、エルリックは来たのか?」

「エルリック?」

「ああ

 女神の事で気になる事を言っていてな

 お前なら分かるんじゃ無いかと思ってな」

「それで会いに来るって?」

「ああ」


アーネストは首を傾げながら聞いてきた。


「それはいつの話だ?」

「もう一月以上前の話だ」

「おかしいな?

 あいつはフェイト・スピナーだろ?

 転移の魔法が使える筈だぞ」

「いや

 転移は危険らしい

 行く先の状況が分かっていないと、石や人の中に出るらしい」

「うえっ

 それは…確かにあり得るのか」


「しかし他の移動手段にしても、一月以上は掛からないだろう?」

「そうなんだよな

 どうしたんだろう?」

「さあな

 どこか寄り道でもしてるんじゃ無いのか?」


いくら考えてみても、当の本人が来ていない以上理由は分からなかった。

ギルバートは肩を竦めて、アーネストの私室を後にした。


少し小腹が空いていたが、時刻は夜更けに近くなっていた。

さすがに食堂には、もう食事になりそうな物は残っていなかった。

メイドに簡単に摘まめそうな、干し肉と豆を乾燥した物を用意してもらった。

それと葡萄酒を持って、ギルバートは私室に向かった。


葡萄酒を片手に、ギルバートは私室で寛ぐ。

小腹は空いているが、そこまでは空腹では無い。

だから酒のあてで十分に腹は膨れた。

そして酔いが回ったのか、次第に眠気が強くなってきた。


「うむ…

 このまま眠るのはマズい」


新年の失敗を思い出しながら、何とかドアの鍵を閉める。

そしてそのまま、ベットに倒れて泥の様に眠った。


ドンドンドン!


ドアを叩く音で、ギルバートは深い眠りから目覚めた。


「ううん

 誰だ?」


ギルバートはふらつきながら、ドアの鍵を外した。


「殿下!

 ご無事でしたか…」


そこにはジョナサンと、数名の親衛隊が待機していた。


「どうしたんだ?」


ギルバートが欠伸をしながら聞くと、予想外の答えが返って来た。

いくら呼んでも返事が無いので、何か起きたのかと思って親衛隊を呼んだのだ。


「朝食の支度が出来たので、ドニスが最初に呼びに行ったんです」

「それで鍵が掛かっていたので、ドニス殿は他を探しに向かわれたのです」

「私達は後から来て、念の為に親衛隊のみなさんを呼んだんです

 中に殿下がいらっしゃった場合、何か起こった可能性がございますから」

「え?」


「それで、何が起こったんですか?」

「いや…

 普通に寝てただけだけど…」

「寝てた?」


ジョナサンは眉を顰めて、それから部屋の中を覗く。

そして部屋の状況と、僅かに匂う香りから事態を察した。


「大丈夫だ

 殿下は旅の疲れで寝てらっしゃっただけだ」

「そうですか」

「何事も無くて良かったです」


心配して来ていた騎士達は、安心して持ち場に帰って行った。

しかしジョナサンだけは、その場に残っていた。


「心配を掛ける事は勘弁してください」

「すまない」

「次からは、寝る前は控えてくださいね」

「ああ」


ジョナサンは敢えて、何を控えるかは言わなかった。

事情を察したからこそ、主が恥を掻かない様に気を遣ったのだ。

そして酒瓶と皿を手にすると、その場を後にした。

ギルバートは頭を掻くと、酔いを醒ます為に風呂に入る事にした。


風呂から上がって食堂に向かうと、ドニスが戻って準備をしていた。

国王を始めとして主だった者は、既に済ませて居なかった。

一人分の食事だけが、食卓に用意されていた。


「おはようございます

 殿下」

「おはよう

 すまなかったな」

「いえ

 鍵が閉まっておりましたので、何か用事で出られていらっしゃると思いました」


「いや

 鍵を閉めないで寝ると、また失敗しそうでな」

「鍵ですか?」


ドニスは驚いた様な顔をした。


「夜は警備の者が居ますぞ

 何か心配事でもございますか?」


ドニスは心配して聞いてきた。

ギルバートは仕方なく、新年の失敗を話した。


「はははは

 それは災難でしたな」

「ああ

 まさかあんな事になろうとは」

「しかし王城では、寝ずの番がおります

 安心して休んでください」

「そうするよ

 昨日は酔っていたから判断が鈍ったんだ」

「酔って?」

「あ!

 しまった」

「殿下」


ドニスの視線が鋭くなる。

うっかり暴露してしまったギルバートは、朝食の前に小言を食らう羽目になった。


「あれほど寝る前の深酒は駄目と…」

「ああ

 アルベルト様やアーネストの失敗は見ている

 しかし昨日は油断してたんだ」

「旅の疲れもあったんでしょうな

 しかし王子としては、今後気を付けていただかなければ」

「分かっているよ」

「いいえ

 そもそも日頃から…」


ここから10分ほど、ドニスの小言が続いた。

普段から隙だらけな事もあって、その辺から注意をされる。

ドニスとしてはまだ言いたかったが、料理が冷めてしまいそうだった。

ほどほどで切り上げて、注意する様に言って小言は終わった。


「良いですね

 王子として気を付けてください」

「分かったよ

 今後は気を付けるよ」

「はあ…

 それでは召し上がってください」


最期に盛大に溜息を吐くと、ドニスはお茶を淹れて出した。

ギルバートはやっと食べれると、さっそくサラダに手を伸ばした。

白パンをスープに浸して、最後に口に放り込む。

それからお茶を口に含むと、ゆっくりと飲み干した。


「ふう

 それで、今日の予定は?」

「はい

 国王様からは、夕刻に話があるそうです

 謁見が終わってからですので、また連絡があるかと思います」

「それまでは特に無いのか?」

「はい」

「それなら…」


ギルバートは昼過ぎに、アーネストと離宮に向かう事を告げた。

そしてそれまでは、街に出てギルドに向かう事を告げた。


「ギルドですか?」

「ああ

 冒険者ギルドで、ランクについて発表があった筈だ」

「そういえば、昨日に早朝から冒険者に集まる様に指示が出てましたね

 それがランクの事でしょうか?」

「恐らくはな」


「街中に告示も出された筈だ」

「告示ですか?

 今朝はまだ見てませんが、立札が出されたんですか?」

「ああ

 その予定で動いてる筈だ」

「では、それを確認に向かわれるんですね」

「ああ」


ドニスは目配せをして、騎士を呼びに向かわせた。

街に出るのなら、親衛隊が護衛に着く事になっている。

使用人の一人が、親衛隊を連れて戻って来た。


「殿下

 街に向かわれるのですか?」

「ああ

 冒険者ギルドに向かう

 護衛を頼むぞ」

「はい」


彼等も旅の疲れが残っているだろうに、そんな様子は見せなかった。

城門に向かうギルバートの周りに、4名の騎士が同行した。


城門を出てから、貴族街は静かなものだった。

しかし大通りに出ると、人が多く出歩いて賑わっていた。

それは市場で買い物をするのではなく、立札の周りで告示を見ていたのだ。

ギルバートは横を通りながら、チラリと告示を見ていた。


「どうやらランク付けの告示は出されたな」

「騎士団は無いんですか?」

「そうだな

 騎士団だと貴族が絡むからな」

「ああ…

 それは面倒な事になりますね」

「そういう事だ」


「兵士には付けるんですか?」

「そうだなあ…

 先ずは冒険者で試して、兵士にはそれで問題が無ければだな」

「そうですか…」


騎士は立札を横目に見ながら、残念そうに首を振った。


「オウルアイみたいに、私達も討伐に出れれば良いんですが…」

「魔物が狩りたいのかい?」

「いえ

 ワイルド・ボアを狩りたいんです」

「ああ

 肉が忘れられ無いのか」

「ええ」


親衛隊は、ギルバートの護衛の為に作られた騎士団だ。

オウルアイの街では討伐に出る許可が下りたが、王都ではそうもいかない。

だから報酬の肉を求めて、狩に出る事は許されていなかった。


「機会があれば、遠征に連れてってやりたいが…」

「陛下がお許しにならないでしょう」

「そうだな」


オウルアイの街の立て直しでも、国王は渋々承諾したのだ。

魔物や魔獣の討伐など、とてもじゃ無いが許されないだろう。


「残念だが、余程の事でも無い限り、討伐には出れないだろうよ」

「そうですね

 むしろ余程の事は無い方が良いですよ」

「そうだな」


親衛隊を連れて討伐となると、それだけの強敵が出るという事だ。

いかな腕利きの騎士でも、強力な魔物と戦いたいとは思わないだろう。

それにギルバートが出るとなれば、よっぽどの魔物という事になる。

それは王都の危機であり、この国の危機となるだろう。

いくら魔獣の肉が食いたいと言っても、彼等もそんな事は望んでいない。


「まあ、冒険者が狩れる様になれば、自然と市場にも出回る様になるよ」

「そうなれば良いんですが…」


そんな話をしている内に、一行はギルドの前に着いていた。

ギルバートが先頭に立って、ギルドの入り口を潜った。

まだまだ続きます。

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